00・8・20

学寮学生を権力に売った山形大学
職員スパイ疑惑、中立機関 で調査を

浅野健一

 「自給自足化した学寮を見に来てください」。山形市平清水にある国立山形大学学寮で、寮の自治をめぐって闘争が続いているが、大学教職員約百人が六月一日午前九時、寮の敷地に入り、配電盤を工事して電気供給を停止、水道などのライフラインを完全に止めた。三月一七日の大学評議会の決定を受けての措置だという。私は「退寮処分」に反発し、寮での生活を続ける十数人の寮生からの要請で、六月二七日、現地に飛んだ。 玄関前には透明のポリタンクが並んでいる。風呂場には小型の発電機が置かれ、その電気で一階は明かりがともっている。後は真っ暗になる。水が流れなくなった水洗トイレには、ポリバケツとひしゃくがある。玄関前には、近所の住民の指導でミニ農園がある。まるで昨年八月に見た東ティモールの難民キャンプでの暮らしのようだった。
 一九六九年に建てられたこの寮では、大学当局が九七年四月、学寮自治会が寮の大学職員用の事務室を「不法に占有」しているうえ、大学を休学している学生ら「入寮資格のない者の居住」があるとして、一部寮生を「退寮処分」した。九八年度には、大学側が新入生に学寮に入るには注意が必要と伝えた。このため入寮者が激減、九九年度からは新規の入寮募集を停止した。自治会がこれを不当として、入学試験会場などで独自の入寮募集を行ったが、大学当局は「不法行為」と非難した。
 大学当局は今年三月九日の評議会で、「学生のニーズにあった新しい規格の学寮に改造」することを決めた。二人部屋から個室にし、女子学生、留学生も住む混住型にするのだという。費用は六〜九億円。早ければ二○○○二年の供用を目指すという。
 私は九年七月一六日に自治会主催の講演会で講演したことがあり、一日も早い寮の正常化を願っていたのだが、寮に清掃員として勤務していた大学の臨時職員が自治会の議案書や寮生のノートなどを盗んでいたことが三月に発覚し、寮生の追及を受けた。ところが、大学側は逆に寮生たちが職員を監禁、辞職を強要したと告発。寮生四人が四月二五日に逮捕され、六月五日に不起訴処分になるという事態になった。
 大学当局は今年三月一七日、五月末までに寮から出るように通告したが、寮生側は一方的な退寮処分だと抗議して、寮にとどまった。
 私は九九年七月一六日に自治会主催の講演会で講演したことがあり、一日も早い寮の正常化を願っていた。佐高信、宮崎学、辛淑玉各氏らと共に、大学当局に寮自治会との話し合いの継続を求める文化人声明を出していたが、無視された形になった。
 学寮自治会は五月三一日、山形市長に対して、水道の契約を続けるように申し入れる文書を提出していた。当局は火災報知器などの電力確保のため、従来の高圧計から低圧計に切り換える作業を実施したかったが、「寮を封鎖しに来た」と通告して寮に入ろうとしたため、寮生が反対せざるを得なかったため、実施できず、この工事は六月十六日に実施された。
 寮生側はライフラインの復旧を大学側に申し入れたが、大学側がそれを拒んだため、緊急避難的措置として、火災報知器・消火栓・外灯・廊下照明といった防火・防犯上最低限必要な設備の復旧を要求した。これに対し大学側は、火災報知器と消火栓だけを復旧させる工事を六月一六日に行った。約二週間、寮生は火災による生命の危険にさらされていたのだ。寮生たちは車で約十分の遠くから水を入手していたが、 六月一日にライフラインストップとほぼ同時に農場の水道も止まり、その後六月一六日の火災報知器などの復旧工事の際、「火災の場合にどうするのだ」という寮生の追及に、学生部サービス課の職員が「農場から使えばいいんじゃないの」と言ったという。その後、農場の水道が再び出るようになり、そして寮生たちが農場の水道を使っていたところ、一週間ぐらいしてある日突然水道の元栓に南京錠が掛けられ使えなくなった。
▼大学臨時職員がスパイ行為
 学寮問題をこじらせた臨時職員による窃盗と、警察による強制捜査、逮捕を振り返ってみよう。
 窃盗の疑いがもたれたのは、九八年から、学寮で清掃員として働いている大学臨時職員、甲野乙夫さん(仮名、六二歳)。彼の窃盗行為は、自治会が三月一六日に撮影したビデオの中に動かぬ証拠として写っている。私もこのビデオテープを見たが、甲野氏は、時折、周囲をきょろきょろと見回しながら、机の上の書類を次々とつかんでは、胸のポケットなどに押し込んでいた。本人がはっきりと盗みをしていると認識していることが分かる。
 寮生たちは、四人が逮捕されていた五月二日、大学内でこのビデオを公表した。
 寮生たちは、甲野氏がスパイ活動を前々から行っていると疑い、ビデオカメラを回していた。大学側は「計画的な罠」と非難しているが、寮生の私物などが盗まれていたのだから、犯行を証明するために、犯人に分からないように撮影するという手法も許されるだろう。大学側の論理では、銀行などの防犯ビデオカメラやNSシステムも「罠」ということになる。
 甲野氏は三月一七日に行われた寮生との話し合いで、諜報活動の事実を認めなかったが、寮生たちが「証拠」のビデオ映像を示したところ、「大学の指示に従い、議案や寮生個人のノートをもとに、大学に報告していた」と述べた。また甲野氏は、着任した直後の二年前から寮生の文書などを盗み、用務員室や倉庫に、保管していたことを認め、寮生たちの立ち会いのもとで、盗品を見せた。約二年間にも及び盗難し続けていた事実を表す、百点(段ボール一箱)もの盗品の山も写っている。この中には九三年以降の自治会の大会議案書なども含まれており、甲野氏は「自分が赴任する前からあった」と寮生に説明している。
 寮生は甲野氏との話し合いの模様をビデオ撮影しており、警察は強制捜査でビデオテープを押収した。私はそのビデオを見たが、甲野氏は「証拠」を突きつけられて観念した様子で、冷静に話している。
 学寮自治会は直ちに大学当局を追及したが、大学側は三月二四日付の学生部長名で出された告知文において、「そのような事実は全くない」と全面否定し、その上で、寮生が甲野氏を監禁して、偽りの文書に署名させたと主張した。
 六月一六日に加藤学生部長が出した「お知らせ」で、「臨時職員は、大学と学寮居住者との対立に対する興味からチラシ等を集めていました。また、放置してあったノートを回収し、白紙ページを利用しようとしました」と書いている。
 自治会側は四月一二日のチラシで次のように強調した。《甲野氏が当局に指示されて、寮生間で使う議案などの印刷物や、寮生個人のノートを盗難し、当局に知らせていたのである。告知文こそが、事実無根の嘘であり、事実を隠蔽・歪曲し、寮生に責任転嫁する悪意的な文書なのだ。そもそも当局の告知文には、「調査をした」「その様な事実は全くない」と書いてあるものの、どのような調査を行い、どのような根拠で「事実はない」としているのか全く明らかにされてなく、本当に調査したのかすらも疑わしいものである。その上、問題を訴えた我々寮生に一度も事情すら聞いてないのである。この様な状況からは、全く調査してないとしか考えられない。調査期間が二日間しかなく、その間に調査が全て完了したと言うのか。》
▼地元テレビ局が窃盗シーンを報道
 臨時職員による不法行為は地元のメディアが積極的に報じた。山形新聞の報道で県民に知れ渡った。三月二八日の山形新聞は、「自治会が抗議声明 会議資料持ち出し 大学側は全面否定」と四段記事で
また、「さくらんぼテレビ」(フジテレビ系)は三月二八日夕方のローカルニュースで、寮生たちが撮影したビデオ映像を使って、臨時職員による「スパイ行為」を詳しく事件を伝えたため、強いインパクトを与えた。そのニュースを再現してみたい。
 《対馬孝之アナウンサー: 山形市にある山形大学の学寮で、清掃員が寮生のノートや書類を無断で持ち出し内容を大学に報告していたとして、学生側が抗議をしています。(「自治会抗議に大学否定」という字幕が出る)
 これに対し、大学は「事実無根」と反論しています。
 山形市平清水にある山形大学の学寮では、以前から入寮募集停止をめぐり、大学と学寮自治会が対立を続けていて、今年一月の話し合いを最後に今もなお解決のめどは立っていません。(学寮の外観、内部の様子が映し出される)そしてこれが問題となっているシーンです。(「学寮自治会撮影」と画面の右上に文字が出て、一人の男性が部屋を物色し紙を持って出て行く映像が流れる。男性の顔はモザイクがかかっている)学寮の自治会によりますと、今月16日自治会が寮の様子をビデオカメラで撮影したところ、大学に非常勤職員として雇われていた清掃員が、ロビーに置いてあった寮生の資料を持ち出す姿が映っていたということです。
 これについて当事者とされている清掃員は次のように述べています。(甲野氏が寮内の部屋のいすに座り、しゃべっている映像。顔はモザイク、声も変えてある)
甲野氏:コピーを取ったりとかメモを取ったりはしてないけど、私の口で、口頭で、その話の中身についての話をしたけれど、・・・。(「当事者の清掃員」と左横に縦の文字。「コピーしたりはしていないが口頭で(大学に)報告していた」と字幕。)
 対馬アナウンサー:清掃員が過去2年間に持ち出した資料はダンボール一箱分に及び、中には個人の部屋から持ち出したものもあるとして、自治会は反発を強めています。(学寮のパンフレットやノートの映像。「清掃員が持ち出していたとされる資料」と字幕)
 学寮自治会○○○○さん:(寮内と思われる場所で、日高さんがしゃべっている。胸から上。モザイク・変声なし「学寮自治会○○○○さん」という字幕)大学が清掃員を使って、寮生の教室などからノートとか会議用の議案などを盗ませて、寮生活の監視なり探ったりとか、そういうことはまるで戦前の特高警察のようで、本当に恐ろしいことだと考えています。
対馬アナウンサー:(大学の会見の様子。「大学側の会見 山形大学」という字幕)一方、大学側は今日会見を開き、「清掃員を使っての情報収集活動などは事実無根」として、反論しています。
宮本学生部長:(会見の続き。宮本さんが会見でしゃべっている映像。「山形大学宮本学生部長」と字幕。胸から上)それは別に学生部に持っていって見せようと思ったわけでもなく、自分の興味からやったことであるということであります。
男性アナウンサー:(会見の映像)また自主的に入寮募集を続けている学寮自治会に対し、すでに全員の退寮処分を発表していて、5月31日までに退去するよう求めています。》

