2003年7月7日
米FMラジオで反戦を訴えた
米日の国際法違反の殺戮を批判
浅野健一私は3月20日、米カリフォルニア州アルケータに住む米国人の古くからの友人でインディペンデント・ジャーナリストの、ブライアン・コバートさんが関係するKHSU-FMにゲストで出演した。現地時間で、米英軍がイラクへの武力攻撃を開始した直後の放送だった。
以下は、お連れ合いのコバート和美さんが「浅野健一氏 アメリカでFMラジオに出演」というタイトルで書いて、日本のある雑誌に送った記事だ。この記事は、しばらく保留になり、没になった。その後に、番組内容を要約した文章を掲載する。
[ブッシュ政権がイラク攻撃を始めた翌3月20日、同志社大学文学部社会学部教授で現在日本国外において学外研究中の浅野健一氏が滞在中のアメリカ・カリフォルニア州アルケータ市でFMラジオに出演し、イラク攻撃に反対意見を述べるとともにアメリカに追従する小泉首相、川口外相を批判した。
番組は毎週木曜日午後7時から1時間生放送されている「Thursday Night Talk」で、ホストが浅野氏にインタビューし、その後聴取者から電話で質問、意見が寄せられた。
インタビューで浅野氏は「80%以上の日本人がブッシュ政権のイラク攻撃に反対している。アメリカは第二次世界大戦後にアメリカが日本に民主主義をもたらしたように、今度はイラクの民主化のために戦う、と言っているが日本は現在も精神的にはアメリカの植民地である。アジア内で日本と韓国にのみ現在も恒久的なアメリカ軍基地があり、軍関係者による犯罪も起きている。日本は実際には民主的国家とはいえず、アメリカが民主化したモデルではない。」と述べた。
また、聴取者からの「アメリカが朝鮮の脅威から日本を守っているのではないか。」という意見に対して浅野氏は「アメリカや日本は朝鮮を脅威と考えているが、朝鮮はイギリスも含めた世界の多くの国とは正常な国交関係を持っており、世界全体が脅威と感じているわけではない。なぜ朝鮮半島が分断されているかを考えなければならない。」と答えた。
別の聴取者からのアメリカで大企業がマスメディアを所有していることについての意見に対し、浅野氏は「アメリカに来る前に滞在していたニュージーランド、オーストラリアでCNNなどを見ていた。非常に驚いた事に彼等は「我々の部隊」「我々の政府」という表現を使っていたがこれでは世界中で視聴されている国際的なメディアとは言えない。ジャーナリストは世界市民であり国際的でなければならない。彼等は自分がなぜジャーナリストになったか、という点に立ち返るべきである。大統領の言葉を代弁するためにジャーナリストになったのか。今後、オルタナティブなメディアを育てていくとともにマスメディアの批判を続け彼等を変えていく事が重要である。」と話した。
番組はカリフォルニア州立大学ハンボルト校内にあるKHSU-FMから放送された。同局は州内北部の四郡、南北三二〇キロをカバーし、局の調査によると平均24,000人の成人が同局を聴取している。]
和美さんがラジオ番組のテープ起こしをしてくれた。以下に抄録を紹介する。(ブライアン・コバートさんが作成してくれた英文版も同時に掲載する。)サーズデー・ナイト・トーク (抄録)
2003年3月20日(木)午後7時〜8時
KHSU−FM 90.5 州立ハンボルト大学
アメリカ、カリフォルニア州アルケータゲスト: 浅野 健一
ホスト: マーク・サマー
共同プロデューサー: ブライアン・コバート
エンジニア: ポーラ ・チャーノフマーク サマー: 「サーズデー・ナイト・トーク」へようこそ。ジェイミー フラワーに代わり、今夜ホストを勤めますマーク・サマーです。アルケータで「メインストリーム メディア・プロジェクト」を主宰しています。今夜は東京からジャーナリストでメディア批評家の浅野健一さんをお迎えしました。浅野さんは日本のAP通信にあたる、共同通信で22年間記者をされていました。
