新入生、新2・3回生のみなさんへ
以下は、新聞学研究会が
2006年度社会学部メディア学科の新入生向けに発行する
オリエンテーション号に寄せた私のメッセージです。
講義要綱、シラバスとともに、
ゼミ選びの参考にしてください。

@略歴

浅野健一(あさの・けんいち)    

1948年、香川県高松市生まれ。66〜67年AFS国際奨学生として米ミズーリ州スプリングフィールド市立高校へ留学、卒業。72年、慶應義塾大学経済学部卒業、社団法人共同通信社入社。編集局社会部、千葉支局、ラジオ・テレビ局企画部、編集局外信部を経て、89年から92年までジャカルタ支局長。帰国後、外信部デスク。94年3月末、共同通信退社。 94年4月から同志社大学教授。

2002年4月から03年6月まで、英ウエストミンスター大学客員研究員。
人権と報道・連絡会(連絡先:〒168-8691 東京杉並南郵便局私書箱23号、ファクス03−3341−9515)世話人。日刊ベリタ(www.nikkanberita.com)記者。

主な著書は『新版 犯罪報道の犯罪』(新風舎文庫)『出国命令 インドネシア取材1200日』(日本評論社、『日本大使館の犯罪』と改題し講談社文庫)、『天皇の記者たち 大新聞のアジア侵略』(スリーエーネットワーク)、『メディア・リンチ』(潮出版)『「報道加害」の現場を歩く』(社会評論社)『抗う勇気 ノーム・チョムスキー+浅野健一 対談』(現代人文社)、『対論 日本のマスメディアと私たち』(野田正彰氏との共著、晃洋書房)。
監修ビデオに『ドキュメント 人権と報道の旅』(製作・オーパス、発行・現代人文社)がある。資格;1968年、運輸相より通訳案内業(英語)免許取得 (了)


A新入生に向けて

 4年間、自由な時間を使って、自分を高め、信頼できる友人をつくり、自治・自律・自立の同志社人になってほしい。
私は共同通信で22年間、記者として働いた後、12年前に同志社に来た。皆さんと一緒にマスメディアの取材や報道のあり方を調査研究していきたい。

 ライブドアの堀江貴文氏が東京地検に逮捕されると、それまで時代の寵児のように持ち上げてきたメディアは手のひらを返したように彼を非難している。逮捕されたからと行って、全人格を否定するような報道は許されない。有罪が確定するまで無罪を推定されているのだから。

 テレビに出て無責任なことを言っている自称「ジャーナリスト」は国際的な基準ではジャーナリストとは言えない。ジャーナリストは権力や大企業を監視し、声を上げたくても発言の場のない社会的弱者や少数者の立場に立って取材・報道する職業である。

 メディア学科の前身である新聞学専攻は1948年に、大日本帝国が15年戦争でアジア太平洋諸国を侵略した反省から、人権と民主主義の確立のためにはジャーナリズムが正当に機能しなければならないという考えからスタートした。

 新聞・雑誌・テレビなどのメディアを社会科学的に分析して、改善策を探るのがメディア学である。
また、大学の研究教育費の一部(学生1人当たり、年間で10数万円)は、人民の支払う税金によって賄われている。学生にも社会的責任があることを自覚してほしい。
 多くの新入生が将来、メディア界に入って活躍したいと思っているであろう。その夢が実現できるよう私はサポートしたい。

 アジアプレス代表の野中章弘氏や藤岡幸男ABC報道部長は「映像を目指す人こそ活字を読むべきだ」と強調する。本多勝一、本田靖春のノンフィクション、野田正彰『戦争と罪責』(岩波書店)、鎌田慧『自動車絶望工場』(講談社文庫)。辺見庸『もの食う人びと』(角川文庫)、『いま攻暴のとき』など講談社文庫の3冊。岩瀬達哉『新聞が面白くない理由』(講談社文庫)などがお薦め。
 テレビ・ラジオのニュース番組も見聞しよう。
 英語を完全にマスターすること。ネットでBBCのHPや『ニューヨーク・タイムズ』を読むこともできる。朝鮮語、中国語も重要になるだろう。
 新聞を出す、ネットで発信するとか、実践的なことに取り組んでほしい。メディア関係のサークルに参加するのもいい。これをやったと自己アピールできるような大学生活を送ってほしい。


