山形大学学寮問題とマスメディア
山形新聞・朝日新聞に「訂正」させた山形大

浅野健一 2001年2月16日
 


 山形市平清水にある国立山形大学学寮で、寮の自治をめぐる闘争が続いているが、山形地方裁判所は二○○一年二月六日、山形大学当局が二○○○年一一月九日に申請していた寮の明け渡しを求める仮処分を認める決定を下した。二週間以内に執行される。社民党国会議員団が二月一四日に現地に入り、大学と学寮に調停案を示したが、大学側が拒否した。国立大学学寮の自治をめぐる闘争は大詰めを迎えた。
 一方、学生四人が不当逮捕された問題で、学寮自治会と寮に住む学生一三人と元寮生一人の計十四人は二○○○年一一月二八日、国(山形大学)を相手取って総額三四○万円を求める国家賠償請求訴訟を山形地裁に起こした。自治会は、大学が警察に対して虚偽の告発を行たっため、何の罪もない四人が逮捕され、著しく名誉を毀損されたと主張している。
 山形大学の学寮では、九八年から学寮内で学生の自治会活動をスパイしていた清掃員の大学臨時職員(六二歳)の行為について、今年三月に学生が動かぬ証拠を突きつけて、職員から「大学から自治会の情報を集めるよう指示されていた」という供述を引き出した。ところが大学側は、職員を監禁し、辞職を強要したとして、警察に告発した。警察は告発に基づき、学寮を捜索し、寮生四人を逮捕した。山形地検は「学生たちには、臨時職員が情報集めをしていると疑うだけの理由があった」(読売新聞)として、四人を不起訴にした。
 加藤静吾学生部長ら当局は、四人は起訴猶予処分で、犯罪事実はあったと断定して、四人を犯罪者扱いする文書を配付している。
 代理人の舟木友比古弁護士は「訴状を見ていないのでコメントできない」と言わせないため、地裁で受理された直後に、山形大学庶務課の係官に受理済みの訴状の写しを手渡した。ところが、加藤部長は「自治会から大学に提出された訴状の写しは一部変更の可能性があると、職員が持ってきた学生から聞いている。このため、見解は述べられない」(一一月二九日の朝日新聞)と述べている。
 学生たちは地裁へ提訴する前に、学生部を訪れ、スパイ事件の真相解明をすすめるなら提訴を取り下げることもできるなどと表明した声明文を係官に提出しようとした。しかし、学生サービス課の職員は「加藤部長から、学寮自治会の文書は一切受け取るなと命じられている」と受け取りを拒否した。
 学生側は訴状のコピーを提出していないし、提訴の内容に一部変更の可能性があるなどとは一切言っていない。加藤部長はまたも事実を捏造した。
 三月以来、学内で学寮問題に関する「告知文」をばらまいてきた加藤部長は、明け渡し仮処分申請について「広報」を一切行っていない。
 国賠裁判では、臨時職員にスパイ活動を依頼したとみられる宮本嘉巳・前学生部長や加藤部長ら当局者がが証人尋問される。
 このHPでは、九八年から学寮内で学生の自治会活動をスパイしていた大学臨時職員を追及した学生四人が、逆に監禁と強要の疑いで逮捕された問題について書いた。その中で、四人の学生は不起訴処分となったが、六月一六日に加藤学生部長が出した「学寮問題の経過について(お知らせ)」は、山形地検の説明をもとに犯罪事実はあったと断定して、四人を犯罪者扱いしていることを問題にした。
 山形地検は、学生四人から、不起訴処分の経緯について説明した理由を聞かれたのに対し、「理由は刑訴法二六〇及び二六一条に基づいて、告発人に告知する必要があるから」と答えている。大学の告発があったために強制捜査が行われ、四人は二二日間も拘禁されたのである。
 逮捕された四人のうちAさんは、「監禁」事件での取り調べは一切なく、「寮を出る」という事を約束しろと迫られただけだ。Bさんはの場合は、取り調べも多少あったが、「謝れ」と再三言われた、という。C、Dさんには取り調べもそれなりにあったが、「寮を出ろ」という事をかなり言わ た。四人とも「寮を出ろ」 とか「寮運動を止めろ」とか再三言われ脅された。
 また、五月一六日に処分保留で釈放された際に、Dさんが担当の竹中検事から「今後大学と問題を起こ したら、当然処分に影響するという事を覚えておくように」と言われたという。
 警察・検察の逮捕の主要な目的は、学寮の自治運動の破壊にあったことは間違いない。
