2001年5月10日
NHKの報道倫理を問う
ジャカルタ支局爆弾漁法「やらせ」裁判中間報告
浅野健一
月刊「現代」(講談社)2000年10月号は、特別取材班による《NHKジャカルタ支局長が犯した「やらせ」報道が発覚!》と題してスクープ記事を載せた。私はこの「本誌特別取材班」の一員だ。
私は浅野ゼミ第6期生研究報告集 『DECENCY Volume6〜脳死移植報道とメディア〜』 で、「やらせ」の証拠写真を掲載している。
「現代」記事は、ジャカルタ支局のインドネシア人元助手らが、「NHKの坂本支局長が、97年8月24日、スラウェシ島マカッサル近くのバランロンポ島(記事ではバランルンポ島としたが、今後はバランロンポ島と表記する)で、国内法で厳しく禁止されている「爆弾漁法」の常習犯である漁師に、事前に現金を渡す約束をした上で、手製爆弾を2回海に投げさせ、海中で爆発した後、浮いてきた魚を獲るシーンを撮影した」と告発している、と報じたのだ。
坂本氏は現在、NHK報道局映像センター(映像取材)チーフカメラマン。NHKが2001年1月30日に提出した準備書面によると、坂本氏の当時の正式な肩書きは「バンコク支局ジャカルタ駐在」。
NHKと坂本元支局長は9月4日(発売日前日)、「虚偽の報道で名誉を傷つけられた」として講談社などを相手取り、総額1億2000万円の損害賠償と謝罪広告を求める損害賠償訴訟を東京地裁に起こした。
共同通信は《「NHKがやらせ」の報道 事実無根と講談社を提訴》という見出しで次のように書いた。
《NHK特派員が一九九七年、インドネシアで地元漁師に金を払って違法な「爆弾漁法」をさせる「やらせ報道」をしていた、との記事が五日発売の月刊誌「現代」に掲載されることが分かり、NHKと元特派員の職員が四日、発行元の講談社に計一億二千万円の損害賠償と謝罪広告を求める訴訟を東京地裁に起こした。
NHKは「記事の中身のような事実は一切ない」と全面否定している。
現代十月号は「『朝日サンゴ事件』より悪質 違法な爆弾漁法の強行 NHKジャカルタ支局長が犯した『やらせ』報道が発覚!」との見出しの記事を掲載。地元の漁師や取材に同行した当時の現地スタッフらの証言を基に、職員の実名を挙げて、NHK取材班が常習者に依頼して爆弾漁法をさせた、と報じている。
爆弾漁法は、火薬を詰めた瓶に火を付けて海に投げ込みショック死した魚を捕獲する漁法で、さんご礁の破壊などを理由に全面禁止されている。映像は九七年八月二十九日の「ニュース11」などで放映された。
NHK側は「現地に職員を派遣して調査したが『やらせ』の事実は一切ない。爆弾漁法は自然な形で撮影された」と話している。
現代編集部は「NHKがどの部分をどう問題にしているのか分からないが、記事の内容には絶対の自信を持っている」としている。》
「現代」が連続追及
NHKの提訴を受けて、「現代」11月号は、《大反響 連続追及 NHK海老沢勝二 会長への大反論 「やらせ」報道のさらなる証拠を提示する》《前代未聞の発売日前提訴 1億2000万円賠償請求を嗤う》というタイトルで、続報を書いた。
坂本元支局長の爆弾漁法やらせを告発した元助手とは、私の友人のインドネシア人ジャーナリスト、フランス・パダック・デモン氏だ。元助手という肩書きだが、NHKの取材と報道を取り仕切っていた。80年代後半から90年代にかけてジャカルタで仕事をした外国人記者なら誰もが知っている立派なジャーナリストである。坂本元支局長は1996年7月からジャカルタ支局長。フランス氏は支局長のやらせ取材に反対したことが大きな原因となり、97年10月末解雇され、ムルデカ編集長を経て「メトロTV」というニュース専門のテレビ局のシニア・ニュース・プロデューサーをしている。
問題の映像は97年8月29日の「ニュース11」などで放映された。「本紙特別取材班」による記事は、カメラ助手、ガイド役の大学研究員、爆弾を投げた漁師らの証言をもとに「やらせ」と断定した。爆弾漁法は、爆発物を海に投げ込み魚をショック死させて、ナポレオン・フィッシュ、ロブスターなど高価な水産物を大量に捕獲するやり方で、サンゴ礁などの自然を破壊する漁法だとして国際法でも十数年前から禁止されている。
