376人の弁護士、
市民が橋下徹弁護士を懲戒請求
元“親弁”の樺島弁護士が呼び掛け
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浅野健一 |
光市事件弁護団の懲戒請求をテレビ番組で煽動した弁護士の橋下徹氏に対し、私を含む全国の三七六人が「刑事弁護の社会的品位をおとしめた」などとして、橋下氏の懲戒処分を所属先の大阪弁護士会に請求した。
このことについて簡単に報告しておきたい。私が請求人になっているのに、私の名前を書くなと記者たちに圧力をかけたというデマが飛んでいる。そういうことは全くしていない。請求人が誰であるかは、当初は公表していなかった。
全く予断と偏見で私の新聞社へのコメントを問題にする企業メディア人がいることに、改めて、この日本という国の危うさを感じる。調査追及すべきは、権力を持つ者たちの言動のはずだ。
橋下氏は一月十日告示、二十七日投開票の大阪府知事選に立候補している。
橋下氏は昨年五月二十七日の読売テレビ「たかじんのそこまで言って委員会」(全国十九局放送)で、同弁護団が放送三日前に広島高裁に提出した「更新意見陳述書」「法医鑑定書(三通)」「精神鑑定書一通」などを何ら検討することなく、あるいは全くそれらを無視して、弁護団の弁護活動内容を批判した。
この後、懲戒請求のフォームがネットで流れ、橋下氏らに煽られた人たちが光市弁護団の所属する弁護士会に次々と懲戒請求した。請求人の数は十二月二十五日現在で八千百二十七人に達した。過去三年間の全国の一年間の懲戒請求の合計が千件強であり、いかに異常な数字かが分かるだろう。
ところが橋下氏自身は「多忙」を理由に請求人になっていない。根拠もなしに弁護士が弁護士を懲戒請求すると問題になるからだ。
懲戒請求に対し橋下氏は「特定の弁護士が主導して府知事選への出馬を表明した時期に懲戒請求したのなら、私の政治活動に対する重大な挑戦であり、刑事弁護人の正義のみを絶対視する狂信的な行為」とコメントした。
橋下氏に対する懲戒請求を呼び掛けたのは樺島正法弁護士(大阪弁護士会)である。甲山事件の元被告人の山田悦子氏、ロス事件の三浦和義氏、警視総監公舎事件の福富弘美氏ら冤罪被害者が請求人になった。
樺島氏は十二月二十五日、大阪司法記者会で記者会見して、懲戒請求と知事選挙は無関係であることを説明した。会見で発表したコメントは下記のとおり。
樺島氏が懲戒請求の準備を始めたのは九月下旬で、十二月中旬ごろに懲戒請求するのは十一月の半ばに予定していた。橋下氏が知事選挙に出馬表明をしたのは、十二月十二日。樺島氏は「こちらの予定に橋下弁護士が何の予告もなく突然入り込んで来た、あるいは飛び込んできたというのが真実である。橋下氏が府知事選に出ることを見越して、九月当初から準備をしていたということはあり得ない」と強調した。
橋下氏は自民党に出馬に前向きの意向を表明しておきながら、十二月五日の朝日新聞と毎日新聞が「橋下徹弁護士擁立」と報じた後、橋下氏は「出馬は二万パーセントない」と述べた。
毎日は《自民、公明両党がタレントで弁護士の橋下徹氏擁立を軸に調整していることが分かった。自民党幹部が3日、橋下氏と会い、立候補の意思を確認した》と報じていた。
ところが、橋下氏は自民党と相談したこともないと断言した。朝日、毎日両紙のスクープを誤報にしたのだ。出馬表明の会見で、この点を聞かれた橋下氏は「事実でないことを言ってしまった。そのことは有権者に判断してもらいたい」などと答えた。ウソつきを知事にしてはならない。
実は光市弁護団の中道武美弁護士(安田好弘弁護士と同期)と橋本弁護士は共に樺島事務所で「イソ弁」だった。「兄弁」である中道氏を「弟弁」である橋下氏が不当にも懲戒請求を呼びかけたことについて、「親弁」の樺島氏が放置できないと考えて請求を行った。大阪の弁護士たちが請求に加わる動きもある。
樺島氏は会見でこう述べた。「橋下氏は中道弁護士の所へ、光事件のことを聞きに行ったということもない。事件記録も見ていなかった。橋下弁護士は人権感覚をもって、もう一度、光市事件と弁護団の取り組みを、記録をよく読んで勉強し、再検討し、彼らの活動が、調べれば調べるほど、刑事弁護人として当然のことであり、しかも立派であることを理解し、テレビで彼らをあたかも国賊であるかのように宣伝した事を訂正し、反省すべきだ」
