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オバマ米政権と東アジア
霍見芳浩(つるみ・よしひろ)
ニューヨーク市立大学経営大学院教授講演会

 
2009年7月3日(木)18:30~
同志社大学今出川校地寒梅館203教室



(1)講演会全体の報告

―日本が不況を脱するには、政権交代から始めるしかない―
 霍見芳浩(つるみ・よしひろ)ニューヨーク市立大学教授(CUNY)経営大学院教授の講演会が、2009年7月3日午後6時半から、同志社大学今出川校地寒梅館203番教室で開かれた。テーマは《オバマ米政権と東アジア》。主催は同志社大学社会学部メディア学科浅野健一ゼミ。
 霍見教授は、アメリカの現地の状況とアメリカから見た日本の姿を語った。まず、去年の米大統領選挙の大きな特徴については、日本という国の話題出てこなかったことだと言った。小泉政権時に対米従属を強めていった結果、日本は何でも言うことを聞いてくれるという先入観ができ、自分の都合を何でも聞いてくれるのだから議論してもしょうがないとアメリカは考えているという。今後の日米関係では日本もアメリカにどんどん意見を出していくべきだと語った。
 また、ブッシュ前政権のやみくもな規制緩和を主軸に据えた経済政策は間違っているとし、その政策に盲従したのが小泉純一郎首相(当時)であると述べた。霍見教授は、日本でも両政権発足時から各メディアで警告を発信していたが、発言する霍見教授を疎ましく思ったエスタブリッシュメントがメディアに圧力をかけた結果、霍見教授はメディアから締め出されたという。
 現在、再びアメリカを震源とした100年に一度の経済危機の真っただ中で、霍見教授はその経済危機は規制緩和の結果生じた失政による大不況だと主張した。講演の中で霍見教授は、「ブッシュ・小泉政権は新自由主義の名の下にあらゆる規制緩和を行ってきたが、その理屈は、今まで問題が起こっていないからレギュレーションは不要だというもの。普通に考えたら逆で問題が起こっていないのはレギュレーション(規制)がちゃんと機能しているからであって、問題が20~30年間起こっていないから、レギュレーションがなくていいという議論はむちゃくちゃだ」と強調した。しかし、結局日本は、必要・不必要の見境なく規制を緩和していったものであり、規制は業界の自主規制のみに頼るといった道を選択肢し、その結果日本でも金融システムの崩壊、それに伴ういくつかの政策の破綻という二次被害がおき、日本においては派遣労働・非正規職が顕在化したり、所得格差や社会不安定拡大など様々な問題が噴出した。霍見教授は、このような結果は十分予想できたことだという。
 霍見教授は、日本が不況を脱し、経済や社会が回復するためには新政権の発足による新たな秩序の構築が不可欠だとし、そのことを身にしみて感じた米国民は、ブッシュ政権に危機感を感じ、共和党、民主党支持者を問わずに、オバマ政権及び民主党を支持してオバマ政権を誕生させたとした。一方、日本では「確かに自民党はだめだけれども民主党になったって変わりっこない」という言説が流れているが、それは自民党や自公グループの官僚や自民党につながるメディアなど、今の政府の体制を続けていきたい人達が一生懸命書きたてて刷り込みを人々に植え付けようとしているとし、日本国民はアメリカのような流れを起こすべきだとし、変革が起こることを恐れてはいけないと主張した。
 また、現代の日本人は、批判精神の欠如による画一性の流行が起きているとし、そのために多数の人の意見に流され自分の意見を持たないもの、何事にも消極的にしか関わらないといった“引きこもり化”が起きているとした。そして、その原因にはゲーム脳や批判能力を育成しようとしない教育など、様々な要因があるとしたが、その要因の大きなものとして、批判能力が欠如したマスメディアがあるとした。
