2003年12月16日
浅野健一
いくつかお知らせです。
☆出版のお知らせ
『「報道加害」の現場を歩く』(社会評論社)が12月16日できあがりました。350ページ、2300円です。12月26日ごろから書店に並びます。「犯罪報道の犯罪」の現場からのリポートです。表紙のカバーや扉もいいです。
あとがきに、イラクでの日本国外交官二人の殺害事件、自衛隊のイラク派兵についても書いています。
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編集担当;新孝一さん
図書出版 社会評論社
〒113-0033 東京都文京区本郷2-3-10
お茶の水ビル
tel.03-3814-3861/fax.03-3818-2808 e-mail:shin@shahyo.com
http://www.shahyo.com
ぜひお読みください。PRもお願いします。
☆野中章弘さん&天木直人さん講演会
12月9日の山口正紀さん講演会(浅野ゼミ主催)は60人が参加し、すばらしい講演会でした。「ナショナリズムとメディア」というテーマで、学生や市民は熱心に耳を傾けていました。読売新聞を12月末に退社するに当たっての思いも話してくれました。講演内容は、HPなどで公表します。
前にもこのHPでご案内しましたが、12月18日に浅野ゼミ主催と協賛の講演会があります。偶然、同じ日の午前と夜になりました。いずれも同志社大学今出川校地です。
1 野中章弘さん講演会
12月18日午前10時45分から12時30分、同志社大学今出川校地至誠館4番教室(S4)で野中章弘(アジアプレスインターナショナル代表)がゲスト講義。浅野ゼミ主催で公開講演会。
演題は「メディアは戦争をどう伝えたか?−アフガニスタン、イラクの事実から−」。
野中さんは、マスメディア企業に属さない新しい独立系のジャーナリズムを立ち上げようと、87年にアジアプレスを立ち上げられてから、一貫して戦争報道の真実について追求されてきた方です。
野中章弘(のなか・あきひろ)氏略歴
1953年、兵庫県出身。ジャーナリスト、プロデューサー。
アジアプレス・インターナショナル代表。関西学院大学経済学部卒業。
現在、東京大学、千葉大学、目白大学、早稲田大学非常勤講師。
03年度朝日新聞紙面審議会委員。
日系アメリカ人、インドシナ難民、アフガニスタン内戦、エチオピアの飢餓、台湾人元日本兵、カンボジア紛争、ビルマの少数民族問題、タイのエイズ問題、チベット、東ティモール独立闘争、アフガニスタン侵攻、朝鮮半島問題などを、新聞、雑誌、テレビなどで発表。
87年、報道規制の厳しいアジアのジャーナリストのネットワークであるアジアプレス・インターナショナルを設立。
編著書に『沈黙と微笑』(創樹社)、『粋と絆』(神田ルネッサンス出版部)、『アジアTV革命』(三田出版会)、『アジア大道曼陀羅』(現代書館)、『ビデオ・ジャーナリズム入門』(はる書房)、『メディアが変えるアジア』(岩波ブックレット)、『アジアのビデオジャーナリストたち』(はる書房)など。
また90年より、小型ビデオを使うビデオ・ジャーナリズム(VJ)の手法によるニュースリポートやドキュメンタリーを制作・プロデュース。チベット、東ティモールなどNHK、朝日ニュースター、MXテレビを中心に発表本数は200本を超える。
2003年12月からは、「アジアからの情報発信」を掲げるブロードバンド対応の新しいウェブ・マガジン「アジアプレス・ネットワーク(APN)」編集長。
2 天木直人さん講演会
12月18日午後6時30分〜9時、同志社大学今出川校地寧静館31で天木直人・前レバノン大使が講演。「きょうとネット」と浅野ゼミなどの共催。
以下は、学生たちがつくったポスターなどの案内です。参考にしてください。
★03/12/18 (61KB)
野中章弘さん:ポスター (編集:浅野ゼミ)
http://www.egroups.co.jp/files/memo-kyo/koushi/031218nonaka_2.doc
