2001年9月25日
NHKが2年ぶりに「回答」
やらせ問題では拒否浅野健一
1 「ニュース11」はやらせの証拠
NHKジャカルタ支局の爆弾漁法について、「週刊金曜日」9月21日号に「やらせをひた隠すNHK」と題して、以下のように書いた。(一部変更)これまでに書いたものとダブルところもあるが、そのまま掲載したい。
《インドネシアのダイナマイト漁法で爆弾を投げた漁師が、残っている爆弾をカメラの方へ見せた後、ポリタンク(燃料タンクにカモフラージュ)に収めるシーンがアップで写る。NHKが7月に裁判所に依頼されて提出した「ニュース11」(一九九七年八月二九日放送)のビデオの一コマだ。それまでBS1(同年九月六日放送)のビデオしか入手できていなかった。最近初めてこれを見て、NHKの坂本・前ジャカルタ支局長による爆弾漁法「やらせ」の決定的証拠になると確信した。
「やらせ」問題は、講談社発行の月刊「現代」二〇〇〇年一〇号で明らかになった。私は「本誌特別取材班」の一員である。
「やらせ」を告発しているのは、元NHKジャカルタ支局助手のフランス・デモン氏。私が共同通信特派員だったときに知り合い、九九年八月に東ティモールで再会した際、この「やらせ」のことを聞いた。フランス氏は九七年一〇月末、九年間勤めたNHKから解雇された。フランス氏は、坂本氏が現地で撮影したオリジナル・テープの一部を支局でダビングしたもの(以下、未編集テープという)を持っていると語った。
私は二○○○年八月初め、インドネシアで現地取材し、八分四八秒ある未編集テープを見ることができた。そこで明らかになった事実は次のようだった。
《坂本氏らは、九七年八月一八日から「サンゴを守れ」という特集の取材を行った。最終日の八月二四日に、スラウェシ島マカッサル沖で、現地ガイド役を務めた大学職員ウマル氏(仮名)は漁師に金銭を渡し、爆弾漁法を実演してくれるよう依頼し、そのうえで撮影を行った。ウマル氏と、爆弾を投げた漁師のブディ氏(仮名)ともに金銭の授受を認めている。》
NHKと坂本氏は「現代」の発売日前日の九月四日、講談社社長と「現代」編集長を相手取り、一億二〇〇〇万円の賠償などを請求する訴訟を東京地裁に起こした。雑誌がまだ販売もされていないのに、「社会的評価が下がった」というのだ。NHKが名誉棄損で訴えたのは初めて。
講談社側が七月に提出した未編集テープに対し、NHK側は準備書面で次のように述べた。
《オリジナルビデオ・テープは、当初、原告日本放送協会のジャカルタ事務所に保管されていたものであるが、現在所在不明である(本件記事が掲載された頃、捜索したが、発見できなかった)。》
フランス氏は九七年九月からNHK幹部に内部告発している。また、「現代」がNHKに取材を始めたのが二〇〇○年八月一八日だ。記事が出て、初めて「捜索」したというのはあまりにも不自然だ。
私は『現代用語の基礎知識』(自由国民社)二〇〇一年版の中で「NHKが爆弾漁法でやらせ」を書いた。私は記事の最後に、「NHKはこの取材テープを公開すべきだろう」と指摘していた。
これに対し、畠山博治NHK広報局長は『現代用語の基礎知識』編集長宛てに、今年一月一〇日と二月六日に、《編集部および浅野氏から取材も受けていないのに、「やらせ」について記述した》などという抗議文書を送ってきた。二回目の文書では《講談社側提出の準備書面では、未編集のオリジナルビデオテープをジャカルタの関係者が保管している事を浅野氏が確認したとしている。つまり、NHKに取材テープが存在していないことを浅野氏自身が確認したとしているわけです。》と書いていた。
NHK幹部はオリジナル・テープと未編集テープの違いさえ理解していなかったようだ。
また、私がNHKから取材・調査拒否を受けているのを、局長は知らなかったようだ。広報局の米本信副部長氏は九九年六月ごろから、私の取材に対して、「あなたには一切答えない。その理由は言えない」と電話で何回も断言している。和歌山毒カレー事件や脳死臓器移植報道に関する私の論評が気に入らなかったようだが、NHKが直接私にクレームをつけてきたことは一度もない。
