浅野健一

消えた物ごい「巡礼」の少年
岡山バット事件報道の説明責任

岡山県内にある高校の野球部の後輩四人を金属バットで殴って逃走していた高校生(一七)が、七月六日、秋田県内で発見された。
この事件では、テレビ各局が「また十七歳の犯行です」(TBS「ニュース23」)とトップニュースで報道、少年の自宅や高校をモザイクなしで報道した。自宅の前に報道陣が群がる状況が写った。これでは自宅には戻れない。彼は自殺するのではと心配だった。
発生から十六日後に拘束されたと聞いてほっとしたが、それもつかの間だった。今度は逃走ルートを再現し、小型ゲーム機を入れたリュックをかつでいたとか、家計簿を付けていたなどという、どうでもいいような「供述」情報が連日のように報道されている。
「週刊新潮」「週刊文春」などの低俗雑誌だけではなく、朝日新聞も七日朝刊で、「なぜ北へ 独り1000キロ 違う自転車 服汗まみれ 顔は日焼け」と報じた。七日夕刊では「《「思い出」の北海道へ? 野宿続けながら逃走》と大見出しで伝えた。一一日夕刊では「逃走中、立ち読み 開放感?百貨店も寄る」。一一日夕刊は「昨年の日記持ち逃走 母殺害 動機解明のカギ?」という見出しで書いた。事件報道にこんなに「?」があってもいいのだろうか。記事内容に自信がないならボツにすべきだ。
メディアは少年の残虐性を批判しているが、少年が事件前日に後輩から殴られるなどの暴行を受けていたこともあり、地元市民から嘆願書が出された。「フライデー」七月二八日号は《17歳少年に金属バットで割られた「頭部」 いじめの“主犯”にされた重傷被害者が初激白》というタイトルで、やっぱり少年が悪いというキャンペーンをはっている。
少年を捜索中に、読売、産経両紙やワイドショーの「出たがり文化人」は、「少年法の壁」を強調した。少年の顔写真などを明らかにして公開できないから発見できないというのだ。「週刊新潮」も同様の主張をしたが、その雑誌が発行されたその日に、トラック運転手の通報で少年が逮捕されたのは皮肉だ。
ところで、少年が行方不明になった数日ごろから一斉に流れた、「香川県内に潜伏」情報は訂正しなくていいのだろうか。民家に立ち寄っては食事を求めた少年は、“四国八十八カ所巡り”に出たのではないか、巡礼の順番を逆にまわると死者がよみがえるという解説までしたコメンテーターがいた。
NHK岡山放送局は七月一日夜にニュース番組中に、テロップで「バット殴打事件で 岡山県警 手配の少年を香川県で逮捕」「バット殴打事件で 手配の少年(空白)で遺体で発見」と大誤報をした。事件を起こした少年だから、「死体で発見」という誤報も許されるというのか。NHKはどういう処分をしたのか問い合わせたが返事はない。(了)

浅野ゼミのホームページに戻る


Copyright (c) 2000, Prof.Asano Ken'ichi's Seminar Last updated 2000.08.02