両面印刷フライヤーのデータは以下のURLにあります。
★03/12/18 (54KB) 野中章弘さん:フライヤー(初版) (編集・島原)
http://www.egroups.co.jp/files/memo-kyo/koushi/031218nonaka_1.doc
★03/12/18 (222KB) 天木直人さん:フライヤー (提供:「きょうとネット」)
http://www.egroups.co.jp/files/memo-kyo/031218flier.pdf
以上の講演会について、朝日新聞が京都府版で、《イラクの現状考える 同志社大18日 野中章弘さんら講演》という見出しで、次のように書いてくれました。
《アフガニスタンやイラクの現状を取材しているフリージャーナリスト集団「アジアプレス・インターナショナル」の代表、野中章弘さんの講演会が、18日午前10時45分から上京区の同志社大学今出川キャンパス至誠館4番教室で開かれる。
タイトルは「戦争報道を検証する〜アフガン・イラクで伝えられなかったこと」。野中さんはインドシナ難民やカンボジア紛争に関しても、現地取材の成果を発表してきた。現在、朝日新聞紙面審議会(第13面)の委員。主催は同志社大学文学部社会学科新聞学専攻浅野健一ゼミ。無料。問い合わせは浅野さんのメール(asanokenichi@nifty.com)へ。
◇
「さらば外務省!」(講談社)の著者で、小泉政権の対イラク政策を批判して8月に外務省を退職した前レバノン大使の天木直人さんの講演会「なぜ私はイラク戦争に反対したのか」が、18日午後6時50分から同志社大学今出川キャンパス寧静館31教室である。
市民団体、労働組合などで11日に結成された「STOP!イラク派兵・京都」の主催。無料。問い合わせは京都YMCA気付の服部さん(ファックス075・251・0970)へ。》
☆
PCC委員インタビュー記事が「潮」に
12月5日に発行された「潮」2004年1月号に、英国の報道苦情委員会(PCC)プライバシー担当メンバーのロバート・ピンカー・ロンドン大学名誉教授のインタビューが載りました。「インタビューを終えて」というタイトルで、私は日本にメディア責任制度を設立しようという呼びかけをしています。ぜひお読みください。
人権と犯罪報道の問題をかつて書かせてくれた「世界」「マスコミ市民」「法学セミナー」「ジュリスト」などは、私に一切書かせてくれません。編集責任者らの個人的判断もその背景にあるようです。ジャーナリズム関係の企画を持ち込んでもずっと断られています。かつて私の本を出した明石書店も同じです。その他の保守的な出版社などのメディア企業はもちろん、主要な新聞・通信社も私に原稿を頼んできません。
「凶悪事件」の少年も実名にとか、メディア責任制度をいまつくるのは危険だ、などと言っている文化人はひっぱりだこです。
8月の朝鮮ルポは沖縄タイムスが3回連載で掲載してくれました。昨年は記者クラブ問題を「週刊プレーボーイ」が書かせてくれました。マスメディア企業による、報道加害という《公害》問題について、私に書く場を与えてくれる編集者に感謝します。
日本に報道評議会を中心とするメディア責任制度をという主張を、大マスコミは黙殺しています。
“リベラル”メディアの多くが、報道加害を取り上げません。報道のあり方について、もっと取り上げろという大運動を起こしてほしいと思います。日本が憲法蹂躙の情けない国になった責任の一端がメディア企業にあります。メディア・ウオッチを強めましょう。
☆EUの記者クラブ廃止要求を《「誤解」「偏見」「事実誤認」》と非難した日本新聞協会
朝日新聞が12月10日、次のように報じました。
《「記者クラブ制度を廃止することにより、情報の自由貿易にかかわる制限を取り除く」として欧州連合(EU)が日本政府に対して日本国内の記者クラブ制度を廃止するよう求めている問題で、日本新聞協会は12月10日、「歴史的背景から生まれた記者クラブ制度は、現在も『知る権利』の代行機関として十分に機能しており、廃止する必要は全くない」との見解を公表した。
