世界で一番“大人気ない”政治家はあなただ
小泉首相8・15靖国神社参拝事件
浅野健一

2006年8月31日

 小泉純一郎首相は大日本帝国全面降伏発表日の8月15日午前7時45分ごろ、東京・九段の靖国神社に参拝した。「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の国会議員56人(民主党を含む)も参拝した。

 首相は報道陣が見守る中、モーニング姿で公邸を出て、警護官が同行し、公用車で靖国に向かった。「昇殿参拝」で、「内閣総理大臣 小泉純一郎」と記帳し、献花料を私費で払った。
 上空には報道ヘリが十台以上飛び交い、テレビ各局は参拝を生中継した。
 現職首相としては1985年の中曽根康弘氏以来21年ぶりの降伏記念日参拝だが、日本国憲法に違反し、侵略戦争肯定神社を正当化する反人民的な行為である。公務員のトップに立つ首相が憲法の政教分離規定を無視していいはずがない。
 NHKは正午のニュースで、韓国、中国の抗議を伝えた後、台湾は批判していないと報じた。なぜ「国交」のない「台湾当局」の「報道官」の発言を伝え、その他のアジア太平洋諸国の声を伝えないのか。あまりにも唐突である。

 中韓両国が反対したら行けないのか、という小泉氏のすり替えコメントは、マスメディアが靖国の本質を伝えてこなかったから可能になった。靖国問題は極めて重要な国内問題だ。

 首相は“首相番記者”による“ぶら下り”取材(記者会見と称していたテレビ局があったが、会見では全くない)に、「中国や韓国の言うことを聞けばアジア外交が良くなるとは思わない」と主張し、「小泉は米国と親しいと。(だから)ブッシュ大統領が私に『参拝するな』と言えば(参拝)しないだろう。そんなことない。米国が反対しても行く。もっとも大統領はそんな大人げないことは言わないけどね」と述べた。首相の靖国参拝を批判することは「大人げない」というのだ。
 
 新聞各紙(15日夕刊、16日朝刊)に小泉首相の参拝についての市民のコメントが多数出ているが、その中に、首相の記者団への説明を受け入れ、首相にも思想信条の自由があるとか、国のために死んだ人たちを哀悼するのは当然だなどという見解がいっぱいあった。正義の戦争もあったことが分かったという声もあった。

 朝日の15日夕刊社会面にこんな記述があった。
 《名古屋市の女子高校生(18)は小泉首相の参拝を見ようと、初めて母親(44)と一緒に靖国に来た。「学校の先生は首相の靖国参拝に反対していたけど、日本を背負って戦死した人たちに失礼と思った。小泉さんが参拝して本当によかった」 》
 「学校の先生」から、歴史をきちんと学んだのだろうか。
首相が靖国に現れた際、参拝者、市民が押し寄せ、「万歳」の歓声が上がったという。「英霊にこたえる会」などが配った日の丸を手にした人たちも多かった。こうした多数の民衆の存在こそが小泉首相よりも怖い。
 小泉首相は“番記者”との会見では質問を受けないが、15日は秘書官の制止を振り切って多くの質問に答えた。没論理的な説明だが、歴史や法律を十分知らない市民はだまされてしまう。

 元A級戦犯・首相の孫の女性が朝からテレビ各局に出て、小泉参拝で「心が晴れた」などとコメントしていた。昭和天皇と並ぶ侵略戦争の最高責任者の子孫が白昼堂々とメディアに登場して、祖父を英雄視することを許す日本社会が怖い。
 東京新聞によると、15日に靖国を訪れたのは約25万人。去年より約5万人増えた。04年の大阪地裁判決は、小泉首相の靖国参拝で靖国への参拝者が急増したことを違憲判断の一つの理由に挙げていた。

 参拝を支持する若者が多い。小泉氏の記者団へのコメントを聞いて、なるほどと納得した人も多いようだ。ある学生は「小泉さんの話を聞いているとそっちもまた正しいように感じたりしたので、もっと調べてみたい」と言っている。
 読売新聞社の緊急世論調査(八月一七日付)によると、首相の参拝を「支持する」は、「どちらかといえば」を合わせて53%で、「支持しない」は計39%だった。共同通信の緊急電話世論調査でも、首相の「8・15参拝」について「参拝してよかった」との回答が51・5%で半数を超えた。
首相の参拝前の各社の世論調査では、六〇%以上が「8・15参拝」に反対し、賛成は三〇%代だった。

