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関西テレビの人たちと
浅野ゼミ学生との対話
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©浅野ゼミ |
関西テレビ(大阪市)の「発掘!あるある大事典」の捏造問題から1年1カ月が経った。2008年2月18日の共同通信によると、「発掘!あるある大事典」の捏造問題で日本民間放送連盟を除名された関西テレビの復帰を検討していた近畿民放社長会は2月18日、除名のままでは放送できない北京五輪の広報資料を配布したのは問題として、民放連への復帰要請を見送った。民放連の広瀬道貞会長は「同業者の意見を聞いて諮ったらどうか」と述べ、今春に復帰を検討する考えを示唆していた。しかし、重要視される地元の賛同が得られなかったことで、8月の北京五輪前に復帰する見通しは不透明になった。
関西テレビは1月30日、民放連に復帰願を提出していた。
関西テレビがFNN系列で2007年1月7日に放映した「発掘!あるある大事典Ⅱ 納豆が消えた」で「納豆ダイエット」に捏造があったことが発覚し、その後他の7回の放送でも「事実に反する」内容があることが分かった。関テレの千草宗一郎社長が同年4月3日に辞任すると発表、同日、検証番組を全国ネットで放送した。
関テレが有識者に依頼してつくった調査委員会が3月23日に調査結果を発表。日本民間放送連盟は同月27日『関テレ』を除名。これを受けて『関テレ』は28日夜、訂正放送をした。菅義偉総務相は30日、関テレの千草社長を総務省に呼び、「警告」を伝えた。政府与党は、放送法改悪で権力の介入を強めようとした。
同番組は1997年から520回オンエアされた人気番組。花王が単独スポンサー。日本テレワークが下請けで、実際には孫請けの「アジト」などの制作会社が番組をつくっていた。
関テレのHPにアップされた調査報告書を読んだ。154ページもある大作だ。報告書はまず、民主主義社会には自由・多彩・正確な情報が欠かせないと指摘し、「民主主義は多くの意見や見方が不断に検討され、時間をかけて形成される大小さまざまの合意を積み重ねながら成熟していくものである。時の権力や権威がこのプロセスをねじまげ、マスメディアや個々人の言論・表現の自由に介入することがもたらす弊害は、過去の歴史が示している」と述べている。格調が高く的確なメディア観だ。
調査委員会の委員長は熊崎 勝彦弁護士(元東京地方検察庁特捜部長、元最高検察庁公安部長)。調査報告書はよくできていると思う。テレビ界に共通する構造的な問題という指摘は、活字媒体も含め、メディア界全体で生かすべきだ。捏造は関テレだけの問題ではない。
千草社長は3月27日、再発防止策を発表した。関西テレビの社員約百人は同日、局内のスタジオで、社長の記者会見の模様をリアルタイムで見た。ある社員は「千草社長の記者会見にまた失望した。外部調査の報告を咀嚼できていない。やはりいまだに当事者意識が薄いのではないか。一応再発防止策は並べているが、外部調査報告がなくても誰でも考えられそうなものばかり。目玉がない。そんなもので簡単に実現できるわけがない。覚悟が感じられない」
また、報道現場の記者は、「5年前にフジテレビの営業畑から社長として天下ってきた出馬迪男・現会長は『利益をあげろ』という人物。実際、利益率8%という具体的数値が示されたのも彼が来てからだ。成果主義も導入され、それ以来、社内にはモノが言えない空気が増してきた。『分かりやすく伝える』ということから生じるリスクを考えていない、というのが今の現場の危うさだ」と指摘した。
出馬会長は残留した。
捏造番組の下請け会社、テレワークの役員に設立当初からフジテレビの村上社長が入っている。今も役員らしい。フジテレビの責任も重い。
関西テレビの番組審議会は何をしているのかと思う。番審は、「放送番組の向上と適正を図るため放送法によって設置を定められた機関」(関テレHPより)で、関テレでは05年度から渡辺武達委員長(同志社大学教授)や、狂言師の茂山千三郎さんら十人で構成。裁判制度フォーラムで「サクラ」を動員した名雪雅夫・産経新聞大阪本社編集局長も委員だった。月一回、放送された番組について審議している。
毎日新聞によると、同局の千草社長は1月20日の記者会見で、調査委について「番組審議委員も含めメンバーを選びたい」としていた。しかし、番審委員長の渡辺教授は同月24日、「番審は番審で、問題を精査していく。調査委では再度、科学的な専門家にチェックしてもらい、問題を洗い出すことになるのでは」と述べた。
関西テレビの番組審議会が2月8日、ねつ造問題発覚後、初めて同テレビで開かれ、原因の徹底解明と具体的な防止策を関西テレビに求めた。東京新聞によると、番審は「外部調査委員会とは別に問題を検討する」としていた。
堀部政男・中央大学大学院教授は「(報告書が提言した)『放送活性化委員会』は、各局が既に設置している番組審議会との役割分担に触れていない点が物足りない」(07年3月24日の東京新聞)と言っている。同感だ。
私は関テレ広報部に、番審(渡辺武達委員長)は、調査委とは別に「精査する」と言明していましたが、番審は何をしているのかを聞いた。広報部は、番審が2月8日に出した見解文を送ってきただけだった。調査などしていないようだ。
番審は法律に基づいて設置された機関で、関テレで起きたことに直接責任がある。ある準キー局の報道幹部は「渡辺番審委員長も辞任すべきではないか」と強調している。
丹羽俊夫・元テレビ朝日審査局長は「また同じことが絶対に起こる。下請け、孫請けの構造を放置している。『いくらでも代わりはある』という局側の姿勢が問題。限られた時間と労力、金で期限までに制作を強いられるのでは、いい番組はできない。正義を言う以上、身ぎれいにしなければならない。学んだことの証は、変わったということを示すということだと思う」と述べた。
浅野ゼミは07年5月15日に関西テレビで学外学習を行った。1・2回生が中心で、学生たちが依頼状を書いて送ったところ、関西テレビの幹部たちが学生との意見交流会を開いてくれた。滅多にない機会だった。
関西テレビが過去を反省し、市民とともに歩む放送局に生まれ変わろうとする強い意志を感じた。学生たちは貴重な経験をした。
以下はその記録である。
浅野ゼミ1回生の栗本翔太君が記録をつくった。
関西テレビの人たちは仮名とした。関西テレビの人たちに心から感謝したい。(浅野健一)
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浅野ゼミKTV訪問
2007年5月15日 |
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16:00 関西テレビ前に集合
入館証を着用
<関西テレビニュース枠><報道部体制>についてのプリント、放送項目表配布
16:05 A報道部副部長 アンカーについての説明