EUの要求は02年と今年10月に提出された「日本の規制改革に関するEU優先提案」に盛り込まれた。
新聞協会の見解では(1)情報公開に消極的だった議会や行政に対し、記者クラブは結束して情報公開を迫る役割を100余年にわたって担ってきた(2)誘拐事件の際の報道協定や、大事件・事故の当事者への取材・報道被害防止などを担っている(3)市民や市民団体が気軽にメディアにアクセスし、情報を提供できる場となってきた、などと説明。「多数の記者クラブは外国報道機関に門戸を開放している」としている。》
この見解は桂敬一、田島泰彦両氏らメディア擁護文化人や新聞記者たちの一部にある記者クラブ擁護論をそのまま引き写しにした内容です。私はいまだに日本の記者クラブに入れません。警視庁、宮内庁、放送記者会(NHK)に入会申請を送りましたが、回答もないのです。
新聞協会の見解は新聞協会のHP(http://www.pressnet.or.jp/)に載っています。「記者クラブ廃止EU提案に対する見解」は、「社団法人日本新聞協会 記者クラブ問題検討小委員会」がまとめたということです。
《その歴史的背景から生まれた日本の記者クラブ制度は、現在も『知る権利』の代行機関として十分有効に機能しており、廃止する必要は全くないと考える−これが小委員会メンバーの一致した意見でした。》
《日本の記者クラブは、情報公開に消極的だった議会や行政といった公的機関に対し結束して情報公開を迫るという役割を、100年余にわたって担ってきた。現代においても言論・報道の自由と国民の知る権利を保障するため記者クラブの存在意義にいささかも変化はない。》
《記者クラブ組織が置かれている取材対象は公共性の高い機関が多い。そこでの記者活動は「公」と「民」を結ぶパイプの役割も果たしており、それは決して「日本のマスコミはお役所の広報紙になっている」といった批判を受ける形態のものではない。我々の視点は常に読者・視聴者の側にあり、公的機関に対しては遠慮なく批判、提言している。記者クラブ制度は、権力に迎合せず、国民の「知る権利」に応えるための横断的な組織であり、日本のジャーナリズムが構築した権力監視の対応策である。記者クラブは「社会全般が得られる情報の質」の向上に深く寄与しており、メディア及びジャーナリストがその責務を果たす上で欠かせない役割を持っている。
それぞれの国には、それぞれの歴史的背景を持つ取材上の組織、ルールがある。日本の記者クラブも我が国の歴史から生まれ、発展したものである。EU提案は、そうした背景への理解が不足しており、「誤解」と「偏見」「事実誤認」に基づいたものと言わざるを得ない。》
欧州連合(EU)欧州委員会は2002年11月25日に東京で開かれた日本政府との「日・EU規制改革対話」で、日本の「記者クラブ」制度は外国の報道機関を不当に差別しているなどとして改善を求め、今年も同じ提案をしています。提案は二つです。(これも新聞協会のHPで読めます)
《a. 外国報道機関特派員に発行されている外務省記者証を、日本の公的機関が主催する報道行事への認可証として認め、国内記者と平等の立場でのアクセスを可能にすること。
b. 記者クラブ制度を廃止することにより、情報の自由貿易に係る制限を取り除くこと。》
EUが規制改革の対象として記者クラブ制度を取り上げたのは初めて。日本の外務省発行の記者証を持つジャーナリストには公的機関での取材をすべて開放し、記者クラブ制度を廃止すべきだと主張しました。
ロンドンで昨年10月に会ったロイター通信の幹部は、「日本と韓国の記者クラブ制度は情報の自由な流れを阻害している」と指摘していました。記者クラブの悪名は世界中に広がってきています。
今回の新聞協会の見解は、記者クラブの実態を全く無視したたわごととしか言いようがないものです。EUの意見表明を、《「誤解」と「偏見」「事実誤認」》とまで誹謗するのは犯罪的です。EUは到底納得しないでしょう。
