2004年5月12日
NHK「やらせ爆弾漁法」訴訟
東京高裁で講談社と和解成立
浅野健一
(3月15日に掲載した記事を一部差し替え、加筆しました)
月刊誌「現代」2000年10月号に掲載された「NHKジャカルタ支局長が犯した『やらせ』報道が発覚」というタイトルの記事で名誉を傷つけられたとして、NHKと坂本・元ジャカルタ支局長が発行元の講談社に1億2000万円の損害賠償と謝罪広告を求めていた訴訟で、3月2日、東京高裁(鬼頭季郎裁判長)で和解が成立した。
この和解においてNHKが同記事について、正当な調査報道だったことを認め、一審判決で獲得していた賠償と謝罪広告を放棄した点は、高く評価できる。しかし、《記事中、坂本が爆弾漁法の「撮影前に」自ら漁師に対して金銭の支払いを約束したと記述した部分には、疑惑の指摘を超えて断定的に事実を伝えたと認められる点において真実でないことを認め》て、謝意を表明したことには違和感が残る。「謝意」というのは、聞きなれない言葉だ。
一審のあのひどい裁判官でなければ、間違いなく講談社が勝っていた裁判だと思う。
あのでたらめな一審判決でさえ、(1)NHKが撮影した爆弾漁は、NHKの現地コーディネーターと漁師の間で、爆弾の材料費を支払うとの約束のもとに行われた(2)元特派員は漁師への金銭支払いを知り、または知ることができた―と認定。《撮影直前にコーディネーターと漁師が話した後、爆弾漁が行われており、元特派員は漁師に金銭が支払われることを知ることができたのに、あえて撮影を行った。現にコーディネーターから漁師に金銭が支払われたことも、元特派員は容易に知り得たはずで、取材方法や撮影責任者として問題があった。》と述べていた。
一審判決は、元特派員の積極関与を裏付ける的確な証拠がないと判断したのだった。
このような点において不満は残るが、裁判というものは相手のあるもので、講談社が裁判長の和解案を受け入れて、ある程度の妥協をしたのも理解できる。被告は講談社だから、私にはどうしようもない。
NHKは一審判決当日の午後七時のニュースで、東京地裁が講談社に損害賠償の支払いなどを命じたことだけを伝え、判決がNHKの取材にも「問題があった」としたことには一切触れなかった。判決がNHKの撮影の不自然さを指摘、「やらせ行為」を事実上認定したのに、NHKは「取材に問題はなかった」とした。講談社と「やらせ」を告発した元ジャカルタ支局員(一時は支局長代行)フランス氏の名誉を毀損する放送を繰り返した。また、NHK代理人の喜田村洋一弁護士らは、ジャーナリストとしての私を中傷する文書をいくつも提出し、法廷でも私の名誉を毀損する発言を繰り返した。
NHKは受信料を不当に使って、最高裁まで争うことができる。そもそも本訴訟は、坂本氏の名誉を守ることが問題ではなく、海老沢勝二会長を頂点とする小泉極右政権の大本営報道を続ける極右放送体制を擁護するために起こされた。
NHKは米英のイラク強制占領に参戦した自衛隊について報道する際、「イラクで人道支援活動に当たる」とか「イラクの復興を支援する」という枕詞を使っている。NHKの日本軍イラク派兵に関する偏向報道はまさに戦争扇動の国際法・憲法違反の報道である。
海老沢会長は一年前の国会で、NHKのイラク戦争報道は偏向しているのではないかと反対党議員に聞かれて、「NHKのイラク報道は世界で最も公平だと考えている」と言い放った。
「拉致」問題では、A級戦犯の岸信介元首相の孫で、極右カルト信者、安倍晋三自民党幹事長の広報・宣伝を第一に考えている。
世界の人権と平和を破壊するプロパガンダ放送局、NHKの問題点を追及する調査報道を続けていきたい。
和解条項の全文は以下の通り。
[1 控訴人らは、被控訴人らに対し、控訴人株式会社講談社発行の月刊誌「現代」2000年10月号に掲載されたNHKジャカルタ支局の爆弾漁法の撮影収録行為における問題を取り上げた調査報道記事が、この撮影収録行為が「やらせ」ではないかという疑惑を報じその真相の究明を訴える目的の報道であったこと、しかしながら、同記事中、被控訴人坂本務が爆弾漁法の「撮影前に」自ら漁師に対して金銭の支払いを約束したと記述した部分には、疑惑の指摘を超えて断定的に事実を伝えたと認められる点において真実でないことを認め、この点について謝意を表する。