最近、名誉棄損に高額賠償判決が相次いでいることについて、本件でNHK代理人を務める喜田村洋一弁護士は「公人への批判は本来自由であるはずで、公人は反論もできる」(八月二九日の毎日新聞)「政治家は気に入らない言論を封じるため、名誉棄損を武器に訴えてくる危険性がある」(九月八日の朝日新聞)と強調している。
NHKと前ジャカルタ支局長は公人中の公人だろう。NHKは提訴の日の「ニュース7」で「現代」記事を虚偽と決めつけた。NHKの海老沢会長は「気に入らない言論を封じるため、名誉棄損を武器に訴え」たのではないか。》
2 NHKへ質問書
私は『現代用語の基礎知識』2002年版の執筆のため、NHK広報局長の畠山博治氏に質問書をファクスと郵便で送った。そのやりとりを公表する。
(第1回質問書) 2001年8月26日
同志社大学文学部社会学科新聞学専攻教授
浅野健一
NHK広報局長 畠山博治様
ファクス03−3469−8110拝啓
残暑の候となりましたが、貴殿におかれましては益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
本日は突然のファクスで大変に失礼します。
私は1972年から22年間、共同通信記者を務め、社会部、外信部、ジャカルタ支局に勤務しました。94年4月から同志社で教鞭をとっています。専門は「表現の自由と名誉・プライバシー」です。NHKの総合テレビ、教育テレビに計5回ほど出演させていただいたほか、研修会などの講師も務めたことがあります。
私は東京にある市民団体、人権と報道・連絡会(連絡先:〒168-8691 東京杉並南郵便局私書箱23号、ファクス03ー3341ー9515)の世話人でもあります。詳しい経歴や著書は別紙をご覧下さい。私は四年前から『現代用語の基礎知識』(自由国民社、1998・99・2000・01年版)の「ジャーナリズム」を執筆しています。前任者は新井直之先生でした。2001年版でNHKジャカルタ支局やらせ問題を取り上げました。2002年度版でも、この問題を取り上げますので、いくつかの質問にお答えください。
NHKが講談社に1億2000万円などを要求している損害賠償訴訟事件で、2001年7月10日午後1時15分から、東京地裁631号法廷で行われました第6回口頭弁論で、私は長文の陳述書を提出しました。講談社側はこの口頭弁論で、フランス氏がNHKジャカルタ支局でオリジナル・テープから一部をダビングしたテープ(以下、未編集テープと表記する)を提出しました。これに対し、NHK側は準備書面で次のように釈明を求めました。
《オリジナルビデオ・テープは、当初、原告日本放送協会のジャカルタ事務所に保管されていたものであるが、現在所在不明である(本件記事が掲載された頃、捜索したが、発見できなかった)。
民事事件においても、強度の違法性を帯びた入手方法で取得された証拠については証拠能力が否定されるべきである。本件では、オリジナル・ビデオテープは盗取された可能性が高く、この場合にはオリジナル・ビデオテープあるいはそれを基に複写された複写ビデオテープを証拠として採用することには嫌疑がありうる。
したがって、この点を明らかにする必要があり、原告らは、被告らに対し、上記の諸点を釈明するよう求める。》「本件記事が掲載された頃、捜索したが、発見できなかった」と括弧にくくられている記述や、フランス氏の雇用問題、NHKの私に対する「取材拒否」などについてお尋ねします。
1 「本件記事が掲載された頃」というのは、2000年9月4日頃ということになりますが、正確にはいつでしょうか。
2 フランス氏が「やらせ」をNHK幹部に文書や口頭で内部告発したのは1997年9月です。その際にも未編集テープの存在にふれています。「現代」の浜野次長が取材を始めたのが2000年8月20日頃です。複数の新聞記者も同8月末に、この件で取材をしています。なぜ、2000年9月まで、未編集のマスター・テープを捜し、見ようとしなかったのでしょうか。「現代」記事が出て、初めて「捜索」したというのはあまりにも不自然です。
3 坂本元支局長は、オリジナルテープの所在を知らないのでしょうか。