樺島氏の会見を報じたメディアは一つもなかった。
樺島事務所の連絡先は、大阪市北区西天満三―八―一三 司法ビル四〇一 樺島正法弁護士、℡〇六―六三六五―一八四七。
私は新刊『メディア凶乱(フレンジー)──報道加害と冤罪の構造を撃つ』(社会評論社)で、橋下氏へ懲戒請求の動きがあると書いている。私が同書を上梓したのが十二月五日であった。懲戒請求が橋下氏の「政治活動に対する重大な挑戦」だというのは、〝糞バエ〟のタレント弁護士による悪質極まりないデマ宣伝である。 |
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橋下徹弁護士に対する懲戒請求についてのコメント
平成19年12月25日
懲戒請求人
弁護士 樺 島 正 法
1 私は大阪弁護士会の樺島正法と申しますが、今月17日に行いました橋下徹弁護士(大阪弁護士会)に対する342人の懲戒請求を呼び掛けた弁護士の一人であります。
この懲戒請求は、橋下弁護士が「光事件弁護団」に対して懲戒請求を呼び掛けたことその他、テレビやブログで語ったことを「弁護士の品位を失うべき非行」として行ったものであります。
今年の9月後半から私が申立書の原稿を書きはじめ、友人の弁護士・研究者・市民などの協力を得て、11月当初に完成させ、12月15日までに、署名、捺印の上、送って頂くようにお願いをして、1カ月程をかけて342人の方々の署名、捺印を頂いた上で、予定通り12月17日に大阪 弁護士会に提出をしたものであります。
342人の方々の内,私が存じあげているのは、署名・捺印の取りまとめをお願いした高々10名位の人だけであり、私が「特定の市民」に呼び掛けたということはありません。不特定、多数の市民に呼び掛けたのであります。
人に懲戒請求をせよと言っておいて,自らしないのでは、橋下弁護士と同じではないかとのごもっともな御批判が一部にありますので、本日の追加的懲戒申立書(13名分)に名をつらねました。
2 橋下弁護士は、12月18日の新聞各紙において、懲戒請求に対するカウンターコメントの中で以下のことを言っております。
毎日新聞大阪本社「特定の弁護士が主導して特定の市民に働きかけながら集団を形成し、私が府知事選への出馬を表明したこの時期に懲戒請求したのなら、政治活動に対する重大な挑戦」
読売新聞大阪本社「市民の自主的な判断で評価されたのなら弁護士会の判断に任せる。ただし,特定の弁護士(府知事選にかかわらないと推察される)が主導し、府知事選へ出馬表明した時期に懲戒請求したのなら、政治活動への重大な挑戦で悪質極まりない」
産経新聞大阪本社「特定の弁護士が主導して府知事選への出馬を表明した時期に懲戒請求したのなら、私の政治活動に対する重大な挑戦であり、刑事弁護人の正義のみを絶対視する狂信的な行為」
橋下弁護士によるこのコメントは私たちの懲戒請求について虚偽の情報を流して、自らの政治目的のために利用しようとする悪質なものです。
本件懲戒請求は、橋下弁護士が「知事選への出馬を表明した時期に懲戒請求した」のではありますが、上記に申しましたように12月17日頃に懲戒請求するのは元々、11月の半ばに予定していたことであります。橋下弁護士が大阪府知事選挙に出馬表明をされたのは、12月12日のこと でありますから、こちらの予定に橋下弁護士が何の予告もなく突然入り込んで来た、あるいは飛び込んできたというのが真実であります。
まさか、橋下弁護士が府知事選に出ることを見越して、9月当初から準備をしていたということはあり得ません。
3 私が懲戒請求で、橋下弁護士に反省して欲しいことの詳細は、申立書記載の通りですから、それに譲るとして、2,3の点だけふれておきたいと思います。