2 被控訴人らは、その余の請求を放棄する。
3 控訴人らと被控訴人らは、控訴人らと被控訴人らとの間には、本和解条項に定めるほか他に何らの債権債務関係のないことを相互に確認する。
4 訴訟費用は第1、2審とも各自の負担とする。]
講談社広報室は3月2日、和解について次のようなコメントを発表した。
「1審判決では当社に対し「『訂正とお詫び』記事掲載と、計400万円の損害賠償金支払い」が命じられていたが、それが完全に取り消された形で合意が成立した。控訴審では、当社側の主張がほとんど認められての実質的な勝訴であり、「NHKのやらせ」疑惑に関する月刊「現代」の調査・究明記事が一部の表現を除いては、正当なものであったことを裁判所が認定した結果の和解である」
3月2日のNHK「ニュース7」は、一審判決の内容を改めて伝えた後、講談社側が「記事の誤りを認めて謝罪した」と強調して、あたかも「勝った」かのように報じた。NHKの犯罪の繰り返しである。
この日のトップニュースは「イラク聖地で爆発」。この後、イラクでシーア派の宗教行事・アシュラが狙われた事件、浅田農産・鳥インフルエンザ、裁判員制度、佐藤観樹議員関係、西武鉄道、拉致被害者家族のニュースが続いた後、画面の左上に《講談社 「現代」記事》という文字と一緒に「現代」の表紙が移って、下のテロップは「断定的記述真実でない 和解成立」という文字が出た。
アナウンサーが《講談社が出版する月刊誌、「現代」に、NHKが海外の取材でやらせをしたという記事が掲載されたことをめぐり、NHKが、「偽りの記事で著しく名誉を傷つけられた」と訴えていた裁判は、NHKの特派員が撮影の前に漁民に金銭の支払いを約束したと断定的に記述したのは真実でないことを講談社が認め、謝罪することで和解が成立しました》と読み上げた。
「現代」記事の写真が画面に出て、次のようにアナウンスした。
《この裁判は、NHKがインドネシアで行われていた爆発物を海に投げ込んで魚をとる違法な漁法の問題点について平成9年に放送したのに対し、月刊誌の現代が、漁民に事前に金を払うと約束して取材した、「やらせ」だったという内容の記事を掲載したためNHKと当時の特派員が「偽りの記事で著しく名誉を傷つけられた」と訴えていたものです》
次に、東京地裁の一審判決の再の法廷のあたま撮りビデオ映像が映って、テロップには《「`記事の主な部分 真実と認められない」 講談社に謝罪記事と損害賠償命じる》とあった。
《一審は、「記事の主な部分は、真実と認められない」などと指摘して出版した講談社に謝罪記事の掲載と400万円の損害賠償の支払いを命じ、講談社が控訴していました》
続いて、東京高裁前の映像が出て、《「撮影前」漁民に金銭約束 断定的記述で真実でない》《講談社 NHKと当時の特派員に謝罪→和解が成立》というテロップが出た。
《二審の東京高等裁判所は双方に和解を勧告し、話し合いが進められた結果、講談社がNHKの特派員が撮影の前に漁民に金銭の支払いを約束したと断定的に記述したのは真実でないことを認め、NHKと当時の特派員に謝罪することで今日和解が成立しました》
画面に講談社の社屋が映り、《記事が一部の表現のぞいては正当なものだったことを裁判所が認定した結果の和解と理解している》という文字が映った。
《和解について講談社は「記事が一部の表現を除いては正当なものだったことを裁判所が認定した結果の和解であると理解している」という談話を出しました》
最後にNHK放送センターのビルが出て、《今回、講談社自ら真実でないと誤り認めて謝罪したため提訴の目的は達成と判断し和解に応じた》という文字が出た。アナウンサーが
《またNHKは今回講談社が自ら真実でないと誤りを認めて謝罪したため、提訴の目的は達成されたと判断し、和解に応じました。という談話を出しました》と伝えて終わった。