B専門研究内容 

 ジャーナリズム論、人権と報道、国際関係論、平和学などの分野で調査研究している。「表現(報道)の自由」と「個人や団体の名誉・プライバシー」を両立させること、メディア責任制度論、国際報道・国際コミュニケーション論、東南アジア社会経済論などが関心のあるテーマ。

日本マス・コミュニケーション学会、国際コミュニケーション学会に所属。共同通信社社友会準会員。
研究業績については大学のHPの以下のサイトに出ている。
https://kenkyudb.doshisha.ac.jp/rd/search/researcher/194016/index-j.html

1985年7月に発足した「人権と報道・連絡会」世話人。人権と報道・連絡会のホームページはhttp://www.jca.ax.apc.org/~jimporen/welcome.html

 共同通信の現役記者だった1984年に『犯罪報道の犯罪』を出版。メディアによって人生を破壊された人たちの実態を調査し、彼や彼女たちを支援して、報道被害が繰り返されないような防止策を提言してきた。
 1984年前後に死刑囚から無罪で社会に戻った免田栄さん、斉藤幸夫さんらの報道被害を調査した。松本サリン事件で犯人扱いされた河野義行さんを訪ねて、河野さんが無実と分かるまで支援した。
 1999年にメディアが200日にわたって徹底的に断罪した野村克也氏(現在、楽天監督)の妻、野村沙知代さんに野村さんに手紙を書いて、メディアの不当な攻撃に負けないようにと伝えた。当時沈黙を守っていた野村氏と「週刊金曜日」「創」などで対談。野村氏は33件のメディア訴訟を起し、ほとんど勝訴した。浅野ゼミは今年1月19日、野村氏を招いて、「“サッチー・バッシング”報道の真実」と題した講演会を開いた。
 そのほかイラクで活躍した綿井健陽さんを招いた。共同通信の原田浩司カメラパーソン、芥川賞作家の辺見庸さん(共同の2年先輩)、写真家の長倉洋海さん(同志社OB)らがゼミに来てくれた。
 脳死移植報道をめぐって、厚生省公衆衛生審議会疾病部会臓器移植専門委員会委員 (1999 )を務めた。
私のもう一つの専門は、侵略戦争とメディアである。日本支配下のアジア諸国におけるマスメディアを調査して『天皇の記者たち 大新聞のアジア侵略』(スリーエーネットワーク)を出版した。
 1994年に教員になってからも、インディペンデント・ジャ−ナリストとしてインターネット新聞「日刊ベリタ」(www.nikkanberita.com)、「現代」、「週刊プレイボーイ」、「創」、「論座」、「週刊金曜日」、「救援」、単行本などで取材、表現活動を続けている。
 昨年6月には、サッカーW杯アジア最終予選の日本対朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)戦の第1戦をさいたまで、第2戦をバンコクで取材して、ネットなどで報道した。
 2年前からはインターネット新聞などオルタナティブ・メディアの研究にも力を入れている。オーマイニュースのオ・ヨンホ代表の本の日本語版が昨年3月末、『オーマイニュースの挑戦』というタイトルで、太田出版から出版された。私は日本語版の解説を書いた。月刊「論座」(朝日新聞社)05年9月号の「ブログの実力」特集で、日本でのネット新聞の可能性について書いた。真のジャーナリズムとは何かを考える上で重要だ。
 「オーマイニュース」のコンセプトでネット新聞の立ち上げを構想している。
 放送番組の「やらせ」、権力からの圧力についても調査研究している。NHK−安倍晋三問題を書いた「評論社会科学」(社会学部の紀要)76、77、78号を参照。
 海外の研究者との交流も多い。02年から03年まで、英国のウェストミンスター大学のメディア研究所客員研究員を務めた。英国や北欧を中心とした国々の報道評議会、プレス・オンブズマン制度などメディア責任制度の国際比較研究をしている。
 02年11月、米MITのノーム・チョムスキー教授と対談。03年3月、米ポートランド大で、日本支配下の朝鮮をテーマにした学会で報告した。
 昨年3月、英国の二つの大学で「東アジア民主化とメディア」で発表した。
 University of SheffieldとLondon University。
 今年2月にはニューヨーク市立大学で開催される「イラク、朝鮮とメディア」のシンポジウムで基調講演。
 放送番組にも度々出ている。1985年NHK教育テレビ「テレビシンポジウムいま事件報道はいき過ぎか」、94年テレビ朝日「朝まで生テレビ」、95年TBSテレビ「スペースJ松本サリン報道」、98年TBSテレビ「報道特集スハルト政権危機・強制退去させられた日本人記者」、CNN「This Week in Japan」(しばしばインタビューを受ける)などに出演した。 昨年は朝日ニュースターでJR事故報道について出演した。