 学寮問題を詳しく報道してきた「さくらんぼテレビ」(FNN系)の対馬孝之キャスターは、二○○○年四月二五日の四人逮捕を伝える中でこうコメントした。《この問題、そもそも寮生と大学の言い分がかみ合っていません。そして今回の逮捕劇についても大学と警察の間に食い違いが見られます。加藤学生部長は「これは大学内で起こったことで、そのことに対して警察の判断で入った強制捜査で、大学は『今こういう状態で、入ってくれ』と要請したのではない」ということです。
 (山形署の外観「山形署 先月18日大学側から相談を受けたため事実関係を捜査した。」と字幕)一方山形署は、先月18日大学の相談を受けたため事実関係を捜査したとしていて、大学と見解が食い違っています。》
 こうした報道を他のメディアはほとんどしていない。地元山形の報道機関はどう報道したかを検証したい。
▼不起訴処分
 山形地検は二○○○年六月五日、四人を不起訴処分にすると発表した。六月六日付の各紙が不起訴になった理由をどう報道したか見てみよう。
 読売新聞は「山大寮監禁学生4人起訴猶予」の見出しで次のように報じた。
 《起訴猶予の理由について、山形地検の圓山慶二・次席検事は五日、「学生側が撮影したビデオや実行チャートが書かれたメモなど、新たな証拠を検討したが、脅迫や監禁がそれほど悪質な行為ではなかったと判断した」などとした。》
 毎日新聞は、「山形大学寮監禁で4人を起訴猶予」との見出しで次のように報じた。
 《理由について地検は@監禁、強要の事実は認められるが、清掃員の男性は実際に学寮生の作ったチラシを持ち出すなどの行為があり、不当とはいえ学寮生側の動機にもくむべき理由がある。A清掃員を取り囲んだ際も、特段悪らつな文言を用いていないーなどとしている。》
 朝日新聞は「4学生を不起訴処分 山形大学寮事件」という見出しで、地検が「学生四人全員を不起訴処分(起訴猶予)」としたと報じた。この記事の中で、次のように書いている。
 《圓山慶二次席検事は容疑事実はあったとした上で、「学寮の元清掃職員の男性がチラシなどを持ち去るなどして不法に情報を入手していたということが、寮生の撮ったビデオテープなどから確認できた。このことが犯行の動機となった点では学生にくむべき部分もある。また、ビデオテープの中で、四人はこの男性にあくらつな言葉を使っていない」と、起訴猶予の理由を説明した。
 起訴猶予となったことについて、逮捕された学生たちは「事実上、無実が証明されたと思う」として、大学側に真相究明と、学寮自治会と話し合う場を設けるよう求めていくという。》
 また山形新聞は「釈放の寮生ら起訴猶予処分」という見出しで、《処分理由について圓山慶二次席検事は、(学生が主張する)職員による資料の持ち出しは事実で、職員の行為を不当と考えてもおかしくないとし、「職員を取り囲む様子を録画したビデオを見たが、強要に当たるとはとは言い切れない」と説明した。》
▼新聞社に「訂正」迫る
 翌七日の山形新聞は、「学寮生への対応 学長、態度を保留 山形大学」との見出しで次のように報じた。
 《山形市平清水の山形大学寮で、大学臨時職員の男性(六二)を監禁し、誓約書への署名を強要したとして逮捕された学生四人が起訴猶予になったことを受け、同大の成沢郁男学長は、六日、「詳しい報告を受けておらず、学生の処分と(学寮の明け渡しを求める仮処分申請など)今後の対応についてはコメントできない」と述べた。同日開かれた山形大運営諮問会議終了後の記者会見で、質問に答えた。
 起訴猶予になった学生の処分の有無、寮に居座る寮生への対応について質問された成沢学長は「学生部長から報告を受けてから考えなくてはならない問題だ」として即答を避けた。》
 この記事の横に、こんな訂正記事が載った。
《【訂正】6日付朝刊の「釈放の寮生ら起訴猶予処分」の記事中、一部に不適切な記述がありました。「処分理由について・・・」の段落を「処分理由について圓山慶二次席検事は、強要などの容疑事実を認定した上で、『大学臨時職員がチラシを持ち去るなどしたことを、学生が不当な情報収集と思った点に酌むべき事情がある。職員を取り囲んだ際、学生は悪らつな脅迫の言葉は使っていなかった』などと説明した」と訂正し、おわびします。》