NHKと元支局長は発売日前日に、損害賠償訴訟を東京地裁に起こした。NHKは提訴について記者発表をしている。まだ本屋に並んでいない段階での提訴は異例で、他のメディアへのけん制が狙いと思われる。NHKが名誉棄損で提訴したのは初めて。「現代」10月号で《「朝日サンゴ事件」より悪質》というサブタイトルを付けて、海老沢会長の責任を指摘したため、裁判に訴えたらしい。
NHKは記事によってNHKの信用が失墜し、坂本氏の名誉が毀損されたなどというのだが、まだ市民が誰も読んでいない段階で、NHKの社会的評価が下がったとどうして言えるのだろうか。これは調査報道を自ら否定するものだ。NHKは日本で唯一の公共放送として最も影響力のある報道機関である。言論には言論でまず対抗すべきだと思う。「現代」を読む人より、NHKの講談社提訴のニュースを見た人の方が断然多いだろう。NHKが1億円以上の損害賠償を求めるというのは全く不当である。
やらせをやった報道機関が、その事実を伝えた出版メディアを訴えたのだ。「NHKはすごいな」というのが多くのメディア関係者の感想だった。
NHKは提訴をその日の午後7時の全国ニュースで詳しく伝え、当時の取材でガイドを務めた元大学研究員(実際は研究所職員らしい)をテレビ画面に出して、「やらせ」ではないと証言させた。このニュースは何百万人の市民が見ているだろう。講談社に対する名誉棄損だ。
NHKのニュースで「やらせはなかった」と“証言”した元研究員は「週刊新潮」9月21日号で、「協力してくれた漁民に金を払ったのはあくまでも自分だが、彼らと交渉する2分程の間、坂本氏らは黙って見ていたから、私が実演を依頼していることは暗黙の了解だったはず」とコメントした。「実演」とは「やらせ」のことだ。また同誌の記事では、元助手も「私は、漁民が我々のために爆弾を投げてくれたことを証拠だてる未編集テープのコピーも持っています」と述べている。NHKは、この取材テープを公開すべきだろう。
またジャーナリストの坪内圭氏は「マスコミ市民」2000年10月号の「マスコミウオッチング」の9月5日の項で次のように書いている。《きょう発売の月刊『現代』10月号で、NHKが三年前に放送したインドネシアの爆弾漁法で違法にもかかわらず漁民に金を支払って撮影した「やらせ」があったとの記事が掲載された。問題は九分間のオリジナルビデオテープだが、NHK側はたまたま遭遇した場面を遠くから撮影しただけだと反論。記事掲載を見越して昨日、東京地裁に民事訴訟を提起。訂正・謝罪記事の掲載、謝罪広告、賠償一億二○○○万円を求めている。この件でNHK側は「金を支払わなければならないことを了承していたことはない」と記事の虚偽性を争っていく方針。先月末時点で同誌に対し、掲載前に間違った記事が掲載された場合には、法的な措置をとる強い覚悟を示していた。しかし、訴状には『現代』に掲載の記事に詳しく書かれたオリジナルテープの存在に全く触れていないのが気にかかる。》
「浅野がやっている」と恫喝
私がNHKの提訴を知ったのは、9月4日午後10時頃だった。友人の記者が8月30日から講師として乗船していた「ピース・ボート」まで電話をかけてくれた。この提訴を知って、NHKのゴーマンさを痛感した。NHKの滋野武理事と畠山博治広報局長は記事が出る9日も前の8月28日付文書で、それぞれ講談社の野間佐和子社長と中村勝行「現代」編集長に対し、「間違った記事が掲載された場合、NHKは直ちに法的措置をとる強い決意であることをあらかじめ申し上げておきます」という手紙を送付した。
私は「現代」が発行される前に、毎日新聞とあるブロック紙、さらに共同通信に情報を提供した。三人とも私の信頼する優秀な記者で、いわゆる「前打ち」の記事を書いてもらうために、8月18日ごろから伝えた。NHKは新聞社2社の取材に対しても、「現代」を訴えると通告したうえで、「『現代』記事をもとにして記事を書いたら、おたくも法的措置をとる」と脅している。
