書評の紹介と浅野から近況報告
浅野健一

2006年8月31日

『戦争報道の犯罪』書評がJANJANに



 代表的なインターネット新聞のJANJANに拙著の書評が出ていました。中村孔治さんが《『戦争報道の犯罪―大本営化するメディア』を読んで》と題して 2006/05/28 にアップされています。http://www.janjan.jp/book_review/0605/0605230855/1.php

 リードは次のようです。
 
 一読して、本書より強い印象を受けた。小泉政権5年間は、日本国、日本の大多数の人間にとって、私は、決して喜ぶべき時代ではなく、小泉首相登場以前に比し、遥かに日本のマスコミは権力に対する監視という役割を忘れたと痛感した。顕著な一例を上げれば、05年8月の郵政民営化法案の参議院否決を受けて、敢えて行われた衆議院解散の後、「小泉劇場」に踊るマスコミがあった。
 また、本書は多くの例証を挙げ確実な筆致で、戦争と排外主義に向かう現在日本社会のムードを、メディアが先導している様を明白にした。更に、極右政治家とNHKの結託、及び、民報TVや朝日、読売等々大新聞の堕落も顕著である点や、自衛隊による報道管制、イラク人質家族へのメディアスクラム等も白日に曝した。
 イラク開戦前後のアメリカの状況等々の分析と批判等も適切・明瞭になされている。世界各地の多くの人々との適切な情報交換、行動力、情報収集力、分析力、加えてジャーナリストとしてのモラルに裏づけられた著者の労作である本書を、現在、大分岐点に生きる日本人の可能な限り、多くの人々に読んでいただきたいと切望する。

『戦争報道の犯罪 大本営発表化するメディア』
著者:浅野健一
出版社:社会評論社
定価:2300円+税


 私のこの本は、ジャーナリズムの役割は侵略戦争と、社会のファシズム化を阻止することだと強調し、今の日本の企業メディアのジャーナリズム機能が衰退化していることを明らかにしている。次の首相に政権党内の野合で選ばれる予定の男性は、近著で国のために命をかけると宣言し、朝鮮を敵視して「敵基地攻撃」を煽ってきた。憲法と教育基本法の改悪に最も熱心な反動政治家である。ジャーナリズムの創生が今ほど求められているときはない。
 
 「DAYS JAPAN」8月号に「戦争とジャーナリズム」と題して書いた。多くの人たちから反響があった。同志社大学の学生の中に、「DAYS JAPAN」を読んで、初めて私のことを知ったという人もいて、メールが来た。

 2006年7月26日付朝日新聞夕刊文化面に掲載された、「注目!今月の論考」に、私の「創」8月号が「今月の論稿」として紹介された。同誌9月号にも8ページ書いた。
 記事では、@小泉政権と格差、A自由と監視、B中国のいま、の3つのテーマで計11本選ばれ、私の論文はその8番目。秋田県藤里町で今年5月に起こった男児殺害事件で逮捕された女性およびその家族などへの人権侵害取材・報道の実態とその被害について取り上げ、捜査段階での実名・有罪視報道を批判、犯罪報道のあり方を変えていくべきだと主張している。
 今回選ばれた11本の中で、私が提唱する匿名報道主義導入と報道評議会などのメディア責任制度に対して、乱暴な論理で反対の立場を取る松井茂記・大阪大学大学院高等司法研究科教授の文章が選ばれている点も興味深い。

 以下は2006年7月26日付朝日新聞より引用。

 注目!今月の論考

 <小泉政権と格差>
 @野田信雄「正義を踏み外した異端」(諸君!8月号)
 A松原隆一郎「成果主義はやがて行き詰まる」(中央公論8月号)
 B橘木俊詔「団塊はフリーターと連帯せよ」(文芸春秋8月号)
 <自由と監視>
 C魚住昭、郷原信郎「検察の正義とはなにか」(論座8月号)
 D上村達男「村上ファンドはなぜ挫折したのか」(世界8月号)
 E伊藤博敏「『戦う公取委』に脅える談合企業と利権集団」(現代8月号)
 F松井茂記「個人情報保護法に掘り崩されるマスメディアの表現の自由」(論座8月号)
 G浅野健一「秋田・男児殺害事件 報道の大問題」(創8月号)
 H特集「傲慢テレビの罪と罰」(サイゾー8月号)
 <中国のいま>
 I古畑康雄「変貌する中国メディア」(東亜7月号)
 J特集「深刻化する中国の環境問題」(外交フォーラム8月号)