4 NHKや坂本氏の主張によりますと、ダイナマイト爆弾漁法のシーンの撮影は1997年6月から準備していたものだということで、とても貴重な映像と思われます。NHKではこの種の取材マスターテープをどのくらいの期間保管するのですか。「本件記事が掲載された頃、捜索したが、発見できなかった」と書かれているので、普通は保存されるべきものという解釈でいいのでしょうか。
5 元支局雇員のフランス氏は、坂本氏のやらせ取材に反対したことが大きな原因となり、97年10月末解雇されています。解雇の直前に、解雇した坂本氏の「やらせ」の証拠を残すためにダビングしたのですが、最近NHKジャカルタ支局の代理人の弁護士であるLuhut Pangaribuan氏がフランス氏の代理人のジョンソン・パンジャイタン弁護士らに、雇用問題で具体的な金額を提示して、「法廷外の和解」を申し入れていると聞きました。NHKはフランス氏は自主的に辞めており、雇用問題は存在しないなどと主張していたようですが、その姿勢は変わったのでしょうか。
6 NHKは5月15日の第5回口頭弁論で裁判所から求められていたオンエアされているニュース番組2本のビデオを提出しました。私はNHK衛星第一放送(BS1)「アジア情報交差点の番組(1997年9月6日放送)しか見ていませんでしたので、NHK総合テレビ「ニュース11」(1997年8月29日)のビデオは初めて見ました。こちらの番組は、坂本支局長がナレーションを担当しており、BS1の番組とかなり構成と内容が違っています。爆弾漁法のシーンが最初にきており、爆弾を投げた漁師が、残っている爆弾を見せて、ポリタンク(燃料タンクをカモフラージュ)にしまうところのシーンがあります。ジョロロと呼ばれる爆弾漁法の船団の全景も写っています。これらはBS1にはありませんでした。
BS1の番組は総合テレビの8日後にオンエアされています。なぜ、内容が異なったのでしょうか。
7 私は94年に大学教員になってから、NHK報道局の報道について論評してきました。そのことによって、NHKは、 私からの調査依頼や取材に対して、「あなたには答えない。一切答えない。その理由も言えない」(広報局・米本信氏、1999年6月ごろなど数回)と断言しています。98年和歌山毒カレー事件や99年に第1例目が行われた脳死臓器移植報道に関する私の記述が問題になったようです。私は厚生省の臓器移植専門委員会委員を務めた経験をもとに、『脳死移植報道の迷走』(創出版)を出版しましたが、その中でも、NHKが私の取材に全く応じなかったことを明らかにしています。米本氏はNHK全体の決定で、私からの調査依頼や問い合わせには一切答えないことになっていると何回か明言しました。こうした事実はあるのですか。あるとすればどういう機関で、何を根拠に決定されたのでしょうか。
私のNHKに関する論評で、NHKが直接私にクレームをつけてきたことは一度もありません。以上が私の質問です。
NHKジャカルタ支局長の田端祐一さんにも、マスターテープのことと、フランス氏の雇用問題について国際電話でお聞きしましたが、すべて東京の方に尋ねてほしいということでしたので、貴殿にお聞きします。今回、貴殿に以上のようなファクスを差し上げたのは、『現代用語の基礎知識』2001年版の記述について、貴殿がNHK広報局長として、《『現代用語の基礎知識』編集部および浅野氏から取材も受けていないのに、「やらせ」について記述した》などと主張されていると知ったからです。私はNHKの米本氏から、「あなたの取材は一切受けない」と通告されており、実際、脳死報道、松本サリン事件、少年犯罪などで何度か取材や調査を申し入れましたが、無回答です。
『現代用語の基礎知識』の記述に関する貴殿のクレームも、私は直接は伺っていませんが、貴殿が、株式会社自由国民社の『現代用語の基礎知識』(2001年版)編集長の一柳みどり氏宛てに、二度にわたり、「NHKが爆弾漁法でやらせ」(P778)および用語索引(P115・2段目)について、内容証明郵便で苦情を申し立て、訂正を要求されたと聞いています。
