2001年3月4日

朝日にも当事者からの苦情はゼロ
報道と人権委員会

 二○○一年二月二三日の朝日新聞によると、元日付で発足した朝日新聞社の「報道と人権委員会」の第一回定例会が二十二日午後、東京・築地の東京本社で開かれた。大野正男元最高裁判事(七三)、浜田純一東大大学院教授(五〇)、原寿雄元共同通信編集主幹(七五)の三委員が人権にかかわる報道のあり方などについて論議した。
 委員会では、発足後これまでに届いた三六通の手紙の内容について佐藤公正事務局長から説明があり、「今回審理の対象となる事例のないことが確認された」という。
 その他の読者の意見や苦情への対応については広報室が報告。続いて、(1)最近の裁判や事件における少年や公人の実名・匿名報道のあり方(2)国が関与する「人権救済機関」設置の問題点(3)当委員会の役割、などをテーマに各委員が自由に意見を交わした。次回の定例会は四月にある。 
 三十六通の手紙の中に私が送った質問書二通も入っているのだろうか。二カ月に一回しか集まらない委員会が、画期的な組織といえるだろうか。
 箱島信一朝日新聞社長が会合に先立って、「独立の第三者の目で記事の是非を判断して頂きたい。問題の解決に当たって透明性、公平性が一層確保されるので、読者の信頼も高まると思う」とあいさつし、報道機関が自主的、自律的に人権救済に取り組む意義を強調したというのだが、朝日新聞に書かれた市民が一人も苦情を申し立てていないというのは、この委員会が何の力もない「書かれる市民」のためにつくられていないという証明だろう。
 朝日新聞に実名報道された高松市の四人の若者うち一人は仕事を失ったという。しかし四人はこの委員会に相談さえできないと思う。四人は住所、職業、年齢まで書かれて、うち一人は仕事を失ったという。「逮捕されたら実名」というルールを支持している委員が三人のうち二人を占めているし、事務局長は実名報道主義でこりかたまった社会部出身者である。
 大学生二人が昨年末、深夜に酒を飲んでトラブルとなり警察に事情を聞かれたが、朝日新聞は地方版で「逮捕」したと実名報道した。大学名、住所、年齢が出た。
 おそらく警察の当直責任者が逮捕したと「広報」したのだろううが、明らかな誤報だった。学生は泣き寝入りしている。
 各社の現在の苦情対応機関が市民の信頼を勝ち取るのは無理ではないだろうか。

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