 嘘も百回つけば本当になる。それが小泉と反動勢力の意図するところだ。侵略戦争肯定神社、カルト宗教である国家神道を正当化することを目的にし、参拝を強行し、自説を繰り返して、歴史を知らない人たちをだますのだ。
 小泉参拝の一五日午後、東京・早稲田のアクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」に出かけた。〇五年四月に同志社で講演してくれた李容洙(イ・ヨンス)さんらが参加した。ハルモニたちは、「総理をやめれば毎日でも靖国に参拝できる。個人的な欲で強行した。許せない」と首相参拝を激しく批判した。
 ハルモニたちに同行していた韓国の挺身隊連絡協議会の女性は「日本のテレビを見ていて驚いたのは、小泉首相の過去五回の靖国参拝をすべて放送していた。悪いことと考えるなら、映像を繰り返し使わないはずだ。韓国のテレビではあり得ないことだ。日本のテレビは、私たちの主張を取り上げない。ひどすぎる」と述べた。
テレビは反民主主義的な行為でも、その行為をリアルタイムで伝えることで、既成事実化するメディアでもある。

 首相の靖国神社参拝に反対しているのは中韓だけではない。
 小泉首相が7月の訪米で米議会演説ができなかったのは、靖国問題が原因だ。
 近くHPに載せる予定の霍見芳浩(つるみ・よしひろ)ニューヨーク市立大学教授からの情報を以下に紹介する。

「日本国首相の靖国神社参拝に反対するのは中国・韓国だけではない」

 国際経済学の権威である霍見芳浩(つるみ・よしひろ)ニューヨーク市立大学教授からこのほど、2006年7月22日付のニューヨークタイムズに掲載された「リーダーの心構え」(In the Hearts of Leaders)と題する社説を本HPに掲載するよう連絡があった。霍見教授自らが社説を日本語に訳してくれた。 
 教授は6月末からの日本訪問の機会を利用して、7月6日に同志社大学今出川校地新町校舎で公開講演会(同志社大学社会学会主催)を行った。演題は「明日の日本を今の米国にしないために」で、一般市民を含め多数の参加があった。
 
 同社説の全文は次のとおり。
 これまで数年間、日本の首相である小泉純一郎は第二次世界大戦のA級戦犯でその内絞首刑になった7名を含む14名も祀られている神社に参拝して来ている。
 この恥知らずの行為は国粋右翼におもねるものであるから、中国をはじめその他日本帝国主義の犠牲者達を怒らせているし、多くの日本人も小泉氏はかつての軍国主義を抱きしめていると恐れている。しかし、小泉氏はこの9月に首相を辞任する前に、また靖国詣でを考えていると思われる。そして、彼の後継者と目される安倍晋三は同様に靖国詣でを宣言している(同氏は発射台の北朝鮮ミサイルを攻撃すべしとまで言った)。
 今週、日本の一新聞が天皇侍従だった者の日記の一部を公表して、首相の靖国参拝についての国民の危惧を高めた。同侍従は、かつて、アジア支配の為にナチスドイツとの同盟へと日本を導いた昭和天皇が、靖国神社が戦犯者を戦死者に加えたとして、1978年以降は問題の神社に詣でるのを中止したのを明らかにした。「これは私の心からの決断だ」との昭和天皇のお言葉を日記に止めていた。
 小泉氏及び同氏の支持者もこれに心動かすだろうと常人なら考えるだろう。しかし、小泉氏は記者達に対して、思い上がった態度で、「誰でも独自の感情を持っている」と事なげに言った。昭和天皇の反省さえも同氏には何の効果も無いのだろう。
 昭和天皇自身戦争責任があったと考えられるが、これは敗戦直後の時代の必要性から不問に付せられた。しかし、帝国時代の古めいた産物だった昭和天皇は、いま近代的改革者でかつ国際的リーダー、そしてエルビスが大好きのふりをする者よりもはるかに、深い心の中にけじめをつけるだけの余地を残されていたのだった。
(霍見芳浩訳)


 霍見芳浩教授は8月12日、電子メールで、主要米紙に教授が送付した投書を浅野ゼミに送ってきた。教授の住む町の地元紙The Scarsdale Inquirerが掲載したという。


The Yasukuni Shrine and Threats to Democracy of Japan and the U.S.

August 7, 2006
Professor Yoshi Tsurumi, Baruch College, the City University of New York.