▼大学の支持を得て公安警察が介入
 地元メディアを見るかぎり、この映像が捏造とは思えない。もし刑事処分があるとすれば、甲野氏の逮捕だったと思っただろう。ところが、逮捕されたのは、窃盗事件被害者である寮生の中の四人だった。窃盗の疑いが濃厚な甲野氏は何のおとがめもない。甲野氏は今も大学内の別の職場で臨時職員として勤務している。
 四月二五日午前六時半、機動隊が学寮を取り囲む中、強制捜索した。寮生によると、警察官は捜索令状をきちんと見せていない。警察は学寮内にいた寮生を全員、任意同行を求めて、十数時間も取り調べている。
 任意同行を求められた学生のうち、四人は警官に姓名を明らかにしなかった。警察官が名前を聞いたのに対し、黙秘権を行使したのだ。「その際、警察に同行してきた学生サービス課専門職員の寮担当職員の阿部敏樹氏が、寮生の姓名を警官に教えた」と抗議している。
 四人によると、警察官が各部屋を捜索中に、廊下で阿部氏とすれ違った際に「○○君、おはよう」(○○は実名)と言われ、そのために警察に氏名が知 られてしまった。また、その四名以外にも三名(この人たちは黙秘をしていなかった )が、同様に、廊下で阿部とすれ違った時に「○○君、おはよう」と言われている。寮生たちは、「四月二五日の強制捜査の際に阿部氏と会った寮生はみんな名前を呼ばれている。おそらく、寮生と会ったらそれとなく名前を呼ぶという事を事前に警察と確認してたのと思われる」と述べている。
 ある学生(逮捕)は、「部屋を捜索した警察官に名前を聞かれたが、黙秘して言わなかった。部屋から出るときに、部屋のすぐ外にいた阿部氏が、などと言って、警察官に僕の名前が分かってしまった。阿部氏は僕と警察官とのやりとりを聞いていたはずで、わざと名前を言って警察官に知らせたと思う」と述べている。
 この点について、加藤静吾山形大学学生部長(理学部教授)は、六月三○日、私のインタビューに対し、強制捜査を受ける市民には黙秘権はなく、姓名を当局に知らせる義務があるとの見解を示している。
 任意同行させられた寮生のうち、当局が「首謀者」と見ている四人が逮捕された。山形警察署によると、四人は他の寮生と共に三月一七日の午後一時頃から六時間にわたって大学の清掃員を監禁し、「大学のスパイだ」などと罵声を浴びせたうえ、清掃員を辞職するという内容の誓約書に署名させた疑いがあるのだという。
 四人は逮捕時点で全員二四歳で、新聞・放送に実名報道された。学寮問題を詳しく追ってきたさくらんぼテレビだけは、対馬キャスターと報道部長らが話し合って、「こんば容疑事実では起訴できないだろう」という判断で、「寮に住む学生四人」と表現し匿名報道にした。
 山形署は捜索で、寮生の携帯電話、学生証、保険証、学寮自治会の預金通帳などのほか、甲野氏の窃盗シーンを撮ったビデオテープのなどを押収した。預金通帳などはすぐに返されたが、すべての押収品目が返還されたのは地検が不起訴処分を発表した翌日の六月六日だった。山形署は捜索で、寮生の携帯電話、学生証、保険証、学寮自治会の預金通帳などのほか、甲野氏の窃盗シーンを撮ったビデオテープのなどを押収した。これらの生活に必要なものが、返還されたのは地検が不起訴処分を発表した翌日の六月六日だった。
 逮捕された学生たちは、「監禁」事件での取り調べはなく、自治会運動をやめるように説得されたという。逮捕された四人のうちAさんは、監禁事件での取り調べは一切なく、「寮を出ろ」という事を約束しろと迫られただけだ。Bさんはの場合は、取り調べも多少あったが、「謝れ」という再三言われた、という。C、Dさん、取り調べもそれなりにあったが、「寮を出ろ」という事をかなり言わ た。四人とも「寮を出ろ」 とか「寮運動を止めろ」とか再三言われ脅された。
 また、五月一六日に処分保留で釈放された際に、Dさんが担当の竹中検事から「今後大学と問題を起こ したら、当然処分に影響するという事を覚えておくように」と言われたという。
 警察・検察の逮捕の目的は、学寮の自治運動の破壊にあったことは間違いない。
▼大学の要請で逮捕
 この逮捕には大学当局が深くかかわっている。まず、三月一八日、寮担当職員から、前日に自治会の追及を受けて辞任を申し出たことを知ったが学生サービス課の寮務担当職員が学生部長と相談の上、同日夕、山形署に通報した。学生部長は「事件があったことだけ伝えるように」と指示したという。学生サービス課の寮務担当職員と甲野氏が三月一九日、山形署に呼び出され、二人で出向いた。甲野氏が被害届を提出した。
 大学当局は警察への通知を一ヶ月間隠していた。加藤学生部長は六月一六日付の「学寮問題の経過について(お知らせ)」で、「一カ月遅れるという不手際がありましたことを率直におわびします」と書いている。
 その後、強制捜査のあった四月二五日まで、大学の五人が延べ二十数回事情聴取を受けた。加藤学生部長の説明によると、山形署から四月二○日、「強制捜査に入るが、大学の意見を聞きたい」と連絡があり、
学長も交えて協議した結果、二一日に次のような内容の告発状を提出した。
 《臨時職員から、長時間にわたり監禁拘束されるとともに、辞職の署名・捺印の強要があった旨の申し出があったこと、及びこれが事実とすれば刑法の監禁罪、強要罪に該当する疑いがあるので。厳正な捜査により、速やかに本件の適切な解決が図られることを望む》