毎日新聞は9月4日朝刊に「現代」の記事をもとに記事を書いた。ムクシン氏やフランス氏らの電話インタビューや坂本氏が撮影した生ビデオテープのダビングからとった写真も入手するなどの独自取材も行ったブロック紙記者は、一面トップ用に記事を提稿したが、編集責任者が記事をボツにした。NHKが事実関係を完全否認し、「法的措置をとる」と表明したためだと思われる。共同通信社会部はいったんジャカルタ支局に取材を指示しておきながら、「浅野が絡んでいるらしいので、もういい」と、連絡したという。
NHK広報局は取材に訪れた毎日新聞記者には、「情報を提供したのは浅野だろう」などと言って恫喝した。ブロック紙記者には、「情報提供者は誰か」と繰り返し聞いたが、私の名前は出さなかった。
また、NHK幹部は新聞社の取材に対し、フランス氏の人格を中傷するような発言を繰り返している。このやらせを認めると海老沢会長の辞任にもつながるということで、民事で提訴して、他のメディアが報道しないように圧力をかけたわけだ。市民の受信料から印紙代五十数万円と弁護士費用(莫大な金額だと思われる)を出しているのだから、呆れる。
私はNHKの和歌山カレー事件や脳死移植報道を厳しく批判しており、NHK広報局は、浅野からの調査依頼や問い合わせには一切答えないよう指示していると思われる。広報担当者(特に米本信氏)は何度も「あなたには答えない」と断言した。
坂本氏の「証言」だけに依存
この民事裁判は東京地裁民事第四五部(631号法廷)で開かれており、口頭弁論はこれまでに4回開かれた。講談社側は準備書面の中で、私が特別取材班にかかわっていることを明らかにした。NHK側は、裁判長に促されていたのに、第2回の口頭弁論でも、準備書面を提出しなかった。1月30日午前の第3回口頭弁論で、やっと書面を出した。原告ら訴訟代理人の喜田村洋一弁護士(ミネルバ法律事務所)の書いたこの準備書面が、またひどい内容だ。フランス氏の「供述」をすべて「虚偽」と決めつけ、フランス氏が爆弾漁法の現場に坂本氏を連れていき、撮影するように促したというのだ。坂本氏自らがサンゴ礁保護活動について取材しようと考え始め、1997年6月から取材のための準備を開始したとも言う。また、坂本氏は、撮影した前夜と当日朝、やらせになってはいけないから、ガイドに渡した謝礼からお金が漁民に爆弾の材料費として渡ってはいけないと「ゆっくりと一語一語噛みしめるように話した」というのだ。通訳したフランス氏も坂本氏の考えを十分理解したという。8月24日にバランロンポ島を離れるときに偶然、撮影に成功したというのなら、翌日に爆弾漁法を撮影するということは全く決まっていないのに、なぜこんなことを言うのだろうか。NHKは、フランス氏が助手としての契約問題で有利な解決をはかるため、97年10月28日に突如「やらせ」問題を持ち出したと主張している。坂本氏は、フランス氏が言ったことや行ったことを、自分の言動のようにウソをついていると思われる。
第3回口頭弁論で裁判長は「坂本さんの陳述書とかはないのか」と聞いた。喜田村弁護士は「これだけだ。坂本氏から聞いて書いている」と答えた。裁判長は「坂本氏は原告なのだから、陳述書を出すべきだ」と命じ、喜田村弁護士が同意した。
3月27日に開かれた第4回口頭弁論で、坂本氏が陳述書を提出した。名誉を傷つけられたという坂本氏がいまごろになって陳述書を出してきたのは理解に苦しむ。NHKの出した書面とほぼ同じだが、ジャカルタの取材ではフランス氏に頼っていたと強調している。またムクシン氏からお金を要求されたと書いてあるが、実際にどれだけの額のお金をどういう名目で渡したかについての言及が全くない。NHKの準備書面も同じだ。ともかく、「現代」2000年10月号の取材や新聞二社の問い合わせにNHKと坂本氏が答えた内容とはかなり食い違っている。
裁判所は、フランス氏と坂本氏の両方を同時に呼んで尋問するとみられる。
次回は5月15日午前10時30分から、東京地裁631号法廷で行われる。傍聴を要請したい。
NHK代理人は「薬害エイズ」無罪の喜田村弁護士
NHKの代理人である喜田村弁護士(安倍英氏を一審無罪にした弁護団の一員、文藝春秋の代理人も務めている)は、ロス疑惑の三浦和義さんの冤罪を暴く裁判闘争で一緒に仕事をした。ロサンゼルス現地まで一緒に行って調査した。私は1月30日閉廷後、「これはフランス氏の名誉を毀損する書面だ。インドネシア人に対する侮辱、差別ではないか」と喜田村弁護士に訴えた。喜田村氏は何も答えなかった。