当初、日米両国および世界のマスメディアの役割につき話を伺う予定にしていましたが、世界中の人が感じているように今夜は特別な夜になってしまいました。世界中の人々の願いも空しく戦争が始められ、深い恐れ、落胆、不安、怒り、そして悲嘆につつまれています。爆撃を受けようとしている人々を思い、また多くは不本意にも戦列に加わっている人々を思うと、このような状況に追いやる事は想像を超えたものです。
戦争という道に進むことが必要なのか、知恵を出して考える事が今、とても重要だと思います。今夜の番組をいわば地域の皆さんが集まる「市民集会」のようなものにしたいと考えています。怒りではなく悲憤をもって。この悲劇と殺りくの時をいかにして乗り越え、変えていくか、またこの汚れきった世界を魂の世界に戻すにはどうしたらよいのか、さらにこのような事を再び起こさないためにはどうすべきなのかを皆で話し合いたいと思います。
まず、メインストリームのジャーナリストでもありながら、つねに批判の目を持って日本で活躍される浅野さんのお話から始めましょう。日本でこの戦争に関する意見がどのように形成されていったか、まず、市民はどうだったか、そして政権はどうだったかをお聞きしたいと思います。この数カ月、日本の市民は戦争の徴候と脅威に対してどのように感じていたのでしょうか。
浅野健一: こんばんは。日本には4万人を超える米軍が駐留しており、日米両国にはとても強い軍事関係が築かれています。そして日本人は一般的に言ってとても親米的です。しかしながら、今回の戦争については80%以上の日本人が反対をしているようです。日本人がデモに行ったり、アメリカ大使館に抗議に行ったりする事はそうある事ではないのですが、この数日、ロンドンほど人数は多くないにせよ、多くの日本人が抗議をしています。私も含めて日本人はアメリカがこの戦争を始めない事を祈るような気持ちで願っていました。またアメリカ政府が国連の枠内で解決することを、国連をアメリカ政府が嫌っている政府との交渉の場とする事を願っていました。
多くの人々が落胆しているでしょうし、また個人的にもイラクの女性や子供の事を思っています。いつも戦争になるといわゆる「弱者」が辛い思いをします。金持ちや多数派の人々はたいして困らないのです。この正義という大義名分のもとに行なわれている戦争で死の淵に立つ人々の事を考えると非常に不愉快な、嫌な思いをしています。正義のための戦争なんてあり得ないと思います。21世紀には人類はいかなる戦争もしてはならない、これが私の考えです。今、本当に嘆かわしく思っています。
サマー: 日本政府はアメリカを支持すると表明しました。フィリピンなどとともに支持を表明した世界で数少ない国の一つです。昨日、すこしお話したときに、アメリカはイラクを民主化しようとするために、成功例として日本をあげているが、実際には日本は民主化されていないとおっしゃっていましたね。日本はアメリカの植民地だと。この事についてお話いただけますか。
浅野: ええ。たしか2月だった思いますが国連の安全保障理事会で討論会がありましたね。日本政府はオーストラリア政府と共にアメリカ政府の決議をはっきりと支持しました。オーストラリアでも80%以上の国民が戦争に反対しているにもかかわらず、政府は賛成しています。日本も同じですね。
日本の小泉首相も川口外務大臣も常にアメリカを支持しています。まったくどうしてこういつも日本政府はアメリカの政策に追従するのか不思議に思う程です。先ほども言いましたが日本には4万人を超えるアメリカ軍が、1945年8月15日以降58年以上の間ずっと駐留しています。そのせいで日本の腐朽した自民党のリーダー達は国際政治の舞台ではアメリカの政策に従っていく事が日本の国益になると考えています。また、多くの日本人も日本の戦後の経済発展はアメリカのおかげだと考えています。だから、私は日本は精神的に一種の植民地だと言ったのです。独立していない。
