以下は、同志社大学新聞学研究会の新入生向けオリエンテーション冊子に掲載したインタビュー記事からの抜粋である。
インタビュー日時:2002年3月15日
      場所:教授研究室

(学生)まず、先生のご専門の研究分野と、現在の研究テーマについて教えてください。

(浅野)報道による名誉・プライバシーの侵害、「表現(報道)の自由」と「報道される側の名誉、プライバシーなどの人権の保護」をどう両立させるか、あるいはどう調整するか。たとえば、報道機関の側からいえば、手に入れた情報をどのように伝えるのかの調査・研究です。それから国際関係論。アジアの中で日本がどうあるべきかもテーマです。
 ジャーナリズム、報道と国際関係論、その二つですね。

(学生)先生が今もっとも注目し、やってみたいなと思う研究テーマを教えてください。

(浅野)前から変わらないんだけど、今、政府与党がマスメディアを3つの法律で規制しようとしているんですね。個人情報保護法案は国会に現在上呈されて3回目の審議になる。もう一つは3月8日に閣議決定した人権擁護法案で、法務省がやっている。これは、人権委員会という名前らしいですが、新しい人権擁護機関を作って、そこでメディアの取材・報道による暴力、人権侵害を取り締まるという内容です。人権侵害にも差別問題など4つの種類があるんですよ。その中の一つとしてマスメディアによる人権侵害を取り上げるというのは初めてです。もう一つが、青少年に対する過激な性表現など悪影響を与えるものを取り締まるというもの。これはまだ法案になっていないのですが、自民党の議員提案かで進めている。一つはすでに出ているんですが、この三つが今やっている通常国会にそろって出る可能性がある。
 報道によって人権が侵害される人がすごくたくさんいて、それに対してメディアがほとんど何もしてこなかった。表現の自由だから、取材の自由だからと言って対処してこなかった。「自主規制も含めてあらゆる規制に反対」だった。それに対し政府が規制をかける。これは絶対あってはならないことです。憲法21条の表現の自由というのは不可侵だから。それが今危機にあるわけですよね。
 私はそれに対して「報道の自由があるだけではだめで、自分たちでその人権侵害を起こさないような仕組みを作らないといけない。第1にジャーナリスト全体で報道倫理綱領を作ること。2番目にそれをきちんと守っているかどうかをチェックするプレスオンブズマン・報道評議会を作る。そこに市民も参加して、市民とメディア関係者の両方で作る評議会で決定していく。そこで決まった、この取材はおかしい、この報道はおかしいといったことを報道する。たとえば「大阪の池田小学校で事件直後に構内において子供たちに直接取材したのは報道倫理綱領に違反しているからいけなかった」。泣き叫ぶお母さんたちの写真を本人の了解なしに大きく載せるのはジャーナリストとしてよくないとか、それは大丈夫だとかいうことを決めて市民に公表する。「パレスチナで死体がたくさん倒れている場面の写真はどうか」「あれはいい」「いや悪い」ということを審判して決めてもらうところが報道評議会なんです。それを今日本に作らないといけない。
 私は今言った3つ(報道倫理綱領を作ること・報道評議会を設置すること・決まった内容を知らせること)全体をメディア責任制度、報道責任制度と呼んでいます。それを一日でも早く日本に作ることによって法規制を阻止できる。逆に言えば、これを作らないと本当に法規制されてしまう。この夏までが勝負なんですね。
 私はこの運動をちょうど20年間やってきました。市民がマスコミを自分たちの人権を守ってくれるものでなく、自分たちの人格権を侵害するものであると感じ、信用しなくなってきたのが80年代なわけです。だから私は本を出しました。1984年に『犯罪報道の犯罪』(講談社文庫)という本が出たのはそういう社会的な背景もあったわけですよね。それから18年たっていまだにほとんどできていない。似たようなもの、偽物みたいなのはいくつかできていますが、基本的にはできていないですよ。一日でもそれを早く作るためにもう一回それがなぜ必要なのかを国際比較してみないといけないなと思っています。今度4月から1年間在外研究で、イギリスへ行くんですけれど、メディア責任制度の国際比較研究をしてみたい。これまでも発表しているんですけれども、日本にもっともふさわしい形でメディア責任制度を導入するためにはどうしたらいいかということをさらに再提言、再々提言することですね。
(学生)先生の発表はホームページなどで見られるんですか。

