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SPECIAL REPORT

浅野教授がインドネシア国立
ガジャマダ大学の国際セミナーで発表


報告:大学院メディア学専攻博士後期課程2年 ナジ・イムティハニ


 2011年3月23日に同志社大学の協定校であるインドネシアの国立ガジャマダ大学で「メディアと政治」について国際学術セミナーが開催された。主催者であるガジャマダ大学政治社会学部のマス・コミュニケーション学科が同志社大学の浅野健一教授を招待した。この一日セミナーでは約80人の教職員、院生、学部生が出席した。

  

 パネリストの発表が始まる前、出席者全員が3月11日に日本で起きた大地震と津波の犠牲者たちに30秒間黙祷し、祈りを捧げた。そして、日本政府が福島にある原発の危機的状況を早く解決できるようにと祈った。
 これに対し、浅野教授は出席者の支援と思いやりに感謝し、「日本の原発の災害から学んで、今原発を持たないという賢明な選択をしているインドネシア政府が今後も原発を建設しないように望む」と呼びかけた。

 このセミナーでは浅野教授のほかに、ガジャマダ大学と同じジョグジャカルタにあるカトリック系のアトマ・ジャヤ大学の教員も発表した。
 ガジャマダ大学から、グスティ・ングラー・プトラ准教授、クスクリド・アムバーディ准教授、ヘルミン・インダー・ワーユニ准教授が発表。アトマ・ジャヤ大学からはルカス・イスパンドリアルノ准教授が発表した。浅野教授は「イラクへの自衛隊派兵と日本のメディア」、プトラ准教授は「メディアに対する政府の統制管理」、クスクリド准教授は「インドネシアのメディアと国際問題」という各テーマについて研究成果を発表し、ルカス准教授とヘルミン准教授はスハルト体制後のインドネシアの「報道(プレス)と政治・法律」を分析した。

 浅野教授は「日本の自衛隊の海外への派兵は日本国憲法の第9条に違反しているが、それに日本のメディアが批判していないのは、番犬というメディアの役割をなくしているからである」と主張した。そして、プトラ准教授は日本の記者クラブについて、「日本政府がプレスをうまく統制管理する方法の一つだ」と分析した。また、ルカス准教授とヘルミン准教授は、インドネシアの新プレス法は国民の言論の自由を確保し、インドネシアの民主主義の発展の中で報道が大きな進歩を見せたと主張した。

 パネリストの発表後の質疑応答では、「日本のメディアはどのようにフリー・プレスと人権尊重の両立を目指しますか。」という質問に対し、浅野教授は「日本のメディアは市民の人権を尊重していない。その例として、犯罪報道ではいつも被害者に対して匿名ではなく実名、写真を報道して犯人視している」と答えた。「犯罪報道の犯罪」という本を書いた浅野教授は、日本のメディアに人権を侵害しないような報道を訴え続けている。

 以下は質疑応答の概要です。

1. 質問者:ハリファテゥル・ファウジアー(マスコミ学大学院生)

ア・浅野先生が今まで、取材の経験の中でどのような事件、話題が一番心に残っていますか。
イ・日本のジャーナリズム世界ではどのようなことが一番問題になりましたか。そして、ジャーナリストはどのようにそれを防ぎますか。
ウ・日本では反政府、野党のメディアも存在していますか。

浅野:私が一番心に残る取材は、日本の政府開発援助(ODA)がインドネシアの支配層の賄賂になり、環境破壊を招いているという事実の取材です。特に、総合商社の丸紅が西パプアでマングローブを違法伐採してることを調査報道した記事、日本がインドネシア政府にODA供与に人権、環境で条件をつけたことを書いたことです。朝鮮での、大日本帝国の強制占領の犠牲者の取材も強く印象に残っている。
 日本のジャーナリズムではたくさん問題がある。みんなに合意されたジャーナリストたちの倫理綱領もまだできていない。活字メディアでは、報道被害者が苦情を申し立てるメディア責任制度もない。メディアに関する法律も進歩の余地がある。

2. 質問者:ルカス先生(アトマ・ジャヤ大学)

ア・日本政府は自由なジャーナリストの存在に支援していないということですね。
ジャーナリストはその問題にどのように対応しますか。そして、日本ではメディアがどのような役割をもっていますか。
イ・日本のメディアは米国に関して、どのような立場を取っていますか。支援しますか。批判しますか。
ウ・日本のメディアはどのようにフリー・プレスと人権尊重の両立を目指しますか。

浅野:日本のプレスはあまり市民の人権を尊重していないと思います。どうしてかというと、政府と天皇のコントロールが強いからです。米国を批判する既成メディアが沖縄県にしかありません。東京のメディアはほとんど米国を支援しています。

3. 質問者:エレン(政策学の院生)

地震や津波の災害の報道において、日本のメディアとインドネシアのメディアはどう違いますか。災害報道では、インドネシアのメディアが感情的にドラマチックなストーリーをよく取り上げていた。これについて先生はどう考えられますか。

浅野:ジャーナリストは社会に役に立つ様々な情報と正しい情報を、冷静に伝えなければなりません。

【浅野健一・付記】東日本大地震で取り止めようかとも思ったが、インドネシアのガジャマダ大学で開かれたシンポ「政治とメディア」に参加するため、3月22日夕、全日空機でジャカルタ空港に着いた。着陸前に客室乗務員が「インドネシア公衆衛生当局による放射能検査がある」と告げた。乗客全員が入国審査前に厳しいボディチェックによる放射能測定器で検査を受けた。テレビ局が取材に来ていた。
 同じ航空機に、日本で研修や留学しているインドネシア人たちが一時帰国するために乗っていた。
 東ジャワの代表紙ジャワポストは「日本は原発事故でパニック」という見出しで、3月1日の地震と東京電力福島第一原発のメルトダウン事件(事故ではない)を伝えていた。ジョグジャカルタで見たテレビでは、欧州連合(EU)などが、日本からの食品の輸入を制限しているとか、中国からの日本への食料品の輸出が30%増加したと伝えていた。この間まで、中国の食の安全がどうのこうのと言い、朝鮮民主主義人民共和国の核施設が不安だとか論評していたのに。
 私が共同通信のジャカルタ特派員だった1990年ごろ、日本の東芝などがインドネシアに原発を輸出しようとして当時のスハルト政権に画策していた。東電系列のコンサルタント会社が中部ジャワのムリア半島での青写真を描いた。私は作家モフタル・ルビス氏が主宰する出版社で、甘蔗珠恵子氏の『まだ、まにあうのなら―私の書いたいちばん長い手紙 』の翻訳本を出すようアレンジした。環境保護団体などのNGOが反対運動を起こし、結局実現しなかった。
 インドネシアにいると、原発のない安心感があった。ユドヨノ現政権は原発の建設を計画していたが、日本の大事件で計画は白紙に戻るようだ。
 地震と津波の被害は自然災害だが、原発事件は東電、政府、学会による権力・企業犯罪だ。スリーマイル、チェルノブイリなど海外で致命的な事故が起きても「日本の原発は海外のものと技術が異なり、優秀で安全だ」と断言し、内外で原発を売ってきた。菅直人首相は、彼の政権の成果の一つとして、ベトナムで原発を契約したことを挙げていた。ありえないことだ。(了)

掲載日:2011年5月24日
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