チョムスキー教授との対談本を出版 在外研究報告も

2003年2月24日

チョムスキー教授との対談本3月中旬に出版
 在外研究「人権と報道」で世界半周

 ノーム・チョムスキー氏(米マサチューセッツ工科大学教授)と浅野の対談本が3月中旬、現代人文社から出版されます。タイトルは『抗(あらが)う勇気 チョムスキー・浅野対談』(To Resist - Chomsky & Asano Talk)です。
 2002年11月8日にマサチューセッツ工科大学(MIT)の教授研究室で行った英語での対談をもとに、豊富な資料と脚注をつけています。チョムスキー氏は、校了直前まで問い合わせにメールで回答してくれるなど、全面的に協力してくれました。以下は本の概要です。
日本語訳:椎名亜由子。四六判、上製。120頁。予価:1200円
構成
はじめに  1頁
  目次 2頁
   1 対談  
   2 対談のための資料(対談のために事前にチョムスキー氏に渡したもの中心) 
     私(浅野)の考えと質問事項 
     東ティモール人難民と連れ去られた子どもたち(フリー・ジャーナリスト、青山有香)
   3 対談を終えて 

問い合わせは(株)現代人文社編集部まで。
東京都新宿区信濃町20 佐藤ビル201(〒160-0016)
電話.03-5379-0307 FAX.03-5379-5388
 email:kimu@genjin.jp
 http://www.genjin.jp

 本のタイトルは、対談の最後の対話からとりました。原文は次のようです。
Asano: Do you have a message to Japanese journalists and people who are trying to change society?
Chomsky: To resist; there’s nothing else.
 この本は、まず、ニューヨーク在住のジャーナリスト、椎名亜由子さん(上智大学新聞学修士、米ミネソタ大学ジャーナリズム学部修士)が英文トランスクリプト作成しました。椎名さんが二〇〇二年一二月一七日、チョムスキー氏にそれを送信。その際、いくつかの質問をするとともに、一部加筆を要請。チョムスキー氏は多忙な中、全文をチェックしてくれ、一二月三〇日に変更・加筆済みの英文がメールで届きました。チョムスキーさんは初校の出た後の2月10日もメールで質問に答えてくれまし た。
 英文版の作成過程では、日本の雑誌に関する本を近く出版するボストン郊外在住のアダム・ギャンブル氏、スチュワート・ワックス京都外大教授、カリフォルニア州のフリー・ジャーナリスト、ブライアン・コバート氏が録音テープを聞くなどして推敲を重ねてくれました。
 青山由香氏には、チョムスキー氏の要請により、東ティモール難民問題でリポートを書いてもらいました。青山さんは2002年11月、『ナロマンー東ティモールの正義・和解 そして未来』(かもがわ出版)出しています。この本の帯に私が推薦文を書いています。
 資料の作成では、元共同通信記者でロンドン・シテイ大学大学院において東ティモール報道をテーマに修士論文を書いた志村宏忠氏、英ウエストミンスター大学大学院博士課程の近藤薫子氏の協力を得ました。
 私との対談を快諾してくれ、困難な時代に「抗うこと」の大切さを教えてくれたノーム・チョムスキー教授と、本の作成にかかわってくれたすべての方々に心より感謝したい。

*「拉致」報道を検証
 また、人権と報道・連絡会編《検証・「拉致帰国者」マスコミ報道》が社会評論社から2003年1月10日に発売されました。私は《欧州で考える「拉致」報道》と《『週刊金曜日』が問題なのか?》の二本を書きました。
 私が「拉致」を否定していたという荒唐無稽な批判、非難がネット(便所の落書き以下)上で出ているようですが、私の立場をこの本で明らかにしています。この本を読んだ人たちから、「よく出してくれた」という声が多く寄せられています。
 大新聞、大放送局に勤めるジャーナリストたちからの年賀状にも、「拉致報道で日本のメディアはますますだめになった」という指摘がありました。
 注文は社会評論社の新孝一さんに連絡ください。
 〒113-0033 東京都文京区本郷2-3-10 お茶の水ル tel.03-3814-3861/fax.03-3818-2808
  e-mail:shin@shahyo.com
  http://www.shahyo.com