(浅野)全部見られますよ。あと、人権と報道・連絡会のホームページとか、人権と報道関西の会とか河野義行さんなど関連リンクもある。だいたい「人権と報道」と引けば河野義行さんや新聞労連のページなどいろいろなリンクが出てくる。新聞労連とは新聞・通信社の労働組合の集まったものですね。そういうところも見られます。私は自分の単著が20冊くらい、一緒に書いた共同編著が20冊くらい、あわせて50冊くらいあるので大変ですが、それを読んでもらえれば。

(学生)2001年度で心に残った出来事、事件は何ですか。

(浅野)私は大学で教員をすると同時にアカデミック・ジャーナリストという肩書きを使っているんですけれども、9.11の自爆攻撃ですね。あの事件をきっかけにして世界が変わったという人がいるけれど、私はアメリカの世界支配がさらに強くなったと思っています。その前に小泉首相が就任して早々、憲法を変えると言いました。憲法改定するなんで総理大臣が言ったのは日本の政治で初めて
です。憲法を守るのが総理大臣の仕事で、今までなら「憲法を変える」と言った瞬間に辞任なんですけれども、彼の場合は異様な支持率でを背景になんでもありだった。憲法改悪、つまり自衛隊を正式に軍隊にする前文と9条の廃止と、靖国に8.15参拝をするという2つが彼の公約なんです。日本遺族会とか神社本庁とか侵略戦争を肯定する人たちがバックアップして小泉政権が登場したんですよ。片方で構造改革とか言っているけれども、それは皆昔から言っていたことで、彼の本当の特徴はそこにあったんですね。
 9.11事件が起こったでしょう。中谷防衛庁長官らのグループはうれしそうな顔をしていた。アメリカが「新しい戦争」と称してアフガンに侵略することに日本が協力して、自衛隊が戦争に自由に参加できるという法律まで作った。1999年から国旗・国家法、盗聴法、ガイドライン法などができて戦争をいつでもできる体制を作ってきたんですけれども、いよいよ日本は本当に戦争に参加する
国になってしまった。
 私は東ティモールのことをやっている人なんか日本に10人くらいしかいなかった時代から研究してきたのですが、東ティモールにおけるインドネシア軍侵略による強姦、殺人、略奪といったことを日本は黙認してきた。スハルト軍事政権のテロを1970年代から日本はずっと放置し、日本のマスコミも取り上げない。国連でも日本はそれを取り上げない。
 それがころっと変わって東ティモールの人を助けるために700人も出すんですよ。東ティモールの人は誰も反対しないと大新聞は言うけれど、3月4日に自衛隊の先遣隊24人がディリに着いたとき数十人の反対デモがあったのに日本ではほとんど報道されなかった。彼らは長い戦乱で困っているから1人でも道路を作りに来たら帰れとは言わないですよね。だからと言って、皆日本の自衛隊を歓迎しているというわけではない。ところが朝日新聞にもそういうことは出ず、「韓国軍のPKOと一緒にやるのはすばらしい」というような話にすべてしてしまう。一貫性がない。自衛隊が出ることが国際貢献だという、それ一色になってしまいましたね。PKO法成立の1992年には、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞はそれに対して慎重にしろと言っていたが、今では沖縄など地方の新聞くらいですね。東ティモールに関しては誰も反対を言っていないですね。道路を直したいなら、今つぶれそうな佐藤工業を行かせたらいいんですよ。
 その片方で、三田佳子さんの息子さんが覚せい剤で捕まった裁判が去年あって大騒ぎでした。それから、野村沙知代さんの脱税があってまた大騒ぎ。戦争だ戦争だと向かう片方で、庶民が不況でいらいらしているわけです。そこで「あんなサッチーみたいなわがままなやつを許すな」「三田佳子さんみたいな立派な女優さんの息子がぐれちゃってかわいそう」というわかりやすいワイドショーや週刊誌の文化がある。いつも戦争に入るときはそうなんですよ。大正デモクラシーのあとにアジア・太平洋侵略の15年戦争があった。今は少しそんな感じがしますね。
 今日本がどこに向かっているのか、日本は世界の中で何をすべきかを真剣に考えるべきです。なぜ3万人の自殺者がいるのか、なぜ交通事故がこんなに多いのに車はどんどん売れるのかという一人一人の命や暮らしや環境や人権を大切にするところにジャーナリズムが立たなければならないのに、ほとんどそれが機能していない。作家の辺見庸さんと数人しか機能していないのではないかと思いますね。「週刊金曜日」、「噂の真相」、「創」とか「週刊プレーボーイ」とかね。そして、今まで民主主義を唱えていた世界の国々が反テロということで市民的自由を制限し人権を侵害している。アルカイダに対して捕まえてキューバの基地に連れて行ったのを見てください。「戦争だ」と言いながら戦争で捕まえた人を「捕虜じゃない」と言っているんですから。捕虜だったらジュネーブ協定を守らなければならないでしょう。そういう報道の娯楽化と監視機能の喪失、この2つが去年の一番の特徴であり関心です。