 最後に霍見教授は、「政権交代がない限り日本の経済回復と社会回復はないわけです。民主主義の一番の基本は、悪いと分かった政権は続けさせないということなのです。次に変えたのがいいかどうかはわからない。しかし、少なくとも悪いと分かっている政権は変えなくてはいけない」と強調した。今が、政権交代を国民の手で行える最後のチャンスだと、日本を変えられるチャンスだということを強く述べた。
 この講演で、霍見教授は、アメリカや東アジアの状況、それとアメリカの現状に対する米国民の行動と期待、それに対する日本の消極性、そして経済政策の採るべき道を提示した。講演後の質疑応答でも、アメリカのオバマ政権の今後のビジョンを中心とした質問は途切れることなく、予定時間ぎりぎりまで行われた。
文責:永田陽久(浅野健一ゼミ2回生)


(2)講演会の記録

「オバマ米政権と東アジア」
 ご紹介に預かりました霍見です。日本に来てから、皆「日本の景気どうなりますか」「アメリカの景気どうなりますか」と当然聞かれるわけですが、日本の現状を10年前から指摘してきましたが、よく言えば東海道新幹線です。「のぞみ」もあるし、「ひかり」もある。ただし完全な回復に残された時間はほとんどない。
 今朝の学生のゼミでもお話しましたけど、今の日本の景気の落ち込みもふつうの景気後退ではありません。経済学者が言うのは、いわゆるリセッション、でリプレッションとは言いたくない。政治ですからリセッションって言葉をつかっちゃったわけです。景気後退だと。そうすると経済学では、はっきり考慮する必要があるんですが、GDPが二半世紀続けて下がると景気後退だとかリセッションだとかディプレッション。今のアメリカの状態ははっきり言ってブッシュ・ディプレッションです。これはアメリカの景気後退という形で始まったのですが、だいたい2006年の12月からディプレッションになっていたわけです。2007、2008年を通してついにバブル破裂と。予見されていた、いわゆる不動産バブル、金融バブルが破裂した。去年の9月、リーマンショックと日本では言われていますけども、リーマンブラザーズの破裂、破壊とまぁ破産ですね。
 デプレッションとリセッションはどう違うのかをはっきり定義しておきたいわけですが、リセッションは景気が循環的に落ち込む。私の定義では、それを治すためにはふつうの通常の貨幣政策、いわゆる金利を下げるとかいろんなことで貨幣供給を増やすとか、貨幣的な試策、それからこれだけじゃ間に合いませんので景気刺激策という財政出動や減税だといろいろするわけです。日本がここ20年ほどいろいろインフラストラクチャーのためにやっていることでもわかるように、そういうことで自然回復するんです。ディプレッションになると、例えば金融崩壊。とびだしの場合にはバブル崩壊。金融崩壊が実際の製造業の市場を破壊する。それにつられて労働市場全ての市場、それを支える社会構造から教育システムという全てを破壊してしまう。これはディプレッションです。
 このように定義すると、ブッシュ・ディプレッションが始まったのは去年の8月。それが一般の目にも映ったのが去年の9月。加速度的に広がっていくわけです。日本は、金融システムの崩壊とアメリカの輸出に頼っていた製造業の急激な落ち込みとそれにともなう経団連等のいろいろな政策の崩壊が起こった。ブッシュの政策を真似していましたから。新自由主義だとかそれで派遣切りがどうだとか。日本の第二次大戦以後ずっと支えてきた雇用の破壊が起こる。政治がおかしくなるからそういうことになる。全てのシステムが破壊されていくからディプレッション。ということはこれを直そうと思うと、政治が直らないと絶対直りません。ふつうの景気リセッションであれば現存その政権が新しい貨幣政策か微調整的貨幣政策をしますけれども一度ディプレッションということになればそれをやった張本人の政権が変わらなければならない。いわゆる政権交代です。政治が変わらないと経済は変わりません。日本も今それに直面しているわけです。
