2002年7月20日
「NHK対講談社」裁判の判決は11・19
  和解協議を拒否、講談社
  NHK受信契約者・浅野健一

  

 NHKと坂本・元NHKジャカルタ元支局長が講談社に対し、1億2000万円など求めて起こした損害賠償請求訴訟は東京地裁(裁判長・春日通良氏、右陪席裁判官・岸日出男氏、左陪席裁判官・塚田扶美氏)で審理され、7月9日に最終弁論があった。また、7月19日に裁判所が二度目の和解協議の場を設けたが、講談社は「NHKが2000年9月4日にニュース7で放送した内容を訂正放送しないかぎり、和解を拒否する」と表明した。裁判所はNHKに講談社の意向を伝えたが、NHKは訂正放送を拒否したため、裁判所は判決日を決めることになり、11月19日午後4時半に判決を言い渡すと伝えた。
 NHKは雑誌の発売日前日の9月4日に提訴、その日の「ニュース7」全国ニュースで、ムクシン氏のVTR画面での「NHK特派員のやらせはなかった」というコメントをもとに、「現代」記事を虚偽と決め付けた。ところが、坂本氏は東京地裁での証言で、ムクシン氏がNHK取材班の一員であったことを明確に認めたうえで、「ムクシン氏から(爆弾を投げた)D氏に金銭が渡ったことを、(本裁判のための現地調査班の一員として)2001年7月に行くまで知らなかった」という衝撃的な事実を明らかにした。提訴の10カ月後に初めて、漁民に金が渡っているのを知って驚いたというのだ。これにより、NHKは実に杜撰な「調査」をもとに講談社を提訴したことが明らかになった。
 ムクシン氏とD氏に「金銭授受」について聞くこともなく、調査を終えて、提訴に踏み切ったのだから、提訴自体が荒唐無稽である。
 NHKは、最終弁論で、すべて悪いのはインドネシア人で、坂本氏は金銭授受を知らなかったという論理だった。後は重箱の隅をつつくような指摘だけだ。特にフランス氏がNHKに解雇されたことを恨み、NHKからお金を取るために、私に「やらせ」問題を伝えたいうのだ。また、私のインドネシアでの取材が杜撰で、実際に聞いてもいないことを書く才能の持ち主であるなどと私の人格を中傷している。悪意に満ちた形容詞の乱発である。喜田村洋一、梅田康宏両弁護士は最後の一線を超えてしまった。
 フランス氏が「やらせ」について1997年9月にスマトラ島メダンで佐藤国際部長に直訴したことについて、佐藤氏は「聞いていない」という虚偽の陳述書を6月初めに出しているが、最終弁論でもこの陳述書を根拠にして、フランス氏をウソつきと糾弾している。佐藤氏はなぜ反対尋問にさらされない時期に、この陳述書を出したのか不思議だ。佐藤部長は2000年8月末から9月の「調査」の責任者も務めており、証人になるべきであった。
 フランス氏の不当解雇問題で、NHKジャカルタ支局の顧問弁護士は、「示談」を求めて必死だ。しかし、フランス氏は労働省ジャカルタ当局での解決を求めている。

 講談社側は本件記事が調査報道に基づく問題提起であり、坂本氏が全権を握るNHK取材班がが「やらせ」撮影したことを100%証明できたと思っています。
 「現代」の記事では書いていない「50万円ルピア」の現金授与など、この裁判の中で、NHKによる「やらせ」がより深刻であり、民事裁判制度を悪用して「やらせ」を組織をあげて隠蔽しようとするNHKの封建的、反市民的体質が明らかになったと思う。

