森首相「釈明会見」への「指南書」徹底解明を
首相官邸記者クラブに質問書


浅野健一 2000・6・7

 内閣記者会(官邸クラブ)といえば、日本で最も大きく重要な記者クラブであろう。その内閣記者会が、市民の知る権利を代行して権力を監視しているのかどうか、疑わしい「事件」が起きている。
 森首相は、2000年5月12日神道政治連盟の集会で、「日本は天皇を中心とする神の国」と発言した。首相は「教育勅語には日本の伝統、文化の継承などが含まれていたが・・・本当にいけなかったのか」とも発言している。
 「神の国」発言は、公明党の反発もあって、政治問題になった。内閣記者会は首相に会見を要求し、5月26日に「釈明会見」が行われた。

 6月2日の西日本新聞は「直言 曲言」と題したコラムで、「記者室に落ちていた首相釈明会見の”指南書”というタイトルの記事を載せている。記事の末尾には「(彰)」という署名。
 また、5日発売の日刊ゲンダイもほぼ同様の記事を、より断定的に書いた。
 これら記事によると、森首相が「神の国」発言の釈明記者会見を開く前日の朝、首相官邸記者室の共同利用コピー機のそばに、「明日の記者会見についての私見」が落ちているのを見つけたということで、首相側近に宛てた文書のようだ。その内容には、「総理の口から『事実上の撤回』とマスコミが報道するような発言が必要」「いろいろな確度から追及されると思うが、準備した言い回しの繰り返し、質問をはぐらかす言い方で切り抜けるしかない」などと助言している。筆者は文書の中身とさまざまな状況から、「官邸に常時出入りしている記者の一人が書いたと考えるのが自然」と指摘している。
 
 そもそも森首相の就任には法的に問題があるのではないか。首相官邸と政権党は、小渕首相の入院を23時間隠した。首相秘書は4月2日、共同、時事両通信社への「首相動静」連絡で、「書類を整理」などとをウソ発表した。日本新聞協会の代表取材に対して虚偽の情報を提供したわけで、絶対に許せない。青木官房長官の会見での数々のウソも発覚した。
 昔のソ連以下の情報非公開である。それを正面からほとんど批判しなかったマスメディア。5人組と公明党首にしか知らせず、青木官房長官の首相代理就任が決定し、後継首相が決まった。なぜ森首相なのか。これは談合政治であり、メディアは厳しく批判すべきなのに、森氏が有力、森氏が後継などと予測報道していた。
 森氏は3月、石川県加賀市の講演で「君が代斉唱の時、沖繩出身の歌手の一人は口を開かなかった。学校で教わっていないのですね。沖縄県の教職員組合は共産党支配で、何でも国に反対する。沖縄の二つの新聞もそうだ。子供もみんなそう教わっている」。沖繩の新聞が「共産党系」などと批判しているのだ。記者をなめきっている。
 NHKが小渕氏の入院先を「都内の病院」としか言わなかったのも漫画だった。脳死移植第一例目では、病院名からドナー家族の住む自治体名まで明らかにしたのに、おかしい。「主治医、院長の会見」を要請し、リアルタイムの情報開示を叫んだマスメディアは、公人中の公人の首相の病気についての情報閉鎖を厳しく批判しない。
 順天堂医院は小渕氏が死亡するまで病状について一切公表しなかった。家族の要望を理由にである。

首相への「指南書」問題は、6月6日夜の「ニュース23」「ニュースステーション」でも取り上げられた。週刊誌も取り上げるようだ。
 当初、クラブ内では怪文書だとか、個人の問題だという「反発」があったようだが、他メディアが報道し始めたため、クラブでも対応策を協議することになった。
 内閣記者会、そして日本新聞協会は、事実関係を調査し、市民に真相を明らかにすべきだと思う。そうしなければ、日本の報道機関は警察以下ということになる。
 私は6月5日に内閣記者会に対して次のような質問書を送った。


                          2000年6月5日
                同志社大学文学部社会学科新聞学専攻教授
                277ー0827 柏市松葉町7ー13ー6
                         浅野健一
                    電話0471ー34ー5777
                    ファクス0471-34-8555
                大学連絡先 ウ602ー8580
               上京区今出川通烏丸 同志社大学文学部社会学科
                     電話075ー251ー3457/3441
                     ファクス 251ー3066
 内閣記者会
 首相官邸記者会(幹事社・共同通信、東京新聞)   

 突然にファクスをお送りすることをお許しください。
 私は同志社大学文学部社会学科で新聞学(ジャーナリズム論、マス・コミュニケーション論)を教えて
おります。1972年から22年間、共同通信記者を務め、社会部、外信部、ジャカルタ支局に勤務しま
した。94年4月から同志社で教鞭をとっています。経歴は別紙(このHPでは略)を参照ください。

 6月2日の西日本新聞は「直言 曲言」と題したコラムで、「記者室に落ちていた首相釈明会見の”指南書”というタイトルの記事を載せています。記事の末尾には「(彰)」という署名があります。
 また、5日発売の日刊ゲンダイもほぼ同様の記事を、より断定的に書いています。
 これら記事によりますと、森首相が「神の国」発言の釈明記者会見を開く前日の朝、首相官邸記者室の共同利用コピー機のそばに、「明日の記者会見についての私見」が落ちているのを見つけたということで、首相側近に宛てた文書のようです。その内容には、「総理の口から『事実上の撤回』とマスコミが報道するような発言が必要」「いろいろな確度から追及されると思うが、準備した言い回しの繰り返し、質問をはぐらかす言い方で切り抜けるしかない」などと助言しているということです。
 筆者は文書の中身とさまざまな状況から、「官邸に常時出入りしている記者の一人が書いたと考えるのが自然」と指摘しています。
 この文書が、両紙のいうように、官邸記者会のメンバーによるもので、それが実際に首相側に渡っているとすれば、明らかに報道倫理に反する行為と思われます。
 森首相の釈明会見は、貴記者会の度重なる要請を受けて、首相が同意したと聞いています。
 日本新聞協会は四九年の「記者クラブに関する方針」で、「記者の親睦社交を目的として組織するものとし、取材上の問題には一切関与せぬこと」と規定していましたが、九七年一二月、公的機関が保有する情報へのアクセスを容易にする「取材のための拠点」と見解を改めています。
 今回の「指南書」問題は、事実であれば、一社・一記者個人の問題にとどまらず、人民の知る権利にこたえて行われているジャーナリズム活動への背信行為であり、市民のメディア不信を招くのではないかと危惧します。
 そこで貴記者会に以下のような質問をいたします。

 1 貴記者会は、両紙に報道されたような事実があったかどうかについて、独自に調査していますか。あるいは、調査する予定はありますか。
 2 貴記者会は、クラブ全体の問題として、クラブの代表者会議を開いて、対応を協議するつもりはありますか。
 できましたら、6月8日までにご回答下さい。
 大変にお忙しいところ申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願い申し上げます。
                           浅野健一



 7日夕、幹事社に電話で聞いたところ、「いろいろなところから問い合わせが来て、仕事にならない。対応策を検討している。明日(8日)に回答する」ということだった。
 内閣記者会は、この問題をうやむやにせず、この文書が森首相の手に渡ったのかどうかなど、真相を明らかにしてほしい。内閣記者会として対応できないなら、内閣記者会は即時解散すべきであろう。

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