アジアでは韓国と日本にだけ恒久的な米軍基地があります。アジア諸国にとって、とても尋常なこととは言えません。日本は経済的には大きく発展しました。それでも大規模な基地があり、日本国内で多発する米軍兵の犯罪に対して日本の警察が逮捕する事も難しいのです。だから日本はあまり民主的とは言えないと思うのです。アメリカ政府は今イラク政府を民主的ではないと言っていますが、日本もまた民主的ではないのです。
サマー: この数週間、また数カ月、とても興味深い一般市民の現象が世界中で見られました。アメリカを支持するイギリス、スペイン、イタリア、日本、オーストラリアでもそうですが、政府のリーダー達と市民の間にこんなに大きく意見の断絶や分裂が見られるのはなぜでしょうか。政府はまったく市民の声に耳を貸そうとしていないように思えます。なぜこれらの国のリーダー達は市民の声に従おうとしないのでしょうか。
浅野: 国際間の問題だからでしょうね。多くのリーダー達はアメリカとの経済関係を重視しています。市民にもそれはわかっていると思います。もしこれが国内問題であればリーダー達はその正当性を失うでしょうが。日本でもそうです。でも、日本人は実際の戦闘には行かないんです。みな、アメリカ兵が戦争には行くんです。これがもし、日本の自衛隊が戦列に加わる事になれば日本でももっと議論がなされるでしょう。
しかし、世界中の市民がこの戦争に反対の声を上げているのはこの戦争には正義がないからでしょう。ただあの大統領、サダム フセインが嫌いだから戦争しているだけで。世界中には民主的とは言えない国はいくらもあります。それでもブッシュ大統領は「サダム フセインとその息子達よ、イラクから出ていけ。」と言いましたね。他の国のリーダーがなぜ別の国に向かって政権交代を言う事ができるのですか。それはイラクの国民が決める事です。私たちは必要なら手伝う事はできます。国連やNG0やまたメディアも手伝う事はできる。日本政府やアメリカ政府がインドネシアのスハルト政権を支持していても世界中の市民の支持によって東チモールが独立を果たしたように。
イラク政府があまり民主的でない事は承知しています。市民には社会や政治の転換が必要です。でも、世界にそんなに民主的な国はないでしょう。100%民主的な国なんてどこにもない。不平等や不公正は常にあるし、権力者は堕落していく。だから、なぜアメリカ政府がこの戦争をできるのか、中学生にでも理解できる事です。難しい話じゃない。
サマー: では、市民の皆さんとの会話を始めましょうか。最初に私から質問させて下さい。 私たちはここからどこへ行こうとしているのか。この状況をどのようにしたら変えていけるのか。きっと変えていく力があると思っています。そのためには今何をするのか、長期的には何をすればいいのでしょうか。
まず、ユーリカのジムと電話がつながっています。ジム、どうぞ。
聴取者1: どうも。まず、北朝鮮と中国に関する問題についてゲストの方に質問があります。第七艦隊の近くに4,5000人の米軍基地がなぜあるのか、また、今アメリカがイラクに対して抱いているより大きいかもしれない脅威を、日本をはじめとするアジア諸国に与えている北朝鮮についてジャーナリストとしての見解を教えていただけますか。
アメリカは占領軍や警察軍として日本にいるんじゃないです。日本と周辺地域に安全をもたらすためにいるのです。ゲストの方は日本に対する脅威とアメリカに対する間接的な脅威についてはっきりとはおっしゃらなかったかもしれませんが。
サマー: 浅野さん、お答えいただけますか。
浅野: 朝鮮は民主主義のうえでも、議会制度のうえでも問題を持った国ではあります。しかし、歴史的背景を考える必要があります。なぜ朝鮮半島に二つのコリアがあるのか。これは日本の35年間の無遠慮で不公正な占領があったからです。
