2001年4月3日


「警察が発表したのは事実」
共同通信が「週刊金曜日」に抗議

浅野健一

「おかしいぞ『三田佳子報道』」が載った「週刊金曜日」(2000年12月22日、2001年1月5日合併号)発売から5日後の12月27日、共同通信の山田計一総務局次長が「週刊金曜日」編集長代理の山中登志子さんに抗議の電話をかけてた。
 「週刊金曜日」のアンケートと質問書に答えたのに、全文を載せなかったのはけしからん、「誤報」という根拠を示せなどという抗議だった。山田氏は「(説明に)社に来てほしい」と言ったという。抗議するから、共同本社まで来てくれというのは、悪質な警察・検察幹部のようである。山中さんが女性だから、そういうふうに言ったのではないかと私は思う。
 筆者の私には何の連絡もないが、共同通信社が私が書いたことについて抗議してきたのは初めてのことだ。
 私は2001年3月5日に、「抗議」の責任者になっている社団法人共同通信社総務局次長の山田計一氏に、以下のような手紙をファクスで送り、事実確認を求めた。しかし、期限の1月8日までに、回答はなく、その後も何の連絡もない。
 「週刊金曜日」と共同通信、そして私と共同とのやりとりをHPで報告する。報道機関が他者から批判・非難されると、どういうふうに「反論」「反撃」するかを知っておくことも必要だ。
 公表にあたっては「週刊金曜日」の承諾を得ている。共同通信の山田氏にも公表すると通告しているが、山田氏にファクスで送った「事実関係」の一部記述(2行)は差し替えをしている。




「週刊金曜日」松尾信之編集長殿
◎共同通信社の記事を誤報と断定した週刊金曜日の記事への反論
                                          共同通信社

 「週刊金曜日」2000年12月22日、2001年1月5日合併号は「おかしいぞ『三田佳子報道』」の記事の中で十分な根拠もなく「共同通信社が誤報した」と断定的に書いた上、わが社が週刊金曜日編集部の質問に誠意を持って回答したにもかかわらず、その反論の部分を割愛して掲載しました。同誌に対し厳重に抗議するとともに、共同通信社の立場を説明いたします。

1 共同通信社の報道を「誤報」と断定した点について

 週刊金曜日の記事は1著者が二男に面会した際に二男が「共同通信の記事は間違いだ」と言った2三田事務所が「本人並びに神奈川県警担当者に対し、慎重な事実確認をしました。その結果、本人は警察の取り調べに対して、そのような供述を一切行っていないことが明らかになりました」というファクスを報道各社に送ったこと――などを根拠に「共同通信の記事は誤報」と断定しています。
 しかし、わが社の記事は、会見の席で警察の責任ある立場の担当者が報道各社の記者に発表した内容です。その内容については、わが社の再度の確認に対しても神奈川県警が認めていますし、同席した報道各社の記者も証人です。
 警察の責任ある立場の担当者が虚偽の発表をした場合は、名誉毀損などの責任を問われることになります。この事件の場合、あえて警察がそのような危険を冒してまでも虚偽の発表をする理由は考えられませんので、とりあえず発表内容が真実である可能性は高いとみて記事にすることは、刻々の世の中の動きを読者に伝える使命を負っている報道機関として合理的な判断だと考えています。
 12月14日にわが社の担当者が三田事務所で話し合いをしましたが、その際に三田事務所は「実際に警察が共同の記事のような発表したかどうかは、その場に出ていないので分からない。二男が『そのような供述はしていない』と言ったことと、警察に発表の内容について尋ねたところ明確な返事がなかったことから、あのようなファクスを報道各社に送った。共同通信がなんの根拠もなく記事を書いたとは思っていなかった」と説明がありました。
 その場で、三田さんの二男が親に「北米で大麻やLSDを使用していないし、そのような供述もしていない」と話したという事情について詳しい説明を受けましたが、二男の話を信じるべき理由も、現時点では明確ではありません。
 以上のように、週刊金曜日の記事がわが社の記事を誤報とした根拠はないと考えています。

2 わが社の回答の一部割愛について

 三田さんの二男の逮捕に関連するわが社の報道について、12月13日に週刊金曜日編集部から質問状をいただき、さらに追加質問で、わが社が11月29日に配信した記事中の「(三田さんの二男が)保護観察処分が出た直後の同(1998年)2月、北米に渡航し大麻やLSDを使用したと供述」という記述について、根拠を明らかにしてほしいと回答を求められました。
 このため12月15日付の回答書で「今回の記事は、警察の正式な記者会見の席上での発表に従って報道したものです。警察の発表内容について三田事務所から『事実と違う』と指摘がありました。再度の確認にも警察は『報道のような供述があったことは事実』としていますが、引き続き取材をし、必要があれば記事にする考えです」と答えました。
 しかし、なぜか「週刊金曜日」はこの個所を割愛した上で「共同通信の記事は誤報」とした論文を掲載しています。
 論文の反論にあたるところだけを割愛したことに強く抗議します。

