2001年1月25日

ちょっと変だったスウェーデンの紹介
毎日新聞へ質問書(3回目)

 毎日新聞は2001年1月23日の「追跡 メディア」の頁で、「メディア自主規制・スウェーデンの例」と題して、スウェーデンの匿名報道原則と報道評議会・プレスオンブズマン制度を柱とするメディア責任制度を特集で紹介している。最近の事例を出しており、興味深いが、「輸出は無理」という結論で終わっている。ならば、なぜスウェーデンのケースを紹介するのだろうか。
 またストックホルムであまり評判のよくない夕刊紙のエクスプレッセンを「有力紙」と紹介しているのも問題だ。スウェーデン大使館の報道参事官は「日本の夕刊フジや日刊ゲンダイみたいなタブロイド駅売りで、有力紙ではない」と言っている。
 この記事のサイド記事として、「報道評議会とプレスオンブズマン」の説明があるが、その中で、毎日新聞の新・委員会だけでなく、朝日新聞、東京新聞や新潟日報の苦情対応機関・読者モニター制度を「わが国」独自のオンブズマンと呼んでいる。
 1993年の朝日新聞の宮崎欧州総局長の大虚報・誤報連載に比べたらましだが、正確さにやや欠けた記事だと思う。委員会で問題にしてほしい。



2001年1月23日
同志社大学文学部社会学科新聞学専攻教授 浅野健一
                   

 毎日新聞東京本社社長 斎藤明様
 毎日新聞「開かれた新聞」委員会・平沢忠明事務局長
 毎日新聞「『開かれた新聞』委員会」委員
  中坊公平様
  吉永春子様
  柳田邦男様
  玉木明様
  田島泰彦様

 前略 
 昨年12月15日以来2回質問書を送らせたいただいた同志社大学文学部社会学科の浅野健一です。質問にお答えしていただけないのは、残念です。市民に「開かれてはいない」のでしょうか。メディア研究者にも開かれていないということでもあります。
 本日の記事について意見を述べます。
 毎日新聞は二○○一年一月二三日の「追跡 メディア」の頁で、「メディア自主規制・スウェーデンの例」と題して、スウェーデンの匿名報道原則と報道評議会・プレスオンブズマン制度を柱とするメディア責任制度を特集で紹介している。最近の事例を出しており、興味深い。日本の大新聞が、スウェーデンのメディア責任制度を大きく報道したのは、1994年の朝日新聞の歪曲した紹介報道以来だ。
 しかし、夕刊紙のエクスプレッセンを「有力紙」と紹介しているのは間違い。同日午前東京のスウェーデン大使館のカイ・レイニウス報道参事官に電話で聞いたところ、「日本の夕刊フジや日刊ゲンダイみたいなタブロイド駅売りで、有力紙ではない」と述べた。
 同紙は確かによく売れており影響力はある。しかし、笠原記者が「数年前、違反裁定が重なり編集幹部の多くが入れ替えられた」こともあると書いているように、一番問題がある新聞だ。それでも刑事事件報道に関しては、日本の一般新聞の社会面よりは、大分ましとは言えるだろう。
 本当の「有力紙」で、日本の毎日新聞や朝日新聞・読売新聞にあたる宅配中心のダーゲンス・ニヘーテルやダーゲンス・ブラーデットなどの朝刊紙の編集幹部のコメントも載せるべきであろう。
 違反裁定を受けたメディアに科される「事務手数料」(administrative fee)を「罰金」と訳しているのは誤りだ。一種の“罰金”のようなものだが、法律に基づいた制度ではないので誤解を招く。
 また記事の最後の小見出しは「輸出は無理?」で、「外国でそのまま適用できるかどうかについては疑問の声が強い」と指摘。プレスオンブズマンのステンホルム氏の「スウェーデン社会の固有の文化と伝統に深く根ざした制度であり、そのまま外国に移植してもうまく機能しないだろう」という談話で結んでいる。
 表現の自由にかかわる制度であり、臓器、車、家具ではないのだから、そのまま「移植」したり、「輸出」できるずがないし、するものでもはない。電気製品だって「外国でそのまま適用できる」わけでもない。
 囲み記事の報道評議会とプレスオンブズマンの説明で、「苦情処理 各国の状況」という見出しで書いているが、メディア責任制度は「苦情処理」ではない。
 また、囲み記事は、笠原記者は、「我が国」で毎日新聞を皮切りに、新潟日報、朝日新聞、東京新聞がでも創設した新・委員会を、「複数の社外委員による日本の独自のオンブズマンともいえる」と定義している。
 四社の委員会は名称も様々で、組織形態も活動内容も異なる。毎日新聞が四社の組織をオンブズマンと呼ぶ一方で、「当社のは年に三回集まってもらうだけで、八人の委員の意見を紙面に反映させてもらうもので、オンブズマンではない」(新潟日報編集局)という声も上がるなど、混乱が見られる。朝日新聞は二ヶ月半前にできた毎日新聞の組織を無視するかのように、「人権問題に絞った本格的な社外組織を持つのは国内新聞社では初めて」(一月三日)だなどとPRしている。
 四社とも「苦情処理」「報道被害救済」などの看板を掲げただけで、国際的な基準を充たした報道評議会やオンブズマンとは無縁の、各新聞社の苦情処理機関にすぎないと思う。
 各社の委員会にはほとんど専任のスタッフがいない。報道被害者から積極的に苦情を受け付けようという姿勢が不十分だ。各社のホームページにも出ていない。東京新聞はどこに訴えたらいいのかも書いていない。新潟日報も《新潟日報「読者・紙面委員会」》をつくったが、社員にもあまり徹底していない。
 各社の新組織の委員の顔触れが政府の審議会メンバー以上に偏っている。各新聞社がその新聞に「理解がある有識者」を選んでいるのでから、被害者が安心して訴えることはできない。委員の多くが犯罪の被疑者も被害者も実名報道が当然と公言している人たちだ。少年も凶悪事件は実名にという学者やジャーナリストも入っている。
 政府与党がメディアによる人権侵害問題について、法律で規制することを検討している。報道界全体で報道評議会などの自主規制期間をつくらないければ法規制もやむなしという世論もでき上がっている。各社がつくった新委員会だけでは、こうした権力と市民からの批判に対応できない。
 ところが新聞労連や一部弁護士は、各社の委員会設置を「オンブズマン制度」と評価し、報道評議会を「理想論」で今すぐには困難と位置づけている。私たちはメディア責任制度とは何かを原点に立ち戻って考え、北欧や英国にある制度を参考にして、報道される市民のための仕組みをつくるよう報道界に求めていかなければならない。(以上)

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