 日本の国際社会、とりわけ東アジアにおける役割や憲法問題について、国民的な合意をどう形成するかが今問われており、報道機関の役割は重要だ。日本だけでなく各国のマスメディア企業の“権力広報化”が進み、ジャーナリズム性が弱まっている。こういう時代だからこそ、メディア学に携わるものの責任は重い。


C各回生ゼミで何をしているか

★1回生のゼミ

 1回生のゼミは、春期はFYS。履修要項、シラバスを読んでほしい。
 大学教育一年次のはじめにあたり、大学において勉学する態度を涵養し、方法を習得することを目的にする。社会科学の基礎知識を獲得し、自らすすんで課題を立てながら知識を習得する方法を体得し、あわせてメディア学に向かう態度を習得してもらう。
 レジュメの書き方、レポート作成、発表やディベートの基本技法。また取材、調査の依頼書の書き方や送付の方法などを学ぶ。図書館における情報アクセスの方法。データベースの使い方。新聞記事検索など。レポートの作成方法と書き方。新聞記事の読み方。テレビ、ラジオの視聴の仕方。新聞記事を実際に書いてみる。報道番組をつくってみる。ネットで海外の新聞を読む。
 秋期は、ゼミでテーマを決めて、取材して記事を書いて、冊子か新聞にまとめる。05年度は、JR尼崎脱線事故と報道で冊子をつくり、「戦争と平和とメディア」で8ページの新聞(朝日新聞の協力を得た)をつくった。沖縄合宿も行い、普天間基地問題、沖縄戦などを調査した。
 朝日放送と朝日新聞大阪本社への見学。日経新聞整理部記者をゲストに招いた。
 私のゼミは、課題が多くて厳しいということを言う先輩が多いと思うが、ゼミが厳しいのは当り前。講義やゼミが厳しくない名門大学は、日本以外の国にはない。
 報道機関の就職試験は難しいと言われるが、1年生の時からしっかり準備すれば、合格できる。「浅野ゼミはメディア関係の就職には不利」というのも全くの嘘。浅野ゼミからメディアに就職している先輩は、たくさんいる。

★2回生ゼミ

 2年生のゼミでは、メディア学研究の基礎を身に付けてもらう。個人のテーマを決めてもらう。ゼミ全体で共同調査研究を行う。フィールド・ワークを重視する。さまざまな場所に出かけ、人々に会う「取材」をしてもらいたい。
 04年度の基礎ゼミでは、グループに分かれて取材し、前期は「SHOUT 308 〜田辺の中心で○○を叫ぶ〜」を発行。後期は「日本」をテーマにして冊子をつくった。そのほか、NHKアナウンサー、朝日放送報道部長らを招いて話を聞き、新聞の「ひと」欄記事、インタビュー記事を書いた。
 05年度は「ナショナリズム・愛国心とメディア」を共同テーマにして、各個人で研究した結果をパワーポイントで発表し、冊子にまとめた。