 寮生四人の逮捕を、四月二五日のさくらんぼテレビは詳しく報じた。
 《女性アナウンサー:寮生4人が大学の清掃員を監禁し、辞職を強要したとして、警察に逮捕されました。
 そしてこれが今回の事件の発端となったシーンです。(清掃員と思われる男性が部屋を物色している。「寮生撮影」と右上に文字。「逮捕・共用された大学の清掃員」と字幕。最初の番組と同じ映像)学寮の自治会が先月16日、寮の様子を撮影していたところ、清掃員が寮生の資料をポケットにしまいこみ、持ち出す姿が映っていたということです。寮生は翌17日、この件について清掃員を問いただしています。これが今回の逮捕のきっかけになりました。
 当時スパイ活動について清掃員はこう述べています。
(寮内と思われる部屋で、清掃員がしゃべっている。最初の番組と同じ映像。モザイクとボイスチェンジ)
清掃員と思われる男性:コピーを取ったりメモを取ったりはしていない。(「コピーやメモは取っていない」と字幕)私の口から、口頭で話の中身についての話をしたんだけど…(「口頭で説明した」と字幕)
男性アナウンサー:(清掃員が持ち出したとされるパンフレットやノートの映像。「2年間でダンボール1箱分の資料を持ち出す」と字幕)こうした大学のやり方に、自治会は反発を強めていました。も