東京高裁の下で双方が合意した和解文が、「現代」記事を、《NHKジャカルタ支局の爆弾漁法の撮影収録行為における問題を取り上げた調査報道記事が、この撮影収録行為が「やらせ」ではないかという疑惑を報じその真相の究明を訴える目的の報道であったこと》と評価していることを全く伝えなかった。また、控訴審で一審の不当判決が事実上破棄されたにもかかわらず、原審判決内容をあたかも有効であるかのように伝えたのは情報操作だ。
NHKは、講談社のコメントを客観的に報じたものの、ほとんどの視聴者は、NHKが勝訴したと誤解したであろう。NHKは再び放送法に違反して虚偽放送を再び行った。公共放送が公共の電波を悪用しての自己正当化。全く懲りない連中だ。
*各メディアはどう報じたか
この和解に関する主要メディアの報道は次のようだった。論評のため引用する。
[▼朝日新聞
月刊誌「現代」の記事で名誉を傷つけられたとして、NHKが発行元の講談社に1億2000万円の損害賠償などを求めていた訴訟の和解が2日、東京高裁(鬼頭季郎裁判長)で成立した。
NHKは97年夏、インドネシアではサンゴ礁の海に爆弾を投げ入れる漁法が行われているとニュースで紹介。これに対し同誌は00年10月号で「金を払って爆弾を投げさせた」と報じたが、和解では「NHK側が事前に金銭の支払いを約束したと断定的に記述した部分は誤りだった」と認めた。一審・東京地裁は、同誌側に400万円の支払いなどを講談社側に命じていたが、和解では、金銭の支払いはなかった。
〈NHK広報局の話〉 真実でないと誤りを認めて謝罪したため、和解に応じた。
〈講談社広報室の話〉 一審の支払い命令が取り消されており実質的な勝訴。やらせ疑惑への調査報道が一部の表現を除いて正当だと認定された。
▼毎日新聞
NHKが97年に放送したインドネシアの「爆弾漁法」のシーンは「やらせだった」と報じた月刊誌「現代」の記事は虚偽だとして、NHK側が発行元の講談社に損害賠償などを求めた訴訟が2日、東京高裁で和解した。講談社は、漁師に金銭の支払いを約束したと記述した部分は真実でないことを認めるなどの内容で和解した。
▼共同通信
「やらせ報道」があったとする記事で名誉を傷つけられたとして、NHKとインドネシアのジャカルタ駐在だった男性職員が、月刊誌「現代」を発行する講談社側に損害賠償などを求めた訴訟は2日、東京高裁(鬼頭季郎裁判長)で和解が成立した。
現代の2000年10月号は、この男性職員が1997年に、インドネシアの地元漁師に金を払って、海に爆弾を投げ込む違法な「爆弾漁法」をさせて撮影し、NHKがニュース番組で放映したと記述した。
両社によると、記事中、職員が撮影前に支払いを約束したとの部分は「疑惑の指摘を超えて断定的に伝えた点において真実ではなかった」として、講談社側が謝罪の意を表すという内容。
NHK広報局は「誤りを認めて謝罪したため和解に応じた」としている。講談社広報室は「一部の表現を除いて記事が正当なものであったことを裁判所が認定した結果の和解だ」とコメントした。
▼時事通信
インドネシアでの取材に「やらせ」があったと報じた月刊誌「現代」の記事が名誉棄損に当たるとして、NHKとカメラマンが発行元の講談社を相手に計1億2000万円の損害賠償などを求めた訴訟の控訴審が2日、講談社側が記事の一部の誤りを認めて謝罪し、NHK側が1審で認められた賠償などを放棄する内容で、東京高裁(鬼頭季郎裁判長)で和解した。]
共同通信と毎日新聞の記事には、NHK側が一審・東京地裁で認められた400万円の賠償と謝罪広告掲載を和解で放棄したことを伝えていない。問題の本質を理解しない記事が多い。
各社の記者は、自分でこの「やらせ」を調べず、裁判の推移だけ取材して、記事を書くからこうなる。
西日本新聞も今回は、長く取材してきた記者たちが東京支社を離れたため、無味乾燥な記事だった。
*NHK「やらせ爆弾漁法」和解までの経緯