また、ソ連や共産圏が朝鮮半島の北半分をとり、アメリカが南半分をとった。日本やアメリカは朝鮮と外交関係を結んでいませんがイギリスも含めヨーロッパ各国、アジア太平洋諸国は朝鮮と正常な国交関係を持っています。だから、なぜ2年前から朝鮮が世界の脅威と言われているのかを考えなければなりませんね。アメリカと日本はエネルギー計画などの朝鮮との約束を守っていません。というのは、ブッシュ大統領になってから前大統領の対朝鮮政策を継承していないのです。もちろん、私も朝鮮政府のリーダーを尊敬はしていません。しかし彼等も国連のメンバーであり、対話の道を開き、国連などをテーブルとして交渉を進めていく必要があります。朝鮮はプロパガンダを行なっているだろうし、アメリカ、日本、韓国などと対等の立場を得ようと必死になっているでしょう。経済状況も悪く外国からの援助が必要である事は彼等にもわかっていると思います。だから、私たちは理性的であるべきだし、対話をする努力が必要だと思います。
聴取者1: おっしゃる事に同感です。アメリカ軍が日本や韓国を占領しているとか、あまり歓迎されていないという印象を与えたくないんです。事実、日本は安定しているし、軍をおく事にお金をかけなくてもいいわけです。それはアメリカがやっているし、アメリカが危険を負っているのです。そしてあなたがおっしゃった様に、アメリカは北朝鮮に対して怠慢であるし、途中で投げ出してしまったと思います。でも、北朝鮮がイラク以上に日本とアメリカに対してより大きな脅威を与えているだろう事は明らかだと思います。
浅野: 私は1966年から67年の1年間、ミズーリ州のスプリングフィールドで過ごし、民主主義や報道の自由の重要性をたくさん学びました。だから、アメリカが日本を占領していると言っているのではありません。私が言いたいのは日本人と日本政府はこの2003年の今も多くの米軍が日本にいるのかをもう一度考える必要があると言う事です。もちろんアメリカは日本の平和の安定と繁栄に貢献してきました。この事は否定しません。アメリカに大勢の友人もいます。だこらこそアメリカの友人としてこの戦争の事を考えたとき、やはり、この戦争は間違っていると言いたいのです。
聴取者1: 全ての人は自分の意見を言う権利があり、憲法修正第1条を享受しています。この番組でもそうです。私はアメリカが今イラクでしている事支持するし、残念ではあるけれどそうしなければならないと思っています。
サマー: ジム、質問してもいいですか。私たちの多くがこの戦争を私たちの名の下にやってほしくないと考えていても私たちの名の下に、私たちのお金を使い、私達の主張に反し、この国の利益に反して行なわれています。少なくとも半分のアメリカ人は私たちの資産や、子供達、夫や妻達をこの不条理と信じる戦争に送りだす事をどう感じているかをあらわす場所がどこにあるのでしょうか。
聴取者1: 私たちが誰を地域や、州や、連邦の代表に選んだか、が出発点ですよね。事実私たちはこの大統領を選挙で選んだんだし、、、。
サマー: 多くの人が彼は選挙で選ばれたんじゃないと考えていますよ。
聴取者1: ええ、でもいずれにしても彼は法的には有効な大統領だし、、、。
サマー: 多くの世界中の普通の人々、リーダーじゃなくても、多くの市民達がサダム フセインは反感を買う人物だと考えているけれど、違法な暴力的な方法でこの問題を解決する権利は誰にもないんです。言い換えれば悪の戦いに悪で応じ、火の戦いに火で応じる事は事態を一層深刻化させるし、アメリカ人やまた世界中の多くの人々が目指そうとしている民主主義を破壊する事にもなるのです。
聴取者1: ある意味ではブッシュ政権の政策を私は支持しています。もちろん深刻な欠点もあるけれど。何年間にも亘って苦しんできたイラクで、現在の政権を変え、民主的な政府をもたらそうとしているんです。1946年に日本でマッカーサーが進駐していたときのように。最終的にはイラクに自由な選挙制度をもたらし、議員を選び、安定させていく事になるとおもいます。
サマー: ジム、この辺りでちょっと休憩をいれさせて下さい。また他の人にも話すチャンスを与えて下さい。でも、全てのリスナーにお聞きします。私たちは別の国の、また国内ででも政権交代を強要する事は非暴力と言えるでしょうか。私たちの多くはこの国での政権交代が、委縮させられ、お金も取られてしまった所から民主主義を取り戻す、上から下までの政権交代が必要だと考えています。