 景気が回復するのはいつですかと聞かれますが、政治が変わらないとどうにもなりません。アメリカでは、ご存知のようにアメリカ国民の3分の2以上はこのまま共和党政権が続けば俺たちはどうなるんだという恐怖心からオバマに率いられた民主党勢を選んだ。ホワイトハウスだけじゃなくて上議員の議会も共和党が制するという歴史的には非常に珍しい事態です。
 歴史的に同じようなことが起こったのは1929年に始まったアメリカの大恐慌。グレイト・ディプレッション大恐慌を直すために、共和党のフーバー大統領政権を捨てて民主党のフランクリン・ルーズベルトを大統領にし、いろんなシステムの再構築が始まりました。それをニューディール、新しいし仕組みということ。日本ではまだニューディールというと建設政策だと考えています。冗談じゃありません。それまで野放しにしていたウォールストリートの金融システムの再構築がきちんとなされないかぎり、全てのシステムは壊れたままですから、それまで野放しであったインサイダー取引も違法にするし、ちゃんとした商業銀行、証券と銀行のちゃんとした分離をした。これで銀行証券のやみくもな取引を規制する。ブッシュ・小泉政権はできるだけ規制緩和。規制緩和という美名。古い規制は変えなければいけないが、全部規制はずしてしまったらジャングルになる。業界の自主規制に任せる。証券市場というのは市場競争が働くとか、市場競争に任せればいいという。ですから自由な取引を許すことは一つの理念ですけれども、大恐慌の教訓を考えると公正・公平なルールをはずしてしまったら大変なことになりますというのが歴史的経験からわかるはずです。
 しかし、70年も経てば皆それを忘れていってしまいます。それで特にレーガン時代から始まったのがデレギュレーション。企業の活動はまったく自由に任せようという乱暴な議論なのですが、それがアメリカを席巻し、いろんな形でのデレギュレーションがどんどんはずされていく。ニューディール政策時代に作られたレギュレーションは確かに陳腐化していた面もあったものですから、レギュレーションなんてないほうがいいという議論がまかり通る。いわゆる何でもいいからでデレギュレーションしろという形。労働組合を抑えて企業の自由に任していこう。これがいいだと。そういう議論がアメリカのイデオロギーとして定着していく。しかも日本でもそうですけど、竹中・小泉そのたグループがやったのもそうですけど、レギュレーションはもういらないと。改革だ、改正だと。レギュレーションがなくても今まで問題が起こっていない。だから不要だといった理論。ふつうロジックで考えたら逆なわけですよ。問題が起こっていないのはレギュレーションがちゃんと機能しているから。問題が20年間30年間起こっていないからなくていいというのはむちゃくちゃな議論です。
 しかし、日本はそれを真似した。「改革」という言葉はよく聞こえるんです。バブルの爆発でもたもたしていると日本人も不安に駆られ始める。となると誰か助けてくれるという願望がでてくる。特に他力本願の日本やアメリカもそうですがそういう風潮が出てくる。国民の間で。そうするとそういうときに改革なんてことを掲げる勇ましいかっこのいい政治家が出てくるとそれについて行く。
 第一次時大戦後のドイツでヒトラーが出てきて、人々が流されていった傾向と全く同じわけですけれども、日本では小泉さんが改革、なんでも改革と。自民党をぶっ潰すなんてことをいうわけですけれども、日本国民全体が暗い長いトンネルで出口を探っているときに、小泉改革の灯が見えるとトンネルの出口がみえたとそっちに走っていく。冗談じゃない。トンネルの出口じゃなくて向こうから驀進してくる小泉列車のヘッドライトだぞと。日本国民なんていうものは全部ひきころされちゃうよと。私はそのように警告しましたが無視されました。結果的には今日本はどうなっていますか。ブッシュグループの日本経済の破壊、腐敗っていうか、どんどん進行していって、アメリカからのブッシュの不況が来たときは、日本はそれに対抗するだけの力はなかったんです。いろんな面でデータはそれを証明することができるわけです。
