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講演会のお知らせ  河野義行さんインタビュー
―被害者とメディアについて、河野義行さんに聞く―
掲載日:2006年10月18日
整理:浅野ゼミ1回生ゼミ委員・鍜治由佳
 私は以前から松本サリン事件の捜査と報道に興味を持ち、個人的にこの事件の報道について調べていました。そして、今回河野義行さん(同事件被害者、前長野県公安委員)が2006年7月5日、同志社大学今出川校地で学際科目、「マスメディアの現場」(科目責任者・渡辺武達教授)でゲスト講義に来られるということを浅野教授から聞き、翌日の7月6日午後6時から7時まで、河野さんと直接お話をする機会をいただきました(1)。

 この席には私を含めたメディア学科一回生4人(浅野ゼミ以外の学生も参加)が集まり、河野さんのほかに、映画監督の山際永三さん(映画監督、人権と報道・連絡会事務局長)と元読売新聞記者でジャーナリストの山口正紀さん(立命館大学非常勤講師)も来て下さって、貴重なお話をくださいました。

 以下は、河野さんインタビューの記録である。お忙しい中、私たちが編集構成した文章を読んで、加筆修正していただいた河野さんに心より感謝します。(浅野ゼミ1回生ゼミ委員・鍜治由佳)

 鍜治由佳:本日はありがとうございます。いきなり質問なんですけど、河野さんが遭遇された松本サリン事件のことなども調べてきたんですが、

 政府の犯罪被害者基本計画は2005年12月27日、閣議で正式決定されました。そこで、事件の被害者の実名、匿名の扱いについて、「警察がプライバシー、公益性を勘案し個別に適切に判断する」という原案通りに決着しました。「発表は実名で」と強く求めていたメディア界の要望は認められませんでした(2)。
 警察が実名か匿名かを判断するということになったわけですが、警察捜査で人権侵害の被害に遭われた河野さんの立場から、この計画に対してどのようにお考えになりますか。

 河野:いわゆる匿名で発表するか、実名で発表するかを警察が判断するということですね。

 鍜治:はい

 河野:まず、事件があったときに最初に(被害者に)会うのは警察ですよね。まず、警察がマスコミに事件発表しなければならないという法律はないんですよね。発表しなければならないという法律があれば嫌でも発表します。ところが、それはないんですね。そうしますと、たとえばメディアがすべての事件を全部包み隠さず発表しろという言い方をしているわけですが、すべての事件を本当に発表したらどういうことになるかです。たとえば、長野県でいえば昨年は2万6千件ほどの事件を警察が認知しました。それを全て発表したら単純に計算して、長野県だと25署ありますが、副署長が広報をやっていますので、朝から晩まで発表しなければいけないし、マスコミがそれだけの時間をとれるかということです。
 すると、警察はある判断基準で、事件を表に出しているんですよね。それは事件の重大性や、特異性、社会の関心の高い事件を選択して発表しているということです。逆にマスメディアも、警察発表がいろいろあっても、全部が紙面に収まりきるかということがあって、同じように重大性や、社会の関心を選択しながらやっているという前提があります。

 だから、仮に警察がすべて発表したからといって、メディアはそれだけの時間をとれないですね。警察というのは一応事件発表に関して、ひとつのマニュアルがあるんです。いわゆる、報道機関に対してどのような基準でやるかという。でないと、たとえば、警察の副署長は二年ぐらいのローテーションで変わっていますから、マニュアルがなければ対応しきれないんです。なぜ警察は匿名にしてしまうのかといえば、被害者、遺族が困るということを言ったときに、実名で発表したら“過熱取材”に繋がるからということがある。いくら警察が配慮しても、匿名にするように言われても、実名で警察が発表したときに、それをメディア自身が決めるならば、メディアそれぞれの判断がばらばらになってしまいます。たとえば、松本サリン事件では初めから終わりまで実名報道したのが産経新聞と中日新聞でした。その他は、初め実名です。事件の被害者として、入院した男として実名報道されまして、それから強制捜索がされたときに、一斉に匿名に切り替えられました。なぜ一斉に匿名になったのかといいますと、人権を配慮して、という言い方をメディアはしていました。しかし、全部の新聞がそろって匿名ならば意味があるけれど、こっちの新聞を見れば名前が出るということであれば、匿名の意味も薄まってしまうわけです。社によってばらばらですから。

 それから、今メディアの匿名報道と言っても真の匿名報道になっていないことがよくあるんですよね。たとえば、松本の北深志でA会社員などと書いてあったのですが、事件現場の見取り図がでました。このとき、「会社員宅」の場所も図の中に書かれた。これは一応、会社員ということで名前は出してないけれど、すぐにわかりますよね。匿名といっても安易な匿名なんですね。新聞に私の家の表札が載っていて『河野』って映っていて、匿名だと言っているものもあった。匿名といっても、特定できてしまう匿名になってしまっているんですよ。