最初の「抗議文」(2001年1月10日)、は次のような内容でした。
《このたびお便りを差し上げましたのは、2001年1月1日貴社発行の「現代用語の基礎知識」2001年版(以下「基礎知識」と表記)の「NHKが爆弾業法でやらせ」との記事(P778)および用語索引(P115・2段目)について、申し上げるべきことがあるからです。
ご承知のように、この「基礎知識」の記事に引用されている月刊「現代」の記事について、NHKは、誤った記事によって公共放送としての信頼が傷つけられたとして、当時のジャカルタ駐在の特派員とともに、出版した講談社に対して、訂正・謝罪記事掲載等を求めて提訴しています。
この訴訟の中で講談社側は、「現代」の記事は、同志社大学教授浅野健一氏が「現代」編集部に取材の端緒をもたらし、「現代」編集部と共同して、記事の企画、取材、記事作成を担ったとしています。
一方、貴誌によりますと、当該「基礎知識」の記事も、浅野氏が執筆したとの事です。つまり、一方の当事者によって書かれた記事です。しかしながら、もう一方の当事者であるNHKは、「基礎知識」編集部および浅野氏から取材も受けておらず、反論の機会を与えられませんでした。「基礎知識」編集部は、浅野氏が上記のような関わりある事をご承知の上で、NHKへの取材もなく、記事の掲載を決定されたのでしょうか。
さらに、「基礎知識」の記事は、「NHKはこの取材テープを公開すべきだろう」と結ばれています。しかし上記訴訟で講談社側は、未編集のオリジナルテープをジャカルタの関係者が保管している事を浅野氏らが確認したとしています。浅野氏は講談社側弁護士に話した事と相反する事を「基礎知識」の記事に記述していると言わざるを得ません。「基礎知識」編集部は、この点について、ご確認の上、記事を掲載されたのでしょうか。
最後に、「NHKが爆弾漁法でやらせ」という断定した表現の見出しは、事実と違い、誤っています。P115・2段目・31行目の用語索引も同様です。
以上の点について、編集部としてのご見解および今後の対応について、ご回答を頂きたく存じ上げます。》
この抗議文に対し、自由国民社「現代用語の基礎知識」編集部の一柳みどり氏は、1月11日、以下のような回答を行いました。
《『現代用語の基礎知識』は、時事問題を扱う「事典」であり、ご指摘の「NHKが爆弾漁法でやらせ」の項目も2000年のジャーナリズム関連の出来事の一つとしてとりあげております。
執筆の浅野健一氏が「現代」の取材に関わったとのご指摘は存じませんでしたが、項目の内容を読む限りにおいては、事実の経過の表記になっている理解をしております。
また、『現代用語の基礎知識』は各ジャンルごとを担当の執筆者の文責でお願いをしておりますため、解説に執筆者の考えが反映されることは必然的なことであると考えます。》
この回答に対し、NHKは2001年2月6日、再び広報局長畠山博治氏の名で「現代用語の基礎知識」編集長の一柳みどり氏に、以下のような手紙を送ってきました。
《結論から申しますと、返信の内容には全く納得できません。
まず、貴殿は、本件記事を「事実の経過の表記」としています。しかし、本件記事は、一方の当事者である浅野氏の私見が綴られているにすぎません。一部にNHKが提訴したというくだりがありますが、NHKの主張をきちんと記述せず、提訴の時期をとらえて「他メディアへのけん制がねらい」として、NHKを攻撃する主張に利用しているだけです。「事実経過の表記」ならば、NHKが月刊現代の記事に反論し、講談社を相手取って提訴した事実を、きちんと取材して、読者に余談を与えない形で記載すべきです。
また「NHKはこの取材テープを公開すべきだろう」との主張については、上記訴訟における講談社側提出の準備書面では、未編集のオリジナルビデオテープをジャカルタの関係者が保管している事を浅野氏が確認したとしています。つまり、NHKに取材テープが存在していないことを浅野氏自身が確認したとしているわけです。本件記事の主張は、事実に裏付けられていないと言わざるを得ません。編集部として浅野氏に確認して、記事を訂正すべきです。