A副部長「報道部のAと申します。ようこそいらっしゃいました。簡単に今日ご覧いただく「アンカー」について説明させていただきます。二枚資料をお配りしましたが、まず<関西テレビニュース枠><報道部体制>についてのプリントをご覧ください。関西テレビのニュース枠はレギュラーで6つの時間帯があります。朝、「めざましテレビ」のなかの06:00~06:10。昼、FNNスピークが11:30~12:00。午後ニュースが15:00~15:05。今日ご覧いただくスーパーニュースアンカーが16:55~19:00の2時間枠。8:55にショートニュース。夜は滝川クリステルさんでおなじみの「ニュースJAPAN」が23:30~23:55。突発など大きなニュースがあるときには時間をこじ開けてニュースをお伝えします。この中で夕方のスーパーニュースアンカーというのがニュースの主戦場、一番ボリュームをさいて番組づくりをしている枠です。スーパーニュースアンカーについて、16:55~17:54まで関西のニュースのみならず全国で起こったニュースをまじえて展開しております。第一部の17:54~18:17はネットゾーンでございまして、フジテレビのスタジオからFNN系列に流れている部分でして、安藤優子さんがやっておられます。そのあと18:17~19:00まで、第2部、関西テレビローカルでの放送です。こちらの全国ネットのニュースはネットゾーンに関西テレビから発信しておりますし、逆に1部で、これはローカルですので全国ニュースはキー局のフジテレビのほうから素材をもらったり、FNN系列2局から回線を通じて原稿などの情報をもらって関西テレビで肉付けをして流しています。1部は去年の4月から始まって、関西のテレビ局でこの時間帯からニュースをやっているのは関西テレビだけです。ただ2時間という大枠になりますので、コメンテーターをお招きして、より専門的意見で解説いただいたり、モニターなども多用しまして、多角的にニュースを伝えるという構成になっております。1部のコメンテーターは文化人の方とジャーナリストの方という組み合わせにしております。
報道部の体制はまず編集長がおりまして、取材に行く行かない、どれくらいの人数を割くか、中継車を出すか出さないかを決める、ニュースを仕切っている人がトップにいます。次に予定デスク、企画デスク、整理デスクというデスクがいまして、予定デスクというのは翌日以降の取材の予定を組む人です。取材をするかしないか、その取材のボリュームはどのくらいなのか、毎日考えます。企画デスクというのは、毎日ある企画のコーナーを考えます。整理デスクというのは当日のニュースを記者から上がってくる原稿や取材を編集長の下でさばく役割です。出先と呼ばれる記者が、大阪府警に常駐で5人、大阪府庁・市役所に3人、裁判所に2人、経済担当が2人、京都支局に2人、神戸支局に3人、神戸はJRの事故ですとか震災がありましたので京都より1人多くなっております。スポーツが2人、遊軍っていうのは何でも屋で本社に待機しています。海外支局も関西テレビではパリ、ベルリン、クアラルンプール、上海の各支局に計4人いっております。アンカーの1部に10人、1部は、独自の取材もしておりますけど、ネットにあがってきた素材を肉付け、加工する主に内勤の人が10人います。毎月1本のドキュメンタリーをつくっておりますけども、その班に5人おります。あと関西のエリアに駐在のカメラさんがいまして、彼らは記者業務も兼ねています。奈良・姫路・堺・関空・和歌山・新宮・福知山・豊岡におります。取材してきた内容がマイクロ回線などを使って本社に送られてきています。
もう一枚の紙をご覧ください。今日見ていただくスーパーニュースアンカーの項目表です。今日はあまりニュースの入れ替えがなかったので1稿で収まっていますが、直前まで2稿3稿とどんどん改稿されていきます。朝の9時に第0稿というのがでて随時改稿されていきます。今日はご覧のようなラインナップになっております。今日のゲストは家田荘子さん、経済ジャーナリストの伊藤洋一さん、映画監督の江川達也さんです。福島で17歳の少年が母親の首持ち自首というのをトップニュースにしています。続いて熊本の赤ちゃんポストに3歳児が置かれていたというニュースです。これらは両方とも関西テレビのエリアではありませんので、それぞれFNN系列の福島テレビ、テレビ熊本から素材と原稿をもらって参照して調べるものは調べます。そのあとにコメンテーターの感想、解説があります。次のロールはなぜかはしかが流行っているという話題を取り上げます。モニターを使って解説します。そのあとコメンテーターのトークもあります。こういったコメンテーターのトークやモニターを使った解説は去年までなかったことです。続いて特報アンカーということで今日は徳島県のある町でごみを34分別する町があるということでこれを取材してきました。次のロールは韓国の整形手術で失敗続出というニュースで、これはフジテレビが取材したものです。その後最新ニュースが3つありまして、最後のロールはtotoがパンクしたというニュースとエンターテイメントニュースでしめています。これは東京のほうに関西テレビが芸能デスクをおきまして取材をしたり、フジテレビから要請してフジテレビから送ってもらっています。17:54に1部が終わりましてFNNスーパーニュースになります。
続いて2部にいきまして、頭のCX送りというのはフジテレビに送るもので、卓球少女佳純ちゃんのニュースと神戸港女性袋詰め事件というものを素材として送ります。それを編集し17時台の向こうのローカルが使います。また神戸港妊婦遺棄事件というのを関西テレビが責任を持って1分に編集したものを送り、全国ネットで放送します。続いてローカルが18:16に始まりまして独自のネタを放送します。ニュースがあって企画があってスポらぱというスポーツコーナー、最後にお天気コーナーとなっています。
みなさんには1部の最初のロールを1年生グループにスタジオとサブに分かれてご覧いただきます。次のロールで入れ替わってもらいます。2年生グループには2部の2ブロックを1部と同様にコマーシャルで入れ替わって見てもらいます」
16:20 B総務局長 あいさつ
B局長「総務局長のBです。今日はようこそいらっしゃいました。ご存知のように4月20日の日に「発掘あるある大辞典Ⅱ」の1月7日放送分の内容に捏造がありました。それをみなさんにお伝えして以降、いろいろな節目がありましたが、未だに当社はあるあるの渦中にいると言って間違いないと思います。他のメディアからさまざまなご質問ですとか、記事をいただきまして、そちらの方はみなさんの目に触れることは少なくなったと思いますが、私たちにとってはこれからというか、同時並行的に行っておりましたので御幣があるかもしれませんが、今ここにおられるみなさんを含めて関西テレビに対する思いを正の方向に、信頼をよせていただくために努力しています。さまざまなメディアの方からご批判ご指摘をいただきました中で、視聴者の方への責任を果たしていないというご指摘を賜りました。私ども社内にいるものとしては、一生懸命やってきたつもりではありますが、やはりいたらざるところがたくさんあり、みなさんにお詫びを申しあげなければなりませんし、反省しなければならないと思っております。ご勘弁いただきたいというようなことではすまない状況であって、私たちが取材をする側であったところの企業でのクライシスというのはいろいろなかたちがあったと思うのですけれど、それぞれの企業というのは思いがいたらなかったばかりにそういう事態を引き起こしたというのが有り体のところだと思いますので、それに対する完璧とまでは言わないまでもかなり厚い備えがあれば、そういう事態は起こらなかったのではないかと考えております。