 小泉政権誕生以前の2000年ころの日本は、世間ではいろんなランキングがあって、住人一人当たりの国民所得というと日本では世界で第2位くらいから潜在成長率も2位、国民の教育推進、とくにサイエンスだとか数学能力は世界に比較可能なわけですから。世界で1位とか2位とか。日本でも非常にいい時代があったわけです。それが第二次大戦後のいろんなことの積み重ねで、今日本の国民所得はどんどん低下していますが、どれくらいだと思いますか。ランキングはどんどん落ちています。最もひどいのは、国民所得の潜在成長率、将来の成長率。これは技術の開発力などいろんなことを数量化するんですが、それが10年前には日本は2位、今9位。しかも下がりが止まりません。日本の学生の学力。高校2年くらいのレベルです。世界の数学とサイエンスのランキングになると、日本は十年前までは2位くらいにつけていたわけですが、今は50位以降に落ち込んで、今後ますます落ちていく。アジアではだいたい競争相手の中国・韓国・シンガポール・台湾に確実に離されつつあります。ということはブッシュ政権が日本にいろいろ押し付けた改革を元に、むちゃくちゃに進めていった小泉内閣の結果が、いかに日本を壊したかということなんですね。破壊していたところにブッシュ恐慌の金融崩壊に伴う打撃。しかもブッシュ金融崩壊によりアメリカの製造業が潰れます。国民の所得が減ります。一気に輸入も減る。それまで日本を支えていた自動車の輸出産業の売り上げ成績が一気に下がり、日本の雇用システムも破壊されるというシステムになっている。それは例えば、カナダ・ノルウェー・ドイツと比べて日本の抵抗力がほとんどなくなっていたから、ブッシュ・ディプレッションと同じような形で日本の惨状がはっきりしはじめたわけです。ですから今の時代はもうデプレッションです。
 この状況を回復させるために、は政治が変わらないとどうにもなりません。政権交代がない限り日本の経済回復・社会回復はないわけです。ありえません。アメリカ国民の3分の2以上はそれを身にしみて感じたから、去年の大統領選挙で共和党はほとんど追い出して議会でも上議員でも下位議員でも大統領も民主党に政権を託した。それまでも伝統的に共和党にしか入れたことない人が大変多いわけです。しかし今度だけはオバマに入れるというようなのが実際の雰囲気だったわけです。実際大勝利という形になったわけです。これは歴史的に初めてです。黒人の大統領であるというわけではなくて、それまでアメリカの議会を握っていた共和党をいっせいに追い出して、ガラガラポンをやるために民主党にその希望を託した。ですから民主主義の一番の基本というのは、悪いとわかった政権は続けさせないということなんです。次に変えるたがいいかどうかはわからない。しかし少なくとも悪いと分かっている政権は変えなくてはいけない。でも日本に帰ってくると、確かに自民党はだめだけれども民主党になったって変わりっこないということを自民党につながる自公グループの官僚だとかメディアは一生懸命書きたてている。そりゃ官僚だとか自民党だとか、今の政府で続けていきたい人のためには便利な刷り込みです。そうするとそれに引っ張られたんじゃ生活はどうしても害されるでしょう。
 なんで日本はおかしくなったか。誰が日本をおかしくしたのか。こんな日本に誰がしたひとつはジャーナリズムの死滅というか批判をやるべき役割を果たせていない。民主主義の後退を加速した原因は、批判精神の欠如です。教育にしても批判精神を養う教育をやってきていない。大体、1980年以降生まれた日本人、今で言うと30歳未満の日本のそういう大学で教えているグループであったり企業の社長などのグループは、この頃はという議論になってくるんですけど、はっきり30歳未満つまり1980年以降生まれた人とそれ以前の人間の間で思考力・読解力が極端に違っている。これ非常にテスト可能なんですが何でそんなことが起こったのか。やっぱり携帯だとかコンピュータだとかゲームとか日の丸教育の締め付けだとか歴史教育をしないだとか。そんなかたちで批判力を取るような形の教育がどんどん進んできた。