2004年3月15日

浅野健一から近況報告

 

すっかり春めいてきました。
久しぶりの近況報告です。
 
2004年4月1日から、新聞学専攻はメディア学専攻と名称を変更します。05年4月1日からは、社会学部メディア学科になります。現在の文学部社会学科と文学部文化学科教育学専攻が一緒になって社会学部に再編されるのです。
 社会学部は政策学部と共に、今出川校地の新町キャンパスに新校舎をつくります。メディア学科の教員は8人体制になります。
これに伴い、私の研究室も8月、今の弘風館から、新町校舎の南の研究室棟、渓水館に移ります。
大学院も社会学研究科メディア学専攻博士課程(前期・後期)となります。
メディア学科と名前は変わっても、ジャーナリズムのあり方を、国際的な視点を忘れずに追究していきたいと思います。4月に浅野ゼミ出身者、講義受講生が多数、大学院新聞学専攻に入学します。
京田辺キャンパスの1・2回生のゼミも担当します。
04年度を新たな気持ちで、スタートします。以下は、最近の私の動きです。
*同志社高校で講演
2月19日、同志社高校の教職員組合で、イラク問題に関する学習会の講師を務めた。同志社高校一年生の生徒が、同校の新聞に載せるため、私にインタビューに来た。しっかりした高校生で、イラク侵略戦争について真剣に考えている。
日本と朝鮮半島の友好を考える京都学生シンポジウム結交通信使(ゆうこうメッセンジャー)from KYOTO(主催=同実行委員会)が2月21、22の両日、京都大学で行われた。
在日朝鮮人学生と日本人学生、韓国人留学生、一般参加者、関係者ら約300人が参加した。
私は分科会E「東アジアの平和をどう実現するのかU」の講師を務めた。1日目の夜には交流レセプションや討論会が行われた。
 このほか大阪府岸和田市、茨城県龍ヶ崎市などでも講演した。
2月18日、W杯一次予選、日本VSオマーンを埼玉で見た。フランス大会から、在日韓国人と一緒に日韓両チームを応援する市民グループ「KJクラブ」に入っており、チケットが手に入った。
姜誠(カン・ソン)さんが『越境人たち 六月の祭り』(集英社)を出した。すばらしい本だ。在日朝鮮人と日本人でW杯を一緒に応援するためフランスへ一緒に行ったときに知り合った。姜さんは同志社でゲスト講義してくれたこともある。
*ソウルで調査
2月24日から28日までソウルに滞在して、韓国から日朝関係を眺めることができた。ソウルの主要新聞やテレビは、朝鮮が「核問題」などで誠実に対応していることを評価し、6者間での対話の継続を歓迎している。
 韓国旅行の目的は、米ポートランドでの国際学会の準備が主だった。そのほか、韓国の市民が株主になって1988年につくったハンギョレ新聞の現状と、台頭するインターネット新聞のオーマイニュース、プレシアンの調査を行った。取材した記者たちに、日本の対朝鮮政策について聞いてみた。
 同志社の院入学予定の二人(うち一人は韓国からの留学生)が同行してくれた。
 ハンギョレは伊藤千尋さん(近く朝日LA支局長を終え外報部へ戻られます)が前に岩波ブックレットで書いたあとの展開を書こうと思っている。
 
また、韓国で、中央官庁の「記者クラブ制度」(日本の占領時代の遺物)が日本の長野方式で廃止されたことを調査した。崩壊する韓国のキシャクラブをEU対新聞協会のこともまじえて、近く書きたい。
ハンギョレ新聞の金孝淳編集局長(元東京支局長)は朝鮮による日本人拉致について、次のように語った。
《拉致問題によって、より重要な日朝国交正常化が見送られているのは非常に遺憾だ。日本の革新勢力が力をなくして、日本全体が保守的な傾向になっているのに、日本の新聞がそういうことを取り上げるのが少なくなっているのも遺憾だ。拉致被害者と家族の痛みは理解しているが、それと同時に、昔、日本によって強制連行された朝鮮の人たちの問題も同じように重要だ。
 日朝国交正常化ができない限りは、本当の意味で日本の過去を清算できないし、東アジアの平和と連帯も実現できないだろう。日本の市民運動や主要報道機関が、そういうことについて積極的に扱ってほしい。インターネットで朝日、読売、毎日の主な記事を読んでいる。拉致被害者の痛みや怒りを大きく取り上げているが、戦後補償や戦争責任に関する報道が段々と少なくなっていることを心配している。》
金局長は75年に起きた民青学連事件で逮捕され、軍事政権によって不当にも四年間投獄された骨太の記者だ。
韓国では2000年の首脳会談以降、北を脅威と感じる人はほとんどいなくなった。経済交流、人的交流がすすんでいるからだ。
拉致問題は、日本で、日朝問題のすべてになっている。小泉首相が平壌を訪問したときの気持ちを思い出してほしい。すべては、日本が過去の問題を清算してからだ》
韓国の民衆が北に対する情緒的な反感を克服した背景には、真実を伝え、社会を啓蒙する真摯なジャーナリストたちの努力があった。
ソウルではNHKの衛星テレビとインターネットで日本の主要紙の記事を読むことができたが、相も変わらず、朝鮮を特殊な国家と決め付けて、「拉致問題の解決なくして正常化はない」と絶叫している。日本のメディア企業に依存していると、世界が見えなくなると改めて思った。
ソウルで、日本からの報道で、オウム麻原被告人に対する死刑判決を聞いた。相も変わらぬ《絶対犯人視報道》に怒りを感じた。自分たちが13件の一つ、松本サリン事件で、河野義行さんを犯人視したことへの反省は全くない。
「週刊金曜日」3月5日号と「救援」3月号に、麻原さんへの一審死刑判決報道について書いた。
社会評論社から出した、『「報道加害」の現場を歩く』が2月末、増刷になった。読者から手紙やメールがたくさん来ている。
 