私、今総務におりますけど、入社2年目までは報道におりまして、浅野先生の著書もたくさん読ませていただきまして、日々の活動の糧にさせていただきました。さまざまなことを自分の中には蓄積してきましたけれど、会社の体制であるとか会社の視聴者への向き合い方を改めまして、そういうことが起こらないように体制を整えまして、視聴者の方にもこういうかたちでやってますよということを見てもらって、もう一回応援していただけるような、そんなテレビ局で再スタートしたいと思います。来年で50周年を迎えるので、再生という新しい一歩を踏み出す1年にしたいと思っております。ある方から再生という言葉は軽々しく使うものではないと言われまして、再生というのは1回死というものがあって、それから再び蘇るものであって、そう軽々しく使うものではないというご指摘もたまわったこともあるのですが、かつて他社のことですけれど、TBSでオウム事件の時に筑紫哲也さんが「TBSの報道は死にました」とおっしゃいましたが、我々も今回の案件をうけまして、まさに関西テレビというのがみなさんの信頼を失った時点で、テレビ局というのは、みなさんの信頼のなかで生きている存在なのだと思いました。今回のことを重く受け止めまして、あえて使わせてもらって新たな一歩を踏み出したいと思います。さて本当にできるかなというところだと思いますが、たくさんの仲間が地に足をつけて頑張っておりますので、今後とも注目していただいて、関西テレビがどういう一歩を踏み出すかを見てやろうと思っていただければありがたいです。ありがとうございました」
16:44 報道部見学
16:56 ニュース見学 Aグループスタジオ見学 Bグループサブスタジオ見学
17:05 Aグループサブスタジオ見学 Bグループスタジオ見学
19:10 営業部Cさん(同志社OB)の話
営業部Cさん 「4年目です。2年半カメラの部署にいました。去年の7月に営業に異動になりました。どこの部署に行っても基本は変わらないと思いました。カメラで一番言われたのは、現場に行くことと、ものを見ること。営業の業務では1日中デスクに座っているのですが、会社がやっているイベントがあれば必ず顔をだして、スポンサーさんはどんな人が来ているのかとか、どれくらいの会場でやっているのかとか、そこに来ている会社の人はどんなふうに喜んでるのか楽しんでるのかということを自分の肌で感じる、テレビを見るにしても自分の売ろうとしてる枠を視聴者の方はどういう生活状態で見てるのか、どういう人がおもしろいと感じているのか、僕がおもしろいと感じたのに視聴率が低いのはなんでかなとか、そういう自分の目で見えるところから物事を捉えていかなければならない。そういうことはカメラのときに教わったことだと思います」
Q.「大学時代にスポーツはやっていましたか」
Cさん「大学時代はやってないです。政治学をやっていました。そのころ9.11とかあったんで」
Q.「どうして9.11に興味を持ったんですか」
Cさん「なんでそんなことがあんねんということと、なぜ人はこういう悲劇に興味を持つのかと思って」
Q.「なぜ浅野先生のゼミに入ったんですか」
Cさん「当時浅野ゼミでやっていたのは、日本社会の中でイスラム教がどういう状況に陥っているのか、日本のメディアが伝えるイスラム教というのを当の本人たちはどう思っているのかを研究していたので、おもしろそうだと思い参加しました」
Q.「研究によって分かったことは」
Cさん「意外なことに日本人と同じ感覚で見てたりするんだけど、でもアメリカ人に対してはあそこは世界を支配しているとかそういう世界観で、意外でありそれが当然なんだなと思いました」
Q.「将来的には関西テレビでどのようなポジションにつきたいですか」
Cさん「それは本当に模索中です」
Q.「今、就職して3年以内に辞める人が多いそうですが、この3年のなかでやりがいとか発見はありますか。また1日の生活についても教えてください」
Cさん「カメラの部署は厳しい部署で、毎日撮れないのが当たり前で、正直人間にはできんこともあんねんなと思いました。それでもやらないかんしやりたいし、そういう毎日でした。取材にださせてもらって帰って先輩に指導いただいて。今は営業で 、事件事故というところからは離れたところにいるので、決まった時間、9時に出勤して9時くらいまで仕事をします。遅いときには夜中の3時くらいまで仕事をします。あるあるの事件があったときは営業が大変だったので、それくらいまで残って仕事をしました。お詫びの文章の封筒を用意したり、いろいろやろうと思うと困難も多いです。でもカメラの部署とはまた違って、カメラのときは休んでるときも休んでる気がしない。事件事故があったらすぐ行かなければいけないプレッシャーがあって、遅れたときには1日中後悔にさいなまれることが多かったです」
Q.「厳しい仕事ながら続けようと思った理由は」
Cさん「カメラでいったら下手でも撮れた、それが流れて誰かが見てくれたというのがなによりもうれしいです。営業では自分が契約をとってきたCMが流れるのはうれしいです」
Q.「テレビ局に入社することは難しいことだと思うんですけど、入社試験はいくつか受けられましたか」
Cさん「キー局も受けましたし、いくつか受けました」
浅野先生「新聞社も受かったんじゃないの」
Cさん「日経は最終まで行きましたけど・・・・テレビ局は8社くらい受けました。でも就職活動はお金いるからね」
19:23報道部との懇談会
D記者(同志社OG) Eアナ F編集長 G報道局長 H報道部副部長
D記者「1、2年生のときは産業関係学専攻で、どうしてもテレビの世界に行きたいと思って、3年生のときに転学科しました。1、2年生必修だったので、3年生のときに1、2年生の子と一緒に浅野ゼミと渡辺ゼミと山口ゼミ、3つのゼミを1年間でやりました。浅野ゼミのみなさんは実践していると思いますが、とにかく自分で取材をして、記事にして、なにかしらかたちにしようとしますよね。自分でどこかに取材に行こうとする姿勢は浅野ゼミで学びました。テレビ局に行きたいという思いは中学生のときからもっていて、でもそれはドラマを作りたいという気持ちだったので、まさか入社して報道部にくるとは思っていませんでした。これまで自分で記事を書くなんて想像もしてなかったですけど、他のサラリーマンと違うと思うのは、自分の足で取材をしてくること。他の仕事をしてたらオフィスの中でデスクワークばかりだと思うんですけど、自分の知らないところへ行って、知らない人に会ってこういう話をしてください、それを記事にして、映像とともにみなさんのもとへ届く。何を伝えるのかというところまでまだ実感できてないのが正直なところなんですけど、なにかしら届けることができる仕事なんだなというのはこの1年で感じています。知らない世界、被害者の方がどういう生活をおくっていたのかを取材をすることもあれば、山奥に行ってコウノトリの雛の孵化をひたすら待ったり、そこで起こっていることを伝えられるのがこの仕事だと思います。学生のときは考えてなかった毎日を送ってるし、充実した毎日を送っています」
Q.「マスコミ関係に就職したいと思うんですけど、学生時代にやっておいたほうがよいことはありますか」
D記者「大学生生活を楽しむことです。私は普通にバレーボールサークルに入って、アルバイトをして、友達と旅行して。それぞれ出会う人が違うし、それを伝えられるかどうかなのかなと思います。めいっぱい遊んでください」
Q.「いろいろなことに興味があるんですけど、1つのことに絞ったほうがいいですか」
D記者「企画として自分で特集をつくるときに引き出しは多いほうがいいし、いろんなものに興味があるなかでも、自分がやっていて楽しいとか、知りたいことを調べたらいいと思います。今は興味で動いたらいいと思います。卒論のときにどうしようかなって考えたらいいと思います」
Q.「Eアナウンサーに聞きたいのですけど、どうしてアナウンサーになろうと思ったんですか。またやりがいは」