*南半球で調査研究
 私は香港の国際学会で「日本のメディアと民主化」について英文で発表した後、12月末から一時帰国していましたが、いまメルボルン大学を拠点に調査しています。ロンドンのアパートは引き払いましたが、いまも英ウエストミンスター大学メディア・コミュニケーション研究所の客員研究員(2003年6月まで)のままで、同研究所所長のコーリン・スパークス教授の紹介でここに来ています。メルボルンはジャカルタ時代に一度来たことがあり、緑が多いいい街です。いまは真夏で、半袖で過ごしています。
 後で詳しく書きますが、世界各地で1300万人が参加したといわれるブッシュのOil Warに反対するデモは2月14日のメルボルンでの15万人デモが皮切りでした。
 メルボルン大学にはアジア言語文化研究所(MIALS)があります。インドネシアの社会学者アリフ・ブディマン氏もここの教授です。大学全体が非常にリベラルで、ジェンダー、環境などの分野も盛んです。ここには「古い欧州」のよき伝統を引き継いだ雰囲気があります。
 2月23日からは、シドニーでオーストラリア報道評議会を調査します。その後、ニュージーランドのオークランド、米国のLA、SF,NYを回って4月初めに欧州へ戻ります。米国では記者クラブ研究で有名なローリー・A・フリーマンさんら研究者にも会います。メディア関係の市民団体も調べます。欧州でも各地のメディア責任制度を調査します。5月末にウエストミンスター大学で「メディア規制の国際比較」のセミナーで調査結果を発表します。
 在外研究の2ヶ月延長が大学で認められ、6月初めに同志社へ戻ります。
 ゼミ8期生がゼミ誌「DECENCY」8号の編集をしています。問い合わせは私へ。
 私の連絡は今後も asanokenichi@nifty.com にお願いします。

*日本の極右化に抗おう
 2月7日付けの朝鮮新報に人権と報道・連絡会事務局長、山際永三氏のインタビューが載りました。山際さんとは1975年に小野悦男さんの救援を通じて出会ってから、ずっと一緒に活動してきました。映画、テレビの監督として活躍され、メディアの内部にも詳しい方で、いつも教えられています。
 週刊金曜日2月14日号で、成澤宗男氏が《それほど血が見たいか、「追米文化人」 保守論壇の中でも目立つイラク攻撃賛美論》と題して、憲法を無視し、ファシズム・軍国主義化を煽る大学教員らを批判していますが、同志社にも追米、従米の教員がいます。元「新旧」左翼の右翼転向者も少なからずいます。ここでも、新島襄先生の建学の精神、治安維持法下に徹底弾圧された歴史を忘却した教員がいます。法学部の若手教員が講義で「米国のアフガン戦争は大成功だった。日本も米国の反テロ戦争に協力するのは当然」「日韓条約や日中平和友好条約で戦後責任は終わった」などと断言し、少なからぬ学生が目を輝かせて聞いているそうです。こういう日本の高度成長とともに育った研究者たちは、いまどき憲法がどうのこうのと言うのは平和ボケだという非難をしています。同志社で憲法を教えた田畑忍 先生、土井たか子さんの伝統はどこへ行ったのかと悲しくなります。
 その一方で希望も見えます。京都で、在日朝鮮人の学生と日本国籍学生とが、「日朝友好京都学生の会」をつくって日朝の友好を目指す運動を始めました。同志社の中心になっている日本人学生の中には一回生もいるそうです。
 日朝友好京都学生の会の呼びかけ文の一部です。
《日本人学生、在日朝鮮人学生の対話交流を一番の主軸にしたいと考えています。(もちろん留学生、社会人の方の参加も求めています)多くの学生がこの場を通して交流を深められればと思っています。また日朝友好京都学生の会として、今後も学習会やこういった催し物の開催などを通して日本と朝鮮(ここで言う朝鮮は北・南と限定せず、朝鮮半島全体を指しています)の友好関係を草の根から築いていきたいと考えています。
連絡先 minkeun1130@hotmail.com》