大学側(最初の番組で出た宮本学生部長のコメント。この番組では名前は出されなかった):(大学の記者会見の様子。最初の番組と同じ学生部長が話しているところ。「大学側は…」と字幕)それは別に学生部に持っていって見せようと思ったわけでもなく、自分の興味からやったことであると…(「清掃員自身がやったこと」と字幕)
男性アナウンサー:(基本画面)この問題、そもそも寮生と大学の言い分がかみ合っていません。そして今回の逮捕劇についても大学と警察の間に食い違いが見られます。

学生部長(テレビでは姓名は出ないが、加藤清吾学生部長):(大学の会見の様子。「学生部長の会見 山形大学 きょう」と字幕)これは大学内で起こったことで、そのことに対して警察の判断で入った強制捜査で、大学は「今こういう状態で、入ってくれ」と要請したのではないということです。(「警察の判断によるもので要請はしていない」と字幕)
 男性アナウンサー:(山形署の外観「山形署 先月18日大学側から相談を受けたため事実関係を捜査した。」と字幕)一方山形署は、先月18日大学の相談を受けたため事実関係を捜査したとしていて、大学と見解が食い違っています。

女子学生:(女子学生がしゃべっている。首から上。「一般の学生は…」と字幕。モザイク・変声なし)その掃除夫さんだって自分で言ったじゃないですか。「やりました」って。あれを強要されたって言ったっていうふうには捉えられないっていうか…(「強要されたとは思えない」と字幕)それで今掃除夫さんは北辰(別の寮の名前)寮で働いているらしいんですよ。その窃盗の…ねえ、可能性がある人が。(「《清掃員》は別の寮で働いているらしい」という字幕)(カットが変わって女子学生背景がそれまでと違っている。女子学生の後ろに機動隊員とマスクをした私服警官らしい人が映っている)大学側はそれは目をつぶって調査もしないばかりか罷免もしないでやってるわけじゃないですか…。(「大学側が目をつぶって調査していない」と字幕)
(基本画面)
女性アナウンサー:大学と寮生の言い分がずいぶん違ってますね。
男性アナウンサー:そうなんですね。この対立、おおもとを辿りますと、寮生も寮の事務室を占拠するなど、非はあるんです。ところがですね、寮の正常化に向けて大学の誠意ある対応が見られないような気がしています。実際実のある話し合いもほとんど行なわれていないといった状態です。それから大学はですね、警察の自主的判断でした、としているんですけれども、警察は大学の相談を受けて、というふうにしていまして、その対応の違いに不信感を持たざるをえません。》

 対馬キャスターのコメントに対して、一部視聴者から「偏りすぎている」と問題にした人たちがいたという。警察に近い人物だろう。この番組は偏っていない。キャスターと報道部の幹部らは、学寮問題を深く長く取材しており、できる限りの情報を収集して放送している。地元記者の間でも、その客観性は高く評価されている。
 さくらんぼテレビは五月二日、四人の送検を伝えた。学寮生が警察の車から出て、警察署に入っていく様子。《「送検 山形大学4年△△△△容疑者(24)ら4人」と字幕)山形大学学寮に住む△△△△容疑者24歳らいずれも4年生の4人です。警察の調べによりますと、△△△△ら4人は、先月、学寮の中で大学の臨時職員を長時間監禁した疑いなどが持たれており、これまでの調べに対し全員が黙秘を続けています。
(画面がキャンパスの様子に変わる。学生が抗議集会を開いている映像「山大小白川キャンパス」と右上に文字。「学寮自治会が抗議集会」と字幕)学寮自治会では、被害者の職員が大学の指示を受け寮内で続けていた盗難の行為をただしたもので、監禁ではないなどと主張しており、今日山大のキャンパスで抗議集会を開き、不当逮捕だとする主張を繰り広げました。
 そして学長に宛てた抗議文を提出しようとしたものの、応対した職員に取次ぎを拒否され押し問答になる一幕もありました。(学生部事務所で、学生が抗議文を提出しようとしている映像)
(男性アナウンサー一人の基本画面)
男性アナウンサー:これを受けて寮の自治会は大学に対し、9項目に及ぶ質問状を提出しました。しかし、大学側はこの受け取りを拒否、門前払いする格好となっています。
(学生が演説しながら抗議文を提出しようとしている映像。学生は「警察弾劾」のプラカードを持っている。「寮生逮捕事件 大学自治会を門前払い」と字幕)
男性アナウンサー:この抗議行動は山形市にある学寮の寮生4人が、寮の清掃員を監禁し、辞職を強要した疑いで、先月逮捕された事件を受けて、寮の自治会などが起こしたものです。(学生が大学職員に向かって抗議文を読み上げている。「抗議行動をする学寮自治会 山形市山大小白川キャンパス」と字幕)一行は「シュプレヒコール」をあげながら寮を管理する学生部に入り、大学は寮の清掃員に対し寮内の情報を集めるよう指示していたのかなど9項目に及ぶ公開質問状を成沢学長宛てに提出しました。(学生が演説しながら学内でデモをしている映像)しかし大学は受け取りを拒否したため、この対応をめぐり学内は一時騒然となりました。
(学生側の弁護人が大学内の教室で開かれた集会で報告している映像。)また、逮捕された学生4人の弁護士は、連休明けの8日にも山形地方裁判所に対し、拘置理由を明らかにするよう請求することにしました。(「学生側弁護人△今月8日山形地裁に拘置理由開示請求△『学生に逃走・証拠隠滅の恐れはない』」と字幕)容疑者の拘留は、逃走や証拠隠滅の恐れがある場合認められていますが、この弁護士は4人にそうした恐れはなく、拘置の必要はないと話しています。請求が認められれば、拘置理由開示の裁判は、今月12日に開かれる予定となっています。》
 山形大学の加藤学生部長は、「この女子学生は寮によく出入りしている寮生のシンパで、一般学生と報道したのは不当だ」と批判している。自治会側は「彼女だけでなく寮生を支持し、大学の姿勢を問題だととらえている学生は、ほかにも多数いる。そういう学生の声に耳を傾けることなく、シンパの一言で片づけてしまう感性こそが人として問題だと思う」。
 さくらんぼテレビ側も「寮の前にいた学生に取材している。寮生の一人と同じサークルの学生と聞いている。一般学生以外の表現、つまり『寮生のシンパ』などと表現すると、彼女のプライバシーの侵害になる恐れがある」と説明している。
 四人は処分保留のまま五月一六日釈放された。