Eアナ「きっかけは小学校のときの朗読で、担任の先生が本読みが上手だからこういう仕事もあると教えてくれたことです。高校時代はスポーツのアナウンサーを志していて、テレビを見て実況したりしていました。この世界に入って4、5年はプロ野球の実況などしていたんですが、その後28歳のときにニュースに移ってきて、最初に思ったんですが、D記者も言ったように、そこで出会った人、役者さんとかタレントさんとかビッグネームの方とお会いする以外にも驚きとか発見があって、なにかに、それ一筋で生きている人を企画取材したときは、この仕事やっててよかったなと、やりがいを感じる瞬間です。さきほど専門を絞ったほうがいいのかという話がでましたが、アナウンサーとかキャスターってなにかの専門家でもなければ、一番大切なのはこの情報を伝えるってことですよね、毎日毎日いろいろなニュースがあって知らないことだらけで、それを一から勉強したり、専門家に話を聞いたり、あるいは僕が一番重きを置いているのは自分の局の記者なりカメラマンが現場で感じてきたことを最優先にしています」
Q.「アナウンサーになるのは現実的に難しいことだと思うんですけど・・・」
Eアナ「そうですね、僕は龍谷大学出身なんですけど、アナウンス教室に大学3年のときから通っていました。今は3回生の冬くらいに入社試験があると思うんですけど、当時は4回生の6月7月にあったので十分間に合うかなと思って門を叩きました。アナウンス教室の先生は大変厳しい方で、龍谷大学出身のアナウンサーはほとんどいないので、厳しいと言われましたが、反発心の強い子供でしたから、よしなんとか克服しようと。僕のもってる声っていうのはよく人にいい声ですねと言われるんですけども、これは親からいただいたものですけれど、まずはこれを突破口にして。でも声だけじゃ採用してもらえないでしょうから、いろんなかたちで自分の武器を身につけようと思い、ひたすらいろんなところを歩き回りました。それはなぜかというと、現場を見ることが一番大事なことだと思うからで、そうするとメモとか資料をあまりもっていなくても、空でしゃべることができる。現場を見てないと伝聞でしかないですからね。アナウンサーは標準語が大事だと言われますので、東京に行って山手線に何周も乗ってましたね。東京の人たちが話しているのを聞いて標準語を学びました。アナウンサー試験というのは、倍率は高いと感じるかもしれないですけど、記者志望の方も同じなんですけど、人数は多くてもやはり、テレビならテレビ、新聞なら新聞、この世界に行きたいという熱意があるかどうかっていうのは2,3分面接でしゃべると分かるんですね。だからどの局を受けても最終面接まで残る人っていうのは同じっていうのを聞いたことがあります。それを先輩に聞いて、それほど狭き門でもないのかなと思いました。それを聞いて面接に臨むのに気が楽になりましたね」
Q.「小、中学校のときにテレビ業界を目指していたんですけど、高校、大学に進むにつれてやらせ問題がどんどんでてくるのを見て、テレビに対して信頼感が失われていきました。そして今は新聞記者を目指しています。テレビのよさはなんだと考えますか」
F編集長「なぜ私が新聞ではなくテレビ局に入社したかっていうのが分かりやすいと思うんですけど、文章だけっていうのがおもしろくない。文章だけで伝えるっていうのは難しいことで、できる人はできる、でもそこに映像がつくことでより多くの人に本質が伝わるんじゃないかと思うんです。映像のもつ強さってすごいと思うんですよ。新聞は何回か読んだら分かると思うんですけど、テレビは一発、ニュースを録画する人なんていませんよね。一度見ただけで私たちが伝えたいことはこういうことだと伝えることがテレビの特性だと思うんです。映像にするっていうことは難しいことで、みんながやりたいと言ってもそれがみんなオフレコの人ばっかりだったらテレビはできない。そういう人たちに一生懸命説明して、あなたがテレビに出て、しゃべっていただく意味はこういうものなんだと、あなたが一人声をあげることでいろんなことが変わるかもしれない、国が動くかもしれないっていうところの、取材対象との信頼感のなかから、その人が結果的に法律を変えたりそういうことにまでなる可能性がある。それはやはり映像の力、また新聞は買って読まなければいけないけど、テレビはつければ見れますよね。
最近はインターネットなど自分の好きな情報だけ得ることのできるメディアって多いですよね。そういう世界のなかでも、政治・経済・社会・歴史・文化、そのなかから今日私たちがお伝えするのはこういうことですよというのを我々独自のニュース感覚で選んで、独自のニュース感覚で編集して出す。一番のテレビの特性というのは映像、その映像をつくり出すのにどれだけ努力してその映像ができているかという裏の動きがあるわけですけど、ただそれは逆にいうとたくさんの人に影響を与えるんですよね。だからこそ我々は捏造ややらせや過剰な表現は絶対にしてはいけない。映像だけ撮れればいいという勘違い、映像を撮るためにやってはいけないことに手を染めることが年に1,2回でてくることが、彼女がテレビへの信頼感を失った原因だと思います。それは映像の持つ表と裏であって、我々テレビマンとしては絶対にしてはいけない。
だからうちの局で出てしまったことに関しては非常に残念に思っていますし、他の部で起きたことであろうとも会社全体として、テレビに課せられた役割、責任を考え直さなきゃいけないということをあの問題から学んでいることです。だから決してテレビを嫌いにならないでください。僕が報道を志望したのは今何かが起きている最前線に行って、自分の目と耳とで取材してそれを自分の言葉で伝えられる、上司の意見と違っても話し合いで関西テレビとしてどういうふうに伝えていくか答えを導き出して。でも最前線で現場を伝えるのが俺の仕事だと思ってこの仕事を選びました」
Eアナ「だいたい同じなんですけど、映像の話をすると、映像っていうのは嘘をつかない。じゃあ編集をするじゃないですかと言われるんですけど、そこは私たちの良心ですよね。絶対に侵してはいけない領域、それはあるある問題以前も以降も同じスタンスでやっています。テレビの良さっていうのは映像という話がありましたが、同じ思いです。つけ加えるなら、新聞だと朝日新聞だけを読んでる読者と産経新聞だけを読んでる読者では、バランスのとれた人だったら別ですけど、偏りのある情報が出てしまう。テレビはその点において社会的にみなさんのどういう利益になるかが最重要ですから言論機関とはまた違う。報道機関としていくつかの考えを同じように提示してどういうふうにみなさんの考えを持ってもらうかという役割を果たしている、という意味でいうと、僕は新聞よりもテレビのほうがフラットじゃないかと考えています。ですから今日でいうと赤ちゃんポストのニュースがありましたよね。コメンテーターの方はさまざまな意見を持っておられますよね。賛成も反対も。私の仕事は専門でもなんでもない。でもやらなければいけないのは、いろんな意見があるっていう人をできるだけ多く提示するっていうのが仕事なので、限られた時間で、そうですね、あのニュースで言えば3分半。3分半のコメンテータートークのなかに、打ち合わせで前もって聞いてますから、この意見が出たら違う意見が出るって分かってて、次伊藤さん。バランスをとることだけはテレビ、特にニュースで重要だと思います」
Q.「放送法改正案はテレビ局にとって脅威になるのかなと思うんですけど、どのようにお考えですか」