 山形新聞報道部の寒河江努副部長は六月三○日、私の取材に対し、《山形大学から、「検察庁から我々が聞いた内容と記事が食い違っているのはなぜか」と、また山形地検から、「記事の中のコメントが不正確だ」という連絡があった。そこで、担当記者にも確かめ、訂正記事を出した。この程度のことで、訂正というのは、確かに不自然な気もする。ただ、記事内容に少しでも不正確な点があれば積極的に訂正記事を出していこうという流れにある》と説明した。
 また、朝日新聞は七日、《大学側「事件は遺憾」 地検「学生にもくむ点ある」》との見出しで次のように報じた。前日の記事を修正しているが、その理由は説明していない。
 《この四人を不起訴処分としたことについて、山形大学の加藤静吾学生部長は六日、「地検からみて、容疑事実はあったとされる事件があったのは遺憾だが、起訴が猶予され、学生に反省の機会が与えられた」と話した。
 山形地検の圓山慶二次席検事は、五日学生四人に容疑事実はあるとした上で、@学生側が、元清掃職員が不当に情報を入手していたと判断して、行動に出たことに対し、地検もこのビデオテープを見て学生側にもくむべき点があると判断したA元清掃職員を取り囲んで話をしていたときに、学生は特段悪らつな文言を使っていなかったB前途がある若年で、前科がない、などと起訴猶予処分の理由を説明している。》
 加藤学生部長は六日の山形新聞と朝日新聞の記事の中に、地検が臨時職員の行動を「不当」「不法」と判断したと報じていることを問題視した。部長自らが六日午後、地検を訪れ、応対した村上満男・三席検事に対し、両紙に報道されたような発表をしたのかについて聞いた。その上で、両紙に地検から聞いたことと記事内容は食い違っていると通告したのだ。
 大学側は起訴猶予が、決して無罪放免を意味するものではなく、容疑事実は存在したのだと主張したかった。従って、朝日や山形新聞の報道で、地検が臨時職員の行為を「不法」「不当」と認定したといいう報道はをされては困るのだ。そこで、「職員を取り囲む様子を録画したビデオを見たが、強要に当たるとはとは言い切れない」という記述を削除し、「強要などの容疑事実を認定した上で」を挿入するよう要請したのだろう。
 検察は不起訴処分を決める際、起訴猶予、嫌疑不十分、嫌疑なしの三種類に分けて発表する。起訴猶予は、違法だが猶予するという意味で、シロではないと強調する。しかし、違法かどうかを決めるのは裁判所であって、検察ではない。起訴猶予という処分理由は犯罪事実があったということなら、起訴してもらい裁判を受けて無罪を確定しないかぎり、無実を証明できなくなる。
 地検が「容疑事実を認定した」などと公表したことは、四人に対するプライバシーの侵害、名誉棄損に当たる疑いがある。
 地検は当事者の学生四人が七月二八日に地検に出向き、質問書を提出した際に、担当検事に会うまで不起訴になった理由を説明していなかった。その際の説明も、不起訴の理由が起訴猶予で、起訴猶予の主な理由は「学生で将来があるから」としか述べていない。学生たちは「これだけでは、説明として全く不十分であり、私たちとしては全然納得いかない」と言っている。
▼不起訴の学生を犯人呼ばわり
 大学当局は六月七日付けの「学寮における監禁・強要事件に係る山形地方検察庁の処分及び関連報道について(お知らせ)」(学生部長名)において、次のように書いている。
 《1.平成12年3月17日(金)に学寮生によって引き起こされた監禁・強要事件については、平成12年6月5日(月)に山形地方検察庁の処分が発表されました。その内容は、概ね次のような趣旨のものでした。
 @被疑者4名は、学寮で勤務する大学職員が学寮内で情報収集をしていると邪推し、追及して謝罪させようと企て、共謀の上、他の寮生多数とともに「大学のスパイだろ。謝罪しろ。辞職しろ。」といったことを口々に言って畏怖させ、ラウンジに連行した上、同人を取り囲み、数時間にわたり脱出できないよう不法に監禁した。
 Aさらに、情報収集していたことを謝罪し辞職する旨の誓約書に署名・捺印するよう求め、これに応じなければ身体等に危害を加えかねない気勢を示して畏怖させ、署名・捺印を行わせた。