On August 15th, 1945, Imperial Japan surrendered and World War II ended (the VJ Day, August 14th for the U.S.). As this symbolic day approaches, Chinese, South and North Koreans and the majority of the Japanese public are demanding that Japan’s Prime Minister Junichiro Koizumi refrain from paying his celebrated homage to the Yasukuni Shrine in Tokyo. In 1978, after lying low for 33 years, the Shrine defiantly reemerged as the symbol of Japan’s new militarism and authoritarian rule. It consecrated, among the war dead “Shintoism heroes,” Hideki Tojo and other war criminals executed by the U.S.-led Far East Tribunal and by other war crime courts in Imperial Japan’s occupied countries. Showa Emperor Hirohito for whom Imperial Japanese soldiers died chose to express his remorse for Imperial Japan’s war responsibilities by stopping his visit to the Yasukuni Shrine.

However, increasingly emboldened by the pregnant silence of the U.S., the Yasukuni nationalists have since increased their political influence and have progressively eroded Japanese “mass pacifism” of post-World War II era. In spring 2001, Mr. Koizumi became the prime minister by embracing the authoritarian nationalists dominating his ruling party. In exchange for their support, he pledged to visit officially the Yasukuni Shrine on August 15th or other symbolic days. Since the 9-11 terrorist attacks in the U.S., President George B. Bush has abetted Mr. Koizumi’s throwing Japan back to the authoritarian and militaristic days of the 1930’s. President Bush has found Mr. Koizumi and Yasukuni nationalists eager partners in his Iraq occupation and in stirring up the fear of North Korea. Such fear makes Mr. Koizumi and his fellow nationalists obedient to President Bush’s Imperialistic agenda.

Mr. Koizumi and his presumed successor, Shinzo Abe, are likely to ignore the rising protests against their Yasukuni visits. It is of no consequence when and how a sitting prime minister and his cabinet members would visit the Shrine. It is their official visits that signal the whitewashing of Imperial Japan’s war aggressions and atrocities. With Mr. Koizumi’s direct assistance, the Shrine has added the war museum that blatantly glorifies Imperial Japan’s past. It publicly denies Imperial Japan’s war responsibilities including the attack on Pearl Harbor, the “Death March of American POWs” in Baatan, the Philippines, the Rape of Nanjin, and the mass abductions of Korean and other “sex slaves” for Japanese soldiers. Mr. Koizumi and his nationalist followers are openly erasing the legitimacy of the Far East Tribunal and Japan’s post World War II democratic reforms under the U.S. tutelage.

Just imagine that to placate the neo-Nazi factions of the ruling party, a German Chancellor pays homage to Adolf Hitler’s Shrine. The Shrine is glorifying Nazi Germany and denying the Holocaust and other Nazi war crimes. It is denying the legitimacy of the U.S.-led Nuremberg judgment of Nazi war criminals. Just imagine that the German government are purging Germany’s tainted past from the history textbooks of primary and secondary schools. The compliant mass media and the parliament are winking at the whitewashing of Germany’s past. The reemergence of undemocratic and militaristic Germany would be seriously threatening the national security of the U.S.

If these hypothetical analogies become the reality, as they have in Japan today, Americans would be loudly demanding that their political leaders prevent the shameless acts of the German government. No American president would remain silent. However, alas, Mr. Koizumi has been emboldened by President Bush’s silent manipulation. The enraged China and South Korea are refusing to talk with Mr. Koizumi even over the threats of North Korea’s missiles and nuclear weaponry. Mr. Koizumi has become ever more dependent on President Bush’s continued silence. He is harming the national security of both Japan and the U.S.

Mr. Koizumi’s Yasukuni visits show that like President Bush’s America, Japan has also become the “authoritarian kleptocracy,” an atrophied form of democracy. The ruling party and its narrow interest groups perpetuate their authoritarian hold over the nation through election rigging and fear mongering. They manipulate compliant judiciary and mass media. People suffer. The nation becomes distrusted in the world. The society becomes undemocratic and socially and economically divisive. Politics and business become corrupt and amoral. American cannot afford to be indifferent to Mr. Koizumi’s Yasukuni visits and to President Bush’s dismal lack of historical sensibilities and democratic leadership.