(学生)先生がこれから研究したい内容はそのあたりに絡んでいるのでしょうか。

(浅野)そうですね。なぜジャーナリズムが機能できないのか。総理大臣が法を破っても誰もきちんと批判しない。8・13に靖国神社へ繰上げ参拝しましたよね。小泉首相が靖国から帰ったときに記者会見をしていないんですよ。ぶら下がりといって20人くらいの気のあった記者だけ集めて首相官邸の入り口に入れて応接間で、「ご感想は」と記者が訊く。「ご感想は」とイチローに聞くのはいいけれど、「憲法違反ではないですか」というのが第1の質問でしょう。記者会見は福田官房長官がやっているわけです。
 今の天皇が自分の先祖は朝鮮人だ、桓武天皇の生母は百済から来たと12月18日に言いました。天皇誕生日の日に報道するという“しばり”の会見でした。12月23日にマスコミでその発言を書いたのが朝日新聞と産経新聞だけ。産経はいろいろな記者会見の様子をウェブで流しているから報道しないわけにいかない。朝日もだいたいウェブに流すからだと思う。NHKや他の民放では放送しない。ワールドカップを半年後に控えて、私の先祖は朝鮮人だ、私は韓国にゆかりを感じると言ってくれたわけでしょう。雅楽などはほとんどが朝鮮に由来するんだと言っているわけですよ。途中ですり替えなどが行われて変わっているから万世一系というのはばかばかしいけれど、天皇と称していた昔の人たちは最初の頃はほとんど朝鮮人だったというのは世界的に常識です。だけど天皇がそれを認めたというのは大ニュースですよね。僕が共同通信の編集局長だったら一面トップで出しますよ。天皇が死んだときにあれだけ大きくニュースに流すのだから、天皇が朝鮮人だというのは大ニュースじゃないですか。それもなぜこの時期にそんなことを言うのか。天皇は今の日本に危機感を持っているのではないですか。戦争が終わって11歳くらいのとき、1945年8月15日の朝に皇太子だった彼は怖かったんじゃないでしょうか。自分のお父さんがいつ処刑されるかわからない。戦後、米国のリベラルな人たちに教育を受けているから、僕は、まともなのは今の天皇と辺見庸くらいかなと思うほど。
 なぜジャーナリズムが機能していないかということの原因にはいろいろな要素があると思う。たとえば、女性の記者が少ないこと、採用の仕方がおかしいとか、労働時間があまりにも長すぎること、警察、記者クラブの“サツ回り”から記者が鍛えられるというがそれでいいのか。そういういろいろなことを国際比較しながらやろうと思っています。