 テレビ東京(本社・東京都港区)の窃盗団報道問題について、NHKの海老沢勝二会長は4日の定例会見で、「私が被害者なら訴える」などとテレビ東京を激しく非難した。取材した放送担当記者らによると、海老沢会長はかんかんになっていたということだ。経過は次のようだ。
 7月4日の毎日新聞に中島みゆき記者が書いたところによると、海老沢勝二会長は4日の定例会見で、「我々ジャーナリストは事実を追及し、事実を曲げずに報道するという倫理観に基づいて視聴者の信頼を得ている。公共性と重い責任を負ったジャーナリストとして基本的な姿勢を疑わざるを得ない」と厳しく批判し、放送業界として倫理綱領の徹底を図る必要性を強調した。
 海老沢会長はさらに「情報提供者がどういう人間か調べるのは取材の基本。犯罪を起こす者に金を渡したことは、共犯と言われても仕方ない」と述べ、「今回は強盗殺人事件になるおそれもあった。私が被害者なら怒って訴える」と語気を強めた。 
 海老沢会長は、「現代」裁判でNHKの取材協力者M氏(国立大学職員)が東京地裁で、「やらせ爆弾漁撮影」の準備(未遂)のために50万ルピアを漁民C氏に渡し、また撮影現場でD氏には5万ルピアを手渡した事実を認めたことを知らないのであろうか。また坂本・元ジャカルタ支局長も、2001年7月に、現金授受を知ったと証言した。
 3月5日の口頭弁論におけるM氏と講談社代理人とのやりとりは次のようだった。
 《的場徹弁護士 あなたがお金を払わなければ、Dさんは爆弾を投げたのか。
 M氏 撮影はさせなかったと思う。2万五〇〇〇ルピア(払うこと)が大変必要な条件だった。(略)
 的場氏 あなたは爆弾漁法を撮影した当時、頼める漁師はどれだけいたのか。
 M氏 Cしか居なかった。
 的場氏 坂本さんから渡された(爆弾製作段階からのやらせ用の)金は何のためのお金だと言われたか。 また、誰からもらったのか。
 M氏 爆弾漁法のやらせのためのもので、直接坂本さんから渡された。
 的場氏 八月一八日の話では、どんなことが決まっていたか。
 ムクシン NHKがクンダリから帰ってきてから撮影する、爆弾はバランロンポ島で作る、投げる場所 は決めていなかった。(略)
 的場氏 坂本氏は「取材謝礼の一部を漁師への謝礼に回したら困る」とあなたに言ったと言われるが、 本当か。
 M氏 それは聞いたことはない。(略)
 的場氏 Dとの交渉はどのくらいかかったか。その場面を坂本氏は見ていたか。
 M氏 交渉はほんの僅かで、坂本氏は見ていた。
 的場氏 再度聞くが、なぜお金が必要だったか。
 M氏 撮影するためには必ずお金が必要だ。(略)
 的場氏 NHKの要求を満たして撮影したわけですね。
 M氏 そうです。

 
 坂本NHK元支局長がは5月7日の尋問で、D氏への現金授与を確認し、「やらせ」を認めた。
 坂本氏は「ムクシン氏から(爆弾を投げた)漁民D氏に金銭が渡ったことを2001年7月まで知らなかった」が、そのときの調査で初めて知って驚愕したというのだ。月刊「現代」発売日の前日の提訴、及びニュース7(いずれも2000年9月4日)での報道は、ムクシン氏のまともな証言(金銭の授受があったかどうかを聞いていない)をもとにしていない」ことが明白になった。
 「あなた方は金銭授受の事実確認もしないで提訴したのか」という講談社代理人の的場徹弁護士の厳しい追及に、明確に答えられなかった。NHKは提訴前に調査団を派遣、提訴後も約3週間ムクシン氏の自宅周辺などにはりついている。佐藤国際部長がキャップ格だった。その後、NHK職員の梅田弁護士も現地に出向いている。

 我々は、NHKに対して、常習犯の泥棒がいるとして、その人たちにお金を渡して泥棒をやってもらい、それを撮影したのと同じではないかと言ってきた。「現代」2000年11月号(「やらせ」を報じた10月号に次ぐ第二弾)でも、そのように書いている。
 今回のテレビ東京のケースは、まさにその通りの出来事だった。
 海老沢会長は自分たちが起こした裁判の現状を知らないのだろうか。知ったうえで、「被害者なら訴える」などと言ったのだろうか。どちらにしろ、よくそんなことが言えるものだ呆れる。
 NHKが現金を渡して撮影した爆弾漁で、2回爆弾が炸裂している。膨大な面積のサンゴ礁が破壊された。現地の漁民や住民はNHKを訴えるべきであろう。またNHKは警察に通報してD氏に爆弾漁をやめさせるべきだ。梅田弁護士のインタビュー(2002年6月初め提出)では、D氏は「サンゴ礁のないところを選んで今も爆弾漁を続けている」という。「取材提供者」がどういう人間か調べるのは取材の基本であり、犯罪を起こす者に金を渡したことは、共犯と言われても仕方ない。
 NHKはいますぐインドネシアの捜査当局に、違法行為について通報すべきである。テレビ東京よりも「公共性と重い責任」を負っているのだから。

 NHKは本裁判の過程で、フランス氏、マディニ氏という長くNHKジャカルタ支局で働いた人たちを誹謗中傷し名誉を棄損した。NHK当局は二人に一度も事情聴取もしていない。坂本氏とムクシン氏の話だけを鵜呑みにしているのだ。これでは真相が解明されるはずがない。
 NHKの2000年9月4日のニュース7の放送は、講談社に対する名誉棄損である。また、法廷に出された喜田村(NHKの顧問らしい)、梅田両弁護士による文書と法廷での尋問には、数えきれないほどのウソと名誉棄損がある。両弁護士の弁護士倫理も問われよう。
 NHKは訴訟の取り下げと「ニュース7」での訂正放送を直ちに行うべきである。

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