*米ポートランドで韓米日の研究者でシンポ
ソウルから戻った翌日の2月29日、再び成田から米ポートランドへ飛んだ。ICUのCOE研究、「日本による朝鮮の植民地法制」研究のシンポがポートランド州立大学であり、そこで、メディアについて発表した。会場から多くの質問があった。
COEの研究ではICUの笹川紀勝教授らと共に研究している。
韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が3月1日、「三一節」記念式典のあいさつで、「我が国民の心を傷つける発言をしてはならない」と述べ、小泉首相の靖国神社参拝を批判したのは、大きなニュースだ。24〜28日に韓国で取材したので、この発言の意味がよくわかる。小泉の「反論」が全く無責任だ。
小泉首相の〇一年八月一三日の靖国神社参拝は「憲法の定める政教分離原則に反する」として、旧日本軍人・軍属の遺族ら計六三一人が国と首相、靖国神社を相手に、一人あたり一万円の損害賠償を求めた訴訟で、村岡寛裁判長は、2月27日、「内閣総理大臣の資格で行われた」と指摘し、首相の職務としての公的な参拝だったとの見方を明確に示した。憲法の政教分離原則の判断には踏み込まず、賠償請求は棄却したが、首相の靖国参拝が公的行為であると認定したのである。
小泉首相は、大阪地裁判決を意に介していない。
中国の首相、外相も名指しは避けながらも、首相の靖国参拝を厳しく批判した。
ポートランドは前から行きたかった町だ。SF経由で到着。空港から電車が走っている。片道1ドル60セント。街中の電車、バスは無料だ。消費税もない。NYやLAと違って、人々がゆったりと暮らしていると感じた。
*河野さんに再会
3月6日午後、河野義行さんらとシンポが京都市の主催であった。私もパネリストになった。4回生有志が、河野さんにインタビューした。河野さんの発言は、「DECENCY」9号に掲載している。
 「創」4月号に、防衛庁に白紙委任状を渡したマスコミ企業を批判する記事を10ページ書いた。週刊金曜日2月20日号で書いた誓約書などについて詳しく書いた。イラクで取材したジャーナリストの綿井健陽さんらのコメントもとっている。報道機関の記者がレジスタンス運動に巻き込まれて殺害される危険性が高いようで、本当に心配だ。
 「創」4月号の座談会での魚住昭氏(元共同通信記者)の主張に同感だ。明晰なメディア批判である。
 イラクに派兵された自衛隊が、日の丸、君が代を派手に使っているのに腹が立つ。自衛隊幹部は、戦地に出向き実戦を指揮できるのがうれしくてしかたがないのだろう。防衛大学が人気大学になる日も近いかもしれない。日本軍がスタートした。
*きくちゆみさん講演会
3月18日18時半〜21時、きくちゆみさんの講演会「アメリカ大統領選挙の動向〜平和をつくる旅〜」が同志社大学明徳館1で開かれる。浅野健一ゼミ主催。ぜひ参加をしてほしい。
<講演会内容>
アメリカ大統領選挙に関して、マスメディアがなかなか伝えきれていない部分を取り上げます。
特に、民主党予備選挙に、市民の立場から非戦を訴えて立候補している候補や、アメリカでの平和運動の現状についてお話していただきます。
 
<きくちゆみさん プロフィール>
お茶の水女子大卒
マスコミ、金融界を経て、1990年より環境問題をライフワークに。
9・11事件をきっかけに「グローバルピースキャンペーン」を立ち上げ、16カ国の市民と協力してアメリカ主要紙に反戦・平和の意見広告を発表。
現在、アメリカ各地を訪問し、市民と交流。
訳書は「戦争中毒」(合同出版)「地球と一緒に生きる」(八月書館)
  
6月26日、27日、びわこリトリートで、4大学合同ゼミ合宿を行う予定で準備をすすめている。野中章弘さん(京都精華大学講師)、坂上香さん(京都文教大学)、北原恵さん(甲南大学)と浅野ゼミが合同で行う。
 野田正彰さんとの対談本が京都の晃洋書房から春に出る。野田さんの家で延べ9時間に上る対談をした。
 
*高まるジャーナリズム研究の重要性
 ゼミ9期生の共同研究をまとめた「DECENCY」9号が3月20日に発行される。報道される側の人たち、メディアの人々、識者らから聞き取り調査を重ねたうえで、いい提言をまとめた。報道機関の幹部たちが、学生たちの提言を真摯に受け止めて、メディア改革に生かしてほしい。河野義行さん、山田悦子さんたち報道被害者の人たちが、メディアに実効ある改善を求めている。
 ジャーナリズムの重要性が今ほど高まっているときはないだろう。情報産業ではない、人民のためのジャーナリズムを創出するための同志をつのりたい。


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Copyright (c) 2002, Prof.Asano Ken'ichi's Seminar Last updated 2004.3.15