 B以上のことから監禁罪及び強要罪の容疑に該当する事実は認められるが、チラシ等を持ち出す等の大学職員の行動を、学生が不当な情報収集と思い込んだ点に酌むべき事情があることや、学寮生が撮影したビデオによればラウンジ内ではさほど脅迫的な言葉を使っていない点、さらには過去に刑事処分を受けたことがなく、将来のある学生であること等を考慮し、起訴猶予処分とした。
 山形地方検察庁の発表内容は以上のようなものでありましたが、大学職員に対する監禁罪及び強要罪の容疑に該当する事実があるとされる事件が起こったことは誠に遺憾であり、これに加担した学生には猛省を求めるものであります。また、学生という身分であることや将来を考慮して起訴猶予とされたことは、学生に反省の機会が与えられたという意味で穏当な処分であったと考えます。
2.6月6日付けの新聞各紙に関連記事が掲載されましたが、その一部には、山形地方検察庁から発表された内容と異なり、「職員の行動を不当と考えてもおかしくない」とか、「職員が不法に情報を入手していた」とか、「強要に当たるとは言い切れない」といったものがあり、皆様に誤解を生じさせるおそれがありましたので、山形地方検察庁に内容を確認の上、不正確な記事を掲載した新聞社に対し訂正を求めた結果、本日付けで訂正等の記事が掲載されております。
 今回の事件については、様々な憶測が流れ、皆様にはご心配をお掛けしておりますが、今後とも学寮居住者が不法な行為を行った場合は毅然と対応していきますので、皆様のご理解と御協力をお願いします。》 加藤学生部長はここで「山形地方検察庁に内容を確認の上、不正確な記事を 掲載した新聞社に対し訂正を求めた結果、本日付けで訂正等の記事が掲載されております」と、はっきりと記事の訂正を求めたことを明らかにしている。部長は私の取材に対し、「一部」の新聞社とは、山形新聞と朝日新聞だと明言した。
 加藤学生部長は六月一六日付の「お知らせ」でも、起訴猶予に関する見解として、「本事件の捜査の結果、逮捕学生に監禁罪及び強要罪の容疑事実が認定された」と述べている。さらに、「起訴猶予」に関する新聞報道として、「6月6日付け新聞各紙の報道では、その内容に食い違いが見られましたが、6月7日付けの朝刊で、食い違いの大きい新聞社が記事内容を修正したため、各紙の報道内容は大学が地方検察庁で受けた説明と大筋で一致しています」と指摘している。六月七日の文書とほぼ同じだ。
 大学が検察が明らかにしたことをそのまま公表していいのだろうか。検察は不起訴の理由をこのような形で開示していいのだろうか。学生の弁護人は、「刑事訴訟法に違反している」と批判している。
 「お知らせ」は、「本事件に対する大学の見解」としてこう主張する。  
 《この事件は、「交渉打ち切り」、「新規格寮への改修」の評議会決定、更に目前に迫った退寮処分等で行き詰まった学寮居住者が、「窃盗・諜報」によって争点をそらすために仕掛けたものです。臨時職員は学寮居住者が計画的に仕掛けた罠にはめられ、不本意ながら文書に署名・捺印せざるを得ない状態に陥れられるとともに、その場面をテレビで放映され、人件を著しく侵害されました。》
 逮捕された学生は裁判を受けることもなかった。四人は実名を報道され、退避された事実が実家に知られてしまったり、犯罪を犯したかのように思われるなどの報道被害を受けているが、臨時職員は、逮捕されていないとう理由で、一切実名や年齢も報道されていない。不公平だと思う。
 六月五日に圓山次席検事の会見を取材した朝日新聞記者は、電話で寮生にコメントを求めた。山形地検の処分決定と会見での説明の内容を伝えてコメントをとった。この記者は取材の中で、「(地検が)犯罪事実はあったと言っているのだから、無実だというのはどうか。事実上無実が証明されたということなら・・・」などと述べたという。朝日新聞には「事実上、無実が証明されたと思う」という学生のコメントが載った。
 朝日新聞は四人が勾留中の五月二日、「事前に計画?書類押収 山形大学寮の監禁強要事件」いう四段見出しの記事を書いている。警察が押収した書類から「元職員の資料持ち出し現場を撮影し、事実関係を認めさせることを事前に計画していたことが分かった」というのだ。「(自治会は)虚偽の内容の資料をつくってそれをラウンジに置き去りにしたと、県警は見ている」とも書いている。「県警警備一課と山形署」のリーク情報と思われる。