その結果ゆとりある教育でカリキュラムをどんどん優しくしていくわけです。「優しい」と「ゆとり」って言うのはちょっと違うんだけれども。その結果ここらにいらっしゃるかたはみんな例外中の例外だと僕は確認していますけれども、分数計算ができない大学生とかがぞろぞろ出てくるわけです。僕らが高等学校行った時は幸いに理数系や文科系を分けることはしなかったわけ。少なくとも高校3年までは。全員数学3まではとるし理科も全部やるし歴史も全部やるってことやっていたから。ゆとりある教育と聞いてあきれる。文部省の頭で理系・文系とか決めるのは無理です。経済とかビジネスって言うのは文科系になるわけだけれど。分数の計算ができないビジネスはありえないわけです。理科系って言うけれどもいろんなことを開発だとか技術進歩の方向だとかは文化の方に引っ張られますから、歴史だとかがわからないと困る。なんでもかんでもブッシュが悪いとは言っていないわけ。でも電信柱が長いのもみんなブッシュの責任だとは僕は言わないけれども、少なくともブッシュにしてみれば日本人を操作しやすいように易しい日本の為政者がどんどん進めていくということは決して悪いことではない。
 小泉改革は結局は改悪。ジャーナリズムは体制翼賛化してしまうし、司法の破壊も起こる。グレート・デプレッションのときは司法をも破壊するわけです。日本の資本の破壊なんていうのは大変なわけですが。いずれにしても申し上げたいのは、ブッシュ恐慌が日本を襲う以前って言うのは、日本の経済のバブルが破裂した91~92年以降の20年ですよ。もたもたしていた20年の結果、教育制度をはじめいろんなシステムが腐敗してしまった。  ブッシュ・ディプレッションのショックが金融システムを直撃し、今まで何とか日本を支えてき製造業に直撃したという形ですから、非常に痛めつけられてるわけです。しかも日本の現状を見てみると、少子化だとか高齢化だとかいろんな形で知恵を使ってシステムを直す方法がいっぱいあるんだけれど、知恵を出していろいろ勇気を持って政策をしていくような頭の人間は作らない。僕から見れば日本人全体が引きこもり症になっている。それを加速してきたのはゲーム脳。これは日本大学の脳性医学の先生が実験して検証もあるがテキスト・メッセージだとかゲームだとか人間の脳波を測っているんです。アルツハイマーの患者の脳波と同じように批判力がない。感情的に一気に爆発する。僕らのときもいいとは思わなかったけれど、幸い僕はアナログ時代にずっと育ってきたから、ゲーム脳になる可能性が非常に少なかった時代。
 日本が当面している問題は非常に難しい。しかも、ブッシュが日本の小泉政権に注文をつけた改革には、金融改革・軍事改革もあるわけです。イラクにいろいろ。北朝鮮とは対立させられた。全てブッシュに押し付けられたわけです。金融改革という名のもとに郵政改革に切り替えさせたのもそうです。郵政改革に切り替えさせる意図は何かといったら、郵貯と簡保に溜まっている301兆ドでアメリカの国債を買い続けさせ、アメリカの銀行が日本の銀行を買い取る仕組みにさせるために郵政改革やったわけです。郵便制度のシステム改革は、僕は決して必要だとは思わなかった。日本の郵便屋さんというのは世界の基準から見てもなかなかいいし、人間が余っていたら郵便局のサービスの時間を延ばせばいいわけ。ところがそういう発想はせずに、首切りという形にして逃げるわけでしょ。首切った人が一斉に空中に消えてしまうなら問題ないんだけど、そういう人たちも全体で支えなきゃいけないんです。そのコストは本人に行く。本人はまだ心理的ショックで大変だと。マイナスばっかりですよ。