東京地裁民事第四五部(裁判長・春日通良氏、右陪席裁判官・岸日出男氏、左陪席裁判官・塚田扶美氏)は03年2月26日午後2時、NHKと坂本・元NHKジャカルタ支局長が月刊「現代」2000年10月号に掲載された坂本「やらせ爆弾漁法」記事を名誉毀損だとして起こした損害賠償請求訴訟で、春日裁判長は講談社に対し、計四百万円の損害賠償支払いと謝罪広告を同誌に掲載するように命じた判決を言い渡した。
月刊現代が2000年9月5日発売号で「NHKジャカルタ支局長が犯した『やらせ』報道が発覚」というタイトルの記事を掲載。NHK取材班が現地漁師に現金を渡す約束を事前にした上で爆弾漁のシーンを撮影、「ダイナマイト漁からサンゴを守れ」と題する特集を放送したと報じた。NHKは「記事は事実でなく名誉棄損」として同年9月4日提訴。
一審判決は判決要旨の中で《元特派員知り得たはず 記事裏付ける証拠なし》という見出しで次のように書いている。
《元特派員は、撮影数日前に現地コーディネーターから、爆弾漁の撮影に金銭を支払うことになる話を聞き、そのための手配を依頼するか、少なくとも積極的な態度を示していた。だが、撮影前日か当日朝、金銭を払えば取材倫理の点で問題があると考え、撮影の中止を申し入れた。
しかし、撮影直前にコーディネーターと漁師が話した後、爆弾漁が行われており、元特派員は漁師に金銭が支払われることを知ることができたのに、あえて撮影を行った。現にコーディネーターから漁師に金銭が支払われたことも、元特派員は容易に知り得たはずで、取材方法や撮影責任者として問題があった。
だが、記事は取材に問題があったというにとどまらず、元特派員が自ら「やらせ」取材を強力に推し進めたと指摘し、元特派員の悪質性を強調している。
このことを証言した現地職員の証言を裏付ける的確な証拠はなく、記事は真実であると信じる相当な理由があったとは認められない。》
一審の東京地裁が「やらせ」を明確に認めながら、爆弾を投げた漁民への金銭支払いに関する記述が書きすぎだなどとして、400万円の賠償と謝罪記事掲載を求める不当な判決を言い渡していた。講談社はただちに控訴していた。
講談社側は東京高裁に、一審判決の問題点を指摘したジャーナリストの斉藤貴夫氏、服部孝章・立教大学教授、橋場義之上智大学教授の意見書を提出した。原寿雄氏は意見書を書くのを断ったという。
*高裁は和解交渉だけ
東京高裁の鬼頭季郎裁判長は、控訴審の一回目の協議から、両者に和解を強く勧告してきた。和解交渉は非公開で進行した。
03年9月以降、数回にわたって和解協議が開かれ、同年一二月には鬼頭裁判長による和解提案も出た。裁判長は、NHKが問題とした「現代」記事(2000年9月5日発売号で「NHKジャカルタ支局長が犯した『やらせ』報道が発覚」というタイトル)は、調査報道というより、《疑惑報道》と言えるのではないかと表明。「判決で、疑惑報道に関しての基準を裁判所が示すことになってもいいのか」という問い掛けを両者にした。
NHKも講談社も日本を代表する報道機関であり、言論の問題は双方の言論で解決すべきだというのが高裁の姿勢のようだった。
04年に入って詰めの和解協議が1月16日、2月3日に行われたが、NHK側が決断しなかった。
NHKが提訴を取り下げることが、「和解」への最も早道で、NHK顧問弁護士の喜田村洋一弁護士がNHK幹部を説得することを期待していた。
03年12月問題になった日テレのやらせについて、12月2日のNHKニュースは次のように報じた。
《視聴率の不正操作が問題になった日本テレビで、今度は夕方のニュース番組で、店で買ったイセエビを漁船の網でとれたように放送していた、いわゆる「やらせ」が発覚しました。日本テレビは関係者を厳重注意の処分にしました。
このニュース番組は、先月5日の午後5時から放送されたニュースプラス1で、「幻のイセエビを探せ」と題して伊豆半島で脱皮してまもないイセエビの漁を紹介する特集を放送しました。日本テレビによりますと漁がうまくいかなかったため、店で買ったイセエビを漁船の網にかかってとれたように伝えていました。これについて日本テレビは、契約している番組制作会社が制作したものだったが、関係者から事情を聞いた結果不適切な演出だったことがわかったとしています。その上で、番組のチェックが甘かったとして、松本正樹報道局長と番組責任者のチーフプロデューサーを厳重注意の処分にしたということです。》