G報道局長「放送法改正案についてはいろいろと論点があると思うんですけど、あるある問題に関して、テレビ局が事実と違う放送をした場合に、権力が無理やり介入してこらしめてやろうということですよね。我々メディアと公権力との関係はいろいろ議論がありますが、メディアが自立的に自分たちの判断で事実を伝えていくということは我々の一番根幹に関わることで、常に国家権力が介入するということは、我々の社会の基盤を危うくするものだと思ってます。権力の不正っていうのが放送法のなかに条文としていろんなかたちで盛り込まれそうになったのを危うく思いますし、あるあるの問題を契機に一気にそちらの方向へ流れそうな雲行きですので、非常に心配してました。NHKを含め、民放連でも異を唱えてきて、こういう事態に対して自分たちで判断して、自分たちでやっていくというようなことをアピールしてきたんだと思います。関西テレビは今回こういうようなことがあってなかなか発言できませんでしたけど、一応継続審議、今国会では改正ということにはなりませんでした。いずれまた持ち出してくることがあるやもしれませんし、多分そういうことがあるんだと思いますが、明確に反対していきたいと思います。
このゼミのみなさんはメディアと権力の関係については十分議論されていらっしゃるでしょうし、認識なさっているでしょうが、今回のような不祥事を起こしたことがこういうことを招いたのでしょうから、我々もこんなことがないようにやって行きたいです」
Q.「国民投票法案について、テレビメディアには憲法改正の投票の広報役を担ってもらうと書いてあるんですけど、そのためには賛成の意見も反対の意見も平等均等に放送しなければならない。政党の映像や録音は編集してはならないと書いてあったんですけど、限られた番組の時間でどのように取り組まれていこうと思っておいでですか」
G報道局長「放送法に、偏った放送をしてはいけない、一方に加担してはいけないとあって、護憲派に与することはいけないし改憲を支持してもいけない、両方平等に扱っていく。選挙時なんかでも我々そういう不屈のルールの中でやっているのですけど、テレビは一方に偏ってはならないというのに、それにさらに二重の規制、特にテレビに対してかけてくるっていうのは、改憲をスムーズにやろうというような意図もうかがえるわけですし、メディアっていうのは局によっていろいろ立場は違っても、権力側の意図をチェックするということが必要でしょうし、やろうとすることをけん制するという役割も必要だと思うんですよね。その役割を制限されるんじゃないかということに懸念を抱いてます。新聞なんかは社論というかたちで述べることができますけど、テレビの場合、既に放送法で規制され、我々のルールのなかにも自主規制があります、それにあえてさらに規制がかかっていきますと、憲法改正という重要な問題のときにメディアとしての役割を果たせなくなるんじゃないか、放送事業社のなかで放送法に基づき、自由にやらせてほしいと言ってきたんですよね。あの条文が実際に適用されるのか、どの程度規制がかかるのかということは見守っていかなければなりません。いずれにしてもこれから議論していかなければならないことだと思います」
Q.「Eアナに質問ですが、先ほど平等に均等にというお話がありましたけど、今日みたいにコメンテーターの方がいっぱいいて、賛否両論あるなかでメインキャスターとしてどのように取り組もうと思っていますか」
Eアナ「均等にっていうのは非常に難しいことで、選挙前だったら候補者たちが話している映像を15秒だったら15秒ずつとかってありますけど、そういうことってスタジオでのトークってなかなか難しいかもしれない。それと全く反対の意見が出たときってやり易い、でも2,3人いても同じ意見だけのときもありますよね、そういう場合は出ていない意見を敢えてこっちがかぶらなきゃしょうがないですよね。一方でこういう意見もありますよって提示できる、それによってひとつのことにいろいろな意見があることを視聴者に知っていただこうと思っている。ただ改憲については、今度の参議院選挙はどういう報道をすればいいのかというのは悩んでるところですね。憲法っていうのは一番みんなにとってほんとは身近なのに、遠い存在になってしまっている。生活に直結する問題がいっぱいあるはずなのに憲法って聞くだけでもう耳ふさいじゃう人が多いんですよ。それを守ろうか変えようかという大きなテーマなんですけど、それを選挙の争点にしようとしてるわけですから、短い時間のなかでできるだけわかり易く、なるべく時間をさいてしないと、分からないまま参議院選挙突入して、この一票をどういう意思で表示しようか分からないまま有権者が選挙を迎えるのはよくないことだと思うので、私の売りはバラエティ見ている人もこの人がニュースやってるってことでチャンネルを合わせてくれるっていう特性がありますので、そういう世代の有権者たちにわかり易く伝えることができたらなと思ってますよ」
Q,「先ほどのはしかの放送でも思ったんですけど、患部の写真など、過剰な表現があると思うんです。そのことについて意見をお聞かせください」
F編集長「過剰な表現っていうのは人によって境界線が違うと思うんですけど、はしかの報道で言えば、まずはしかってみんな忘れてたりしますよね。それを思い出していただく、油断してはいけないよと警鐘を鳴らす意味もあるんですよ。ただはしかってひらがなで書いて、気を付けてくださいとやって気を付けるかというと、そうでもないと思うんですよ。先ほど私が言ったテレビの特性というものは生かしたい。
ただやはり過剰だったりとか、視聴者が見ていやだなと、ちょっと見るに耐えないなと思う、嫌悪感を抱くその境界は、毎回毎回一つひとつのネタに対し吟味しながらやっているというのが今の状況です。そういう意見があったりとか、メールで昨日なんであんな映像を写したんだっていうことがあれば、俺らは間違ってたのかなと、もっと慎重にやっていかなければいけないなと思いますし、視聴者からのご意見は市民の反応だと思ってますし、すぐに対応していきたいと思っています。だから決してこう見せたらこう思うだろうって意図的にやっているとか、何も考えずにやっている、映像がセンセーショナルだったら見るだろうと思ってやっているわけではありません」
Q.「アンカーというニュース番組をやっているとさまざまなニュースがあると思うんですけど、このニュースを最初にもってくるとか、このニュースに時間を割くというような基準はどのように設けているんですか」
F編集長「これは難しい問題ですね。それが局のスタイル、うちの局としてどのように向き合うかというところに帰結するわけで、たとえば今日は神戸港の沖で女性の遺体が発見された、元夫が出頭したので容疑者として逮捕したっていうニュースが、たまたまですけど、夕方6時で全部が並んでますよね。だいたい同じ時間、6:16とか6:17にどの局もそれまで全国ネットで、関西ローカルに入るんですけど、そのトップニュースに何を持ってくるか、トップニュースで何分やるんだってところがその局の見せ所なんです。今日は全社が神戸港の遺体のニュースから入りました。でもうちだけが違うんです。うちは虐待、覚せい剤を使用している親が子供を虐待していて、その子供の命を救うために、警察が調査に入り逮捕したっていう児童虐待のニュースをトップにしました。なぜかというと、うちは10年くらいかもっと前から、児童虐待を大きな社会問題としてこれに対する1時間以上の番組、ニュースの中での企画を何度も行ってきていて、それからドメスティックバイオレンス、この2つについて、主体的に取り組んでいて、虐待防止センターとも連絡を取り合っていて、報道ということに留まらず、一種の社会活動としてやってきたという自負がある。