 不起訴になった学生たちは「不起訴処分になった以上、逮捕された学生は無実以外の何ものでもない。不起訴処分が出た後に、あれこれと『犯罪者』扱いしても、その言葉には何の意味も効力もないはずだ。むしろ、不起訴処分が出たのにもかかわらず、『犯罪者』扱いするのは司法・裁判制度を否定する暴挙である。そして今回の場合は、検察や大学当局が、我々を犯人扱いしているという意味において、第二の権力犯罪であると言える」と述べている。
 私は、学生たちの法感覚のほうが及第点で、加藤学生部長らの見解は、民主国家では落第点になるのは間違いないだろうと思う。
 ▼二紙には抗議したと学生部長
 加藤学生部長は六月三○日、私の取材に対し、新聞社に対する抗議と訂正要求について次のように説明している。
《不起訴を伝える新聞報道の一部に「不正確」な記事があったのは、山形新聞と朝日新聞の二紙だ。どちらも、見ていただくとわかるが、臨時職員のことを不当であるという表現が入っている。検察から不法とか不当とかという言葉が出たような報道だから、検察はそういう言い方をしたのかと、私も含めて何人かで、検察に行って確認した。六日の報道を見て午後だ。対応したのは三席検事の村上検事らだ。その人たちの見解として、臨時職員が不法とか不当とかという表現をしたのかと言ったら、そうでないということなので、じゃあ、でもそのように記事になっているから、この記事は正しいのかと。
 村上さんは、そのような言い方してないと。(三席は)口頭で言って、メモを取ってきた。
(記者に発表した圓山次席検事には)会っていない。
 別の新聞では、不法とか不当というのは、寮生の不当な行為とか、寮生のなんとかという言葉はあったかもしれないが。寮生が不当な行為をしたとかという。だから、検察の言い分として、不当な行為をしたのは臨時職員なのか、寮生なのかという件に関して、今の二紙は臨時職員が不当であるというふうな受け取り方をされるような表現をした。六紙ほど報道されているが、そのことについて二紙に抗議した。
 一つのことがこんなに違って、同じ発表に対してこんなに違う。全然トーンが違う。それで正しい表現は村上三席のところで、確認してきた。村上氏は、書面を読みながら。(六月一六日「お知らせ」の検察の大学への説明内容の)ここの部分は原文にかなり近いものだ。発表文そのものじゃなくて、もちろん読み上げたのを書き取っている。私一人ではなくて複数だったが、それをつないでまとめたものだ。その中で、寮生の行動は臨時職員の行動を怪しいと思って、そのように疑うような原因を臨時職員が作った、だから寮生の動機にもくむべきものがあるという、くむべきものがあるというような表現だったと思う。臨時職員自身が不法行為をしたという言い方をしていない。検察の方に聞いたら、臨時職員は窃盗に当たるのかというと、それは窃盗に当たらないとはっきり言っている。
 (両新聞社には)行っていない。どっちも電話で。(相手は)記者だ。その担当の記者の方が、この記事を書いた方ということで。代わってもらって。
 山形新聞は、ただ検察の村上さんのところに行ったら、そのときにもう村上さん自身が、明日の朝、山形新聞が訂正を出すと言っていた。この記事を見て、午後に村上さんのところに行ったときには、すでに村上さんは、山形新聞には連絡済みと。
 検察から見て、山形新聞の記事が間違っているということで、明日訂正文を出すということをその場で聞いた。(地検は)朝日には電話されなかったそうだ。それで私は朝日には電話をした。山新にも、電話はしたが、もうすでにそうなっているという返事だけだった。
 山形新聞は訂正ですね。朝日は訂正とは書いてないけども。朝日はもとの繰り返し。ちょっと繰り返して。》
 加藤部長らは、六月五日に記者発表した圓山次席検事に会わず、しかも発表を聞いた記者からの確認作業を十分にせずに、三席検事の口頭説明だけを根拠に、「六月五日の検察の発表内容」を確定し、二紙に抗議し、結果的に訂正までさせている。学生部長の電話や検察の指摘で、その日のうちに訂正、修正記事を出した新聞社も情けないが、「検察がこう言っている」と抗議した加藤部長らの行為はジャーナリズム活動に対する、不当な介入と私は考える。