▼不起訴処分
 山形地検は六月五日、四人を不起訴処分にすると発表した。その翌日に、多くの押収品は返却された。四人は裁判を受けることがなくなった。
 ところが朝日新聞以外の新聞は「起訴猶予処分」という見出しで報じた。六月六日付の各紙が不起訴になった理由をどう報道したか見てみよう。
 読売新聞は「山大寮監禁学生4人起訴猶予」の見出しで次のように報じた。
 《起訴猶予の理由について、山形地裁の圓山慶二・次席検事は五日、「学生側が撮影したビデオや実行チャートが書かれたメモなど、新たな証拠を検討したが、脅迫や監禁がそれほど悪質な行為ではなかったと判断した」などとした。》
 毎日新聞は、「山形大学寮監禁で4人を起訴猶予」との見出しで次のように報じた。
 《理由について地検は@監禁、強要の事実は認められるが、清掃員の男性は実際に学寮生の作ったチラシを持ち出すなどの行為があり、不当とはいえ学寮生側の動機にもくむべき理由がある。A清掃員を取り囲んだ際も、特段悪らつな文言を用いていないーなどとしている。》
 朝日新聞は「4学生を不起訴処分 山形大学寮事件」という見出しで、地検が「学生四人全員を不起訴処分(起訴猶予)」としたと報じた。この記事の中で、次のように書いている。
 《圓山慶二次席検事は容疑事実はあったとした上で、「学寮の元清掃職員の男性がチラシなどを持ち去るなどして不法に情報を入手していたということが、寮生の撮ったビデオテープなどから確認できた。このことが犯行の動機となった点では学生にくむべき部分もある。また、ビデオテープの中で、四人はこの男性にあくらつな言葉を使っていない」と、起訴猶予の理由を説明した。
 起訴猶予となったことについて、逮捕された学生たちは「事実上、無実が証明されたと思う」として、大学側に真相究明と、学寮自治会と話し合う場を設けるよう求めていくという。》
 また山形新聞は「釈放の寮生ら起訴猶予処分」という見出しで、《処分理由について圓山慶二次席検事は、(学生が主張する)職員による資料の持ち出しは事実で、職員の行為を不当と考えてもおかしくないとし、「職員を取り囲む様子を録画したビデオを見たが、強要に当たるとはとは言い切れない」と説明した。》
 
▼新聞社に「訂正」迫る
 翌七日の山形新聞は、「学寮生への対応 学長、態度を保留 山形大学」との見出しで次のように報じた。
 《山形市平清水の山形大学寮で、大学臨時職員の男性(六二)を監禁し、誓約書への署名を強要したとして逮捕された学生四人が起訴猶予になったことを受け、同大の成沢郁男学長は、六日、「詳しい報告を受けておらず、学生の処分と(学寮の明け渡しを求める仮処分申請など)今後の対応についてはコメントできない」と述べた。同日開かれた山形大運営諮問会議終了後の記者会見で、質問に答えた。
 起訴猶予になった学生の処分の有無、寮に居座る寮生への対応について質問された成沢学長は「学生部長から報告を受けてから考えなくてはならない問題だ」として即答を避けた。》
 この記事の横に、こんな訂正記事が載った。
《【訂正】6日付朝刊の「釈放の寮生ら起訴猶予処分」の記事中、一部に不適切な記述がありました。「処分理由について・・・」の段落を「処分理由について圓山慶二次席検事は、強要などの容疑事実を認定した上で、『大学臨時職員がチラシを持ち去るなどしたことを、学生が不当な情報収集と思った点に酌むべき事情がある。職員を取り囲んだ際、学生は悪らつな脅迫の言葉は使っていなかった』などと説明した」と訂正し、おわびします。》
 山形新聞報道部の寒河江努副部長は《山形大学から、「検察庁から我々が聞いた内容と記事が食い違っているのはなぜか」と、また山形地検から、「記事の中のコメントが不正確だ」という連絡があった。そこで、担当記者にも確かめ、訂正記事を出した。この程度のことで、訂正というのは不自然な気もするが、記事内容に少しでも不正確な点があれば積極的に訂正記事を出していこうという流れにある》。
 また、朝日新聞は七日、《大学側「事件は遺憾」 地検「学生にもくむ点ある」》との見出しで次のように報じた。前日の記事を修正しているが、その理由は説明していない。
 《この四人を不起訴処分としたことについて、山形大学の加藤静吾学生部長は六日、「地検からみて、容疑事実はあったとされる事件があったのは遺憾だが、起訴が猶予され、学生に反省の機会が与えられた」と話した。
 山形地検の圓山慶二次席検事は、五日学生四人に容疑事実はあるとした上で、@学生側が、元清掃職員が不当に情報を入手していたと判断して、行動に出たことに対し、地検もこのビデオテープを見て学生側にもくむべき点があると判断したA元清掃職員を取り囲んで話をしていたときに、学生は特段悪らつな文言を使っていなかったB前途がある若年で、前科がない、などと起訴猶予処分の理由を説明している。》
 加藤学生部長は六日の山形新聞と朝日新聞の記事の中に、地検が甲野氏の行動を「不当」「不法」と判断したと報じていることを問題視した。部長自らが六日午後、地検を訪れ、応対した村上満男・三席検事に対し、両紙に報道されたような発表をしたのかについて聞いた。その上で、両紙に地検から聞いたことと記事内容は食い違っていると通告したのだ。
 大学側は、起訴猶予が決して無罪放免を意味するものではなく、容疑事実は存在したのだと主張したかった。従って、朝日や山形新聞の報道で、地検が甲野氏の行為を「不法」「不当」と認定されては困るのだ。そこで、「職員を取り囲む様子を録画したビデオを見たが、強要に当たるとはとは言い切れない」という記述を削除し、「強要などの容疑事実を認定した上で」を挿入するよう要請したのだろう。
 検察は不起訴処分を決める際、起訴猶予、嫌疑不十分、嫌疑なしの三種類に分けて発表する。起訴猶予は、違法だが猶予するという意味で、シロではないと強調する。しかし、違法かどうかを決めるのは裁判所であって、検察ではない。起訴猶予は犯罪事実があったということなら、起訴してもらい裁判を受けて無罪を確定しないかぎり、無実を証明できなくなる。
 地検が「容疑事実を認定した」などと公表したことは、四人に対するプライバシーの侵害、名誉棄損に当たる疑いがある。
 地検は当事者の学生四人が七月二八日に地検に出向き、質問書を提出した際に、応対するまで不起訴になった理由を説明していなかった。その際の説明も、不起訴の理由が起訴猶予で、起訴猶予の主な理由は「学生で将来があるから」と言っている。学生たちは「これだけでは、説明として全く不十分であり、私たちとしては全然納得いかない」と言っている。

