「向こう側」が蹴ったボールを正確に理解し、
どう蹴り返すかを考えよう

―奥平康弘さん講演会を機に「同志社大学9条の会」結成―



  講演する奥平康弘さん ©2005

 2005年5月20日、同志社大学今出川校地寒梅館ハーディーホールにて、奥平康弘氏(東京大学名誉教授(憲法学専攻)、「表現の自由」研究者、「9条の会」呼びかけ人)を招き、「改憲に抗して〜」が「同志社9条の会」準備委員会主催で開かれた。
改憲の現在の動き、改憲政策の中身、9条の持つ積極的意味などを主体に、彼の専門の「表現の自由」について、浅野健一氏(同志社大学新聞学教授)、森類臣氏(同志社大学生徒代表)とのパネルディスカッションや、森氏による「同志社9条の会」立ち上げ宣言なども組み込まれた。

<改憲の現状>

 「向こう側は憲法9条が改憲の目的である」と奥平氏は言う。「向こう側」とは、改憲を企てている政治的、社会的、経済的勢力や、また背景にあるだろうアメリカの政治姿勢のことなどを総称して言う。改憲の動きは「向こう側」のペースでありなが、改憲・護憲ともに混乱しているのが現状である。現在、改憲に際しての第一ステージ(憲法調査会による最終報告書のまとめ)は終了したと考え、第2ステージ(改憲草案の公表から国民審査)へ移行しようとしている。

<改憲政策の中身―9条改悪―集団的自衛権、加憲論、護憲的改憲論>

 第9条の項目Aの場合、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という文を、「必要最小限の自衛のための戦力」に変える動きがある。「必要最小限」という、解釈の仕方に個人差が発生する言葉は、裁判所が最終時点できちんと判断できるかどうかが問題になる。また集団自衛権の定義として、項目Aがどこまで拡大解釈されるのか、例えば多国籍企業に勤める日本人が現地で紛争に巻き込まれた場合、「自衛のため」という名目で自衛隊を派遣すのかどうか、あやふやなものである。
「国民の権利を守るため、国家権力を憲法によって縛る」という近代憲法は古く、「憲法は国家と国民が責任を持って共同で作り上げるもの」であり、よって「プライバシーの権利」などを憲法に組み込み、改憲しなければならないと「向こう側」は言う。

<立憲主義への挑戦>

 「向こう側」は、現時点で改憲の具体的な内容や国民審査の仕方などを、きちんと提示していない。故に、国民は、改憲の内容一つ一つを審査するのでなく、改憲案全体について賛成か反対かといった、両極端な判断しか出来ない現状である。
<9条の積極的な意味・平和主義の再構成>
9条改正は常に「向こう側」が要求してくるものであり、「こちら側」は9条を守るという消極的な姿勢であった。しかし、これからは「憲法の持つ強い意味」を示す時である。9条が存在することを世界規模で考え、これを自国にとどめず、世界に発信しなければならない。その為にも9条を守っていかなければならない、と奥平氏は主張する。

<憲法改正のためのOverlapping Consensus>

 奥平氏は「9条を守る会」の存在意義とは、Overlapping Consensus(合意形成)、つまり、呼びかけに応じ、同意見の人が現れる事であると言う。「向こう側」の蹴ってきたボールを皆でどう受け取るか?それをどう蹴り返すか?という事を慎重に考えなければならない。

<マスメディアと表現の自由>

 パネルディスカッションで、最近のメディアの社会的特権階級について考えると奥平氏は言う。メディアがその特権をいつ行使するかというのが重要であり、メディアは民主主義の上での「表現の自由」を理解し、それが社会にどう影響するか厳密考えていくべきである。それを踏まえ、Reciprocity(互恵性)が今のマスメディアには必要だと言う。

 以上のような動きが起こっている現実をこれからの世代を担っていく若者が把握しなければならない。「向こう側」の蹴ってきたボールを正確に理解し、皆でどう蹴り返すか?と言うことが若者に課せられた宿題である、と奥平氏は言う。
この講演会の後、同志社9条の会が結成された。
 
                                              (まとめ:浅野ゼミ12期生 大窪理恵)
奥平康弘さん©2005
                 
                  《同志社9条の会立ち上げ宣言文》


 2004年6月10日、本日講演をしてくださいました奥平康弘先生をはじめ、井上ひさし、梅原猛、大江健三郎、小田実、加藤周一、澤地久枝、鶴見俊輔、三木睦子の各氏が「九条の会」を発足させました。発足にあたって、その会見アピールで、「私たちは、平和を求める世界の市民と手をつなぐために、あらためて憲法九条を激動する世界に輝かせたいと考えます。そのためには、この国の主権者である国民一人ひとりが、九条を持つ日本国憲法を、自分のものとして選び直し、日々行使していくことが必要です。それは、国の未来の在り方に対する、主権者の責任です。日本と世界の平和な未来のために、日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ、「改憲」のくわだてを阻むため、一人ひとりができる、あらゆる努力を、いますぐ始めることを訴えます。」と呼びかけました。

 この呼びかけに応えて動き始めた人々によって、「九条を守る」運動が、全国各地に広がっています。その動きは、講演会や勉強会に限らず様々な形をとっています。まさに「できること」から始めていて、そのネットワークも強くなっています。

 私たち「同志社九条の会」準備委員会もこの趣旨に賛同し、自分たちにできることから始めたいと思いました。

 同志社大学の教育理念は「良心」です。本学創立者の新島襄は一学生への手紙の中で「良心の全身に充満したる丈夫(ますらお)の起り来(きた)らん事を」 (ますます良心が全身に充満した青年が現れることを望んでやまない)と書いています。日本が着々と「戦争をする国」になっていく世の中で、私たちはこの「良心」に従って活動したいと思います。
 
 これから学生・教職員を中心にして「同志社九条の会」を発足させ、アピール活動・勉強会を開催するなどの活動を展開していく予定です。また、京都各地・各大学と連携をとり、「九条の会」をより活発な活動へと広げるために貢献しようと考えております。「同志社九条の会」は、九条「改正」に反対し、九条をより積極的に活用していこうとする個人参加型のつながりと思っていただければと思います。残念ながら、現在同志社学内で、九条に関する議論はあまりさかんとはいえません。そこでまずは、学生が憲法9条に対して主体的に関われる場を提供し、そして徐々にではありますが、学生の憲法に対する思いを発信する機会を提供します。憲法九条に対する学内世論を形成できればと思っております。

 私たちは、「九条があるからできない」ではなく、「九条があるからできること」を積極的に模索し、発信し、実行していきたいと思います。

 本日をもちまして、ここに「同志社9条の会」設立宣言を致します。

                      [同志社九条の会]代表
                      同志社大学大学院文学研究科新聞学専攻 森 類臣



※同志社大学に所属する学生・院生・教職員で、会則を認めていただければ、どなたでも入会可能です。主旨に賛同するだけではなく、主体的に運動に関わっていきたい方は、是非ともご入会下さい。
 近日中に、会則やホームページ、連絡先を整える予定です。それまでは、暫定的ではありますが、okudaira_doshisha@yahoo.co.jpに「入会希望」の旨を通知してくだされば、会員扱いとさせていただきます。

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