私は青弓社編集部編『プライバシーと出版・報道の自由』(2001年2月)の第一部「犯罪報道とプライバシーの保護」の第一章「少年法の精神と匿名報道主義』を書いたが、喜田村弁護士も第四章「出版による被害に対する救済」を書いている。
NHKのやらせはNHKが持っているはずの未編集の取材ビデオテープが証明してくれる。これはフランス氏たちインドネシアのジャーナリストにとっても、絶対に負けられない裁判だ。「現代用語の基礎知識」にも「訂正」要求
NHKは広報局長畠山博治氏の名前で2001年1月10日、株式会社自由国民社の「現代用語の基礎知識」編集長の一柳みどり氏宛てに、以下のような抗議文を送ってきた。一柳編集長の承諾を得て、公開する。《このたびお便りを差し上げましたのは、2001年1月1日貴社発行の「現代用語の基礎知識」2001年版(以下「基礎知識」と表記)の「NHKが爆弾業法でやらせ」との記事(P778)および用語索引(P115・2段目)について、申し上げるべきことがあるからです。
ご承知のように、この「基礎知識」の記事に引用されている月刊「現代」の記事について、NHKは、誤った記事によって公共放送としての信頼が傷つけられたとして、当時のジャカルタ駐在の特派員とともに、出版した講談社に対して、訂正・謝罪記事掲載等を求めて提訴しています。
この訴訟の中で講談社側は、「現代」の記事は、同志社大学教授浅野健一氏が「現代」編集部に取材の端緒をもたらし、「現代」編集部と共同して、記事の企画、取材、記事作成を担ったとしています。
一方、貴誌によりますと、当該「基礎知識」の記事も、浅野氏が執筆したとの事です。つまり、一方の当事者によって書かれた記事です。しかしながら、もう一方の当事者であるNHKは、「基礎知識」編集部および浅野氏から取材も受けておらず、反論の機会を与えられませんでした。「基礎知識」編集部は、浅野氏が上記のような関わりある事をご承知の上で、NHKへの取材もなく、記事の掲載を決定されたのでしょうか。
さらに、「基礎知識」の記事は、「NHKはこの取材テープを公開すべきだろう」と結ばれています。しかし上記訴訟で講談社側は、未編集のオリジナルテープをジャカルタの関係者が保管している事を浅野氏らが確認したとしています。浅野氏は講談社側弁護士に話した事と相反する事を「基礎知識」の記事に記述していると言わざるを得ません。「基礎知識」編集部は、この点について、ご確認の上、記事を掲載されたのでしょうか。
最後に、「NHKが爆弾漁法でやらせ」という断定した表現の見出しは、事実と違い、誤っています。P115・2段目・31行目の用語索引も同様です。
以上の点について、編集部としてのご見解および今後の対応について、ご回答を頂きたく存じ上げます。》この抗議文に対し、自由国民社「現代用語の基礎知識」編集部の一柳みどり氏は、1月11日、以下のような回答を行った。
《『現代用語の基礎知識』は、時事問題を扱う「事典」であり、ご指摘の「NHKが爆弾漁法でやらせ」の項目も2000年のジャーナリズム関連の出来事の一つとしてとりあげております。
執筆の浅野健一氏が「現代」の取材に関わったとのご指摘は存じませんでしたが、項目の内容を読む限りにおいては、事実の経過の表記になっている理解をしております。
また、『現代用語の基礎知識』は各ジャンルごとを担当の執筆者の文責でお願いをしておりますため、解説に執筆者の考えが反映されることは必然的なことであると考えます。》この回答に対し、NHKは2001年2月6日、再び広報局長畠山博治氏の名で「現代用語の基礎知識」編集長の一柳みどり氏に、以下のような「抗議文」を送ってきた。
《結論から申しますと、返信の内容には全く納得できません。
まず、貴殿は、本件記事を「事実の経過の表記」としています。しかし、本件記事は、一方の当事者である浅野氏の私見が綴られているにすぎません。一部にNHKが提訴したというくだりがありますが、NHKの主張をきちんと記述せず、提訴の時期をとらえて「他メディアへのけん制がねらい」として、NHKを攻撃する主張に利用しているだけです。「事実経過の表記」ならば、NHKが月刊現代の記事に反論し、講談社を相手取って提訴した事実を、きちんと取材して、読者に余談を与えない形で記載すべきです。