日テレのやらせに比べるとNHKのやらせは悪質だ。
03年2月26日に言い渡された一審判決でも、《取材方法や撮影責任者として問題があった》と述べ、坂本氏の取材、撮影を厳しく批判している。
日テレと坂本氏の「やらせ」のどちらが悪質かは明らかであろう。
今回の和解成立で、「現代」記事の中で、《坂本が爆弾漁法の「撮影前に」自ら漁師に対して金銭の支払いを約束したと記述した部分》以外の記述は真実であることを認めたことになるので、NHKは坂本氏を処分すべきである。
*喜田村洋一氏と「週刊新潮」
「週刊新潮」03年11月27日号の新聞広告に《初公判直前 「辻元清美」が担当弁護士と
「お手々つないで」》という見出しがあったのは知っていたが、その弁護士が、NHKの顧問弁護士、喜田村洋一氏であることは、「噂の真相」の匿名記者座談会の記事で知った。
12月中旬、「週刊新潮」同号のコピーを入手して、記事を見てびっくりした。《ふたりの吉祥寺》という凸版見出しのグラビアが5ページ。記事は3ページある。写真は11月9日午後に撮影されている。
喜田村氏が誰と付き合おうと勝手だが、自分が担当する刑事事件の被告人との親密な関係は弁護士倫理上、問題があると思われる。両氏が接近したのは、辻元氏に強制捜査が始まってからのようだ。
辻元氏としても、写真を撮られた日が、社民党が惨敗した総選挙の日だったのは、不注意だった。政界復帰を目指すならこの日は地元で支援者らと過ごすべきだと思った。私は『辻元!』(夏目書房)で、辻元氏に対する官憲とメディア企業の共謀による社民党攻撃を批判した。それだけに、彼女の行動に疑問が残ったし、残念である。
喜田村洋一氏は芥川賞作家柳美里(ユウ・ミリ)氏のデビュー作「石に泳ぐ魚」をめぐる出版差し止め裁判で新潮社の代理人を務めている。文藝春秋の顧問弁護士は長い。「週刊文春」が辻元氏の主宰する「ピースボート」を中傷した裁判で、喜田村氏は「週刊文春」の代理人だった。
NHKと坂本・元ジャカルタ支局長は報道被害者だと主張している喜田村氏は、「週刊新潮」のこの取材と報道をどう考えているのか明らかにしてほしい。
NHKは、かつて朝のワイド番組の司会をしていたKアナウンサーが離婚したとして、降板させた。海老沢会長の指示だったと言われる。NHKは、喜田村氏を解任しないのだろうか。
喜田村氏は、「石に泳ぐ魚」裁判では、表現の自由の絶対性を主張した。その一方で、喜田村弁護士は講談社の「現代」記事は、NHKと坂本・元支局長に対する名誉毀損だと叫ぶ。報道被害者の本も出している喜田村氏の人間としての一貫性はどこにあるのだろうか。弁護士の倫理としても問題である。NHKの梅田康宏弁護士の見解も聞きたいところだ。
雑誌「テーミス」04年1月号も喜田村弁護士と辻元氏の関係について報じた。
喜田村弁護士は、3月4日の東京新聞夕刊の「放射線」というコラムで、弁護士という職業は《依頼者のためだけにある》と書いている。彼の「依頼者」は権力者が多い。経営者でも被告人でも頼まれればやるというだけでいいのだろうか。例えば、公害企業だったチッソの代理人もやれば、水俣病患者の依頼も受けるということがありうるだろうか。メディア企業が人権侵害の「加害者」である場合もあるということを考えるべきだ。「現代」記事がNHKと元ジャカルタ支局長の人権を侵害したという喜田村氏の言説は、この和解で完全に否定された。
喜田村氏は文藝春秋の顧問弁護士でもある。同じミネルバ法律事務所の林陽子弁護士も文藝春秋の顧問弁護士である。田中真紀子前外相の長女の私事に関する記事を載せた「週刊文春」三月二五日号の出版差し止めを命じた仮処分決定の問題でも、文春の記者会見に同席している。田中氏のような有力政治家の子どもは、政治家になる可能性があるから公人だとまで言っている。25歳をすぎたら誰だって政治家になる可能性がある。日本人はみんな公人ということになる。