 アメリカの場合は、郵便局が余り始めるとサービスを始める。サービス業なんですから。ふつうは5時までだが、それを7時とか9時まで伸ばしました。土曜日は9時から12時までだったのだけど、4時までという形でのばしているんです。これは一年以上続けました。その間にいろんな退職者なんかがでてくるからそれを管理しながら人間をうまく管理しながら少なくしていく。郵便局にいたっては9時から5時までに戻す。しかし、町の一箇所だけは7時まで開けておく。それがサービスなんですよ。ところが、日本の場合何をやりましたか。それに対して黙々と従ったのは日本人でしょ。文句も言わずに。ぶつぶつ言ったかもしれないけど。これやっぱり引きこもり症か前頭葉の障害症か。少なくとも批判力を掻き立ててくれるのは、メディアの役割であると思う。それを支える専門家だとかアカデミックだとか。しかしそういうことを言ってくれない。政治がワイドショー化しているのは実際そうなのですけど。日本来るたび、ここ10年20年ずっと来ていますが、来るたびに地上波テレビのプログラムの白痴化が進んでいる。ワイドショー化している。ホテルでも見ません。たまにCNNに出るときに、ちょっと見てしまうと後悔するんです。せいぜい日本でもいいのは地上波テレビのNHK。残れるのはせいぜいケーブルとか。CSとかBS。CS放送では「朝日ニュースター」が頑張っている。私は明日11時から出ます。
 面白いのは、民主党がどうだこうだ話題が出てきて、鳩山・民主党代表の献金疑惑。特に日本のメディアは悪い悪いというが冗談じゃない。自分のお金を使っているんだから決して悪いことじゃないわけですよ。だから鳩山さんは勇み足があるけど、民主党を支える個人献金者の数があまりにも少なすぎるわけだから、まぁ気を利かせた秘書が個人名に変えたということだけれども、その不正な企業献金だとか収賄じゃないわけですから全然問題ないわけ。それなのに、そういうことを言わない。みんな「疑惑」と言っている。それを言わせたい人間がいるわけ。小沢氏をそれで潰そうとやったら小沢さんに交わされちゃった。仕方ないから鳩山、鳩山とやっている。鳩山献金問題なんていうのは問題じゃない。ちょっと見栄のために昔の友人の名前だとか入れていろいろした。それは決して誉められたものじゃない。自民党の与謝野馨とかが不正の企業献金をやって偽装をしたのとは質がまったく違うわけです。人間の批判精神というのは皆一見同じように見えていても、決定的な違いをきちんと指摘する。それが批判力なわけです。
 それから最後になりますが、オバマ政権の東アジアへの対応っていうのは、オバマ政権の対日政策、大統領選挙中から一ついえるのは、去年の大統領選挙の大きな特徴は日本という国が出てこなかったことです。日本がぜんぜん話題にならない。大統領選挙というのは1960年代のニクソン対ケネディからいろいろなディベートとかやっていますけれど、80年代なんていうのは、日本叩きは俺に任しとけといわんばかりにあったんですが、日本を強敵と見ている、日本とはいえ、国益をすり合わせないとだめだとおもっている。日本と協力して中国をやるのだという。ところが去年、両候補のディベートにしろ、他の候補のディベートにしろ、政党の公約北朝鮮対策の公約のときも日本なんて出てこない。中国がどんどんで出てくる。ジャパン・バッシング通り越してジャパン・ナッシングになっちゃったわけ。日本無視ですよ。軽視じゃなくて無視。ということはブッシュがそういう風に仕組んでいるわけ。日本なんて全部言うこと聞いてくれる。だから一見日米関係なんて波風たたないが、外務省の人間なんて言うは日米関係が波風立たずできるかってする。アメリカからしたらあたりまえなわけですよ。言うこと全部聞いてくれるわけですから。波風の立てようがない。ブッシュが日本をうまくて名づけてそれに小泉竹中グループが乗っちゃって。小泉の靖国神社参拝なんていうのもブッシュはあえて批判しなかった。裏では馬鹿にしていましたけれども。そうすると小泉さんはギャーギャー言って非難するのは中国と韓国だけで、アメリカは何にもいってないということで自分の靖国参拝を正当化した。
 日本軍慰安婦問題にしても、ブッシュは批判してないからよしとする。ブッシュは個人的には批判していたけども、表向きに批判しなかったのは小泉=日本にイランだとかイラクだとかブッシュの対外向け活動のために、日本の金を使いたかったからです。結果的に、日本はイラク出兵もやればパキスタンへの給油だとかいろんなことを続けているわけ。