 それで、質問に戻りますが、私はまず、被害者の意向が一番大事にされるといいと思います。名前を出したいと言う人ももちろんいるでしょうし、事件が起こったときというのはほとんどパニック状態です。いろいろ考える余地がない。だから、本当は少し冷却期間をおいてから記事を書けばいいと思うんですよね。けれども、今のメディアというものは、事件が起こったらすぐ、名前や“雁首”(顔写真)を取って来いといって写真を集めたりする、そういうものは必要ないと私は思うんですよね。名前がなくでも事件は十分伝えることができると思うし、名前がなかったり、写真がないからほかの記事より劣っているとも思いません。そういう意味で、まずは本人の意向を聞くということが私はまず一番大事だと思います。

 それから、メディアの言い分で、匿名だとその人が特定できなくて、被害者の言い分も表に出せないから、公共の利益に反しているというような意見を出しています。しかし、本当にそれでは、警察が匿名で発表したときにマスメディアが被害者のところに行き着けないかといえば、絶対そんなことはないと思います。マスコミはいろんな情報ルートを持っているわけです。警察がだめなら、検察や、裁判所に聞けます。どこの地方で起こったかがわかれば、その辺に取材をかければ、被害者に行き着けないなんてことはないと私は思っています。これは、取材コストの問題なのではないでしょうか。名前と住所を言ってくれればすぐに本人に行き着けるけれど、伏せられるとすぐに行き着けない、コストもかかるという見方をしているんじゃないかということです。その被害者に取材が必要であれば、どんな手段を使ってでも被害者に行き着くことはメディアの情報網があればできると思います。そういう意味で、被害者のところに行き着けないというのは詭弁だと思うんです。とりあえず、今の話はそういうことです。

 だから、まず本当に被害者の気持ちを吸い上げたいと思ったら、記者が警察経由で被害者に手紙を届けてほしい、こういうことであなたの取材をしたいし、あなたの言い分を知りたいんだということを何度もやればいい。そういう努力もしないで、行き着けない、警察はなんだ、と言っているけれども、もともとそういう発表をしなければならないという法律はないわけです。また、警察というのは法の執行機関ですから、そういう法律があれば、いらないといわれても出すはずなんですよ。そこの原点というものをやはりマスコミははき違えていると思います。

 鍜治:ありがとうございます。

 岩切希:1997年に、放送番組向上委員会(BRC)という人権を守る機関ができましたが、その機関は今のテレビにおける犯罪報道で、その役割を十分果たしていると思いますか。

 河野:私は、果たしていないと思います。それは、マンパワーが絶対的に足りないからです。本当にやる気なのであったら人を増やすべきです。著名な方を委員においていますよね。すると、相談を受け付けますといったって、著名な方は忙しくて、他の仕事がいっぱいある人ばかりなんです。そうしたときに、本当に何件も相談が入ったときに対応できるだけの人員がそろっていないと思います。
 だから、看板上げたにすぎないんじゃないかと思うんです。とりあえず、こういう組織でやっていますっていうことですね、ないよりはいいけれども、本当にいろんな人がきたときにあんなメンバーで調べられるわけがないんです。月に一回の定例会があるそうですが。

 山際永三:今回の秋田県藤里市で起きた連続児童死亡事件ではBRCが警告を出しましたね。

 河野:だから、本当に特異なものだけですよね。小さい事件でも、本人にとっては一生の一大事みたいな話はそれぞれあるはずです。でも、それは世間の関心が低ければそれを扱ってくれるだけの人数もいないでしょうし、今の組織というのは絶対的なマンパワーが不足しているんじゃないかと、そういう思いですけれども。

 岩切:ありがとうございます。

 鍜治:先ほど、お話も出たのですが、秋田の事件のときに、新聞にコメントを出されたと思うんですが、この事件に関してどのように思われたのか改めてお聞きしたいと思いまして。

 河野:私は、過熱取材の状況をTBSの下村健一さんという、以前キャスターで、現在は独立して、いわゆる学生たちが自主番組を作ってそのようなものをBSで流すとか、若手のジャーナリストを育てる仕事とか、TBSの仕事もやっておられるんですけれど、その人から電話で聞いたんです。松本サリン事件とまったく同じ状況になっちゃったけど、なんとかそういうものを抑えたいんだけどということで。TBSというのは、秋田にJNNネット局がないんですよ。だから、よそ者なんですね。とりあえず、地元の弁護士はもう付いているんだけど、メディア対策が非常に弱いから、永田弁護士に相談したいということで。永田弁護士というのは、私のサリン事件のときについた弁護士なんですけれど、電話番号を教えてくれないか、というような話だったんです。で、相談してください、ということになったわけです。

