法務省が取材申込文書を転写 「浮気は活力」発言で記者クラブへ 浅野 健一
ニュースステーションの出演者である朝日新聞編集委員の「不倫」が週刊文春で 暴露された。恐ろしい時代になった。配偶者のある人が別の異性と付き合うこと が悪くないという意味ではないが、大出版社がトップで取り上げるようなニュー スだろうか。
「女性問題」と言えば、四月九日に発行された月刊誌「噂の真相」がスクープし た東京高検の則定衛検事長のケースもあった。次期検事総長が確実視されていた 人物だ。則定事件は、銀座の高級クラブで知り合った女性と交際したことが問題 なのではない。それは家族との関係で問題になることだろう。法の番人である則 定氏が、なぜ頻繁にクラブに通うことができたのか、また特定の業者に、女性へ の中絶費用や慰謝料の飲食代を支払わせていた「接待・癒着」疑惑が、深刻に問 われているのだ。反体制運動の活動家、オウム真理教関係者には、ホテルに偽名 で泊まったという容疑でどんどん逮捕しているのに、この女性と横浜のホテルに 偽名を使用して宿泊した。しかし、最高検は則定氏の接待問題に関して十分な調 査をしていない。女性が名刺を持っていたほかの検察幹部の疑惑についても調べ ていない。ホテルの偽名使用については、「犯罪を起こそうとしていなかった」 から問題ないと結論付けた。
検察幹部の「女性問題」が表面化した中で、「浮気は男の活力」と別の検察幹部 が法務省内で五人の記者の前で公言したのに、翌日の新聞には全く出なかった。 日本のジャーナリズムは、権力に弱く、弱者の市民に強いのだ。 四月十二日午前十一時ごろ、法務省内の廊下で、最高倹の堀口勝正次長検事が五 人の記者に取り囲まれた。朝日、読売、毎日、NHK、TBSの記者で、則定検 事長が辞任するかどうかについて聞かれていた。堀口氏はやがて、「朝日はいる か」と逆に切り出した。朝日の記者が「はい」と答えた。 「三流雑誌の記事を一面トップに引用するなんて追い落としの謀略だ。あれ以来、 朝日新聞は謀略新聞だと思っている」。怒鳴るような様子だったらしい。次いで 「確かに浮気はあったかもしれないが、みんあそういうことを活力にしているん だ。このビル(法務省)の人間の半分以上はそう考えている」と述べた。 ところがその場にいた記者たちは、この不当で不適切なコメントを全く記事にし なかった。この発言はほかの記者にも伝わった。知人の記者から発言内容を聞い た西日本新聞の宮崎昌治記者(官邸記者会)は十三日午前、法務省に堀口発言の 事実関係、真意など四項目の質問を書いた取材申し入れ書を提出した。 法務省は同日午後六時過ぎ電話で、実際には浮気は「活力」ではなく「活力源」 だと“訂正”したうえで、「実際の発言がこの通りの表現であったとすれば、真 意と異なるので、本人において撤回したものと承知している」と回答。ところが 同夜九時四○分ごろ、法務省の室井誠一広報室長から突然「記者クラブの常駐七 社に法務省のコメントを配った」との連絡が宮崎記者にあった。法務省には「法 曹記者クラブ」という記者会があり、朝日、読売、毎日、日経、HHK、共同通 信、時事通信の七社が常駐している。
宮崎記者が調べたところ、室井室長は、西日本新聞の社名入の質問書を無断で転 写し、同紙への回答内容をワープロで打った文書を配布した。これは全くの信義 則違反だ。宮崎記者は独自の取材で、堀口発言を再現して、法務省に確認を求め たのであり、その文書をそのままコピーして、有力七社の記者を法務省まで呼び 付け、配るというのは信じられない暴挙だ。取材対象先がこんなことをしたら、 取材などできなくなる。
室井室長は宮崎記者の取材に、「堀口氏の発言を聞いた五社が記事にしていない 段階で、西日本新聞の記事が出る事態になったのでお知らせした。常駐各社への 配慮だ」と説明した。
室井室長はなぜ七社を呼んだのだろうか。西日本新聞が堀口発言を大きく記事に することが確実だから、他社が抜かれないようにわざわざ伝えたのだ。記者クラ ブの馴染みの記者に頼めば、地味に報道してくれると思ったのだろう。 実際、各社ともそう大きくはいかなかった。読売新聞はボツ(他社がすべて書い たので夕刊で書いた)にした。毎日は西部本社版は大きく報道、東京本社版は小 さかった。
今回の則定事件は、銀座の高級クラブで知り合った女性と交際したことが問題な のではない。それは家族との関係で問題になることだろう。法の番人である則定 氏が、なぜ頻繁にクラブに通うことができたのか、また特定の業者に、女性への 中絶費用や慰謝料の飲食代を支払わせていた「接待・癒着」疑惑が、深刻に問わ れているのだ。反体制運動の活動家、オウム真理教関係者には、ホテルに偽名で 泊まったという容疑で多数を逮捕しているのに、この女性と横浜のホテルに偽名 を使用して宿泊した。しかし、最高検は則定氏の接待問題に関して十分な調査を していない。女性が名刺を持っていたほかの検察幹部の疑惑についても調べてい ない。ホテルの偽名使用については、「犯罪を起こそうとしていない」から問題 ないと結論付けた。
月刊誌「噂の真相」は日本で数少ない反権力スキャンダリズム雑誌で、一部の図 書館では、朝日ジャーナルが廃刊になった後、代わりに購読し始めたという。 「噂の真相」が三流雑誌だというなら、その雑誌の記事がもとで辞任した検事長 は四流以下ということになる。
宮崎記者は連絡会の仲間で、みどり荘事件の人権と報道の検証を行った記者で、「無責 任なマスメディア」に書いている。またcm間引きをスクープした。
Copyright (c) 1999, Prof.Asano Ken'ichi's Seminar Last updated 1999.05.1