さらに、「2000年の出来事」は、「NHKが爆弾漁法でやらせをしたという記事が月刊現代に掲載され、これに対してNHKが事実無根であると反論し、提訴した」という事実です。」『NHKが爆弾漁法でやらせ』という一方的に断定した見出しは、事実として間違っており訂正すべきです。
以上のとおり、本件記事は「事典」の生命とも言うべき正確さを欠いています。
最後に、貴殿は「執筆者の文責でお願いをしておりますため、解説に執筆者の考えが反映される事は必然的なことである」と述べておられますが、私どもは、執筆者に、執筆者としての責任がある事は十分承知しており、その上で、編集部としての責任を問うているものです。出版社、編集者としての責任を放棄するかのような言い方は、到底納得できるものではないことを申し添えます。》
「現代用語の基礎知識」の一柳編集長は、この再要求書には返事をしていないようです。NHKから私にも8月25日現在何も言ってきていません。
坂本氏は、取材生テープについて、貴殿にどう説明されているのか、ぜひ知りたいところです。「現代」記事や陳述書を読めば、フランス氏は取材生テープ(マスター)を支局でダビングしたと何度も書いています。フランス氏は取材生ビデオテープからダビングしたのであり、現物はジャカルタのタムリン通りのヌサンタラ・ビル27階にある支局に保管されているか、そこになければ坂本氏がその保管場所を知っているはずだと思います。
以上、長くなってしまいましたが、私の質問にぜひお答えください。
こちらからNHKの方にお伺いしてもいいですし、書面で回答いただいても、電話でも電子メールでも結構です。『現代用語の基礎知識』2002年版の締め切りの関係で、9月5日までにご返事ください。敬具
浅野健一(あさの・けんいち) 2001年8月25日現在のプロフィール(略)
畠山局長からは、期限の9月5日までに何の連絡もなかった。
そこで二度目の質問書をファクスで送った。
(2度目の質問書)
2001年9月10日
同志社大学文学部社会学科新聞学専攻教授
浅野健一NHK広報局長 畠山博治様
ファクス03−3469−8110前略
先日、8月26日にファクスと郵便で、質問書をお送りしました。9月5日までに回答をお願いしましたが、ご返事をいただいておりません。
自由国民社の「現代用語の基礎知識」2002年版(一柳みどり編集長)の校了が近づいています。
追加の質問です。
新語として、次の二つを入れます。
NHK「慰安婦」番組改変
「NHK教育テレビETV2001「シリーズ 戦争をどう裁くか」第二回「問われる戦時性暴力」(2001年1月30日放映)。日本軍慰安婦を取り上げた番組で、女性国際戦犯法廷を主催した「『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク」が、「事前の企画と大きく異なる番組を放映したのは信義則違反だ」と七月二四日に二○○○万円の損害賠償を求め提訴。同法廷の国際実行委員会も同日、放送と人権等権利に関する委員会(BRC)へ、正確に伝える番組や謝罪放送を求める申立書を提出した。NHKに訂正放送命令
NHK総合テレビ「生活ほっとモーニング」の「妻からの離縁状」(一九九六年六月八日放送)で、別れた夫の言い分だけを離婚の経緯として放映されたとして、元妻が損害賠償などを求めてNHKを提訴。二○○一年七月一八日、東京高裁は訂正放送と一三○万円の支払いを命じた。訂正放送を命じた判決は初めて。「元夫から元妻に反対取材すれば、出演を拒否すると言われたため、女性から取材をしなかった」と指摘した。
このほか、「プロジェクトX」「父と子 執念燃ゆ 大辞典」(二○○一年六月一九日)の番組では、広辞苑が完成する前に、その前身となる辞典があったことを無視していると出版社が抗議。同じ「プロジェクトX」「白神山地 マタギの森の総力戦」(二○○一年七月一○日)でも、取材に協力した青森県側の自然保護団体の元幹部らが七月二三日「事実を歪めている」と抗議するなどトラブルが相次いだ。