ですから今日神戸港のニュースから入ってもよかったけれど、でもうちが今日一番自信がある、うちが一番伝えたいことはこれだ、そしてもう一つは他の局はどこも知らないスクープ性。児童虐待に対するCMも流れてたんですよ、見る人が見ればやはり児童虐待といえば関テレだなっていうステーションイメージもやっぱり作っていきたいし、それを継続していきたい。
だから今日のニュースはそれから入ったっていう特性があります。どういう順番で放送していくかっていうのはそれがすべてなんです。どのニュースに自信があるか、どのネタがたくさん取材できているか、そういうのを総合的に判断しています。取材はあまりできてないけど重要だなっていうのはトップにするけど、時間を短くするとかしています。すごいニュースにしたいんだけど、映像が何も撮れてないというのは、ものすごいジレンマだけど、そういうときはなんとか映像を工夫してそれでも伝えていく。今は6時のニュースでは私が決めている。でもそれは私個人が決めているというのではなく、歴代の関西テレビの報道として、局として社会に向き合ってきたスタンスから今日のうちのニュースを決めています」
Eアナ「この人を含めてけっこう頑固な人が多くて、デイリーのことは今お話があったんですけど、特集になるとJR福知山線脱線事故のことがありますよね。今年もそうですけど、4月25日を前にしてあんなに連日特集を組んでる局はなかったし、阪神大震災から12年、1週間、10日くらいも前からやってる。1.17の早朝、僕も東遊園地に生放送で行きましたけど、未だに継続してやってる意味っていうのはね、すごいなと思いますね」
F編集長「テレビってね、今起こったこととか、最近起こったことだけ取り上げて、すぐ忘れちゃうっていう印象があるんですけど、うちは絶対それをしない。うちは大事なことは何年たっても続けていくし、阪神大震災のことはもうみんな忘れてるし、君たちは子どもだったからあまり記憶にないかもしれないけど、それを伝えていくことが我々の使命。戦争もそうですけど、戦争を知らない世代に伝えないと意味がない。この時こうでしたで、それで1年後忘れてるっていうんじゃなくて、それを年々伝えていく。これは伝えなきゃいけないってものは伝えていく。
JR福知山線事故のこともそうだけれど、決してお涙頂戴ではないと自負している。発生当初はどうしてもそうなっちゃう、悲しみのほうが上だから。悲しみは悲しみとして私たちは伝えます。それを捏造して変なふうには伝えません。半年たったり1年たったりすると、違う気持ちが被害者や遺族の方にも芽生えてくる、真実って何かとか、なぜ私は生かされたのかとか、新たなテーマが浮かんでくる。それを私たちは、私たちの思い込みではなく、取材対象者の思いをどう伝えるかというのを考えて継続することに意味があると思ってやる機会があれば、やる時があればやっていきたいです。だからテレビは決して瞬間的なものではないと思います」
Q.「あるある問題の報告書を読ませていただいて、番組審議会っていうのがあるじゃないですか。機能強化っていうのが報告書には記載されていまして、従来の審議会の問題点はどこにあったと考え、またどういう点において改善していこうとお考えになっているのかお聞きしたいんですけど」
G報道局長「番組審議会っていうのは、もちろん法律によって設置が義務付けられていて、テレビ局にとっては非常に大切な機関ですけども、現実に、事後的なチェックの方法、番組を制作し放送したあとに、番組についてご審議いただいて、ご意見を我々が聞き、次の番組制作にあたって参考にしていくと、具体的には毎月1回審議会が開かれて、話し合いがされるんですけども、現実にあるあるのような問題に対して番組審議会が防止の機能を果たせなかった訳ですよね。番組審議会が現実的に防止できるかというのは議論があると思いますが、機能を強化して捏造などの問題を防止できないかというの話し合いを、関西テレビのほうでやっております。番組を見てご意見をいただくというかたちでなくて、番組の企画の時点で、こういう番組を企画しているのですがどうでしょうかとか、実際に製作現場を見ていただくようなかたちで行うとか議論しているところであります。いずれにしても、ことが起こってしまってからでは遅いわけですから、なんとかチェック機関として番組審議会が機能しないかということであります。
あるある問題でいえば、いろいろ前兆、『あるある』を批判する声があったんですけれども、番組審議会でも一度『あるある』の血液型の話で、血液型で性格が決定されるということに議論の余地があるということだったんですけど、番組審議会の議論を通して番組のあり方を是正していくような、今回の事件を未然に防ぐようなかたちで我々現場の人間がやれていたかというと、現実にはできていなかったわけですから、審議会の強化もそうですけど、それを受ける放送事業者としての我々の側も指摘だとか議論を真摯に受け止めて番組制作に生かしていこうという、番組審議会と放送事業者との関係性ももう少し見直そうと議論をしています。あわせて関西テレビでは番組審議会ではカバーしきれないような問題も放送活性化委員会というこれは番組審議会を補完するような役割になるんですけども、そういうものを作って、番組をめぐるいろんな問題、いろんな人の意見を集約するような番組にするような委員会を作ろうかなということを言っています。
いずれにしても、再発を防止するということが非常に大切ですので、関西テレビだけじゃなく放送業界にとって、今回のことを教訓にして、なんとか再発防止に努めていきたいです」
Q.「僕も4月26日の報告書を読んだんですけど、そのなかに放送局と制作会社とはより良い番組を制作し放送文化を支えていく重要なパートナーであることを確認したとあるんですけど、どういうかたちで確認したんですか。今まで制作会社と放送局では力関係も違ってたと思うんですけど」
G報道局長「理念としては、制作会社と放送局との関係を見直していこうということは、制作会社の集まりであるATPという組織が局側との対話をずっと続けてきて、10年くらいになるかもしれませんけど、ずっとやってきて、理念としてはパートナーとしていい番組を制作しましょうということはやってきたんですよ。現実には契約の問題とか長い歴史のなかで業界の慣行としていろいろ問題のある契約の体系だとか少しずつ直していこうというようなことはいろんなレベルでありました。関西テレビとしては今回のあるあるの問題の本質的なところに局と制作会社との関係があるってことは認識していますので、関係を見直そうとしています。一つひとつの政策の形態っていろいろありますので、一概にこういうかたちでっていうことは言えませんけど、少しでもよいかたちにしていこうっていう考えです」
Q.「それは文章とかで確認したんですか」
G報道局長「概括的なね、すべてを総括するような文章を取り交わすってことはないですけど、少なくとも番組の契約をするときに契約書のなかにはそういう精神を盛り込んでいこうと、今までも契約書の上ではおかしな関係はなかったんですけど、理想的なかたちはないかという議論はひとつひとつやっていかなければならないと思いますよ。一気には解決しないこともあるのは事実ですけど」
浅野先生「問題になった番組は1月7日放送で、実際アジトに制作費の振込みが3月10日っていうふうに報告書に書いてあったと思うんですけど、そこに一番驚いたんですね。放送してから2ヶ月後にお金が振り込まれるっていうそういうことは改善されてるんでしょうか」