 記事にはフリーライターの永江朗氏の文章があり、次のように指摘している。

 小泉政権下で生まれた個人情報保護法は、〈民主主義を支える表現の自由〉という構造をぶっこわそうとしているのかもしれない。同法を楯に情報提供を拒む事例が官民で相次いでいる現状について、Fは厳しく批判する。プライバシーの権利は絶対的なものではなく、ときとして表現の自由の前に制約されることもありうるはずなのに。

二つの講演会の成功



河野義行さん ©Asano's seminar

 7月5日の「マスメディアの現場」で、河野義行さんがゲストスピーカーで来てくれた。《「報道された側」から見た日本のマスメディア》という演題で、90分、松本サリン事件で数々の報道被害を受けてことを話した。約400人の学生、市民が聴講した。
浅野ゼミの歴代の先輩は、河野さんから学んできている。その成果はDECENCY,新風舎の本に出ている。

 河野さんが事件後、最初に公の場で講演したのは同志社が初めて。これまでにも何回か同志社に来ているが、今回は秋田事件などの例も挙げて、94年当時とメディア状況は、ほとんど変わっていないと強調した。
 






 7月6日の霍見芳浩先生の講演会(同志社大学社会学会の主催)は一般市民の方々が多数参加し、大成功した。参加者は約150人の盛況で、質疑応答もたくさんあり、予定を30分も延長して、終了した。
霍見芳浩先 ©Asano's seminar

 米軍のイラク侵略・強制占領で米国がいかに疲弊しているか、市場原理主義のブッシュの米国に追随する小泉政権の問題点をわかりやすく説明した。
 ニューヨーク市立大学経営大学院の学科長である霍見先生は、ハーバード大学MBAの教授時代に、ブッシュ大統領を教えたことがあり、ブッシュ氏は「人間が貧乏なのは、怠け者だからだ」などと公言していたことなどを明らかにして、人に対する思いやりに欠ける人間だと指摘。「明日の日本を、ブッシュ共和党が支配する今の米国にしてはならない。そのためには政権交代が必要だ」と訴えた。

また、「NHK受信料支払いを拒否して、そのお金で『週刊金曜日』を購読しよう」と提案した。会場で同誌の最新号などが50冊も売れた。
また、7月6日の浅野ゼミ(3回生)に、元読売新聞記者でジャーナリストの山口正紀さんがゲストで講義をしてくれた。
 また同日午後4時45分から7時過ぎまで渓水館1階の会議室で、山際永三さん(映画監督、人権と報道・連絡会事務局長)、山口さん、河野義行さんが、ゼミ学生有志に「人権と報道」について話してくれた。