 しかし、ここでなんでそんなに(マスコミが)お母さんに張りつかないといけないかという話ですよね。それは、逮捕されるかもしれないからという理由で、週刊誌なんかでは、あの人が犯人だといっているような記事がいっぱい出ていたんです。そういう状況の中で、なんでそこへ張りついたのかっていったら、逮捕される瞬間の映像が欲しいとか、写真が欲しいとかということですよね。それ以外の目的はないはずです。それで、逮捕される瞬間の映像がそれだけ価値があるかっていうことですが。だって、逮捕されたからといったって、まだ、犯人だと決まったわけではないでしょう。いわゆる犯人というのは裁判で有罪が確定して、初めて犯人になるという、今のルールがあるわけですよね。そういう意味で言えば、犯人かどうかわからない人が警察に逮捕されるその瞬間を狙ったって意味がないんですよ。もっとやらなきゃいけないことっていうのは、メディアの生命線である権力の監視とか、批判とか、そういう方へ力を入れなきゃいけないはずです。だったら、あのお母さんが逮捕されたときに本当に検察が起訴して、その起訴されたこと、それが裁判になってくるわけですが、本当にそれが公正な裁判になっているかどうか、そちらをチェックするのがメディアの仕事であって、いち早く容疑者の写真を撮ったり、容疑者を特定してしまう、浅野先生が言ったように、ペンをもったお巡りさんになる必要はないんですよ。そういう意味ではやっぱり逮捕というものを、あくまでも、警察・検察が疑っている人くらいの認識でおいとかなければ、逮捕されて、住民コメントなどで、「まさかあの人がこんなことをするなんて思わなかった」とか、「これで安心して寝られる」とかいうコメントがよく出ますが、それも違う話です。やっぱり、この国は法治国家なんだから、一つ一つ手続きを踏んで、やっていくというのがルールなんですよね。それが、今のいわゆる報道というものは、推定無罪という原則がとんでいってしまっているんです。逮捕されたら、ほぼ犯人だろうという世の中で。本当はそこで公正な裁判が行われないケースもあるわけですよね。変なものが証拠採用されたり、本来ならば証拠として採用されなければならないものが、採用されなかったり、そういったものをきちっと見て批判するのがメディアの仕事だと私は思っています。だから、12年前に戻ったかもしれないなと。

 ただ、途中で記者クラブの加盟社が、代表取材に切り替えましたね。わぁっといくのを防ぐために。それは一つの評価ではあるんだけど、実際は加盟社以外のメディアもいっぱい来ているわけですよ。そうすると、被取材者から見れば、どの人がテレビの人で、どの人が週刊誌の人なのか全く分からないですよね。いくら記者クラブが代表取材でおさえたってわぁっと来ることには変わりないってことですよ。だから、そういうものは新聞のメディアとか、テレビのメディアとか、あるいは雑誌とか、いろいろあるけど、そういう人たちが連携できれば一番いいのだけれども、記者クラブ加盟社のところだけが代表取材になっても、ほかのところがわぁっと行ってしまっているから、取材を受ける側からしてみたら、とんでもない、過熱的な取材だというわけになってしまうんです。その点についてもっと配慮をしてもいいし、逮捕という位置付けを本来の線に戻したほうがいいかなと思うんですよね。逮捕、これで、事件が解決してよかった、おめでとうだなんて警察に言う人も記者の中にまだいるんですよ。あくまでも、それは被疑者であるし、起訴されれば被告人になるし、ということです。まだ犯人じゃないわけです。

 岩切:それは、私たち自身も認識する必要があるということですよね。

 河野:まず、法がどうなっているのかというのが大前提ですよね。そこから外れないように、自分たちの位置を保っていくということが大事ですよね。

 岩切:ありがとうございます。

 山際:みなさんは少年事件のことを調べているんですよね。

 鍜治:これから私たち浅野ゼミ一回生は、少年犯罪に対するメディアの報道について調べていこうと思っています。この問題に興味をもったきっかけというのは、今のメディアを見ていると、「少年による事件が増加していたり、凶悪化している」という風に報道しているように見えるんですけど、その実際の件数はそんなに増えていなかったり、凶悪化しているという判断をメディアが勝手にしているのではないかという気がしたということだったんです。