G報道局長「下請法っていうのがあって、納品のあと30日以内っていうのがあって、関西テレビが直接契約したときにはそれはきちっとやってるはずなんですよ。下請法をちゃんとやりなさいと言っている制作会社側の日本テレワークというところが、さらに孫請けするときに違法な契約をしていたっていうんで、その実態を局側が何も把握しないでテレワークに任せっきりにしたというのは、大変な問題だと思いますけど、現実にはそういうことで、テレワークとアジトの関係については今回の事態があってはじめて知ったわけで、そういうところまでも本来は責任をもってやってかなければならなかったのかなと思います」
Q.「民放連を除名されたことでNTTのマイクロ回線を使えなくなったことが一番大きいと思うんですよ。フジテレビのCXからの番組をもらうときは独自の回線を引いていると聞いたんですけど、たとえば長崎テレビとかに関テレの番組を流すときに、それをフジテレビに送って長崎テレビに送ってるんですか」
G報道局長「回線の問題というのは、除名の方向にいくと聞いたときに放送をきちっと確保することは大事なことなので、KDDIとか別の会社の回線を抑えて契約しました。フジテレビと関西テレビと東海テレビの間、メインストリートなので回線を支えますけども、たとえば我々エリア内でも素材のやりとりはしますし、地方とのいろんなやりとりに回線は必要なんですけど、共同運用していたところから関西テレビをはずすということになりますと、関西テレビだけがダメージを受けるんだったら仕方ないですけど、回線というのは相手がいますからすべてが迷惑を被るということがだんだん分かってきまして、基本的には民放連除名のペナルティーのなかから外しましょうということに最終的になりました。関西テレビはオンエアを確保するための回線は確保していたのですけれども、NTTの共同回線を使えるという民放連加盟の各社からご理解いただきまして、回線問題は一応解決しました。関西テレビが放送できなくなるっていうのは究極的には視聴者の利害に関わることですので、本来のペナルティーの趣旨に合わないことなので、その議論にもちろん我々は参加してませんけれど、最終的にそういうことになりました」
Q.「2011年になり地上波デジタル放送が始まるにあたり、一つの番組に当てられる予算と人材の低下という問題にかかわり、番組の質の低下が起こるような気がするんですけど、そのことについてどのようにお考えですか」
G報道局長「今回の事件があって改めてテレビ局にとって番組こそすべてということははっきりしてるわけで、もうすでに始まっていて、完全にデジタルに移行したとき当然そうなることも考えられますが、だからこそ我々にとって地上波の番組を大切にしなきゃいけないってことは身にしみましたので、なによりちゃんとやっていかなければならないと思ってます。BSの事業にも出資していますし、CSにも関西テレビ共通チャンネルというのを運営して、それなりにいろんな試みをしていますけども、そこでの経験を我々の一番大切な地上波の番組のなかに経験を生かしていこうというのが狙いであり、誰もが見るこの地上波の番組を大切にしていきたいと思います」
Q.「自分は犯罪報道のなかの実名報道に興味をもっていて、これからも学んでいこうと思うんですけど、具体的な例として今回の同志社のラグビー部員が暴行事件を起こしたというニュースがアンカーの2部にも流れていたんですけど、容疑者が3人いるなかで一人だけが実名の報道でしたよね。それは20歳だからという理由だと思うんですけど、あとの2人も同じ2回生でまだ立場的にどういうふうなのか分からないし、この3人はまだ容疑を認めていないわけで、その時点から実名報道にしている意図は何なのか教えてほしいんですけど」
F編集長「基本的に報道は新聞テレビに関わらず実名報道を基本にしています。それはあまりにも理由がありすぎて、浅野先生のまえでは特に言いにくいんですけど」
浅野先生「それは警察が逮捕したからでしょう」
F編集長「今回の同志社ラグビー部の話を例にするのがいいのか分かりませんけど、たとえば殺人事件があって誰かが逮捕されたときに、35歳の男性が逮捕されましたでみんな納得するのかな」
「はい、今ゼミで学んでるんですけど、不必要に情報を流すことはないと思います」
浅野先生「今日も覚せい剤の事件は被疑者の実名出てませんよね」
F編集長「覚せい剤のニュースは事案を報道することがニュースの中身だと考えました。彼女を責めるわけではないし、児童が虐待されて、もしかしたら死んでしまうかもしれない。でもそこを救うやり方を警察は今回見出して救ったという事案のほうが重用だと考えて、覚せい剤で彼女が逮捕されたという彼女の名前を出す有用性は低いと考えました。同志社のほうはですね、京大の暴行事件もありましたが、同志社のラグビー部という非常に名門のラグビー部が、ヘッドロックをして車に連れ込もうとしたと、警察発表ですけども、全員20歳だったら全員の名前を出していたという確信はあります。ただ2回生で2人だけ誕生日がきてないから19歳という不公平感は私も感じていますし、警察も一人しか実名を発表していません。実名発表をするときにうちが気をつけていることは、警察側の発表だけではなく、彼の反論も確実に公表していますし、裁判の報道もそうですけど、警察の逮捕の報道では必ず認めているんだったら認めている、否認しているんだったら否認していると抗弁の機会を与えています。今日は特に大学側からの監督の話ではありますが実は相談を受けたんだと、はがいじめにしたと警察は発表したが手を引っ張っただけだとか、警察に違法な取調べを受けたということも、半分以上放送しています。人を憎まず罪を憎むみたいなことや、不必要な報道はいらないんじゃないかということを大学では学ぶと思うんですけど、我々は実名報道によってこそ真実性が担保されると信じていますし、みなさんの共感を受けられると信じています。こればかりはさまざまな意見があると思いますが、我々も画一的にすべて実名だとやっているわけではありません。事案ごとによって、容疑者の特定、被害者の写真を載せるか、家や学校にはモザイクをかけるのか、すべての事案を個々に判断して、被害者であれ、被疑者であれその人の人権が侵されていないかというのを常に考えています。顔が出された時点で人権侵害じゃないかという意見があることも十分理解しています」
浅野先生「今日の同志社大学の映像、あれは女子大学ですね。あれは相当な間違いだと思います。あのチャペルを大学が使うこともあるかもしれませんが、法人はみんな違うので」
F編集長「分かりました、ありがとうございます」
Q.「帝京大学でも強姦事件があったと報道されたときに3日後くらいに被害者である女性が違うと言ったらしいんですよ。その事件が違うということが後で分かっても、その方はそういうことがあったというレッテルを貼られてしまいますよね、そうなったとしても仕方のないことなんですか」
F編集長「そうならないように、その後の報道をやっていくつもりです。どうしてそういう、たとえば誤認逮捕を含め、警察に問題がなかったのか、大学側に問題はなかったのか、報道に問題はなかったのか、検証していくつもりです」