 オバマグループは日本のことを選挙のときから考えるけどブッシュのときみたいに日本をなめたりはしていない。いくらなんでも日本はまだ力があるわけだから。できることなら日本と国益をすり合わせながら対中国政策をやりたい。対中国・韓国・北朝鮮をするときに、日本とずれがあったら困る。しかし大統領になって政権をとってみると、日本の国益がわからない。よくわからないグループが政権をずっと担当している。どのグループもばらばら。北朝鮮に関しては拉致家族を救う会が日本の対北朝鮮政策を牛耳っている。昔のブッシュ政権のように米風の都合を押し付けていったほうがよかろうと。
 これがはっきり現れたのは新しい駐日大使の決定。中国大使と比較してくださいよ。駐日大使に最初下馬評で上っていたのが、ハーバード大学の政治学教授ですけども、僕は受けないだろうと思っていた。今の日本はリセッションいざしらず受ける気もないし。ましてはオバマもやらない。日本の大使の資格って言うのは、日本が分かっていて、日本とのすり合わせできるということ。政治的法案というのは前世期の話。マスフィールドからのいろんな80年代には日本は大切なメンバー。しかも、アメリカの議会だとか直接政治的に取引ができるような政治的大物がライシャワーで、そういう発言のできる人じゃないとだめだった。オバマの駐中国大使は次の次くらいの大統領選挙の共和党候補に本人もでようとしているみたいだし。そういう人間ですよ。だから共和党を取り込めというより共和党の中身。ある意味じゃあ民主党の強敵になるような人間を引き込むというような感じもあるわけ。その共和党の人間も、大学生のとき2年とか3年いろんな地区に派遣される。するとその地の言葉を全部覚える。堪能です。しかも中国の政治だとか経済、中国本土のこともいろいろやっている。だからジャパン・ナッシングだ。これは日本がそうさせてしまった。
 北朝鮮の問題にしても日本とは米朝直接交渉がないと核問題も解決できないよというのが大きな問題になったわけです。ブッシュは北朝鮮封じこめなんですね。イランと北朝鮮は悪の枢軸国だから封じ込めるほかないと。封じ込んでいけば北朝鮮なんていうのはいずれ自然崩壊すると。そういうおめでたいことをいっちゃたわけですよ。日本に押し付けたわけですよ。日本が拉致をギャーギャー言うのを利用して北朝鮮との対立を煽る。北朝鮮は石油も原油もっていない。フセインでさえ第一次湾岸戦争でやられてしまった。北朝鮮とすれば資源も何もなく相手にされない。ならばしょうがないので、核兵器を持って外交として脅しをしなくてはいけない。外交というのは取引ですから。外交手段として核の開発。クリントン政権はそういうことをやったわけ。核の開発を中止させるために直接交渉をやり、北朝鮮の原子力開発エネルギー代の原油を50万トン出し、技術は韓国と日本で面倒を見ると。そういう形でやった。クリントン政権のときは、北朝鮮は核の開発を中止していたわけですね。完全に放棄したわけ。ところがブッシュになって悪の枢軸国だとか言って今にも戦争を始めるような危機に北朝鮮は陥ったわけ。そりゃそうですよ。みんなから包囲されているしこんなに怖いことはない。しかもブッシュはサダム・フセインを殺しちゃった。これには金正日は震えあがっちゃったわけ。あのイラクですらと。だから必死で核開発に走る。パキスタンから技術を買い、今までいくつ核開発に成功しているかわからないけれどCIAあたりのレポートを読んでみると、最低7つ。多ければ12個の核弾頭がある。ミサイルにするにはまだ大きいみたいだけど、すくなくとも核爆弾を一応表向きでは壊せとか言っているけど、なくなってしまうと相手にされなくなる国は、一回持たせてしまうと絶対なくしません。日本にしてもアメリカにしても中国にしても、北朝鮮の核は使わせないことが大切なわけですね。そうすると、またここで米朝直接交渉をやって、ブッシュが仕掛けていた6カ国協議は、米朝直接会談をやりたくないからで、僕は紙芝居といっているんだけど。