 2001年秋の同志社での私の「新聞学原論」の講義をとっていた法学部学生が「先生が平和憲法を守ろうと訴え、軍事力の行使をそこまで否定するのは、宗教的な信条からきているのですか、それとも政治的、思想的な確信からですか」と聞いてきたことを思い出します。真面目な顔をしての質問です。この質問を英語や中国語など外国語に訳すとおかしいと思います。憲法を守ること、守ろうと訴えることが《非国民》という雰囲気です。毎日新聞の靖国参拝に関する世論調査で、ついに賛成が反対を上回りました。毎日新聞も含め、マスメディア報道の責任が大です。首相の靖国公式参拝は憲法違反という判決が確定しているのに、それを書かず、小泉や福田の言い分を「客観報道」しているだけですから、極右の見解が、首相の既成事実の積み重ねで、世論を形成していくのです。
 1992年にあれだけ多くの人が自衛隊海外派兵に反対していたのに、いまはほとんど賛成になってしまい、川口外相が多国籍軍にも参加できるようにPKO法を《改正》すべきだとまで言っています。思えば、岩波の「世界」(岡本厚編集長)が自衛隊のPKO参加に賛成し、カンボジアから戻った明石康にインタビューし「成功したカンボジアPKO」という見出しをたてたときから、この国は極右の道を転がり落ちてきました。「世界」では、自衛隊を認めてシビリアンコントロールを強化しPKOに積極参加する平和基本法を編集部と学者が提案までしました「自らの岩波信条に反するのではないか」と岩波書店に抗議したら、故安江良介社長は「時代が変わったのです」と毛筆で書いてきました。時代ではなく岩波書店が変節したのです。詳しくは「犯罪報道の再犯」など第三書館の三部作を読んでください。
 京大では、自民党右派もびっくりするような言動をする中西教授がますます軍拡路線を強め、戦争を煽っています。いずれも世界人権宣言、国際人権規約に明白に違反する戦争賛美、人種・民族差別です。
 一九六六年に採択された国連人権規約の「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」第二〇条[戦争宣伝および差別等の扇動の禁止]として「1 戦争のためのいかなる宣伝も、法律で禁止する。差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する」と規定しています。日本には同条でいうような法律は存在しません。だから、石原慎太郎東京都知事が「北朝鮮とは戦争してもいいんだ」とか、川口順子外相が「(北朝鮮からミサイル攻撃があるとわかれば、基地を先制攻撃することができる)(二〇〇三年一月二三日のNHKニュース)と言ってのけ、日本軍慰安婦は存在しないという言論も許されるのです。昭和天皇を平和主義者だったとか東条英機元首相を英雄視する書籍や映画も違法ではありません。
問題は、国連で決めた人権基準や平和憲法を無視して偏狭なナショナリズムや戦争を煽る文化人を批判する社会的力が弱いということです。こういう極右の言論を認めて、「左右」のバランスをとる朝日新聞などがだらしないのです。
 このまま極右にすすむ政治情勢に、何とかresist(抗う)ようにしたいと思っています。
 チョムスキー氏は私との対談で、「権力者たちはデモがあっても、人民をコントロールできているうちは気にもとめない」と述べました。しかし、反戦、反政府デモをしても無駄だと言っているわけでは決してないと思います。独特の言い回しです。
 世界最大の大量破壊兵器を所有する米国が準備を進める国際法無視の戦争に対し、二月一四日から一六日の週末に世界各地で反戦統一行動が展開されました。六百都市で約一三〇〇万人が参加しました。同じテーマでこれほど多くの市民がデモをしたのは人類史上初めてということです。