 河野:そういう件数は、警察白書か何かにアクセスすれば数字が全部載っています。細かく載っていますよね。

 鍜治:はい、この前のゼミで調べました。

 河野:すると、数は増えていないはずですよね。

 鍜治:はい、増えてなかったんです。このような、メディアに関してご意見はありますか。

 河野:だんだん触法少年が増えて、事件をおこす少年が低年齢になっているということなんですよね。昔は、18歳だったのが、14歳まで下がってしまっているわけですけれどね、そういう14歳がだめなら、10歳がって、それで犯罪を抑えることはできないと思うし、それは死刑も同じことなんです。死刑があるから凶悪事件を抑止できるんだという言い方をしている、いわゆる、重罰化すれば犯罪は抑止できるという言い方をしているわけですよね。それは、例えば、死刑に値するような凶悪な犯罪であろうと、少年犯罪であろうと、罪を犯す人が量刑まで考えて絶対私は犯さないと思います。これをやったら殺人だから、10年くらいなら、こっちかなというそういう形で罪は犯していないはずなんですよね。気がついたら殺してしまっていた、というのが現実だと思うし、だから重罰だけで犯罪が減るとは、私は思っていないんです。

 本当に地道だけれど、命の大切さを教えていくとかという風にしなければ犯罪を減らすことはできないと思います。現に、死刑があったって犯罪は減っていないですよね。抑止になっていないから、言ってみれば検察の言っていることとか、警察庁の言っていることは、結果として破綻しているんですよ。刑務所が満杯、拘置所も満杯。だから、警察の中に留置所がありますよね。実は留置所も結構満杯で、本当は警察は早く拘置所に送りたいんですよ。なぜかというと、いわゆる留置所でかかる費用というのは、県の予算なんですよ。それを拘置所に送れば、国費になるんです。だから、お金のない、どこの都道府県の自治体も、早く起訴までして拘置所に送って、費用をかけなくしたいんですけれども、なかなか(拘置所は)受け入れてくれないんですよ。私も公安委員をしているときに、いつまでも警察署に留置してないで、さっさと拘置所へ送ったらどうだ、そうすれば、国費になるから財政的に助かるのではないか、と言ったら、満杯だから少し待ってくれと言われたんです。もっとひどいのは、例えば二つの事件があって、両方とも大体容疑者のめどがついているとして、同時に逮捕しようと思ったら、留置所がいっぱいだから、地方検察庁も限界になって、逮捕するのを一つにしてくれということがあるんです。まず、こっちを逮捕して、もう一方は逃げる心配がなかったから、後にしてくれと、そういった状況なんですよ。それなら、微罪といわれる人を早く釈放すればいいんですけどね。否認だったら、本当に長い間(留置所に)置いておくんですよね。このようなことになれば、空くはずがないですよ。

 岩切:その間に自白を強要されたりするんですか。

 河野:認めないと出さない、という変な話なんですよね。認めないなら、認めない中で、裁判をして、裁判官が決めればいいのに、本来は。自白の強要を明らかにしているんです。私なんかは、逮捕も何もされていない任意の事情聴取だったんですよね。そこで、犯人はお前だ、ってするわけですから。

 岩切:うそ発見器もですか?

 河野:ポリグラフは任意です。嫌なら断ることができるんです。

 浅野:逮捕されても任意です。

 河野:けど、任意という説明がほとんどなされていなかった。嫌なら断れますよと告知すればいいんだけど、しない。長野県警は、それを変えました。

 浅野:河野さんが変えたんですよ。

 河野:ポリグラフの承諾書の中に入れたんですよ。あなたが嫌なら断れる、と。しかし、そういう説明を聞いたけど、自分は捜査に協力しますので、これを受けます、という内容の文書を入れたんです。それを説明した警察官の名前も承諾書の中にいれました。長野県警だけだと思いますよ。

 浅野:そういう、いい変化は他の県には広まらないんですよね。悪いことはすぐ伝染するのに。まず、そういうことを、皆さん知らないといけない。

 河野:被疑者にだって、あなたにとって不利なことは黙秘する権利があると説明するのに、任意の事情聴取でなぜ説明しないんだって、言ったんです。そして改善しようという指示を出したんです。また、呼び出しというのも、捜査員、上司、所轄の警察署長の3つの判子がなければ呼び出せないようにしました。呼び出したときは、何時から何時まで事情聴取をして、どういうことを聞いたか、ということを全部書いて、最後に署長の判子まで押さなければならない。これも、私が提言したんです。そうすると、責任の所在がどこにあるか、警察署長にある、ということをはっきりさせたんです。

 鍜治:本日は貴重な話を、本当にありがとうございました。(了)