★3・4回生ゼミ

 3・4回生のゼミが本ゼミ。卒論を書くための個人研究とともに、ゼミで一つのテーマを決めて2年間いっぱいを使って共同研究を行う。
 これまでに12期ゼミがあるが、その時々の国際関係、ジャーナリズムのあり方を考える共同研究が多い。先輩たちのテーマには、「大震災と報道」「日米犯罪報道比較」「在日朝鮮人とメディア」「少年犯罪とメディア」「雪印事件と報道」などがある。現場で多様な人々に会って話を聞き、自分の目で観察することを重視している。
 「イラク戦争とメディア」を研究した10期生は03年9月NY合宿を行ったほか、豊田直巳、野中章弘両氏らの講演会を開いた。また04年6月にはイラクで拘束された今井紀明さん講演会を主催した。
 「海外から見た日本のメディア」を調べている11期生は韓国合宿を行い、ネット新聞などを調査した。北海道警察本部の裏金問題を追及した北海道新聞デスクの高田昌幸さんと同志社OBGのメディア記者を招いたシンポを開いた。05年 12月、東京の同志社オフィスで、海外メディアの東京特派員を集めてシンポジウムを開催。また新聞学研究会取材で映画「バッシング」の小林政広監督を招いて上映会と講演を行った。
 12期生は「JR尼崎事故の被害者報道」をテーマにしている。犠牲者の出た大学、新聞記者のインタビュー、被害者遺族への取材を控えているサンテレビを調査し、兵庫県警察本部の報道官に聞き取り調査した。05年夏には、高知で合宿して、高知新聞、高知放送の幹部、一線記者から話を聞いた。
 共同研究の成果は、浅野ゼミが毎年発行するゼミ誌『DECENCY』(既に11号発行)に掲載するほか、一般書籍として、『激論・新聞に未来はあるのか』『英雄から爆弾犯にされて』『ナヌムの家を訪ねて』『イラク日本人拘束事件と「自己責任」報道』を出版した。
 韓国での調査をもとにビデオを作成した学年もあった。内外のジャーナリスト、法律家、NGO活動家などをゲストに招くほか、ゼミでさまざまな話題で自由討論も行う。
 浅野ゼミから大学院に進む学生も多い。同志社だけでなく他大学の院に進み、博士号を取得する学生もいる。
同志社で、school of journalismの新しい伝統をつくりたい。

<04・05年度卒業論文の主な題名>

 04年度は「訃報を読み解く」「報道が変えたヒロシマ・サガサキ像」「変化の中にある中国メディア〜SARS報道を通じて〜」「ネタの賞味期限」「五輪報道」など。
 05年度は「事件事故での実名は必要か」「デジタル化と準キー局」「音楽に見る日韓文化交流」「報道写真の改造」「新聞に見る外国人嫌い」「ホームドラマの変遷」「読売に支配されるプロ野球」「日本における市民の放送参加」などである。

 なお、11期生(2006年3月卒業)らは、「朝日新聞」「NHK」「読売新聞」「大広窓」などのメディア界に就職した。

 私に関するさまざまな誹謗中傷があるが、そのほとんどが全くのデマである。メディア学を学ぶ学生は、自分で事実かどうかを確認してほしい。「自分の眼で確かめて判断する」のがジャーナリストの基本。またあるゼミに入れば特定の新聞社や放送局に入れると思う学生は、絶対にジャーナリストになってはならない。入口で不正をする人間が権力の監視者になり、市民の知る権利に応えられるはずがない。
 浅野ゼミを出た学生たちのほとんどは、自分たちの力で、メディア関係をはじめ、さまざまな分野で生き生きとして活躍している。「自治、自律、自立」の精神を持って将来を考えてほしい。

ゼミ全体についてはネットで浅野ゼミのホームページにアクセスしてほしい。index.html
浅野ゼミに関する問い合わせはメール(asanokenichi@nifty.com)、ファクスで。何でも自由に聞いてほしい。
   

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