「誤解」と「偏見」「事実誤認」に基づいているのは、日本新聞協会ではないでしょうか。
今こそ、田中康夫長野県知事の勇敢なる記者クラブ解体・表現センター設置を全国各地の官庁、自治体、政党、大企業などに広げていくべきです。
現在の《記者クラブ》が日本帝国主義のメディア統制時代に完成し、GHQが天皇制と共に戦後も存置したという歴史も隠蔽し、情報公開の役割を《100余年にわたって担ってきた》とまで言うにいたっては、呆れてしまいます。
新聞各社の幹部は、鈴木和枝さんやLaurie Freemanさんの論文を読んでほしいと思います。同志社大学人文学会「評論社会科学」70号の拙稿《田中康夫知事の「脱・記者クラブ」宣言と「表現センター」の意義》を参照してください。
☆田島教授は少年法を廃止しろと言うのか
朝日新聞は12月16日、《新聞・放送「各社が判断」 少年の凶悪犯罪で公開捜査 突然の発表、対応策まだ》という見出し記事を載せた。リードは次のようだった。
《凶悪事件を起こした容疑者が少年であっても、逃亡するなどして逮捕されず、犯罪を重ねる恐れがある場合は、14歳以上なら氏名や写真を公開して捜査できる――警察庁が11日、全国の警察に通達したこの方針の契機となったのは、3年前に岡山県で起きた高校生による5人殺傷事件だった。現実の事態となったら、実名や写真を報道すべきか。少年犯罪の深刻化が言われる中で、警察がメディアに球を投げ込んだ形だ。》
記事の最後に、《◆主体的な判断を――田島泰彦・上智大教授(メディア法)》という談話記事があった。
《少年法61条に関する新聞協会の見解でも、例外の場合を示している。「少年の身元が分かるような報道は絶対に許されない」という解釈は、言論の自由を定めた憲法21条に照らして問題が出てくる。殺人などの重大事件を起こした少年が逃亡し、再犯の恐れが強いという厳格な要件のもとで、実名や写真の報道も許されると考えるべきだ。ただ、公権力が公開してもメディアはただ従うのではなく、あくまで主体的に判断すべきだ。》
田島氏は一一月一四日の毎日新聞の《「開かれた新聞」委員会から》の記事でも、長崎の幼児転落死事件について次のように述べている。
《今回の事件で新聞をはじめとする報道機関に求められたのは、関係者の人権やプライバシーなどに配慮しつつ、事件がなぜ起きたのか、このような事件の再発を防ぐために社会はどうすべきか、など事件の本質や背景を深く掘り下げ、読者が考える豊かな素材を提供することだ。その前提となるのは何よりも、事件の真相をできる限り正確に伝えることである。家裁の決定理由要旨でも重視されているように、性器への暴行は事件を理解する上で逸してならない重要な事実であったと考える。関係者への配慮を考えてもなお、きちんと伝えるべきだったと思う。
新聞社はある時点で性器への暴行という事実を把握していたと考えられる。家裁が事実を明らかにした後でしか、これを伝えられなかったというのでは、報道機関の見識と主体性が問われるのではないか。
また、少年法が定める過度に厳格な審判非公開と被疑少年特定禁止規定や警察の情報規制などにより、取材や報道が不当に制約される現状を批判的に検討すべきだ。今回も、密室的な制度・運用に加え、メディアの過剰な自己規制の雰囲気などの中で、重要な事実の報道が妨げられることになったのではないか》
田島教授の主張は結局、少年法をなくせというに等しい。国連の《子どもの権利条約》からも脱退せよと言うのだろうか。少年の匿名原則は少年法をそのまま適用したものではなく、あくまで報道界の自主規制である。新潮社の雑誌がたまに実名報道するほかは、仮名原則を守っている。
12月13日、長崎で会った少年の付添人だった弁護士も、田島氏らの「情報公開」論を「非行少年の将来の更生を考えない暴論」と強く批判していた。
朝日、毎日が田島氏らの暴論を自社の見解なしに載せることに強い疑問を感じる。