(学生)先生は今年度の授業は受け持っていないんですよね。

(浅野)国内でゼミも講義も一年間休んで自由に研究する国内研究と、外国に行って外国の研究機関に籍を置いて外国で勉強する在外研究制度があります。私は同志社に来て8年経ち、在外研究が認められて大学から滞在手当をもらい、イギリスのウエストミンスター大学コミュニケーション、デザイン・メディア学部で研究することになりました。大学院で国際ジャーナリズム論の講義もします。皆さんがもしイギリスに来ることがあれば、連絡していただければ、おいしいチャイニーズレストランを知っていますので食事くらいはごちそうしますよ。ヨーロッパ各地と米国にも行って、人権と報道、メディアの意義、あるいはジャーナリズムが今どうあるべきかということを研究しようと思っています。韓国で日韓の記者クラブ制度の比較もします。
 2回生になったら浅野ゼミがあるし、一度在外研究に行ったらしばらく行かせてはもらえませんので、帰ってくればずっといると思います。一年生で私のゼミを受けようと思ってきてくれた人には申し訳ないけれど。でも、メールをくれれば返事を出しますから。
(学生)新入生に大学生活でどんなことをしてほしいとお考えですか。
(浅野)同志社の新聞学というのは本当にユニークで重要な学問領域です。おそらくマスメディア関係で将来働きたいという人も多いと思いますが、その希望を実現できるようにがんばってもらいたいし、私はサポートしたい。特に報道現場で働く人についてはアドバイスができると思いますから、私のゼミ以外の人でもどんどんアプローチしてもらえれば。
 同志社大学にはいろいろな先生がいるし、日本で慶應義塾大学の次に古い私立大学であり、最大のキリスト教学園でもある。新島襄先生の伝統ある「人民のための大学」という建学精神。人民のためというと何か難しいことのように聞こえるかもしれないけれど、国民というと在日朝鮮人の人たちも入らなくなってしまうから、日本に住んでいるすべてのピープルというのは日本の人民としか訳せないんです。そういう伝統を忘れないでほしい。
 一回生に言いたいのは、同志社大学は私立大学だけども、公的資金が2000年度で約35億円来ている。同志社大の学生総数は2万4862人。一人あたり役18万円の税金が投入されている。皆さんと同じ年代ですでに働いている人の税金が大学の施設や授業料の一部に使われている。受験勉強で大変だっただろうからしばらくは遊びたいと思うだろうけれど、学生というのは社会の税金を使っているんだということを覚えておいてほしい。公務員や政治家がちゃんと仕事をしないと私たちは腹が立ちますよね。大学に対して「大教室はつまらない」とか不満があれば、自分から働きかけていくことが大切。
 自分なりの大学生活というのをやってほしい。それから、たくさん本を読んで、できるだけ多くの人と会ったり、一番仲のいい友達を作ったり、いろいろなところへ出かけて自分の目で見て、自分の頭で考えて、自分で書き、喋る。働けば将来こういうことはもうないですから、自分なりの自由な空間を充実したものにしてもらいたい。何もしないで4年を過ごすのはもったいないと思いますね。

(学生)先生の趣味を教えてください。

(浅野)趣味はテニスですね。テニスだったらどこでも飛んでいく。テニスで汗を流してビールを飲む。他には、音楽を生で聴くのが好きですね。スポーツの観戦も好きです。米国でメジャーの野球を何回も見ました。フランスのW杯も日本対ジャマイカ戦を観戦した。テレビや映画もいいですけど、なんでも割と実際に見たりするのが好きですね。長野オリンピックの時も何か1つ見に行こうと思って、誰も見に来ないような女子ホッケーの決勝とか見に行った。野球だったら日本ハム対オリックス戦とかね。あまり巨人対○○戦とかいうのは見に行かない。昔からそういう反骨精神があって、人がいい、いいというものはどこか違うんじゃないかと思って。だからコンピューターもマック(笑)。なにか主流になることは向かないんですね。
 テニスはダブルスとシングルスではぜんぜん違うゲームですよね。僕はどちらかというとダブルスが好きですね。シングルスも好きですけど格闘技という感じがしますね。ダブルスは計算がある。必ずしも1番と2番が組んでもいいペアにならないですよね。12番と14番くらいが組むといい優勝する(笑)。
 本を読むのも好きだし、私の最大の悩みは自分に関係する本しか読む時間がないこと。本当はぜんぜん関係のないのも読みたいんですけれど、なかなかできない。
 テニスが好きなのはなぜかというと、テニスクラブに行くといろいろな人がいるからなんですよ。タクシーの運転手がいたり、銀行員がいたり、看護婦さんがいたり、学生がいたり、小学生から70歳代の人までいる。その人たちと話して、どんなことを考えているのかわかる。できるだけ大学の中に閉じこもっていないで、意識的にいろいろなところへ出掛けていくようにしているんです。狭いところで見ていると世の中が見えなくなってしまう。原子物理の研究をしていたら核兵器ができちゃった、でも核兵器の意味がぜんぜん見えなくなっているというような。そういう意味で、いつも自分がやっていることとは別の、まったく関係のない趣味や関心を持つことはいいんじゃないでしょうか。

