2002年11月26日
長野県政記者クラブから「回答」
「記者クラブ」解体の国際的圧力の強まる中で
 

浅野健一

 2002年11月25日にロンドンで見た朝日新聞のHP(http://www.asahi.com/national/update/1125/031.html
によると、欧州連合(EU)欧州委員会は同日に東京で開かれた日本政府との「日・EU規制改革対話」で、日本の「記者クラブ」制度は外国の報道機関を不当に差別しているなどとして改善を求めた。EUが規制改革の対象として記者クラブ制度を取り上げたのは初めてという。日本の外務省発行の記者証を持つジャーナリストには公的機関での取材をすべて開放し、記者クラブ制度を廃止すべきだと主張した。

 記者会見したEU側代表は「すべてのジャーナリストが平等のアクセスを保証されていないのは問題だ」などと話した。
 日本政府側は、日・EUは報道の自由を共通の価値観として持っているとしたうえで、「報道機関側の自立性を尊重しているが、EU各国での外国人記者の受け入れがどうなっているなどについてEU側から聞きたい」と述べるにとどまったという。
 日本政府の見解は大嘘だ。政府がいう「報道機関」は日本新聞協会に加盟していることなどを条件にしている「記者クラブ」加盟の大マスコミ企業だけを指しており、「記者クラブ」と官憲が談合して、「記者クラブ」に入れない記者を排除して、すべての表現者の「自立性」を無視しているのである。
 日本の中だけなら、マスコミ用心棒学者ら文化人を動員して、記者クラブ制度について詭弁を弄することができるが、国際社会では全く通用しない。
 ロンドンで10月に会ったロイター通信の幹部も、「日本と韓国の記者クラブ制度は情報の自由な流れを阻害している」と指摘していた。記者クラブの悪名は世界中に広がってきた。今こそ、田中康夫長野県知事の勇敢なる記者クラブ解体・表現センター設置を全国各地の官庁、自治体、政党、大企業などに広げていくべきであろう。

*県政記者クラブに質問

 本HPで報告しているように、私は8月1日長野県政記者クラブに質問書を送った。田中氏の表現センターに対する見解などを聞いた。
 質問書では、《共産党以外の会派の県議が全員、表現センターに反対したのはあまりにも不自然だと思っていましたが、大手メディアの記者たちが、反対するように働き掛けていたとすれば大問題》と指摘。また、この問題に関して、共産党県議団団長の石坂千穂県議は私の取材に対するコメントを書き出して聞いた。
 《日本新聞協会編集委員会は「記者クラブ」批判の高まりを受けて、2002年1月17日、「記者クラブ」についての新たな見解をまとめました。新見解は《記者クラブが主催して行うものの一つに、記者会見があります。公的機関が主催する会見を一律に否定するものではないが、運営などが公的機関の一方的判断によって左右されてしまう危険性をはらんでいます。その意味で、記者会見を記者クラブが主催するのは重要なことです》としています。
 新聞協会の新見解は「記者クラブ」加盟の条件を緩和しているが、加盟条件にしている新聞倫理綱領の順守などについて、誰がどういう手続きで審査するかは明らかにされていないし、フリーの記者が入会できる可能性はほとんどないなど問題は多い。しかし、記者クラブの会見開催権にはこだわらないなど、田中氏の宣言を受けて改革案を示しています。
 また、新聞労連も2002年2月8日、独自の記者クラブ改革案を発表しましたが、記者会見の開催権について、《取材者ならびに記者クラブは、公権力に対して記者会見を要求できる。また、記者クラブは、市民の「知る権利」に応えるため、公権力に対し記者会見を開かせる役割を果たさなければならない》と述べ、《国や自治体、政党などの公権力が主催する会見》を認めています。
 
 表現センターがきれいにできて、表現者がうまく使えることがわかったら、メディア企業にとってもよかったのではないでしょうか。長野の実践が成功すれば、東京にある永田町や皇居の記者クラブも、今のままで存続するのは不可能になると私は考えます。

 以下、質問です。
 1 田中氏が指摘するような記者がいますか。

 2 田中知事(当時)が雑誌に書き、また度々批判したことに対して、クラブとして、また個人として田中氏に抗議したという事実はありますか。

 3 昨年6月21日の長野県政記者クラブの見解を出して以来、クラブで「脱・記者クラブ宣言」や表現センター設置について総会などで議論したことがありますか。あればどういう議論ですか。

 4 前知事が提案したような表現センターの改装はしたほうがよかったと思いますか。

 5 昨年7月1日以降の県政記者クラブの所在地、活動内容などを教えてください。

 6 NHKは記者室を退去した後、県庁近くの貸しビルを借りて機材などを置いていると聞きました。クラブのメンバーでそのようなことをしている社はありますか。
 7 脱「記者クラブ」宣言について、いまどう考えていますか。

 8 日本新聞協会の新見解、新聞労連の改革案が出ていますが、昨年6月のクラブ見解は不変なのでしょうか。

 大変お忙しい折りとは思いますが、できるだけ早く回答ください。遅くとも8月5日午後5時までにご返事をください。
  以上、どうぞよろしくお願いします。]

*八月初めに幹事社の記者から選挙中で総会を開けないという連絡があり、その後も数回連絡があったが、結局、選挙が終わるまで、回答がなかった。
 2002年9月27日に以下のような「回答」がファクスであった。
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浅野健一様

2002年9月27日
長野県政記者クラブ
(幹事社・信濃毎日新聞、時事通信、日本経済新聞、信越放送)

 質問への回答について
 
 8月1日付でご質問いただいた内容について、以下の通り回答させていただきます。(質問内容は略させていただきます)。

質問1について
記者クラブとして、事実関係を把握する立場にありません。

質問2について
田中知事が「脱・記者クラブ」宣言を出した2001年5月15日以降では、県政記者クラブとして同年5月22日に、知事が会見をクラブ側との協議なく、県主催としたことに対する「抗議と申し入れ」の文書を提出しています。

質問3について
2002年1月に新聞協会の新たな見解が出たことを踏まえ、宣言やセンターの現状をどう考えるか、クラブ制度のあり方について引き続き、随時クラブ総会を開き、議論しています。しかし、現時点でクラブとして一致できる新たな見解をまとめるには至っていません。

質問4について
記者クラブとしては「宣言」について県側と合意に至っておらず、現時点で、改装についてクラブとして意見を述べる立場ではないと考えています。

質問5について
クラブとしての「所在地」というものはありません。従来通り幹事社と連絡網を持ち、取材・報道に関する連絡を行っています。

質問6について
個々の社の活動であり、クラブとしては承知しておりません。

質問7,8について
質問3への回答と同じです。

以上です。
 なお、質問をお受けしてから回答までに約2カ月かかってしまったことは大変申し訳なく、おわびいたします。
 私も欧州にいて多忙で、「回答」を公表するのが二ヶ月も遅れてしまった。
 この回答を読んでも分かるが、大手マスコミ企業の記者たちには、「記者クラブ問題」の深刻さと、田中知事の試みの偉大さが全く分かっていない。
 長野の大手メディアの記者の中から一人でも、記者の良心に基づいて、記者クラブ解体への論理と実践を行うジャーナリストが出ることを祈っている。
 長野県の《表現センター》は記者クラブ解体後のイメージとして、普遍性を持つのである。
 キシャクラブ問題ですばらしい本が2000年にPrinceton University Pressから出ている。Closing the Shop: Information Cartels and Japanユs Mass Media by Laurie Freeman. 私の本や記事が引用されている。著者はカリフォルニア大学サンタバーバラ学校の教員。(以上)

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