 大学当局は六月七日付けの「告知」文において、「山形地方検察庁に内容を確認の上、不正確な記事を 掲載した新聞社に対し訂正を求めた結果、本日付けで訂正等の記事が掲載されております」と、はっきりと記事の訂正を求めたことを明らかにしている。

 学生部長の「お知らせ」は、四人が起訴猶予処分になったことを強調して、次のように言う。《山形大学に対しては内容の詳しい説明がありました。被疑者4名が職員が情報収集していると邪推し、ラウンジに連行した上、数時間にわたり脱出できないよう不法に監禁した。監禁罪及び強要罪の容疑に該当する事実は認められるが、チラシ等を持ち出す等の大学職員の行動を、学生が不当な情報収集と思い込んだ点に酌むべき事情があることや、学寮生が撮影したビデオによればラウンジ内ではさほど脅迫的な言葉を使っていない点、さらには過去に刑事処分を受けたことがなく、将来のある学生であることを考慮し、起訴猶予処分とした。》(要約筆者)
 さらに「お知らせ」は、起訴猶予に関する見解として、「本事件の捜査の結果、逮捕学生に監禁罪及び強要罪の容疑事実が認定された」と述べている。さらに、「起訴猶予」に関する新聞報道として、「6月6日付け新聞各紙の報道では、その内容に食い違いが見られましたが、6月7日付けの朝刊で、食い違いの大きい新聞社が記事内容を修正したため、各紙の報道内容は大学が地方検察庁で受けた説明と大筋で一致しています」と指摘している。
 大学が検察が明らかにしたことをそのまま公表していいのだろうか。検察は不起訴の理由を開示していいのだろうか。学生の弁護人は、「刑事訴訟法に違反している」と批判している。
 「お知らせ」は、「本事件に対する大学の見解」としてこう主張する。  
 《この事件は、「交渉打ち切り」、「新規格寮への改修」の評議会決定、更に目前に迫った退寮処分等で行き詰まった学寮居住者が、「窃盗・諜報」によって争点をそらすために仕掛けたものです。臨時職員は学寮居住者が計画的に仕掛けた罠にはめられ、不本意ながら文書に署名・捺印せざるを得ない状態に陥れられるとともに、その場面をテレビで放映され、人件を著しく侵害されました。》
 逮捕された学生が裁判を受けることもなかった。四人は実名を報道され、実家に逮捕を知られるなど報道被害を受けているが、甲野氏は一切実名や年齢も報道されていない。不公平だと思う。
 六月五日に圓山次席検事の会見を取材した朝日新聞記者は、電話で寮生にコメントを求めた。山形地検の処分決定と会見での説明の内容を伝えてコメントをとった。この記者は取材の中で、「(地検が)犯罪事実はあったと言っているのだから、無実だというのはどうか。事実上無実が証明されたということなら・・・」などと述べたという。朝日新聞には「事実上、無実が証明されたと思う」という学生のコメントが載った。
 朝日新聞は四人が勾留中の五月二日、「事前に計画?書類押収 山形大学寮の監禁強要事件」いう四段見出しの記事を書いている。警察が押収した書類に、元職員の資料持ち出し現場を撮影し、事実関係を認めさせることを事前に計画していたことが分かった」というのだ。「(自治会は)虚偽の内容の資料をつくってそれをラウンジに置き去りにしたと、県警は見ている」とも書いている。「県警警備一課と山形署」のリーク情報と思われる。
 不起訴になった学生たちは「不起訴処分になった以上、逮捕された学生は無実以外の何ものでもない。不起訴処分が出た後に、あれこれと『犯罪者』扱いしても、その言葉には何の意味も効力もないはずだ。むしろ、不起訴処分が出たのにもかかわらず、『犯罪者』扱いするのは私法・裁判制度を否定する暴挙である。そして今回の場合は、検察や大学当局が、我々を犯人扱いしているという意味において、第二の権力犯罪であると言える」と述べている。
 私は、学生たちの法感覚のほうが及第点で、加藤学生部長らの見解は、民主国家では落第点になるのは間違いないだろうと思う。

