Asano Seminar:Doshisha University
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寄稿
霍見芳浩ニューューヨーク市立大学教授特別寄稿
『日本人の安全と暮らしを損なう安倍「欠陥」首相』
 霍見芳浩ニューューヨーク市立大学教授が『ニューリーダー』(2007年4月号)に書いた安倍晋三首相批判の論稿を浅野ゼミHPへの転載を許可してくれたので、以下に掲載する。
 日本が日本軍慰安婦問題でも国際的に孤立している。米下院の与野党の議員が1月31日、旧日本軍の従軍慰安婦問題について、日本政府に対して明確に歴史的責任を認め、首相が公式に謝罪するよう求める決議案を提出した。
 決議案の賛同議員が増え、安倍氏の政治家としての資質が国際的に問われている。
 2月2日の朝日新聞外報面に《従軍慰安婦問題「日本は謝罪を」/米下院、超党派決議案》という見出しのベタ記事(ワシントン・小村田義之記者)が載っていた。

 《米下院の与野党の議員が1月31日、旧日本軍の従軍慰安婦問題について、日本政府に対して明確に歴史的責任を認め、首相が公式に謝罪するよう求める決議案を提出した。(略)同問題について(1)明確な形で歴史的責任を認める(2)日本の首相が公式に謝罪する(3)この問題はなかったとの主張に反論する――などを日本政府に求めている。》

 米政府は七三一部隊、日本軍「慰安所」設置関係者など日本帝国主義の当時の「人道に対する罪」に関与した日本人のリストを毎年更新して、入国を禁止する措置をとっている。また、小泉純一郎・前首相の靖国神社参拝問題でも、米国は厳しい批判を行ってきた。
 日本政府の閣僚、官邸スタッフの半数が、歴史改竄主義者である。中川昭一・自民党政調会長は、河野官房長官が「河野談話」で歴史判断をしたと批判した。
 安倍晋三首相は前に、「歴史認識については本来、歴史家に任せるべきものではないか」と繰り返し表明している。「A級戦犯は東京裁判では有罪になったが、日本の国内法では犯罪者ではない」とも安倍氏は繰り返している。
政治家は歴史家であり哲学者でなければならない。NHKに政治的圧力をかけて番組を改竄させた人間が首相になったのは、メディアがだらしないからだ。
 中国の江沢民主席(当時)は98年11月に訪日した際、自民党の安倍議員らの戦争を知らない世代の議員たちが「歴史観は国によって異なる。共通の歴史認識を持つのは不可能だ」と主張したのに対して、「お互いが、正しい歴史認識を持つように努力できるのではないか」と諭した。
 日本が歴史に向き合い、過去の侵略についての責任をどうとるかが今も問われている。
 米国からの霍見芳浩教授の見解を以下にアップする。転載を許してくれた霍見教授に感謝したい。
『日本人の安全と暮らしを損なう安倍「欠陥」首相』
『ニューリーダー』(2007年4月号)

ニューヨーク市立大学教授 霍見芳浩


安倍日本の醜い姿


 国民支持率低下にあわてて、安倍首相はなりふり構わずに靖国原理主義の国粋者にすり寄り、不安な日本国民の対外恐怖心を煽っている。魚も国も頭から腐るし、首相の品格が国の品格を決める。大東亜聖戦の迷信を首相自らがふり捲いて、1930年代の醜い日本に本卦がえりしている。この悪イメージは、世界との共生なしには生きてゆけない日本の存在そのものを危うくしている。
 今年は、勝手に日本が忘れようとして、歴史教科書から消して来たあの「南京事件(帝国陸軍による中国人の大量虐殺と強姦)」の70周年目。小泉首相に続いて、安倍首相の自民党政権が太平洋戦争(1930年〜45年)の責任を勝手に否定している。そこで、日本批判を狙って、米国の映画祭で賞を取ったドキュメンタリーの「南京」が世界中で封切られる。リーダー失格の石原都知事と安倍首相はじめ、大東亜聖戦をうそぶく靖国原理主義者達は、「南京大虐殺は中国のねつ造」などと開き直るだけだが、敗戦以来これまで日本政府の責任で、厳しい反省と検証、そして後世への語り継ぎをして来なかったことの報いである。今でもナチスの国内外での犯罪を時効なしで、自ら追究し、清算しているのがドイツである。ドイツの民主化進展と較べられて、日本の国粋右翼化が目立っている。