(学生)アウトプットが多いと、インプットが大切なんでしょうね。

(浅野)そうですね。本当は現場に行って取材・報道したいけれど、年だし、今は取材・報道する人たちの国際的な水準の働く基準というものを早く作ってあげたいですね。新聞学というのはそういう学問だと思うんです。医療が病んでいればそれを直すのが医学の責任じゃないですか。外務省が病んでいれば公務員のあり方など行政学を研究している人たちがアドバイスする。それがアカデミズムだと思います。大学に閉じこもって社会と無関係にやる学問も少しはあっていいと思うのですが、社会科学はそれをやってはいけないと思います。社会と関わりがないとね。
 さっき一回生に向けて言ったけれども、日本は戦争の時に悪いことをそんなにしていないんだ、あるいはみんなが悪いことをやっていたのになぜ日本だけが責められるのかという言論が多いですよね。朝鮮民主主義人民共和国が攻めてくるとか。漫画家の小林よしのりさんとか新しい歴史教科書を作る会の人たちとかが言っていることが本当に正しいのかどうか、ぜひ東南アジア、中国からの留学生から話を聞いたり、自分も出かけていったりしてほしい。
 アメリカの人たちが「ヒロシマ・ナガサキは仕方なかったんだ」と言ったら悔しいじゃないですか。核兵器を使ったというのは悪かったと私は思う。悪いことは悪いと言わないと。今、日本軍慰安婦の問題とか「労務者」の強制連行問題、捕虜虐待と言われたときに「みんなやっていたんだ」「いつまで日本だけが謝らなければならないんだ」という人がいるけれど、歴史をきちんと見つめることを学生の皆にはやってほしい。日本人がなんでも悪いというのも間違えている。日本人には悪いところもあるしいいところもある。15年戦争では悪いところがたくさん出たわけです。日本だけでなく国家というのはいろいろな悪いことをしてきていて、その歴史を検証しなければ国際社会で生きていけないですよね。
 私自身も東南アジアで取材して初めてわかったんですよ。学校ではまったく習わなかったから。「おまえは見たのか」と言う人がいるけど、そういうことを言ってしまうと歴史を伝えていくということが成立しませんよ。見ても角度によって違うことがある。だから、国際社会の中でみんなが一般的に認める最低限の事実があるでしょう。南京大虐殺にしても従軍慰安婦にしても。それを金をもらった売春婦だと言う言論が日本にある。それは国際的に恥ずかしいですね。こういうことを言うとすぐにあいつは左翼だとか反体制とか言われますが、左翼でもなんでもないんです。こういう考え方がふつうなんです。長く外国に住んでいた三井物産戦略研究所所長の寺島実郎さんがよく言うけれど、日本には軍隊がないと言っても一度も恥ずかしい思いをしたこともないし、批判されなかったという。僕もそうです。なぜ日本に軍隊がないのかと説明すれば皆わかってくれる。それはちょっと変わった国だねとは言われるけれども。だから、もう一度どうして平和憲法があるのか、アジアで何をしたのか、アジアの人はどう思っているのか若い人に考えてもらいたい。若い人には戦争について責任がないという人がいるんだけれども、戦争責任をとっていない国の若い国民にはそれなりの責任がありますよ。もちろん、実際に戦争をした世代にはもっと責任がありますけども。戦争したらおしまいですからね。

学生:ありがとうございました。

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Copyright (c) 2002, Prof.Asano Ken'ichi's Seminar Last updated 2002.04.10