▼学生たちが新聞社、地検に質問書
 学寮の四人は報道された当事者として、山形新聞と朝日新聞の不自然な「訂正」の経緯を究明するため、七月二八日、新聞各社(山形新聞、朝日、毎日、読売、河北新報)と山形地検に出向き、直接、質問書を提出した。八月五日を回答期限とした。
 各新聞社への質問書では、圓山慶二次席検事がどうのような形で情報提供したのかを尋ね、また加藤学生部長が六月一六日の「お知らせ」で公表している地検の説明内容と記者への発表内容の差異について質問。さらに、逮捕段階で実名、年齢などを報道したことについて、「人権に対する配慮が欠けていると言わざるを得ない」と主張した。
 四人は山形新聞に対する質問書で、《無罪と推定されるべき我々4名について、貴社は、我々4名に取材を行うことなく、山形地方検察庁の発表をそのまま報道している」「過去に我々4名の実名を報道した事実があり、その上で訂正記事において、無罪とされるべき我々4名を、あたかも犯罪行為を行ったかのように書いたことは、新聞倫理綱領にある、「正確で公正な記事と責任ある論評」に明らかに反するものであると同時に、我々に対する甚だしい人権侵害、名誉棄損である。》と述べた。
 八月五日付の山形新聞社の回答(柴田隆編集局次長)は次のようだった。《記事に書いた以上のことは答えることはできない。取材の内容についてであり答えることはできない。推定無罪の問題と本件報道は関係がない。犯罪報道の実名については公益上の理由があり、名誉棄損には当たらない。本件の犯罪報道については新聞倫理綱領上も問題はない。「あたかも〜」以下は見解の相違と考える。当方の報道については何も問題はないと考える。》
 学寮の学生三人は八月一〇日午前、約三〇分柴田編集局次長らと話し合った。学生たちによると、「実名報道については『公益上の理由で』としているが、実名報道によってどんな公益が発生するのか」と聞いたところ、「刑法に書いてある。自分で勉強して下さい。回答文以上は答えることが出来ない」「推定無罪と実名報道は無関係である。容疑者、疑いとつけているため名誉毀損には当たらない。実名報道は、知る権利という公益を考え、原則としているものだ。公共機関の発表した事実は真実と考えるに足る」と答えたという。
▼朝日新聞に対する質問状
学生四人は、加藤部長が問題にしたもう一つの新聞、朝日新聞にも、 「六月七日付で地検からの説明の部分について前日の記事と異なる報道を行った経緯は。その際、地検に確認したのであれば、どのような回答を受けたのか」などと聞いた。
 八月三日付の朝日新聞の回答 は、「朝日新聞山形支局」名で次のように回答した。
 《取材の経緯についてはお答えすることはできません。取材の経緯を外部に明らかにすると、自由な取材が制限される恐れがあるからです。これは今回に限らず、あらゆる取材について、朝日新聞社の方針です。ご理解下さい。
 皆さまのおっしゃる「推定無罪」は我々も理解しております。
山形地検の見解を紙面で紹介したのは、「読者に様々な情報を提供する」という報道機関としての役割を果たしたものです。
朝日新聞社は、事件報道では原則として「実名報道」をしております。その理由は、概要以下の通りです。
1 いつ、どこで、だれが、どのような理由で、どうやって、何をした−−はニュースの基本要素である。
2 匿名報道にすると、捜査当局の匿名発表が一般化する恐れがある。
3 匿名報道にすると、地域社会や特定の人たちの間に「犯人捜し」や無用の混乱が広がる恐れがある。
4 実名報道には一定の犯罪抑止力がある。》

 ▼読売の誠意ある姿勢
 読売新聞山形支局の回答は以下の通り。村尾潤支局次席が回答している。
《司法担当記者が次席検事から直接、説明を受けました。報道各社の個別の質問に応じた形です。口頭で行われました。
 監禁、強要の容疑事実は認められるが、悪質な行為ではなかった。また、臨時職員が情報収集をしていたと思うだけの理由もあった−−という趣旨の説明でした。
 無罪推定の原則は、常に念頭に置きながら、報道に携わっております。6月6日付本 紙記事中の次席検事の発言は、容疑事実が実際にあったという前提に立った言葉ではありますが、「それほど悪質な行為ではなかった」という部分でかなりトーンが弱まっていると考え、みなさんに改めて取材して主張を載せることはしませんでした。