1つは、橋下弁護士が、「兄弁」である光市弁護団の中道武美弁護士に対して、不当にも懲戒請求を呼びかけたことです。因みに私は21期(昭和44年登録)で、中道弁護士は31期(昭和54年登録)橋本弁護士は49期(平成9 年登録)ですが、中道武美弁護士は、私の最初の「イソ弁」(勤務弁護士のこと、いそうろう弁護士といいます)であります。約5年程私を助けてくれました。そして橋下弁護士も、私の何人目かの「イソ弁」であります。私の事務所に9カ月ほどおりました。我々の世界の言い方では、中道弁護士は橋下の「兄弁」、橋下弁護士は中道弁護士に対して「弟弁」となります。そして、私と橋下弁護士で中道弁護士の所に遊びに行ったこともあります。
橋下弁護士は、中道弁護士の所へ、光事件のことを聞きに行ったということもありません。事件記録も、今年8月6日の大阪弁護士会での「光市母子殺害事件弁護団・緊急集会」の時までは見ていないでしょう。
にもかかわらず、「弟弁」である橋下弁護士が、「兄弁」である中道弁護士を懲戒請求せよと呼びかけました。そうして、今年5月27日のそして8月6日以後の懲戒請求の呼びかけをしているのです。
私の教育が足りなかったというべきでしょう。
2つは,橋本弁護士の人権感覚の欠落を反省して欲しいと思います。「刑事弁護人の正義のみを絶対視する狂信的な行為」と言っておりますがこの発言こそ弁護士である橋下君の人権感覚の欠如を示すものであります。ひょっとすると、橋下君は人権という言葉が大嫌いではないのかとさえ考えます。
司法の重要な役割の一つとして、多数決原理で運用される立法、行政から生じる歪みを是正するということがあります。従って、司法―「資格を有する」弁護人の役割は、優れて人権の問題に取り組み、人権感覚をもって仕事をしなければならない訳です。人権とは少数派、少数者のためにあるもので、多数者の人権というのは言葉の矛盾であります。人権感覚をもって、もう一度,光市事件と弁護団の取り組みを、記録をよく読んで勉強し、再検討し、彼らの活動が、調べれば調べるほど、刑事弁護人として当然のことであり、しかも立派であることを理解し、テレビ等で彼らをあたかも国賊であるかのように宣伝した事を訂正し、反省して欲しいと思います。
最後に、テレビでの橋下弁護士の呼びかけでなされた光市弁護団に対する懲戒請求が、札幌弁護士会,仙台弁護士会、東京弁護士会、第二東京弁護士会、横浜弁護士会、大阪弁護士会,愛知県弁護士会、広島弁護士会、福岡県弁護士会に,12月21日までに8127件(日本弁護士連合会審査部審査二課)なされましたが、橋下弁護士自身は参加していないとのことであります。そして最近、東京弁護士会と仙台弁護士会で「懲戒に付さず」という要するに懲戒請求の却下決定がなされました。
今後引き続いて他の弁護士会でも、続々と却下決定が下されること必至の情勢であります。元々の懲戒請求が、事実に基づがず,濫用のものであったからであります。この点,橋本弁護士は,自身の懲戒請求の呼びかけに応じて申立をした市民そして世間に対して、なんらフオローせず、知らぬ顔を決め込んでいるようですが、その態度は正しくなく、あらためて欲しいと思います。特に、橋下弁護士は今年の8月6日の大阪弁護士会での「光市母子殺害事件弁護団・緊急集会」以降,光市弁護団に対して「説明責任」ということを強調して来たことからすれば、自らの「説明責任」を果たすことが、肝要であると考え、懲戒請求に至ったのであります。 |
【付記】 新聞報道によると、放送倫理・番組向上機構(BPO)放送倫理検証委員会(川端和治委員長)は08年1月11日、山口県光市事件の裁判報道で、一方的な弁護団批判や事実誤認、歪曲(わいきょく)があったと私たちが申し立てた6放送局の18番組について、委員3人で組織する小委員会を設置し、調査に乗り出すことを決めた。
一方、山口県光市事件で、殺人などの罪に問われた元少年の弁護人に懲戒請求が行われた問題で、大阪弁護士会は07年12月27日、50代の男性弁護士の懲戒処分をしない決定決定(18日付)をしたと発表。
光市事件で、殺人罪などに問われた元少年の弁護人2人が昨年3月の最高裁弁論を欠席し、遺族から懲戒請求された問題で、第二東京弁護士会は22日までに、主任弁護人の安田好弘弁護士を「懲戒しない」と決定した。 |
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掲載日:2008年1月17日 |