霍見芳浩(つるみ・よしひろ)氏略歴:
1935年熊本県生まれ。1960年慶應義塾大学経済学部卒業。同大学院、助手を経て、米国ハーバード大学で経営学修士号(MBA)、さらに1968年、日本人として初めて経営学博士号(DBA)を取得。その後、ハーバード大学、コロンビア大学、カリフォルニア大学などの教授を経て、現職。太平洋経済研究所理事長。『脱日本のすすめ』『日本企業繁栄の条件』『日本再活論』『脱・大不況』『日本の再興』『アメリカのゆくえ、日本のゆくえ』など著書多数。
霍見さんは、ハーバード大学大学院の教授時代、ビジネス・スクール(MBA)コースにいたブッシュ現大統領を教えた。米メディアの功罪についても詳しい。
 私は反天連機関誌『運動〈経験〉』第18号(8.15発行)に「皇国史観の靖国神社と企業メディア―神道イデオロギーの危険性を見抜こう」と題して長文の記事を書いた。以下はその記事からの引用である。

 靖国神社とは、明治以来、天皇のために戦死した人々を祀っている場所であり、特に、アジア・太平洋戦争で戦死した人々を祀っている。しかし、祀っているのは、軍人・軍属だけであり、戦争にまきこまれた民間人を一切祀っていない。他国にある戦没者慰霊施設とは大きく異なり、天皇のための戦死を誉めたたえる顕彰施設であることは、多くの識者が指摘している 。靖国神社とは、国家神道の中心的な施設なのである。
 首相が靖国を参拝することについては、過去に被害を受けたアジア・太平洋諸国からだけでなく、世界各地から批判が出ている。
 前述の拙著『戦争報道の犯罪』55ページ以降に書いているように、欧州の新聞も厳しく批判している。
 米国も同じだ。
日本側は六月末の首相訪米時に上下両院の合同会議で演説することを模索していた。演説すれば日本の首相としては初めのことだった。
 ところが、米下院のヘンリー・ハイド外交委員長が、日本が模索している米議会での首相演説(六月末)を実現するには「靖国神社を参拝しないことを自ら進んで表明する必要がある」とする趣旨の書簡をハスタート下院議長に出していたことが今年五月一二日に明らかになった。
 朝日新聞によると、ハイド氏は第2次世界大戦当時、フィリピン海戦などに参戦した経験のあるベテラン議員。昨秋にも小泉首相の靖国神社参拝をめぐって「(アジアの)対話が阻害されるとしたら残念だ」などと懸念を示す書簡を加藤良三駐米大使に送っている。
 朝日によると、書簡はこう述べている。
 《首相が演説の数週間後に靖国神社を参拝することへの懸念を示した。真珠湾攻撃に踏み切った東条英機元首相ら同神社に合祀(ごうし)されているA級戦犯に首相が敬意を示せば、フランクリン・ルーズベルト大統領が攻撃の直後に演説した場である米議会のメンツをつぶすことになるとしている。
 さらに、真珠湾攻撃を記憶している世代にとっては、首相の議会演説と靖国参拝が連続することは懸念を感じるにとどまらず、侮辱されたとすら思うだろう、と指摘。「演説後に靖国参拝はしないと議会側が理解し、納得できるような何らかの措置をとってほしい」と求めているという。》

 霍見芳浩(つるみ・よしひろ)ニューヨーク市立大学教授が七月六日、同志社大学で講演した中で、この出来事について次のように語った。

 《小泉氏は、靖国参拝に反対しているのは中国・韓国だけだと言うが、そうではない。ブッシュは小泉を国賓として花道を用意した。上院と下院の合同議会で演説させようとした。米国から見ても最大の栄誉だ。本当のステイツマン(政治家)という認識になる。アジア諸国の首脳で上下両院の合同会議で演説するという栄誉についたのはマルコス王政を倒したコラソン・アキノ比大統領、トショウヘイ中国主席、シンガポールのリー・クアンユー首相だけだ。
 ブッシュ政権は小泉にやらせようと準備していたが、議会の大反発があった。その先頭に立ったのは、ブッシュと同じ共和党の下院議員のハイド外交委員長。彼は四月下旬に書簡をハスタート下院議長と大統領に送って、小泉が靖国参拝をやめない限り、あんなやつを演説させてはならないと主張した。これは日本の各新聞がトップで報じるべきニュースのはずだ。日本が米国にどう見られているか、米のものの見方。特に小泉さんが言っているように中国と韓国だけが反対しているなんてまったくそぐわない。
 ところが日本の新聞は小さな記事か、コラムで取り上げているだけで、重大性を出したものはない。まして一面トップに載せた新聞は皆無だ。
 彼が合同演説をできなかったというのは、日本の品格が損じられているということなのだ。残念ながら国の品格はトップの品格で決まる。その品格がもともと悪いと思っていたところだから、日米が共同宣言とかを出しても意味がない》