 メルボルンでも二月一四日か、反戦デモがありました。警察発表で一〇万人以上が参加。私の実感では15万人を超えていたように思います。同一六日はシドニーで二〇万人が集結しました。一九七〇年のベトナム反戦デモ以来の規模でした。オーストラリアのハワード首相は米国の対イラク戦争に参戦する構えですが、「子どものいうことを聞きなさい」(Listen to kids!)と書いて戦争反対を呼びかける横断幕を掲げた子どもたちの隊列もありました。”Let’s make Love, not War”というバナーもありました。緑の党や社会主義を掲げたポスターが多く、ペットの犬も参加していて、メルボルンらしいと感心しました。幅広い階層、年齢、職業の人々が「ブッシュによる石油利権のための戦争」に抗議したのは壮観でした。
 ロンドンでは警察発表で史上最大の百万人以上が集まり、数えることが不可能だったそうです。BBCはロンドンのデモを報じる際、参加する日本人グループをトップで扱いました。「米国べったりの日本人でさえ反対運動」という点がニュースなのでしょう。
 ブレア英首相はロンドンのデモを見て、「五十万人がデモ行進しても、その数はサダム・フセインに責任のある死者数より少ない。百万人集まってもサダムが起こした戦争で死亡した人の数を下回る」と言い放ったのですが、米国の単独武力攻撃への参戦を強行すると、ブレア首相が更迭されるのではという観測も出てきたそうです。オーストラリアでも国策と民意の離反が大問題になっています。
 朝日新聞の報道によると、小泉首相は2月17日、米国のイラク攻撃に対して世界中で反戦運動が起きていることについて「イラクが正しいんだという誤ったメッセージを送らないよう、注意しなければならない」と述べました。また福田官房長官は17日午前の記者会見で、米国のイラク攻撃に対して世界中で反戦運動が起きていることについて「イラクが大量破壊兵器を使用するとなったら、同じように(反戦)デモが起こるのではないか。武力攻撃するかしないか決まっているわけではないが、そっち(武力攻撃)が先に出るのは不幸な事態だ」などと述べ、米国の姿勢ではなく、イラクが査察に十分に応じていないことに問題があるとの考えを強調しました。
 全くとんちんかんなコメントです。世界でも最低の知性と言えるでしょう。自分の靖国神社参拝を違憲とする提訴について「おかしな人がいるもんだね」と全く不当な発言をしています。
 川口外相は二月一四日、「対イラク武力行使を認める新たな安保理決議を米国が求めるということは、当然に期待をしてきたことで、非常に結構なことだ」と指摘し、「合意に達して決議ができるために、非常任理事国への働きかけをしたい」と述べました。川口外相は二月五日発売の月刊誌「論座」(朝日新聞社)で、日本が国連決議に基づく多国籍軍の活動に参加できるよう国連平和維持活動(PKO)協力法の改正を含めて議論を提起しています。小泉政権が田中真紀子前外相を解任して川口外相に代えた意味がよくわかります。とんでもない極右外相です。
 2月19日の国連安保理の議論でも、日本政府はクウェート、オーストラリア、アルゼンチン、ペルーなどとともに米国を全面支援する姿勢を示しました。アジアでは日本だけです。日本が米英の国際法違反の戦争に加担したために、日本人がテロに遭ったときに日本の国家や指導者、文化人はどういう責任をとるのでしょうか。日本が「戦争」をしているわけではないので、おそらく一般の刑事事件の被害者と同じ扱いになるのだと思います。小泉首相ら官邸の2・3世「親の七光り」政治家、元官僚・サントリー役員の川口外相らの責任はあまりにも重いといわざるを得ません。
 自国の権力者が「コントロール不能」と気づくまで、各人が声を上げ、行動することがいま求められています。

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