喜田村氏は、「現代」記事が、NHKと坂本・元支局長の名誉を毀損したと断定している。報道被害について白水社本まで出している。よく分からない。
*NHKの異端排除
NHKの裁判で、NHKの暴力団顔負けの暴力性を示すことがあった。NHK広報局は一審判決に関するある新聞社の記事に激怒したNHKは、その新聞社の編集幹部に口頭で抗議した。「裁判で勝ったNHKを不当に非難した」という激烈な抗議だったらしい。その後のことは、関係者に影響が及ぶので今は明らかに出来ない。何しろ、NHKは権力を使って異論、批判を押さえつけるのだ。
NHKは、講談社に依頼されてインドネシア語の翻訳をした大学講師をNHKの仕事に就かせないようにした。全く子どもじみた「報復」だった。
NHKはかつて「現代用語の基礎知識」編集長に、執筆者から「浅野を下ろせ」という圧力をかけたことがある。「浅野の記事を訂正、謝罪しなければ、『流行語大賞』のニュース報道をやめる」という脅しもかけた。
編集長は理由も告げず、04年版から私を執筆者から外した。故・新井直之さんから受け継いだ仕事だった。その編集長が03年4月ごろからNHKのラジオ番組に定期的に出ている。
この編集長は「やらせ問題」でのNHK幹部の抗議について、「NHKのように湯水のようにお金を使える親方日の丸の大メディアと私たちのような、弱小出版社とでは全然違う」「理事や広報局長は、私は女性だからあんなに強圧的に脅してきたと思う。電話のかけ方は横柄だし、黒塗りの車で乗り付けて、社長に会わせろという無茶を言う。許せない」などとNHK批判を繰り返していた。いったい、この編集長とNHK広報局との間で何があったのだろうか。
*局内でも有名な坂本氏の“演出”
「彼ならそれぐらいのことは平気でやるだろうな」。「現代」が坂本氏の「やらせ爆弾漁法」をスクープしたとき、NHKの中でかつて坂本氏と一緒に仕事をした人たちは、そう言ったという。「花や果物の撮影でも、場所を移したり、平気でやっていた。ニュースとドラマの区別がつかない。とにかく迫力のある映像を撮りたい人だ」と彼をよく知る元NHK職員は語る。
*筋を通した講談社
NHKと講談社の裁判に関して、私は一審判決後、講談社の代理人弁護士たちと一切接触していない。私を実質的な「被告」と見てきたNHK・代理人も私に対する攻撃をしていない。もともとNHKと講談社は、仕事上の関係も深く、和解を模索したのだと思う。会長と社長も親しい。
海老沢氏は異例の会長三選を既に果たしている。企業と企業の話し合いで解決したのであろう。corporate mediaの限界だった。
現場の編集者は「謝意」を表すことに相当抵抗したと聞いている。強い異論が社内にあったと思う。何も謝ることはないからだ。
しかし、全体として、講談社は、原則を曲げずにがんばったと思う。鬼頭裁判長もNHKについて政治的判断をせずに立派だったと思う。一審の裁判官たちは猛省すべきである。
講談社の雑誌は、イラク参戦や小泉首相の学歴詐称を厳しく批判する調査報道を展開している。天木直人さんの本も出している。多くのメディアが日本人人質を「自己責任」などという見当違いの用語を使って糾弾したが、講談社の「週刊現代」などは、小泉政権の自衛隊派兵が事件を招いたことを明示して、元人質と家族の立場に立っていい記事を書いている。これからもがんばってほしいと思う。
NHKの海老沢会長、畠山広報局長ら幹部は、受信料を無駄に使った責任をとって辞任すべきだ。また、この裁判が和解に至ったことについて、NHK職員と視聴者にきちんと説明すべきである。NHKを「報道被害者」などという詭弁を使い、私を中傷したNHK代理人喜田村弁護士も謝罪すべきだ。
NHKが喜田村弁護士に払った報酬を明示してほしい。
NHKの「やらせ」や海老沢体制による権力広報の報道体質についての本を出す予定である
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