浅野先生「帝京大の場合は申告罪だから女性が訴えを取り下げたら事件にならないですよね。今回の場合も例えば明日か明後日に女性が勘違いでしたと言うと、事件としてなかなか成立しなくなる。誤認逮捕じゃないから警察は発表しないし、帝京大の場合も全然報道してませんよね。新聞社もみんな知らん顔してる。先ほどおっしゃった、責めるとか悪い事をした人っていう意味があると思うんですけど、そこが怖いなと思いますね。逮捕した人が犯人であるという前提であればいいですけど、裁判を経て決まるという仕組みのなかで、あまりにも大きなデメリットがある、日本テレビの報道局長が昔、逮捕されて刑務所で5年いるよりも、テレビに名前が出ることのほうが社会的制裁が大きいというのを言ったことがあるんです。デメリットがなければ問題ないんですけど、今回も同志社大学の学生がやってないんだという主張は確かに報道してるんです。ただ一般の人は素直に認めりゃいいのにって思う人のほうが多いと思うんです」
F編集長「そういう成熟してない社会が駄目だと思います」
浅野先生「そういう社会ができるまで待つのは無理かなと思うんです。ただ今日の覚せい剤の報道が匿名だったことは高く評価しています。それをもう少し広げて一般刑事事件は少なくとも起訴まで待つ、政治家の松岡さんの”水”とかは疑わしき段階からやったらいいんじゃないかと思うんですけど、同志社大学の20歳の青年に対してあまりにもリスクが大きいと思うんですね。そのリスクと我々社会の得るものとのバランスを考えるとちょっと説得力が薄いかなと。19歳はでないというのを含めて、おっしゃるように必要な時に出すというのでいいと思うんですけど、その時に警察が発表したからとか、犠牲になったからという理由は、僕は共同通信にいてまさに逮捕されたら名前を出せっていうのがルールだったんで、おかしいと思っていて、今日の関西テレビのはすごくいいと思います。テレビのほうが柔軟だなと、新聞ではそういうことができないので」
F編集長「被害者の名前や顔が出されて被疑者は名前も顔も出さないのは、なんかバランス感覚おかしくないですかと私は思うんですよ。確かに被疑者にも人権はあるし被害者にも人権はあるんですけど、なんで被害者だけと思いますか」
浅野先生「被害者は遺族に聞けばいいんですよ。聞いた上で判断すればいいんだし、被害者の場合は出てもデメリットが少ない場合が多いので、ただ諸外国の場合は必ず出していいか聞きますよ。日本の報道界は、例えばJRの榊原さんなんかはマスコミで一人も両親の了解を得ていませんよ。だけど全部出てます、映像にも新聞にも。近所からアルバムの写真を複写させてもらったりして、メディアがそういうことやっていて、それは世界では日本と少数の国だけですね。だから私は被害者の場合も一般市民は匿名が原則だと思います。ただこういうことでJRで亡くなったんだということを訴えたい人は、当然出していいと思う。そこが多分被疑者と違う。被疑者はみんな出してほしくないでしょうから。その時に出すというのはまた別の判断でいいと思うんです」
F編集長「非常にメディアの根幹に関わるというか、すごく基本のとこなんですが、そこで議論があることは確かです。いろんな社会のこともありますし、意見があることも確かです。だからみなさん勉強してください」
Q.「警察発表を吟味する機会とかってないんですか」
F編集長「ありますよ、直接取材です。本当にそうなのか、本当にあったのか。警察がマスコミに発表するときに、本人は非常に匿名を希望しておりますと発表があったのに、直接取材に行ったらそんなことないですよ、実名報道をしてほしいですということもあります。警察が嘘を言ってるときもあります。それを我々は一つひとつ吟味しています。警察のミスリードもあり、マスコミ側の、家宅捜索が入ったというだけでの報道っていう例は確かにあったと思いますね。そこから反省していると思います」
Q.「こういう事件があった時にすぐ書かれるのが、ラグビーの監督である岡さんが亡くなられたことを書かれたりですとか、周辺のこんな情報までいるのかなっていうところまで書くなっていうイメージが強いんですよ。ワイドショーなどでの話になるんですが、何を思ってそういうことをなさると思いますか」
F編集長「本人の言葉を聞かずに報道するっていうのは報道ではありえないと思いますよ。ただそういう人がいたってことは事実としてありますよね。京大のアメフト部が婦女暴行起こして水野監督に取材に行って、俺の水野イズムはどこ行ったんだとおっしゃったら、そう報道しますよね。ただ亡くなられていて、話も聞かないのに報道することはテレビはしない。ただ彼はこういうふうに教えていたのに、彼の気持ちは踏みにじられたんじゃないでしょうかねとしゃべるコメンテーターがいても不思議ではないと思います」
Q.「嘘を嘘と言わず放送するのはいけないと思うんですよ。でも超能力対超魔術とかやっていて、あれは超能力を信じてる人がいるんですか」
F編集長「どういうつもりなんでしょうね。スピリチュアルって何やろって思いますけどね。いろんな意見があると思うんですけど、見てる人はそう思って見てないんじゃないですかね」
Q.「放送してる人たちはどういうつもりなのかと思って。ショーならそう言えばいいし、マジックならマジックと言えばいいと思うんですけど」
Eアナ「それはまったく同感でね、『あるある』がきっかけになって、みなさんが討論をしたり、考えたりするかたちになっていけばいいと個人的には思ってますよ。そういうもので視聴率稼ごうと思ってるのか、そういううたいあげ方って正しいのって思いますけど。それは同じ系列のキー局も、他の系列のキー局も見てると言いたい事ってたくさんある。今この立場で言えないけど。いっぱい問題というか、考えたい事ってありますよね」
F編集長「たくさん投書も来てると思いますよ。これを面白いと思ってくれる人だけ見てくれたらいいという、ある意味驕ったところもあるかもしれませんね」
Eアナ「この問題に関して、先ほどいろいろな質問も出ましたよね。局長が答えてましたけど。会社として対応しなければならない点っていっぱいあると思うんですよ。ただ、私たち現場の人間としては、自分たちの担当する番組に責任を持って作っていく以外ないので、確かに同じテレビの人間で同じチャンネルに出ていてもそこまで考えられないんですよね。自分たちのやっている番組だけはきちんとやろうっていう責任を改めて感じさせてくれたのが『あるある』問題ですから、質問はたしかに同感だし、ずっと思ってたことですから、やっと考える機会が持ててよかったなと思います」
浅野先生「今日は本当にありがとうございました。今まで何局も行ったんですけど、番組を生であそこまで見せていただいたのは初めてで、学生は勉強になったと思います。関西のメディアというのは、東京のメディアと違って自由な雰囲気があって、大阪の持ってる庶民の雰囲気というものが非常に大事です。今回の事態で管理強化というか、規則で縛って、関西テレビもいろいろやっていると思うんですけどやめたほうがいいと思います。もっと自由活発にフジテレビとは違うテレビを発信してく、特にデジタル時代になって大阪のテレビをやると。今日もニュースで途中関西弁になったりして、すごくいいなと思ったんですけど、こうやって学生に話してくれた事自体がそういう姿勢だと思うんですよ。東京のテレビ局や新聞社ではこんな話聞けませんから。そのへんが幅広いというか自由だと思うんで、みなさん600人くらいいる社員の方がそういう精神を持って下からくみ上げていって、新しい関西テレビを創っていってほしいと思います。ありがとうございました」
(了)
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掲載日:2008年1月17日 |
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