河野さん、山際さんにインタビューする浅野ゼミ1回生
■注・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(1)河野義行(こうの よしゆき)さんの略歴

 1950年愛知県生まれ、名城大学理工学部卒。1976年長野県松本市に転居。1994年6月「松本サリン事件」に遭遇。自宅付近からサリンが発生し、第一通報者だったことから、長野県警の家宅捜索をうけ、マスコミからも容疑者扱いされる。身の潔白の証明と名誉回復のため95年3月3日、日本弁護士連合会の人権擁護委員会に人権救済を申し立て、地元新聞社に対して民事訴訟を起こす。
 同年3月20日「地下鉄サリン事件」が発生。結果的に無実が証明され、長野県警本部、国家公安委員長、マスコミ各社が相次ぎ謝罪。
 02年から05年まで長野県公安委員。犯罪被害者支援のNPOリカバリー・サポートセンター理事、第二東京弁護士会市民会議委員。
著書に『「疑惑」は晴れようとも』(文春文庫)。『妻よ!』(潮出版社)、『松本サリン事件』(近代文芸社)、『松本サリン事件報道の罪と罰』(浅野健一共著、新風社文庫)などがある。
 河野さんが事件後、最初に公の場で講演したのは1995年の同志社大学浅野ゼミ主催の集会が初めてだった。これまでにも何回か同志社に来ている。

(2) 政府の犯罪被害者基本計画は05年12月27日、閣議で正式決定された。

 計画は2010年度末までの約年間が対象で、その後作り直すが、被害者の要望を的確に反映させるため意見を聞くなどして、随時、必要な見直しも行う。計画は計258項目(40項目は各重点課題で重複)の施策を盛り込んでいる。

 被害者の実名、匿名問題は、「警察がプライバシー、公益性を勘案し個別に適切に判断する」という原案通りに決着した。「発表は実名で」と求めていたメディアの要望は認められなかった。報道機関や被害者らの意見を踏まえ、取材・報道の自由を規制したり、恣意的な判断や安易な匿名発表を認めたりするものではないことなど6点を確認した。

 05年4月に施行された犯罪被害者等基本法に基づき内閣府に設置された関係大臣らの犯罪被害者等施策推進会議(会長・内閣官房長官)において基本計画案の骨子が同年7月に作成され、犯罪被害者等基本計画検討会(座長代理・山上皓東京医科歯科大教授)で素案をまとめていた。

 骨子案では、被害者名の警察発表についてこう述べていた。

 [警察による被害者の実名発表、匿名発表について、犯罪被害者等の匿名発表を望む意見と、マスコミによる報道の自由、国民の知る権利を理由とする実名発表に対する要望を踏まえ、プライバシーの保護、発表することの公益性等の事情を総合的に勘案しつつ、個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮していく。]

 被害者名の警察発表については、実名か匿名か警察が判断すると定めた項目は、報道界や日本弁護士連合会は「警察発表は実名で」と反対して、8月26日に意見書を発表し,同30日に内閣府に提出していたが,そのまま残った。

 検討会は10月25日、事件・事故被害者の実名・匿名の判断について「警察がプライバシー保護と発表の公益性を総合的に勘案し、適切な発表となるよう配慮する」との項目を含む骨子案で合意した。骨子案の変更点は「実名発表,匿名発表について、」の「ついて、」が「ついては、」になっただけだ。

 日本新聞協会など報道界は「プライバシー侵害のおそれがある場合は当然、匿名で報道する」と強調しているが、次に大事故が起きたときに、匿名報道を保証するシステムはあるのだろうか。

 多くの御用学者や“メディア用心棒”的な法律家も「事件や事故の情報は被害者像も含めて公共性を持っている」(梓澤和幸弁護士)などと被害者=実名を前提にして議論しているのだが、報道機関は「被害者の実名報道は当然か」と自問してほしい。報道の自由は市民の「知る権利」にこたえるためにあり、一般市民の姓名に公共性があるとまで言えない。

 報道界全体で、「公人以外は匿名をスタートにして、遺族の了解が得られた上で、顕名報道にする」という統一基準を設けて、全メディアに基準の遵守を求める制度を作るべきだ。諸外国では普通に実践されている。メディアと市民の衝突を、当局の介入を排し、報道界と市民との間で社会的に解決する報道評議会などの仕組みを早急につくるべきだ。

 犯罪被害者とメディアについては、浅野が『評論社会科学』(同志社大学社会学会)78、80号に書いた研究ノート「犯罪被害者とジャーナリズム―事件事故報道の解体的出直しを―」を参照してほしい。抜き刷りを希望の方は、200円分の切手と同封して浅野健一研究室に注文ください。

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