3 「(共同通信は)訂正はおろか事務所の見解も報じていない」との記述について

 週刊金曜日の記事は、共同通信の記事を誤報と断定した上で「(共同通信は)訂正はおろか事務所の見解も報じていない」と書いています。
 わが社は三田事務所側から、二男が親に話した内容について説明を受けましたので、その後、12月20日の初公判の記事中に「二男は、北米で大麻やLSDを使用したことはないし、そのような供述もしていないと言っている」という二男の反論を載せることを考えていると三田事務所側に伝えました。しかし、二男の父親から「単に『否定している』という記事を書いていただいても仕方ないし、それは望まない」との意向が示されたため送信を控えた経緯があります。

以上



 共同の山田計一氏らの言い分は、神奈川県県警の担当警察官が、共同が報道したような情報を「発表」したのは事実だから誤報ではないということに尽きる。一方で、二男の父親や三田事務所の小沢さんから聞いた二男の主張は「信じるべき理由も、現時点では明確ではない」と断定する。警察が「発表」したことは事実(真実)と信じるが、一市民の言うことは信じないという共同通信の「お上」依存体質が出ている。
 74年甲山事件、84年ロス疑惑、94年松本サリン事件と10年ごとに繰り返されてきたメディア報道の構造的な誤報・報道被害の実態について、社会部出身の山田氏、江畑編集局次長(元社会部長)らの認識が甘いのである。
 日本のメディアは、捜査当局の非公式情報に依存し、逮捕段階で被疑者を犯人視する一方で、犯罪被害者のプライバシーを暴く取材と報道のやり方を変えていない。後で無実と分かっても、「警察が疑っていたのは事実だ」と開き直り、反省もしない。本来ジャーナリストのペンは権力を監視し、不当な権力行使から市民を守るためにあるということを共同の幹部には勉強してほしい。
 共同の記者の中には、「浅野さんや辺見庸さんがいなくなって、今は何でも記事を送れというデスク、幹部がほとんどだ。書かないという選択はない」と嘆いている。

 神奈川県警の広報課と少年課の幹部は私の取材に、共同通信が11月29日に配信した「『北米でLSD・・・』の件で『記者会見』はしていない。複数の記者が少年課に来て取材したので、課長代理が応対して話しただけ。内容について軽々に大学教授にはコメントできない。すでに中原署で山崎課長代理(警視)が説明した。二男の保護者・弁護士が正式に質問を出すのであれば、また回答する」と述べている。
 また共同通信の社内でも、三田事務所の見解は即座にそのまま報道すべきだったのではないか」という声が上がっている。共同の本社社会部が三田事務所の見解を配信しなかったのは、どう考えてもおかしい。共同の記事を使った新聞社やテレビ局はその見解を報じている。
 高橋氏は共同の回答のようなことは言っていない。「共同が会社として誤報を調査して確認し、訂正し、謝罪すべきで、いま「言い分」だけを流してもだめだ。会社全体での真摯な謝罪が必要だ」と言ったもので、二男側の主張を報道しなくていいということではなかった。
 三田事務所の見解が出た段階で報道するのは当然のことで、共同の言い分は支離滅裂である。
 松尾編集長は以上のような私の見解も参考にして、1月17日に書面でこう返事をした。