また「NHKはこの取材テープを公開すべきだろう」との主張については、上記訴訟における講談社側提出の準備書面では、未編集のオリジナルビデオテープをジャカルタの関係者が保管している事を浅野氏が確認したとしています。つまり、NHKに取材テープが存在していないことを浅野氏自身が確認したとしているわけです。本件記事の主張は、事実に裏付けられていないと言わざるを得ません。編集部として浅野氏に確認して、記事を訂正すべきです。
さらに、「2000年の出来事」は、「NHKが爆弾漁法でやらせをしたという記事が月刊現代に掲載され、これに対してNHKが事実無根であると反論し、提訴した」という事実です。」『NHKが爆弾漁法でやらせ』という一方的に断定した見出しは、事実として間違っており訂正すべきです。
以上のとおり、本件記事は「事典」の生命とも言うべき正確さを欠いています。
最後に、貴殿は「執筆者の文責でお願いをしておりますため、解説に執筆者の考えが反映される事は必然的なことである」と述べておられますが、私どもは、執筆者に、執筆者としての責任がある事は十分承知しており、その上で、編集部としての責任を問うているものです。出版社、編集者としての責任を放棄するかのような言い方は、到底納得できるものではないことを申し添えます。》「現代用語の基礎知識」の一柳みどり編集長は、この再要求書には返事をしていない。NHKから5月5日現在何も言ってきていない。
坂本氏は、取材生テープをフランス氏が持ち出したとNHK上層部に言っているのかもしれない。「現代」記事や講談社側の準備書面を見れば、フランス氏は取材生テープをダビングしたと何度も書いているのに、それを無視するように主張するのはいったいどういうことだろうか。
現在のNHKジャカルタ支局の田端祐一支局長らは、この未編集マザーテープをきちんと保管しておいてほしい。
NHK教育テレビ「問われる戦時性暴力」の番組改ざん問題
2001年1月30日に放映されたNHK教育テレビの番組ETV2001「シリーズ 戦争をどう裁くか」の第2回「問われる戦時性暴力」では、昨年12月に東京で行われた「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」が取り上げられたが、その制作過程において、NHK幹部による強力な現場介入がなされ、放映直前になって番組内容に重大な改変が行われた事実が明らかになっている。また、右翼団体がNHKに押しかけて番組改変を求めたのみならず、自民党の政治家がNHK幹部に圧力をかけたという疑惑まで報道された。
NHK側は、今回の番組改変のプロセスについて「編集権」を盾として、その内容を明らかにしようとしていない。しかし、それが通常の編集作業の枠を越えた改変であったことが分かってきた。NHK上層部による「異例の試写」を契機として放映直前の二日の間に驚くほど意図的で大幅な改変が行われたということ、そして、それが企画段階から制作に協力した出演者や取材協力者の了解に反する形で行われたのは確実だ。
NHKがなぜ第2回放送分を変更したのかの経緯をすべて開示すべきだ。「編集権」は受信料を支払っている「みなさま」の我々にある。
私は大学院の私の「国際報道論」のクラスで、この問題を取り上げている。坂本元支局長によるダイナマイト漁法やらせで、自分が批判されたらとてつもない高額の賠償金を求めて裁判を起こすのに、今回のETV2001問題のようにどうみても外部からの圧力で番組を変更したとしか思えない問題で、番組編成の自由を盾に、情報を閉ざすやり方に憤りを感じる。
私が世話人をしている人権と報道・連絡会でも西野瑠璃子氏にきてもらって取り上げた。
事実関係や見解についての詳細はWebページを参照してほしい。
http://www.jca.apc.org/~itagaki/nhk/index.html
(了)
Copyright (c) 2001, Prof.Asano Ken'ichi's Seminar Last updated 2001.05.17