▼さくらんぼテレビを敵視する大学当局者
 加藤学生部長は、さくらんぼテレビの一連の報道を、「報道の暴力」とまで表現して非難している。また、ある職員は、同局の報道が偏向しているため局内からも批判が出ていると強調して、「最近は学寮のことをあんなふうにやっていないでしょう」と語った。
 これに対して、さくらんぼテレビ側は「寮生からビデオが報道各社に提供された。我々はビデオをよく見た結果。これはねつ造ではなく、明らかに大学臨時職員による不法行為だと判断して、報道した。学寮の問題では、二年以上前から、当時の学生部長や文部省から来ている学生サービス課の課長らに対して、円満解決するよう言ってきた。キャスター自身も取材し、報道部でよく話し合って番組をつくってきた、内容に自信がある。学生の逮捕について、何の怒りも感じない大学当局の姿勢は理解できない」と述べている。
▼不可解な当番弁護士の「辞任」
 逮捕された学生四人には、山形弁護士会から当番弁護士がそれぞれ派遣された。日本には逮捕段階で公費で弁護士を派遣する制度がないために、各地の弁護士会がボランティアで、当番を決めて無料で弁護士を派遣する制度で、四人の弁護士が四人に面会した。
 四人とも最初は、熱心に話しを聞き、不当逮捕だと応援してくれていた。学生たちは私選弁護士として引き続き弁護を依頼したが、相次いで断ってきたという。「大学で非常勤講師をしているから」「加藤学生部長と知り合いだから」「山形大学との関係もあるので」などと理由を伝えたという。
 