共同通信社 総務局次長
 山田計一様
2001年1月17日(水)
『週刊金曜日』編集長
松尾信之

 前略
 1月10日付の貴社からの反論についてお答えいたします。
 
1 共同通信社の報道を「誤報」と断定した点について
 事実経過についての認識が本誌と貴社とでは異なっているようです。
 まず、貴社は「警察の正式な記者会見の席上での発表に従って報道した」と12月15日に表明していますが、神奈川県警の広報課と少年課の幹部は筆者浅野健一氏の取材に対して、貴社が11月29日に配信した「『北米でLSD・・・』の件で『記者会見』はしていない。複数の記者が少年課に来て取材したので、課長代理が応対して話しただけ。内容について軽々に大学教授にはコメントできない。すでに中原署で山崎課長代理(警視)が説明した。二男の保護者・弁護士が正式に質問を出すのであれば、また回答する」と述べています。
 また、12月初め、父親の高橋康夫氏は神奈川県警少年課の山崎警視と中原署で会って、捜査の概要を聞いた後、この共同通信記事について「神奈川県警は共同が報じたような内容を共同に話したか」と尋ねていますが、警部補から明確な返事はなかったと言明しています。神奈川県警広報課の大高氏も、「三田さんの二男の件では10月25日午後3時に工藤少年課長が発表しただけで、ほかに記者会見はしていない。正式な会見なら必ず広報課員が立ち会う」と言っており、神奈川県警少年課の黒木課長代理は「通常の記者会見ではない。何社かが一緒になって来る取材活動の中である程度答えた。その内容については山崎警視が父親に伝えている」と述べています。

 筆者が二男に面会した時点で二男が「共同通信の記事は間違いだ」と言ったことと、三田事務所が報道機関にあてたファクスだけでも貴社の配信記事が誤報と判断する根拠とはなると思いますが、それだけで判断したわけではなく、以上のことも記事執筆時点で確認しております。「発表内容が真実である可能性は高いとみて記事にすること」「二男の話を信じるべき理由も、現時点では明確ではありません」と言明されています。警察が発表した内容は真実性が高いとみなし、またたとえそれが真実でないとしても警察が発表したという事実があると主張されています。その一方で逮捕された側の市民らが主張することは簡単に確認できないとすることには、本誌としては疑問を感じます。

2 貴社の回答の一部割愛について
 筆者(浅野健一氏)の本文のなかでも貴社からいただいた回答と同様の趣旨のことを紹介しており、スペースの関係もあって割愛させていただきました。神奈川県警が正式な記者会見での発表ではないと断定したことも理由のひとつです。

3 「(共同通信は)訂正はおろか事務所の見解も報じていない」
  との記述について
「共同通信がまず、会社として誤報を調査して確認し、訂正し、謝罪すべきで、いまわれわれの『言い分』だけを流しても意味がない。会社全体での真摯な謝罪が必要だと共同通信には伝えたのであり、二男側の主張を報道しなくていいということではなかった」というのが高橋康夫氏の話です。「送信を控えた」とありますが、12月7日付の三田事務所の見解が出た段階でなぜ、報道するといったことを考えなかったのかも疑問が残るところです。共同通信配信記事を使った報道機関のほとんどは同見解を報じています。

 以上の理由から、編集部としては『週刊金曜日』への貴社の反論掲載は必要ないと考えております。ご意見なり、再反論がありましたらお待ちしています。
                            以上


 これに対して「社団法人共同通信社」からファクスで「あらためて報道の経緯を説明させていただきます」という前書きの文書が松尾編集長に送られてきた。




2000年2月2日

「週刊金曜日」松尾 信之編集長殿

社団法人共同通信社総務局次長 山田 計一

◎貴社の1月17日付回答書について

 1月17日付の貴社の回答書について、あらためて弊社側の反論をファクス送信させていただきます。

以上



2001年2月2日

「週刊金曜日」松尾 信之編集長殿

社団法人共同通信社

前略
 貴誌の「おかしいぞ『三田佳子報道』」に関する1月17日付の回答について、あらためて報道の経緯等を説明させていただきます。

 昨年11月29日、神奈川県警少年課が県警記者クラブに「覚せい剤取締法違反被疑者の逮捕について」とした広報文を配布したのを受け、クラブの約10社の記者が少年課の課長代理(警視)に広報文内容について質問しました。そのやりとりの中で課長代理が「高橋被告は平成10年、北米旅行した際、大麻やLSDを使用したと供述している」と明らかにしました。こうした、広報文を記者クラブ加盟各社に配布し、少年課で広報対応を担当する警視が約10社の記者を相手に質問に答えた状況を、弊社は「会見」と判断しています。1月10日付反論で「会見の席で警察の責任ある立場の担当者が報道各社の記者に発表した内容です」としているのは、そのような理由からです。
 弊社が配信した記事は、この席上で県警が公表した内容であることは、出席した各社の記者が聞いており、わが社以外にも記事にした社があることからも、揺るがない事実であることはお分かりいただけることと思います。