〈休憩〉
サマー: KHSUの「サーズデイ・ナイト・トーク」をお送りしています。私はマーク・サマーです。今夜はジェイミー フラワーの代理を務めています。今夜は日本からジャーナリズムとマスコミ学を大学で教えておられる浅野健一さんをゲストにお迎えしています、浅野さん、休憩の前に言っていた事をどうぞおっしゃってください。
浅野: 電話を下さった市民の方、ジムさんですね、彼が1945年にアメリカ軍が日本を解放したような意味合いのことをいわれていました。部分的には正しいんですが、当時日本は帝国主義でファシストの軍事政権でした。それは自身で崩壊したのです。1945年8月15日に日本の天皇は降伏しました。その後連合軍が日本にやってきて主にアメリカ軍がマッカーサー司令官のもとに日本を占領しました。国を統治し、非常にすばらしい憲法が取り入れられました。私は日本の憲法を誇りに思っています。この憲法は日本の侵略によるアジア、太平洋地域、オーストラリア、ニュージーランドの2300万人の人々の命の犠牲のもとにもたらされました。もちろんアメリカ人も多く亡くなりました。
日本人は軍隊を持っています。しかし憲法9条はいかなる軍隊を持つ事も許していません、ですから今日本はアメリカがもたらした憲法に矛盾した事をしているのです。そして日本人はそれを歓迎している。イラクの状況は半世紀前の日本やドイツとは全く異なっています、ブッシュ大統領は国の名前は出さずにこう言いましたね。「我々は第二次世界大戦で世界に議会民主主義をもたらした。」でも、とんでもないこじつけだと思います。
サマー: ありがとうございます。さて、フレッシュウォーターのジェイムズから電話です。ジェイムズ、どうぞ。
聴取者2: はい。私は人々がより良き、またより批判的な耳を持つ事を始めなければならないと思います。私は州立ハンボルト大学とレッドウッド大学で基本スピーチを教えているのですが、いつも本当に驚かされるのは自分の聞いた事を信じる事がいかに都合がいいことか、と言うことです。自分の聞いた事を全て信じたいと思い、そしてそれを事実として受け止めたいと思う。ネットワークのニュースが私たちをこうさせたのです。より批判的な聞き手に変わる必要があると思います。その主張はなにを根拠にもたらされているのかを考える必要がある。
サマー: 自分の意見をどう主張するかを学ぶ必要があるだけでなく、他の人の意見もよく聞く事を学ぶ必要があるのではないでしょうか。世界の平和を築いていくためにはいかに他の人の主張をよく聞く事を学ぶことも必要ではないですか。
聴取者2: そうですね。でもメディアが事実を作っているという事の方がもっと重要だと思います。テレビ、ラジオ、その他周りから聞いた事に、自分の得た情報に、批判の目を持たなければならないと思います。言葉が私たちの現実に対する意識や戦争に対する意識、大量破壊兵器に対する意識を選んでいくのです。証拠、証拠が必要です。
サマー: ジェイムズ、コメントをありがとうございました。
次はファーンデールのピーターです。聴取者3: こんにちは、この番組、好きなんですよ。ジェイムズが聞いた事に批判的になるといういい指摘をしてくれました。でも、得た情報の根拠に批判的になる必要があります。ウオールストリートジャーナル、NBC、ABCやその他から情報を得ます。しかしそのほとんどは巨大企業が所有しているいわゆる「メディア」なのです。巨大企業なのです。ABCもCBSもNBCもFOXニュースも巨大企業が所有しているのです。彼等は既得権を失うような事はしない。
そのため政府のよき理解者であるようにしている。彼等はいわゆる彼等の「ジャーナリスト」に大統領やその他に質問させている、または質問できるようにさせている。これらの企業のリーダー達はこの戦争が商業的見地から、また利益をもたらすと言う見地から正しいと思っているから、戦争に対して異なった意見が出る事を良しとしないのです。異なる意見を大きく扱う事をしない。そんな事をすれば広告主が広告を取り止めてくるでしょうから。