Cさんに付いた当番弁護士外塚氏で、彼は、最初接見に来た時Cさんの 話を聞いて「これは、松川事件と同じだ」と言って非常にやる気を示した。そこでCさんは 、選任届けを出した。その後、一回接見にも来てくれたが、途中で弁護団から降りてしまった。なぜ弁護団から降りたかについてCさんは、仙台の弁護士から「加藤学生部長と知り合いだから」と聞いている。
Bさんに付いた当番弁護士は菊川氏で、彼は最初からやる気がなか たので、Bさんは選任しなかった。
AさんとDさんに付いた当番弁護士は、五十嵐氏で、この弁護士も最初からあまりやる気がなかったという。ありませんでした。そこでAさんは選任しなかったが、Dさんは選任し選任届けを出した。しかし、外塚弁護士と同様、仙台の弁護士が弁護団に加わると弁護団から降りてしまいった。なぜ弁護団から降りたかについて は、仙台の舟木弁護士から「山形大学の教官と知り合いだから」と聞いている。
また、六月に入ってから「明け渡しの仮処分」のための弁護団を組織する為に山形の弁護士を回った際、ある弁護士は、「大学で非常勤講師をしているから」という理由で断ったという。
 四人と支援の学生たちに協力する弁護士は山形県内にはいない。学生たちは仙台の舟木友比古弁護士に依頼している。舟木弁護士は死刑廃止運動のリーダーで不当逮捕された安田好弘弁護士の弁護をしている。
▼左翼党派が指導と報道
 労働運動や学生運動に対して、「過激派」が指導しているとか、背後で操っているというデマが流されることはよくあるが、山形大学学寮闘争でも、ある党派が拠点づくりをしているという宣伝がなされている。学内だけでなく、一般市民の間でもそう受け取られている向きがある。
 寮生たちが問題にするのは、九八年二月一九日の山形新聞に載った「山形市の山大学寮事務室 学生ら一年近く占拠 活動家も長期滞在」との見出し記事だ。記事はで次のように報じた。
 「入寮者以外の活動家が長期滞在、○○派など過激派の活動拠点になる恐れも出てきている。(中略)○○派の全国集会に参加したり、他大学○○活動家と連絡を取り合っているという」(記事出ている党派名を○○とした、以下同)。
 この記事は、大学当局が学寮自治会と全面対決に転じる直前に出ている。
 また、今年五月三日の産経新聞は「○○派が犯行指導 山形大学寮生清掃員監禁事件 県警の捜査で判明」との見出しで次のように報じた。
 「県警は二日までに、清掃員が資料を持ちだす現場を撮影し、事実関係を認めさせるなどの一連の行動が、東京や仙台の中核派グループの指導を受け、前もって計画されたものであることを突き止めた。
 県警警備部によると、この事件の家宅捜索で、山形市平清水学寮と○○派の密接な関係を示す文書や、同事件を指導する内容を記載した資料を押収。○○派が同大で活動の拠点づくりを進めていたとの見方を強めている」。
 ある左翼党派の機関紙に、全国各地における大学の寮闘争の一つとして「山形大学学寮」の名前が出た。
地元の全国メディアの記者たちは「○○派の機関紙に学寮のことが出たから公安警察としても放置できなかったのだろう」と理解を示した。
 私が見るかぎり、一部党派が学寮の学生たちを指導しているという事実はないと思う。私自身も共同通信時代に、○○派活動家(数セクトの名前をあげられた)というレッテルを貼られたことがあり、ジャカルタ特派員時代にはインドネシア軍にもそんな情報が渡ったこともある。私を「過激派」だと糾弾するメディア幹部のほとんどが、学生時代には○○派などの活動家なのだからお笑いである。
 市民運動や学生運動をやるのは、党派または党派のシンパに違いないという公安のような視点はあまりにも情けない。
 学寮自治会はホームページに発表した「私たちの基本姿勢」の中で、次のように述べている。
 《大学という場は、自由な学問が保障されて物事を自由に思考できる場であり、広く開かれた場でなくてはならないと考えます。その為には、『大学自治』・『学生自治』は不可欠であると考えます。そういう考えの基、私たちは学寮を自治寮として存続させる為に今も頑張っているのです。私たちの考えに共感される方は、是非とも私たちの運動を支援して欲しいと考えます。
尚、私たちが「特定の政治党派の指導を受けている」という事が一部マスコミによって報じられたようですが、そのマスコミ報道は、私たちの運動を快く思っていない大学の一部の教職員や警察の公安部が意図的に流したデマに基づくものです。「特定の政治党派の指導を受けている」といった誤った情報を流し運動の当該と支援者を分断させるという、警察の公安部などがよく使う一般的な運動潰しの手法に他なりません。このホームページを見た皆さんには、私たちに関して「特定の政治党派の指導を受けている」という事実は全くない事を強調しておきたいと思います。そして誤った情報に惑わされる事ないよう皆さんにお願いしたいと思います。
先にも述べましたが、私たちは大学を自由な場として維持していきたい・学寮を自治寮として存続させたいという自らの思いから、主体的に運動を行っています。そして、特定の政治党派の指導を受けて運動を行うという事は、私たちにとって重要でかつ大事な『自治』を放棄する事と考えています。ですから、特定の政治党派の指導を受けるという事は一切ありませんし、今後もありえない事です。
重ねて述べますが、私たち学寮自治会の活動目的は学寮を厚生施設として機能させていく事にあります。あくまでも学寮を学生寮として機能させていきたいという考えが第一にあり、その為にも大学を自由な場にしていきたいと考えているのです。また、私たちは学生生活を送る上で必要であるから寮に住んでおり、その生活が踏みにじられようとしているから、寮存続を目指して運動しているのです。ですから、特定の政治党派の利益の為に運動を行う考えもありませんし、また逆に、その人の立場や身分によって排除する考えもありません。私たちの考えに賛同し、私たちの主体性を尊重する人であれば、学寮存続に向けた運動を共にやっていきたいです。
私たちは、今後大学当局との話し合いの場を得、話し合いによって今学寮に振りかかってる問題を解決させたいと考えます。学寮を自治寮として存続させる事は、今学寮を必要としている私たち寮生の為だけではなく、今後学寮を必要とする多くの人の為にもなると考えています。ですから、何としても大学当局との話し合いの場を得る必要があるのです。しかし、今の大学当局の強権的な姿勢を見れば、話し合いの場を得る事は私たちだけでやり切れるものではないと思わざるをえません。そこで私たちは、多くの方々が支援して下さる事を必要とし、切望しているのです。皆さん、学寮存続の為に大学当局との話し合いの場を得るよう、是非とも支援お願いします!!》
▼独立法人化
 大学が、臨時職員が被害者で、退避された寮生は犯罪を犯したのだと断定するのはどうか。臨時職員が趣味のためとか、学寮問題での大学と寮生の対立に興味をもってチラシやノートをポケットに入れるだろうか。
 大学は調査したというが、逮捕された寮生から直接話を聞いていない。当局が押収したビデオも見ていないという。寮務職員は七月七日私の電話取材に対して、「ビデオは見ていない。これだけは言っておきたいが、ビデオに写っているところだけが真実ではない。写っていないときに、いろんあことがあったのだ」と述べている。
 しかし、スパイ活動を指示したと疑われている学生部が甲野氏や職員から事情を聞いても真相は分からないと思う。成澤学長は、せめて警察の監察官室ぐらいの調査機関をつくって調査をやり直すべきだろう。
 今回の山形大学学寮生四人の逮捕は、政府・文部省による国立大学を独立行政法人化する動きの中で強行されたことを注目すべきだ。「競争的環境の中で個性が輝く大学」という美名で、学問の自由を国家(大資本)の下に再編改組する策謀である。文部省と総務省が一元管理する狙いだ。
 全国の大学の「筑波大学化」と言ってもいい。つまり官僚、企業家、マスコミ御用記者からの教員採用で、大企業に奉仕する学問にするのである。
 教授会自治の骨抜き化も狙っている。教職員のスクリーニングも始まるだろう。学生自治の破壊もたくらんでいる。
 「新しい社会の担い手」とは、権力に常に懐疑的で、自由・自立・自治を尊重する人民である。人類の歴史を学び。社会を改革していく市民を育てることが大学の役目である。どういう思想信条を持とうとも、大学の中では、権力の介入を排して、自由に研究教育することが最も重要である。
 九九年一二月一日の毎日新聞で明るみに出た、早稲田大学で起きた「江沢民・中国国家主席」講演会名簿提供事件は、現在の大学の置かれた状況をよく表わしていると思う。九八年一一月二八日に早大大隈講堂で開かれたの同講演会に参加登録した約 一四〇〇人の姓名、住所を警察当局に提出していたというのだ。本人には無断で警察に手渡していた。また、その後の報道で、早大は要人講演の参加希望リストを過去十年以上、警察当局に提出してきたことも分かった。
 さらに驚くべきことに、大学当局は、警察への名簿提出について、「やむを得ない措置」と正当化している。何の反省もしてないのだ。大学が官憲に個人情報を手渡すということは、絶対にあってはいけないことだ。仮に、「警備上」の理由があり、例外的に許されるというなら、学生、市民が納得できるような明白かつ差し迫った「危険性」の説明が不可欠である。
 大学は権力に情報開示を求め、人民の情報は保護しなければならない。学問の自由は、権力には一切の介入を許さないというのが原則である。報道機関が報道の自由を守るために、権力の規制を一切排除するのと同じである。
 大学の中では、権力の介入を排して、自由に研究教育することが最も重要であるという、ごく当たり前の倫理観さえ失っている山形大学の姿をひとごとと思ってはいけない。(了)

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Copyright (c) 2000, Prof.Asano Ken'ichi's Seminar Last updated 2000.11.07