 また5月19日には、アナン国連事務総長が、首相の靖国参拝について「ある意味でこの地域の緊張を増しているのではないか」と発言した。
 共同通信ロンドン支局が8月16日に配信した記事によると、8月16日付のフランス紙リベラシオンは、靖国神社に参拝した小泉純一郎首相を、オーストリアの極右政治家ハイダー氏になぞらえて非難する社説を掲載した。
 同紙は、2人の共通点として「急進的自由主義と過去への愛惜の思いに加え、人類に対する罪を擁護しようという傾向がある」と指摘。「ハイダー氏が権力の座に就き、(ナチス政権下の)ドイツ帝国の犠牲者らを愚弄(ぐろう)する様子を想像してみればいい。小泉首相のしたことはそれに近い」と批判した。
 さらに参拝に反発する中国が軍事力を含めた国力を増強する現状にも触れた上で「(参拝は)日本のナショナリズムを攻撃的な方向に向けて再結集することになる」と分析。中国との付き合い方としては「最悪の方法」だとした。

 靖国の問題は、第一に日本の人民の問題である。
 みんなで考え、行動しよう。

 小泉首相が靖国に参拝した8月15日夕、山形県鶴岡市にある自民党の元幹事長加藤紘一氏の実家が全焼した。現場には、男性が腹部を切って倒れていた。警察は男性が放火した後、割腹自殺を図ったとみて調べている。事務所には女性事務員1人が勤務していたが、逃げ出して無事だった。 97歳になる加藤氏の母親は散歩に出ていて無事だった。
 加藤氏はこれまで、首相の靖国神社参拝について「参拝すべきではない」「個人の心の問題と考えること自体、大きな錯誤であり、外交問題だ」など批判的な発言を繰り返してきた。15日もテレビ各社に出演し、参拝を批判した。
 加藤氏はこの日午前もテレビ朝日で上坂冬子氏と議論していたが、小泉首相が首相就任後の01年8月13日に前倒しして参拝した際、首相に助言したことを明らかにしていた。その後、上坂氏が「中国にも言われたんでしょう」と聞くと、加藤氏は中国大使館筋とも協議した上でのアドバイスだったことを認めた。その際、上坂氏がにやっと笑ったのが不気味だった。上阪氏は、中国が内政干渉したと言いたかったのだろう。
 加藤氏は16日のテレビで、事務所や自宅周辺に脅迫電話や手紙が来ていることを明らかにしたうえで、「02年10月に北朝鮮との関係についてHPに書いたら、実弾が私や知人に送られてきたこともある」と述べた。加藤氏は中国との友好促進、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)へのコメ支援についてコメントした際に、右翼団体から度々批判を受けていたという。
靖国の周辺には、反動勢力と極右暴力集団があり、危険だ。
 日本の企業メディアは、現場で腹部を切って倒れていた男性と男性の所属団体(男性は団体幹部らしい)が「仮名」にしてきた。8月29日警察に逮捕されて初めて実名報道した。
山形県警が18日午後、この男性が放火した疑いが強まったとして、男性が関係する都内の二つの右翼団体事務所を現住建造物等放火容疑で家宅捜索。朝日新聞によると、県警と警視庁の捜査員約20人が新宿、文京両区内の団体事務所に立ち入り、名簿や写真アルバム、機関誌など約60点を押収したという。男性は入院治療中で、容体が回復し次第事情を聴くということで、ずっと仮名を通した。
 読売新聞だけは、19日の朝刊から、男性が関係する団体名を《東京都新宿区の「大日本同胞社」》と実名報道した。《捜索のため「大日本同胞社」に入る捜査員ら(18日午後、東京・新宿区で) 》という写真説明も載せた。
 一部週刊誌は最初から団体名も男性の実名も報じている。
 普通の刑事事件では被疑者・被害者の実名・顔写真がなければ欠陥記事になるとか、リアリティがなくなるという報道機関がこのケースではほぼ一致して男性を仮名にしてきた。なぜか。警察が逮捕していなかったからだ。かつて神奈川県警の警察官たちが日本共産党国際部長の自宅の電話を盗聴した事件で、新聞各紙は被疑者になった警官5人を警察当局による処分発表があるまで、ずっと仮名名にしていた。共産党議員が国会で警官の実名をバンバン出して追及しているのに仮名だった。当時の新聞社幹部は実名報道しない理由について、「警察が逮捕していないからだ」と私の取材に答えた。
 実名報道主義(官憲依存の原則)の本質をこれほど見事に現した例は他にないだろう。
 鳥越俊太郎氏は8月23日午前のテレビ朝日のワイドショー「スーパーモーニング」で、メディアが団体名、「犯人」の実名を報道しないのはおかしいと批判していた。そう思うなら、読売新聞並みに団体名ぐらいは出すべきだった。
 また、常連で出ているテレビ朝日の報道責任者と番組内で討論すべきだろう。

 (以上)
   

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