2001年7月8日
東アジア諸国の「報道と権力」を討議
国際コミュニケーション学会に出席私は五月二十五日米国の首都ワシントンで開かれた国際コミュニケーション学会(ICA)研究発表大会のセミナー「東アジアにおける民主主義とメディア」に参加した。ICAは一九五○年に設立されたコミュニケーション分野では最大の学会で三四○○人が入会している。今年のICA大会は「コミュニケーション研究課題」を統一テーマに一八○○人が出席し、五日間の日程でインターネットとプライバシー、メディアと性、健康と情報など幅広いテーマで個人研究発表やセミナーなどが開かれた。
セミナーの司会は米国における中国メディア研究の権威であるチン・チュアン・リー米ミネソタ大学教授が務めた。発表者は、このセミナーを提案した韓国のユン・ヨン・チュル延世大学コミュニケーション芸術学部准教授、香港中文大学新聞放送学部の陳文教授、シモン・フレイザー大学(カナダ)ユエ・チャオ教授と私の四人だった。
ユン准教授は「韓国における民主化とニュースの多様性」と題して、八七年の廬泰愚政権発足による言論基本法廃止以来のメディア状況を報告。陳教授は「経済発展と報道の自由--香港とシンガポールの比較」を論じた。チャオ講師は「中国のメディア民主化はなぜ足踏みしているのか」という題で、天安門事件から十年経った中国の報道機関の現状を報告した。
私は「日本のラップドッグ(愛がん犬)・プレスと一党支配」という題で発表した。米国など先進国のジャーナリストは「権力のウオッチドッグ(番犬)たれ、決してラップドッグにはなるな」と教育され、権力に対して常に懐疑的姿勢をとることが常識になっている。しかし日本では官庁の一室を独占的に専有している「記者クラブ」に属するマスコミ記者は当局者と親しくなって情報をもらうことで競争している実態を紹介した。
例にあげたのは森喜朗前首相による「神の国」発言問題だった。昨年五月一二日に神道関係の集会で出たこの発言は、連立与党の公明党幹部が不快感を示して初めて大きな報道になった。また、五月二十六日にあった首相釈明記者会見の前日に、官邸記者クラブのメンバーが記者の質問を「どうはぐらかすか」についてアドバイスする文書を首相側に送っていた。ところが、この指南書を書いたとされるO記者(放送)は全国紙記者の実名をあげて、「○○さんの方が森首相にもっと近い」と釈明した。日本で表現(報道)の自由は保証されているが、メディアはその自由を十分に使っていないというのが私の結論だった。
ICA大会で、東アジアのメディア状況を討議したのは初めてだった。会場の研究者からは「各国のメディア構造を分析しすると同時に、国境を越えたジャーナリストの連帯と市民のネットワーク作りも重要だ。普遍的な価値を追求する国際的な連帯が国家主義的な流れを食い止めると思う」(韓国人)「日本は単一民族で均質性の国と言われてきたが、メディアが先頭に立って、文化の多様性を取り入れることでダイナミズムを取り戻すべきではないか」(中国人)などの貴重な意見が表明された。
私は「欧州では表現の自由などについて、国家を越えて判断している。水準の高い国に合わせていくという努力がなされている。東アジア地域全体でもそうありたい」と答えた。
ユン准教授は「権力に厳しい姿勢を持つハンギョレ新聞が、金大中大統領政権になってからは政権批判を控え、逆に保守的とされてきた朝鮮日報がいちばん厳しいなど、メディア状況は複雑だ。また韓国にも記者クラブ制度があるが、これは日本の植民地時代のなごりで、ジャーナリズムの改革を阻害している」と話した。
リー教授は、「メディア市場と国家の関係は各国の政治的、歴史的事情があり複雑で、各国における分析が必要だ。そのうえで、日本と韓国にある記者クラブ制度の比較研究、台湾と韓国における国家のメディア政策など共通する問題での比較調査研究が望まれる」と討論を締めくくった。
次のICA大会は来年七月一五日からソウルで開催される。
Copyright (c) 2001, Prof.Asano Ken'ichi's Seminar Last updated 2001.07.08