彼等は現実をよく理解している。広告主に「ちょっと待てよ。この戦争はインチキだ。これはプロパガンダだ。」なんて言う事はない。実際、彼等はラルフ ネーダーやノーム チョムスキーなどといった政府の政策路線とは違う意見の人たちにインタビューしようとはしない。
サマー: 同時に彼等がそうしていてもアメリカ以外の世界中の非常に多くの人々がこの戦争に反対している。私たちの考えている以上に人々の意識は高いと言う事じゃないでしょうか。
聴取者3: ええ、言い換えれば消費者は企業が考えている程ばかじゃないし、イラク侵攻に対してももっと考えを深めようとしている。大新聞やネットワークの言う事を人々はたいして信用していない。
浅野: この2週間アメリカにいますが、アメリカに来る前にオーストラリア、ニュージーランドに行っていました。とても驚いた事に、CNN、NBC、Foxなどを向こうで見ていると彼等は「私たちの軍隊は」とか、「私たちの政府は」という言葉を使っているんです。「私たちの大統領」とか。世界中でとてもたくさんの人々がCNNなどを見ているんです、日本やベトナムでも。「私たちの軍隊」っていったいどういう意味なんでしょうね。(笑)
これはジャーナリスティックとはいえません。ジャーナリストは国際的であるべきなんです。私がアメリカのジャーナリズムから学んだことジャーナリストは国際的であるべきだと言う事です。国の利益、政府の利益、そして人民の利益はそれぞれ異なります。たとえ私が日本人であっても私はこの戦争を世界市民として考えなければならないのです、一日本人ジャーナリストとしてではなく。今アメリカのメディア、つまり大手のメディアですが、彼等がしている事は日本のジャーナリスト達が1930年代にやって来た事、つまり天皇に追従すると言う事とほとんど変わりありません。
聴取者3: そうです、そうです。今ブッシュ皇帝のために大手メディアがやっている事です。同じような事ですよ。この警察国家、軍事国家、社会を軍国化し、憲法を侵害しようとしているこの警察国家は商業主義の企業が経営するメディアによって促進され煽動されているんです。彼等はまさしくこの事を定着させようとしている。
浅野: 1960年に私がアメリカにいたときにはたくさんのローカル新聞がありました。一つの町にいくつもの新聞があった。多様性というものが存在しました。しかし今ではメディア所有の集中は世界的な傾向です。
そこで私たちは二つの事をする必要があると思います。一つにはインターネットのような既存のメディアに代わるメディアを育てる事。そして一方でマスメディアを変える努力をし、メインストリームにいるジャーナリストを批判し、市民の側に呼び戻す事です。なぜ、ジャーナリストになったのか、大統領の代弁するためか。人民の利益のために働かなければならないんです。
聴取者3: そうですね。でも、現状では多くの多国籍企業が政府から法的権利と利益を享受している。
浅野: しかし、批判する事をやめてしまったり、諦めてしまってはメインストリームのメディアはどんどんと悪い方向へ進んでいってしまいます。戦争が始まる前にも多くの市民が批判をしました。しかし今こそ重要なのです。始まった戦争は終わらせなければならない。
聴取者3: ワシントンの彼等はイラクで終わらせるつもりはないでしょう。現にこうしている間もアフガニスタンを爆撃しているんだし。次はイランでその次はよく分からないけれどリビアかもしれない。イラクで終わりじゃなく彼等の計画はどんどん続いてくでしょう。でもギリギリの所まで私達に知らせる事はしない。
浅野: だからジャーナリストはワシントンの人たちが何をしようとしているのかを見いだすべきだと思います。ゴア前副大統領がこう言ったのを覚えています。「これまでテロリストとどう立ち向かうかを私たちは話して来たけれど、今世界は、アメリカとどう立ち向かうかを話している。」