安倍外交の二大失敗

 米国上下院を奪った民主党とブッシュ外政批判の世論に押されて、ブッシュ大統領はこれまでの北朝鮮との無益な対決から、米朝直接交渉による北朝鮮の核の脅威削減へと動いている。5年前の振り出しへと戻ったのだが、この5年間「ウラニュウム核爆弾製造」など北朝鮮についての米政府諜報のねつ造やドル札偽造、覚醒剤密輸出などの言いがかりもブッシュはやっと引きこめて、北朝鮮の対米感情を回復している。
 首相の第一の責任は日本人の安全を守ることである。この自覚があれば、安部首相はブッシュの対北朝鮮対応の急変を歓迎して、即座に、92年の日朝平壌宣言の合意の実施に向けて日朝直接交渉を始めるべきである。日朝直接交渉による国交回復があってはじめて、北朝鮮の日本人拉致も、核の脅威も解決の交渉が可能となる。しかし、安倍首相や靖国原理主義者達にはこの外交のイロハが分からない。「日本人拉致が解決するまで、日朝国交回復はあり得ない」というのは本末転倒なだけではなく、自民党政権が30年以上も無視していた日本人拉致をあげつらって、北朝鮮との国交回復を拒んでいるのは、帝国日本軍によるかつての朝鮮人男女の拉致虐待を持ち出されたくないからだと疑われても仕方がない。世界に、自主外交能力なしと笑われても当然だろう。
 そして、3月1日、安倍首相は記者団に対して「帝国日本軍による慰安婦(性奴隷)はなかった」と語り、日本軍の蛮行を認めた93年の内閣了解にもとづく河野洋平官房長官談話を証拠の提示なしに否定した。しかも、昨秋の首相就任直後の訪中と訪韓では、95年の村山首相声明(「太平洋戦争は日本の侵略だった」)と河野談話を首相として再確認して、中国と韓国との関係改善を誓っていたのにである。公式訪問での日本の首相の誓いはこんなに軽いものなのかと中韓はもとより、米国も呆れている。


河野内閣官房長官談話

 この談話は外務省のホームページに載っているから、読者に御一読を勧奨したい。2年近くもかけた調査を土台にしたもので、国会決議に次ぐ重さをもたせたものである。「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲がこれに加担したこともあったことが明らかになった・・・・」と認めて、「心からおわびと反省の気持ちを申し上げる」とも日本政府は公式に宣言している。
 しかし、一議員時代ならいざ知らず、首相になった今、安倍首相は、自民党内外の国粋右派におもねて、「日本軍による慰安婦の強制拉致の命令書が無いから、日本軍の関与は認められない」などと詭弁をふりまいている。言うなれば、殺人に使った凶器を捨てておいて、「この凶器が見つからないから、殺人はしていない」と開き直り、多くの目撃者証言や物的傍証を「ねつ造」だと強弁するのと変らない。ドイツはじめ欧米のネオ・ナチ右翼達が「ナチス独によるユダヤ人大虐殺(ホロコースト)や性奴隷化はなかった」というウソ八百の詭弁と同じである。
 河野衆議院議長に聞けば分かることだが、敗戦直前に、当時の内務省と陸軍省の高級幹部が植民地と占領地を飛び回って、日本軍による慰安婦拉致の証拠書類を焼却している。問題の証拠はまだ見つかっていないとしても、被害者や現地女性拉致に関与した元日本兵士の数々の証言で国際法廷の審議に叶うものがある。また、占領したインドネシアでは、捕虜にしたオランダ人女性を将校用の性奴隷にした証拠もあり、敗戦後に、オランダ軍事法廷は責任者の日本人将校を死刑にしている。フィリピンでも同じである。それなのに、桜井よし子メガホンは、「インドネシアでオランダ人女性の性奴隷はたったの2か月間だったから問題ではない」と言う。一度や二度はレイプではないと言うのと同じである。こんな頭だから、「従軍慰安婦ではなかった」などとも言う。朝鮮人性奴隷を日本軍は軍用船で南洋の島々の基地に「移動慰安」をしていたのにである。


日本の名誉回復

 口を開くと、安倍首相も自民党の大東亜聖戦信奉者も、「日本人の名誉の為に、日本軍による慰安婦拉致を否定する」と言う。しかし、国際法廷の審理に堪え得る動かぬ証拠や証言があるのに、河野談話を否定したり、大東亜聖戦説を一方的にがなり立てることほど日本人の名誉を傷つけているものはない。彼等は、「帝国日本の内外での蛮行を繰り返さない為にも、自分達の手で厳密に検証しよう」とする良心的な日本人を「自虐」と切捨てる。しかし、彼等が帝国日本の蛮行を勝手に隠したつもりで、否定するにつれて、日本は世界中から嫌われ、日本人の安全も暮らしも危うくしている。安倍首相以下、帝国日本の蛮行否定者こそ本当の自虐者であり、他の日本人も傷つけるサディスト(可虐者)である。
 いま、米国下院では、ブッシュ共和党時代には一時棚上げされていた、「帝国日本の植民地や占領地での日本軍による現地女性の性奴隷化を認めて日本政府は謝罪せよ」との対日非難決議の審議が民主党主導で進んでいる。3月1日の安倍首相による河野談話の否定は、下院の対日非難決議の可能性を増した。対日非難決議が出されると、日本は自己責任力を欠く、ならず者国家との烙印を受ける。「南京大虐殺」に続いて「性奴隷拉致」が太平洋戦争責任の認知の踏絵として改めて日本に突きつけられ、米国はじめアジア太平洋諸国との関係改善も遠のく。日本の悪イメージは、日本品や企業の悪イメージともなる一方で、安倍首相がすがるブッシュによる日本の植民地化が完成する。(了)

掲載日:2007年4月6日
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