NY合宿訪問記(2003年9月2日〜5日)
(岩下 裕之 編)

2003年9月。私たち浅野ゼミ三回生4人と、同新聞学専攻三回生1人の合計5人は、今年の共同研究テーマ「米英軍によるイラク攻撃・占領とマス・メディア」の研究活動の一環として、米国ニューヨークを訪れた。

4月からの調査研究で、報道記者や著名人の方々に話を聞き、その中で米国メディアの実状を垣間見ることができた。この共同研究において戦争当事国“米国”での研究・調査は不可欠だ。そこでゼミ生の中から有志を募り、米国ニューヨークを訪問する運びとなった。

4日間の日程で、反戦を訴える独立系メディア『Democracy Now!』、『DCTV(Downtown Community Television Center)』を訪問し、大手企業メディアには属さない報道の実態を調査し、また、数々の戦地を取材し戦争報道のスペシャリストとも呼ぶべき、ニューヨーク・タイムズ記者クリス・ヘッジス氏にインタビューすることができた。

最後に、米国メディアを批評・監視している団体「FAIR(Fairness & Accuracy In Reporting)」を訪問し、今回のイラク戦争における米国メディアの報道について話を聞くことができた。

以下がその報告記である。
米独立系メディア『Democracy Now !』訪問

9月2日。私たち同志社大学新聞学専攻3回生5名の一行は、反戦を訴える米独立系メディア『Democracy Now!』の事務所を訪れ、アンカーであるエイミー・グッドマン氏と、イラク戦争開戦当初、特派員としてイラクで取材にあたっていたジェレミー・スキャヒル氏にインタビューした。

グッドマン氏は9・11同時多発テロ事件以降、ビルの屋根裏部屋を改装して作ったスタジオから、世界に向けて反戦のメッセージを流し続けている。私たちとのインタビューの中で彼女は、メディア、そして右傾化する世界情勢を痛烈に批判した。

 グッドマン氏は、小泉首相がイラク特別措置法を成立させ、イラクに政府調査団を派遣することを決定したことを聞いて、「それは驚くべきことだ。私たちは広島、長崎の原爆式典を現地取材し報道したが、その際、小泉首相は両市長から自衛隊のイラク派兵について批判を受けた。そのため派兵に一時慎重な姿勢を見せていた小泉首相も、米国の圧力により再び派兵の意向を強めている。首相は西側の“よき”政治家のように、金と権力を追い求めている」と批判した。イラク戦争については、「今回のイラク戦争は、世界中の国々の右翼勢力を掌握し、日本の政治の基軸を変えさせる圧力をかけた」と批判した。

一方、今回の戦争で問題となった「embed(埋め込み)」と呼ばれる従軍取材について、「ペンタゴンにとっては大成功だった。従軍取材では、ジャーナリストの生死は軍次第だ。ストックホルム症候群といわれるように、軍隊と行動を共にすることで、一体感を持ってしまう。軍に“embed”するのは公正中立に反している。イラク市民の地域社会に“embed”したほうがいい」と述べた。

 また、今回の戦争でジャーナリストが殺害される事件が相次いでいる事に触れ、「イラク戦争では17人のジャーナリストが殺された。真実を伝えようとする独立系ジャーナリストは殺される危険性があるというメッセージを、米国政府は送っている。独立系ジャーナリストが真実を伝えるには、死を覚悟しなければならない時代になっている」と憂慮を示した

次に、イラク特派員であったスキャヒル氏は、イラク市民生活の実像を取材し、湾岸戦争時から続く厳しい経済制裁の中で、市民の生活が困難を極めていると語った。そして、戦争は「爆弾が落ちてきたから、それが戦争だ。」と安直に考えられるものではなく、そのような経済制裁で市民が苦しめられる実情を含めたもの、そのすべてが戦争状態と言え、イラクは1991年からずっと戦争が続いていると主張した。また、今回の戦争でパレスチナホテルに見られるように、大勢にジャーナリストたちが米軍の砲撃によって死亡したことについて、「米国はこれらをすべて事故だったと言っているが、信じがたいことだ。手当たり次第ジャーナリストを狙った訳ではないだろう。」と述べ、米国の砲撃に意図的な意味が含まれているのではないかと懸念した。そして、「このことはジャーナリストや、ジャーナリストを保護する機関によって非難されるべきである。」と主張した。

エンベッド取材については「ペンタゴンにとって大きな成功をもたらした。」と述べ、ジャーナリストが軍に一体感を持ち、軍に偏った報道をすることを非難した。軍に偏った報道ではなく、イラク市民の生活を伝える、「軍ではなく、イラク市民社会にエンベッドする」ことが重要だと語った。

米国の大手メディアは9・11事件以降、真実を追究し権力を監視するという役割を放棄してしまっている。その中で『Democracy Now !』は、風潮に流されること無く、政権、そしてメディアを痛烈に批判し続けている。それは簡単なことではない。国家の中で愛国的な意見が大勢を占めている時、それに疑義をはさむということは、それだけ多くの批判や嫌がらせを受けるということを意味する。だが、それでも真実を追究する姿勢にグッドマン氏や、スキャヒル氏のジャーナリストとしての信念の強さや良心の深さを感じさせられる。
米国では近年テレビ、ラジオの規制緩和に伴い、複合産業体によるメディアの買収・統合の動きが目覚しい。世界中でメディアの買収に奔走するルパード・マードック氏のFOX TVなどがその好例だ。だが、それでも米国のメディアの数は日本とは比べものにならないほど多い。すなわち市民の“声”の発信が日本よりもはるかに容易であり、良心的なジャーナリストが活躍の場を与えられる。『Democracy Now !』でのインタビューは、米国の民主主義の深さ、日本には無いメディアの多様性を痛感させられるものだった。
(亀谷 亮介)
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