「『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク」の提訴の件で、NHKの見解をお知らせください。
訂正放送命令の件では、NHKは上告したのでしょうか。
以上の記述で誤りなどあればご指摘ください。
14日までにお答えください。草々
浅野健一様 平成13年9月14日
NHK広報局長
畠山博治
自由国民社「現代用語の基礎知識」2002年版について、貴殿から依頼のあった点についてお答えします。
1 『NHK「慰安婦」番組改変』
この事案は、提訴を受け、現在裁判係争中です。「番組改変」という断定的なタイトルは読者の誤解を招きかねないものです。
タイトルの変更を求めます。
2 「NHKに訂正放送命令」
7月31日に上告しました。8月26日付質問書について
裁判所に提出された陳述書やこの質問から、実質的な、執筆者は、貴殿であることは明白で、貴殿は本件訴訟の事実上の当事者です。
裁判の事実上の当事者である貴殿の質問にはお答えできません。
NHKから返事があったのは、2年3カ月ぶりだと思う。歓迎したい。研究者やジャーナリストの問い合わせに返事をするのは当たり前のことだが、その当然のことがこれまでなされてこなかった。
「NHK教育テレビETV2001「シリーズ 戦争をどう裁くか」第二回「問われる戦時性暴力」(2001年1月30日放映)は明らかに、オンエア直前に「改変」「改竄」されている。松井やよりさんらが起こした裁判で真相が究明されるはずだ。
私は既に何度も明らかにしているように、NHKは「現代」特別取材班の責任者である浜野次長らが取材した2000年8月18日の直後から、私が取材陣の一員であることを知り、8月下旬にNHKを取材した新聞記者らに「これは浅野氏がやっている」などと話している。また講談社は同年11月に出した準備書面で、私が現地取材を行ったことを明らかにしている。
畠山広報局長はその1カ月半後に、《『現代用語の基礎知識』編集部および浅野氏から取材も受けていないのに、「やらせ」について記述した》などと抗議している。 「実質的な執筆者」は私で、私が「本件訴訟の事実上の当事者」であるという認識は、2000年末には既にあったはずで、「裁判の事実上の当事者である」私の質問には答えられないというのは理解できない。ならば、『現代用語の基礎知識』の編集長にきつい言葉を並べて、「なぜ取材しないで書いたのか」と聞いたのか。
畠山局長は、NHKが訴えを起こした「現代」2000年10月号の「実質的な執筆者」が私と断定しているが、記事を書いたのは私だけではない。「現地取材」の中心を担ったが、記事を実質的に書いたのは「特別取材班」である。
「係争中だから答えない」というのは、報道機関の姿勢としてどうか。NHKはこの問題の論評を避けるために、裁判を起こしたと言わざるを得ない。
NHK代理人の喜田村洋一弁護士(ミネルバ法律事務所)の新聞での博識あるコメントを再引用したい。喜田村氏は八月二九日の毎日新聞では、《名誉棄損訴訟に詳しい喜田村洋一弁護士は「公人よりも私人を手厚く保護すべきだ。公人への批判は本来自由であるはずで、公人は反論もできる。本来は犯罪報道で誤って加害者にされるなどした一般の人に高額な金を補償すべきだ」と話す。》と引用されている。九月八日の朝日新聞は《日米の名誉棄損訴訟に詳しい喜田村洋一弁護士は「社会的地位も影響力もあり、反論もできる公人の賠償額をあまり高くすべきではない」と話す。特に、政治家は気に入らない言論を封じるため、名誉棄損を武器に訴えてくる危険があると指摘している。》と伝えている。
「公人」に対する取材、論評は自由であるべきだという喜田村洋一弁護士は、NHKを指導してほしい。
最後に言っておくが、私はNHKの受信契約者である。私が支払っている受信料が、この不当な裁判の印紙代、弁護士費用、インドネシアでの「調査」費用などに使われていることに強く抗議したい。NHKの予算は経営陣や職員の私物ではなく、「みなさん」のものだ。
Copyright (c) 2001, Prof.Asano Ken'ichi's Seminar Last updated 2001.09.26