聴取者3: ええ、ならず者国家です。
浅野: これはアメリカの将来にとってとても悪い事だと思いますよ。
聴取者3: そして、世界にとってもね。
浅野: そう、もちろん世界にとってもです。
聴取者3: その通りです。私は歴史マニアではないですが、確かヒットラーは最初にオーストリアに侵攻したとき、イギリスのチェンバレンにオーストリアになぜ侵攻しなければならないかという理由を示したと思います。そしてチェコスロバキアに侵攻し、次にポーランドを攻めた。だれかが、「ちょっと待てよ。どうしてやつはここにいるんだ。」と言い出すまで。オーストリアだけだと思っていたんです。それがチェコスロバキアまで攻めていった。今の状況とよく似ていると思うんです。イラクだけで終わらない。
浅野: 現在の日本の首相が軍事国家の信奉者である事を付け加えたいと思います。彼はA級戦犯が神として奉られている靖国神社に参拝し続けています。中国、韓国などから多くの抗議の声が上がりました。それでも彼は続け、カミカゼ精神を尊敬している。そして彼はブッシュ大統領をサポートしている。
聴取者3: 私たちのリーダーのブッシュがその雰囲気を作っている。メディアでさえ、一種の議論がなされているのに。これが私たちが直面している事です。これはとても、とても深刻なことです。
サマー: 深刻ですが、この時間の最初に言った事をあなたに投げかけたいと思います。私たちは今とても深刻な状況にある事が分かっています。まったく前例のない脅威と直面している事も分かっています。どうしたらこの事態を打開できるのでしょうか。
聴取者3: ...周りの人と意見を交わしあう事が必要かもしれないですね。でも、結局は利益の絡んだ事だと私は思います。これらの利潤追求第一の企業はお金に弱い。だから、ある一日、みんなで石油を全く買わない事にするとか、全く移動せずにいるとか、戦争する事で利益を得ている会社の製品をもう買わないぞとその会社に手紙を書いたり、友達にその事を教えたりしたらいいんじゃないかと思います。
サマー: とても面白いですね。南アフリカがアパルトヘイト政権だった頃、世界は共同して南アフリカに投資する事をやめました。武力で攻撃するのではなく。しかし、南アフリカの政権を交代させるようにしました。今、ブッシュ政権と世界の権力者達の関係に似たようなことが起こるかもしれません。アメリカ全体ではなくても、決定的な何かが悪政に狙いを定め、非暴力の政権交代を狙っているかもしれません。軍事力や暴力、陰謀とは関連のなく、投票箱に一票を投じるより、日々の経済行為でサポートできます。
浅野さん、あと一分になりました。最後に一言お願いします。
浅野: 市民はオルタナティブなメディアを作る様努力するべきだと思います。アメリカのジャーナリストは今やっている事が尋常ではない事を感じていると思います。彼等は、ジャーナリストなんですから。そして私たちは、市民は日頃のニュースに対してどう感じているのかをメディアにeメールや手紙で知らせるようにしなければならないと思います。諦めてはいけない。ジャーナリストの組合やグループ、大学のジャーナリズム学科の役割はメディアについて考え、何をするかを考える事だと思います。
サマー: どうもありがとうございました。ジャーナリズムとマスコミ学教授の浅野健一さんでした。
浅野: こちらこそ ありがとうございました。
サマー: 今夜代理でホストを勤めましたマーク・サマーでした。この困難な時期に精神を高める事をしましょう。多くの人と連帯し、愛情を持って接してこの国と世界を回復させましょう。この戦争の悪夢を乗り越え平和を築くために世界の多くの人と連帯していきましょう。ありがとうございました。
Copyright (c) 2002, Prof.Asano Ken'ichi's Seminar Last updated 2003.07.8