文春裁判で情報提供した教授の名前



 7月5日午後1時10分から、文春裁判の第3回口頭弁論が京都地裁で行われた。河野義行さん、山口正紀さんらが傍聴に駆けつけてくれた。
 文藝春秋の訴訟代理人弁護士、喜田村洋一、藤原家康両氏は、6月23日付被告準備書面、7月5日付「証拠説明書」(正確には、訂正後版と、【ご参考】と題し訂正差し替え箇所を明示したメモとの合計2通)を提出した。
文春側は書面で、《「週刊文春」編集部で本件記事を担当した》Iデスクの姓名を初めて明らかにした。このデスクは私に一度も連絡してこなかった。また、被告になっている記者2人(契約記者)の姓名を挙げて、《取材は主として両記者が行った》と述べた。また、両記者は、同志社大学社会学部メディア学の教授(当時・大学院新聞学専攻教務主任。本件記事の「B教授」)に取材し、記事に書かれた様々な内容を列記して《説明を受け》、《両記者は、教授から、その説明の裏づけとなる資料の提供を受けた》ことを明らかにした。教授の実名もフルネームで出ている。
 また、前回の準備書面に続いて、記事の中でA子さん、Dさんとなっている二人(同志社大学嘱託講師と前・講師)の姓名を挙げて、《取材し、説明を受けた》《また、その説明の裏づけとなる資料の提供を受けた》と書いている。
 また、記事の中の、《E子さんが所属したゼミの教授》(文春記事中では「F教授」と表記)の大学名と姓名を明記し、《取材した》と述べ、《両記者は、同志社大学の大学院博士課程に1998年に入った》男性(現在、中部地区の国立大学助教授・文春記事中では「Gさん」と表記)の大学名と姓名を明らかにした。
代理人は、以上5人が記事で、それぞれB、A、D、F、Gであることも実名を出して明記している。
代理人は大学の委員会がDさんに郵送したとされる私的な手紙の「原本」を持参して示した。同志社大学教員(06年3月末まで)である人が、学内文書の現物を文春代理人に渡したということだ。
文春側は、B、A、Dの3人が週刊文春記者に対して堂々と学内の委員会における審理内容にかかわる事項に言及し、資料を提供していたことを明記しているのだ。
文春記事が出た後、山口正紀さんが「週刊金曜日」で解説したとおり、文春の直接取材に協力したのは、5人であることがはっきりした。
 このほか大学内の教員たちと学内委員会のやりとりの文書のコピーが多数、「証拠」として提出された。文春側は、これらの文書コピーはすべて3人から提供されたと明言している。
記事の中で「C子さん」にかかわるところで登場する「同志社関係者」「教員」などはB教授その人である可能性が大きいことが分かる。
 文春側は@「C子さん」、A「浅野氏に代わってコメントした大学広報課」、B別の社会学部のケースを語った「司法記者」―に関する取材経過を一切明らかにしなかった。被告は、この3点についての真実相当性の反論を事実上放棄したと言えよう。
 裁判長が証人の予定について喜田村氏に聞いたところ、「記者(2人)は当然出すが、第三者の人たち(B教授ら)については、9月13日までには決められない」と述べた。
 文春側の反論はこれですべて出揃い、4回目の弁論が9月13日(水)午後1時10分から京都地裁208号法廷で開かれることが決まった。原告側代理人は9月初めまでに、文春側の主張に対して反論する書面を提出する。証人調べは来年前半になりそう。3人(あるいは5人)が証言台に立つことは必至の情勢。メディア学を専攻し、教育研究活動を行っている5人(文春の出版報道活動を激しく批判してきた人が含まれる)が、文春側証人としてどう証言するか極めて注目される。
 裁判経過は、京都のジャーナリストが「救援」(救援連絡センター機関紙、03−3591−1301)などに書いている。コピーが必要な人は研究室へ連絡ください。郵送します。

京都で浅野支援会
会場であいさつする山際永三さん(「人権と報道・連絡会」事務局長) ©Asano's seminar



 7月6日夜、京都市内で私の本の出版を祝い、文春裁判闘争に関し私を励ます会があった。6月9日には東京で同様の支援会があった。

 約20人の学生を含む約50人が参加してくれた。主催は、私の友人たちがつくった「浅野教授の文春裁判を支援する会」(略「浅野支援会」)。この会は東京と京都に事務局を置いて活動中だ。
霍見芳浩教授が約45分、記念講演した。講演の最後に、「大学教授ほど、嫉妬心の強い人間はいない」などと分析し、適正手続きを無視した文春と文春に情報を垂れ込んだ大学教員を批判した。
まず、山際氏が「マスメディアを根源的に批判する浅野氏攻撃は前からあった。今回の攻撃を仕掛けた連中を叩きのめすまで闘う」と決意を表明。次に同会事務局長の山口正紀氏がパワーポイントを使い、文春記事を分析した。山口氏は、文春“ジャーナリズム”の特質を明らかにして、「メディアリテラシー教育の教材に最もふさわしい虚偽記事だ」と指摘した。文春が取材した5人の関係図を示して、5日の裁判で提出された文春側書面での主張を紹介した。

 弁護団からの報告があり、山田悦子さん、河野義行さん、金定立さん(哲学者)、神林毅彦さん(米紙通信員)らが発言してくれた。同志社大教員、新聞記者、市民運動家なども多数参加した。
 「同志社でなぜこういうことが起きるのか。メディア学の研究者が文春に虚偽情報を垂れ込むのは信じられない。この裁判は大学改革闘争でもある」と指摘が多くあった。
 参加できなかった多くの人たち(ゼミOBG含む)からメッセージが届いた。文春裁判を同志社メディア学科の改革につなげることが大事だと思う。

●「浅野教授の文春裁判を支援する会」連絡先
 〒604−0971 京都市中京区富小路通丸太町下ル富友ビル3階 堀和幸法律事務所気付
 (メール:on-sk@hotmail.co.jp FAX:075−231−5752)


 文春裁判の第4回口頭弁論は9月13日午後1時10分、京都地裁208で開かれる。
 また同日午後6時(予定)から京都弁護士会館で報告集会がある。この裁判を傍聴すれば、メディア学の生きた勉強ができる。

(了)
     

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