 また、貴社は回答の中で、誤報と断定した根拠について「筆者が二男に面会した時点で二男が『共同通信の記事は間違いだ』と言った」「三田事務所が報道機関にあてたファクス」の二点をあげています。
 このうち「三田事務所が報道機関にあてたファクス」は「当方は本人、並びに神奈川県警担当者に対し、慎重な事実確認を致しました。その結果、本人は警察の取り調べに対してその様な供述(北米旅行の際、大麻・LSDなどを使用した)を一切行っていないことが明らかになりました」というものです。貴社の17日付回答によると、その根拠は、両親や関係者の面会での高橋被告とのやり取りに加え「高橋康夫氏は神奈川県警少年課の山崎警視に『共同が報じたような内容を共同に話したのか』と尋ねたが、明確な返事はなかったと明言している」こととあります。しかし「明確な返事がなかった」ということが「本人は警察の取り調べに対してその様な供述を一切行っていないことが明らかになりました」という記述にならないことは明らかです。
 結局「誤報と断定した」根拠は、高橋被告が面会で両親や関係者に「共同通信の記事は間違いだ」と話したことだけだと考えざるを得ません。
 高橋被告やそのグループの逮捕、起訴など刑事手続きの節目の時点で県警が公表した事実関係や供述内容の多くが、その後、冒頭陳述などの形で明らかになり、被告側がその内容を認めていることを考慮すると、高橋被告が両親や関係者に話したことだけで、今回の警察の公表内容を「事実ではない」とする必然性はありません。

 以上、根拠もなく弊社の記事を誤報と断定し、反論掲載を拒否した貴社の17日付の回答は、認めることができません。

以上


 ここで、「社団法人共同通信社」は、共同の記事は「少年課で広報対応をする警視が約10社の記者を相手に質問に答えた」内容をもとに記事化したのであり、「週刊金曜日」の記事は被告の二男の話だけで書いていると主張している。警視が本当に共同が報道したようなことを伝えていたとしても、一方の当事者の言い分を聞かずに、警察の言うことだけを報道してどこが悪いのかという「社団法人共同通信社」はジャーナリズムではない。警察の広報通信社だ。
 山田計一氏は、私と同期入社(追加採用で72年5月に入社)で、学生時代は新左翼運動の活動家でNECをやめて共同に来たと思う。若いときはリベラルだったように記憶しているが、こういう文書を見ると情けなくなる。辺見庸氏は2000年11月の講演で、「メディア倫理を習った人間も、入社して五年もたてば会社人間に変わってしまう」と断言していたが、山田氏の転向を見るとそうだと思う。



 私は2001年3月5日、社団法人共同通信社総務局次長・山田計一さんに宛てて、以下のようなファクスを送った。
 《私は1972年から22年間、共同通信記者を務め、社会部、外信部、ジャカルタ支局に勤務した者で94年4月から同志社で教鞭をとっています。山田さんと同じ年度に入社です。
 1999年3月から10月まで、厚生省の公衆衛生審議会臓器移植専門委員会の委員(メディア論)を務め、医療の透明性の確保と患者のプライバシー保護について意見を表明しました。専門は「表現の自由と名誉・プライバシー」で、特に人権と報道に関心を持っており、刑事事件や事故の報道において「報道の自由」と「被疑者・被告人の公正な裁判を受ける権利」「被害者の名誉・プライバシー」などの人権をどう調整・両立させるべきかなどについて研究・教育しています。詳しい経歴や本は別紙をご覧下さい。
 今回ファクスを差し上げるのは、山田さんが、私が週刊金曜日に書いた記事について、「抗議」されていると聞いたからです。共同通信社から私には何の問い合わせもありません。しかし山田さんの電話と文書による「抗議」について、松尾編集長、山中編集長代理から詳しく聞いております。
 そこで事実関係について確認したく連絡しました。私はいつも、このように当事者に聞いてから公表します。共同通信の一部の方々は、「プライベートなことを浅野は勝手に書く」などと非難していますが、そういうことを言っている人には、事前に確認を求める文書を送っています。たとえば、本社社会部関係者3人が伊東寮で私に会社を辞めろと威嚇したことを書いたときには、その3人に数回手紙を送っています。お互いに家族連れでした。何の謝罪もないので、通告したうえで本などに書いたのです。
 以下のように私はまとめています。週刊金曜日には確認済みです。事実関係を正確に記録したいと思います。とくに山田さんの経歴のところは私の記憶違いかもしれませんのでご確認ください。どうぞご協力下さい。
 勝手なお願いですが、8日午前中までに返事をくださると幸いです。》
 
 この手紙の最後のところで、「後に、上記のような経過の記録を送った」と書いたように、共同からの抗議と週刊金曜日側の返事など、このHPに書いたような内容〈一部変更)をファクスで送った。

 山田総務局次長から私に何の返事もない。また、週刊金曜日にも何も言ってきていないという。(了)

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