また、逮捕時に実名を報道したことについては、若い学生たちである点など、判断に迷う部分もありましたが、日ごろの原則としている実名報道を踏襲しました。
もちろん、これらの判断や、掲載された記事が万全のものだったとは言い切れません 。また、海外では、裁判で有罪が確定するまでは匿名報道が原則となっている国があ ることも承知しています。
報道と人権の問題は、わたしたちにとって常に大きなテーマであり、日々の報道を続 けながら勉強を重ね、より良い方向を模索しているのが現状です。質問状にあるみな さんの、報道された当事者としての感想を今後の反省材料にしていきたいと考えております。》
 読売新聞の回答だけが人間的だと思った。
▼私も質問書を送った
 私も山形新聞の塩野寿伸編集局長と朝日新聞の熊谷功二山形支局長に質問書を送った。八月二二日までに回答を求めた。
 山形新聞には「六日の記事を書いた記者は七日の訂正にすすんで同意したのか」「一般刑事事件で不起訴になった者が、新聞報道によって、犯罪事実はあったのだというように、世間に印象付けられることは、原則としてあってはならない。四人は山形新聞などよって逮捕段階から繰り返し実名、年齢などを掲載されているから、「不起訴理由」の報道は非常に慎重でなければならないと思う。地検の発表を事実として報じただけだというわけにはいかないと思うが、いかがか」「捜査段階における四人の実名報道について、いまでも、それでよかったと思っているか」などと聞いた。
 また、朝日新聞への質問内容は山形新聞とほぼ同じだが、朝日が学生四人に対する文書回答(八月三日)で、朝日新聞社は、事件報道では原則として「実名報道」をしている理由の中で、《匿名報道にすると、地域社会や特定の人たちの間に「犯人捜し」や無用の混乱が広がる恐れがある。》《実名報道には一定の犯罪抑止力がある。》と書いていることについて私の意見を伝えた。
 《「実名報道には一定の犯罪抑止力がある」という証明はなされているのでしょうか。日本の報道機関が逮捕された者を実名で報道しても、毎日のように犯罪は起きています。「少年も凶悪犯は実名にしろ」という一部メディアの主張にこれでは反論できません。
 朝日新聞社が90年以降、「実名報道には一定の犯罪抑止力がある」と公式の見解で述べたことはないと思います。
 「朝日新聞山形支局からの回答」(署名がなく、支局の誰がどういう責任で回答しているか不明)の中の以上の二つの理由は、被疑者イコール加害者(犯人)という前提でしか成り立たない主張だと思います。「匿名報道にすると、捜査当局の匿名発表が一般化する恐れがある」などと述べて、警察を監視するために実名が不可欠といいながら、警察が冤罪をでっちあげるという視点が完全に欠落しています。
 朝日新聞社内報「えんぴつ」311号に植竹伸太郎記者が書いている《私の「原則匿名」論》をぜひ読んでください。そこに書かれているのが、実名報道の本当の理由だと私は思います。また貴社が独占インタビューした山田悦子さん(貴社の新しい事件報道の手引きに載っています)が「匿名報道はささやかな願い」と言っているのを知ってください。権力に身柄を拘束されたら姓名を出すという原則を捨てて、新聞社がその名前に明白なパブリックインタレストがあると判断すれば顕名にするという匿名報道主義のダイナミズムを理解してください。
 「いつ、どこで、だれが、どのような理由で、どうやって、何をした−−はニュースの基本要素である」というのはいいのですが、本件の場合、四人が「いつ、どこで、だれが、どのような理由で、どうやって、何をした」かが、裁判の場で明らかにならなくなったのです。
 朝日新聞山形支局は、不起訴になった四人に対して、このような「実名報道の理由」をあげていいのでしょうか。匿名報道にすると、地域社会や特定の人たちの間に「犯人捜し」や無用の混乱が広がる恐れがあるなどというのは、信じられません。彼らは「実名報道」で被害を受けているのです。
 「さくらんぼ」テレビは逮捕段階で、四人を匿名報道しています。どちらがよかったかを冷静に考えてください。「実名報道が原則だから」では四人には説明になりません。私の見解について、ご意見をお聞かせください。》
 八月二一日、「朝日新聞山形支局」から回答がファクスで送られてきた。
 《まず、1から5までは、取材の経緯に関することですので、回答は控えさせていただきます。6についてですが、不起訴の事実を報道することが「犯罪事実があった」と印象づけることにはならないと思います。7について。山形支局は朝日新聞社の原則に照らして実名報道しました》。
 朝日新聞の回答には、書いた人の役職名も姓名もない。警察などの官僚によくあることだ。「どこのだれか」を明示するのが、文書を書くときの世間の常識だと思うが。
▼次席検事が対応しない
 学生四人は地検に対する質問状では、こう聞いている。
 《「我々四名の処分について、山形地検から何の告知もないまま今日に至っている。各新聞社に対して、この件についての発表を、どの様な形式で行ったのか。また、翌日の新聞で訂正している新聞社があるが、その訂正に、山形地方検察庁は関与しているのか。
 六月一六日付の学生部長名での「お知らせ」で、山形地検からの説明をもって、我々が「事実として監禁、強要罪に該当する犯罪行為を行った」と認定している。このような山形大学学生部長による我々4名への人権侵害、名誉棄損が、山形地方検察庁が「監禁罪及び強要罪の容疑に該当する事実は認められる」と公言したことに端を発しているのであれば、山形地方検察庁もその責任を免れない。「山形大学に対しては内容の詳しい説明がありました」とされているが、これは事実か。「山形地方検察庁からの説明」とされる部分は、山形地方検察庁の説明と合っているのか。山形地方検察庁はこの掲示に対してどのような見解を持っているのか。》
 地検は文書回答を拒否、七月二八日、学生二人と会い、質問状に対し回答した。
 村上三席検事ら四人が会った。
 村上氏が「(処分は)平成12年6月5日付で決定し、不起訴処分である」と述べ、「処分の理由は何なのか」と聞くと、「起訴猶予処分である」と答えた。
「マスコミや大学に対しては詳しい説明をしているのだから、ましてや当事者である我々に対しては、詳しい説明をするべきではないか」と言ったのに対し、「それはコメントしないことになっている。マスコミに対しては世間の注目を集めた事件であることから知る権利の問題として特例としてコメントした」とした上で、「四名は学生であり、将来を考え、さらにもろもろの事情で不起訴とした、とだけしか言えない」と答えた。
 「各新聞社に対応した責任者は次席検事であるから、私の口からは詳しくは言えない」として、「口頭で発表したと思う」「内容は新聞にある通り」「形式はコメントできない」と、ほとんど何も答えようとはしなかった。
 新聞記事の訂正については、「関与している」と回答。「訂正を求めたのですね」と聞くと「それは違う。間違っていると指摘しただけだ」「内容については、詳しくは私の口からは言えない」と述べた。「つまり次席検事に聞け、と言うことか」と聞くと、「大変忙しいので会ってくれないと思う」と回答を避けた。
  「山形大学に対しては内容の詳しい説明がありました」と加藤部長が公表していることについては、
「事実である。理由は刑訴法260及び261条に基づいて、告発人に告知する必要があるから。口頭で説明した。内容は明らかに出来ない」と答えた。
 「6.16掲示は検察は全く関知していないため、これについては何も答える立場に無い。コメントしない」とだけ回答。山形大学学生部長の見解について「同様の理由でコメントできない」と回答を避けた。》
私も八月一八日に、圓山慶二山形地方検察庁次席検事に質問書を送った。二二日までに文書回答するよう求めた。「発表内容と6日の記事のくい違いはあったのか」「山形大学の 6月7日と16日の告知文などに、「山形大学に対しては内容の詳しい説明がありました」と書かれていますが、学生部長が字にしているこの説明内容は事実か。6月5日の発表と、6日の大学や報道機関への説明は適切だったのでしょうか。》
 地検から私には何の回答もない。(以上)

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