それがオバマになって米朝直接交渉をやり、核を使わせず核開発もやらせないとしている。ブッシュが最後にテロ支援国家からはずそうとしていたのは、何とか歴史に自分の名を残そうとしていたからで。そういう形で、米朝直接での取引をちょっと始めて、それに対して反発が出たの。じゃあ日本も頑張ってくれとなったときに日本は拉致が解決するまでは絶対やっちゃいかんと。オバマになったら拉致の問題は日朝の問題であり東アジアの問題だ。日本では、北朝鮮=拉致なんだけど、北朝鮮から見れば大日本帝国による朝鮮人拉致のメカニズムが残っている。補償とそれの事実確認と。お互い解決したらいいけど、ところが日本の「救う会」はそんなんじゃない。横田めぐみさんの骨がDNAレベルで見たらウソだとか夢をみたとか、そういう家族の気持ちはわかるけれども。その感覚で2国間の大きな外交を仕切られたら大変なことになる。北朝鮮側の世代交代とか、金正日氏の病気だとか内部問題がいろいろあって、しかも北朝鮮としては一回核開発をやめたら取引だから他の支援とかやってくれると思っていたら、そんなことは何もやってくれない。核やめても効果はないから、ここでもう一度核開発再開すると。それだけじゃどうもならんからミサイルを示すためにロケットの発射と。ロケットも距離が伸びている。アラスカだ、ハワイだ。日本のメディアはどういっているか。ミサイル実験といっている。ロケットの先に爆薬がついたらミサイル。人工衛星としてのミサイルだと。彼らはロケット実験をやったわけです。ロケットは爆薬をつめばミサイルになるけど、それをミサイルといいそれが明日にでも飛んでくるかのようにいいギャーギャーさわぐ。日本のメディアが書き立てる。残念ながらそんなことやっているとオバマグループにもオバマにもわかる。子ども相手じゃないんだから。
 日本の経済や社会はいい面もあるから、よく言えば東海道新幹線。「のぞみ」もあれば「ひかり」もあるよと。しかし実際の回復には政権交代がまず必要。それによって米国での政権交代をもとにした形で金融改革のすり合わせ。金融システムは国際化してますから。日米協調での中国との金融政策って言う仕組みを日本から働きかけなきゃだめなのですね。その時間はまだ残っているけど選挙待ち議論はアメリカからもみつけられる。日本が世界から孤立しないように。

 どうもありがとうございました。ご質問お受けします。


司会―霍見先生、貴重なお話ありがとうございました。では質疑応答にうつります。なるべく多くの方の質問を受け付けたいと思いますので質問は一人一つとさせていただきます。では質問のある方は挙手をお願いします。

質問―駐日大使は、クリントン政権まで政治的要素のある人、つまり日米のすりあわせができる人物を日本に送り込んでいたと。ところがそのブッシュの時代になって、メッセンジャー的な役割を果たせるような人物になった。これは、日米関係の変容というものを表しているのでしょうが、つまり以前は、ある程度日本をすりあわせをすべき相手であると考えていたからなのでしょうか。日米関係の力関係がどう変わってきたのか。駐日大使変容からもう少し詳しくお聞かせいただけますか。

霍見教授―私は大使の役割をこう見ています。メッセンジャー的役割だからといって誰でもいいわけではない。やはり代表的人物でないといけない。日米摩擦が盛んな頃なんて、アメリカと日本の国益が同心円にはない時代。アメリカの保障の問題でも、日本への核の傘を訴えなければならない。日本が経済的に技術的に力をつけてきている。そこで防衛協定、アメリカの駐留費を面倒見てもらうであるとか、日本と取引せざるを得ない。そういう時代が80年代に出てきた。日本の力がアメリカを凌ぐようになって来た時代であり、そこで初めて同盟関係とかパートナーシップという言葉を使い日米関係のすり合わせができる人。経済問題では半導体摩擦、通信摩擦といろんな問題が出でくる。日米で政治的取引ができる一人、アンスフィールドが出てきた背景がそれですよ。クリントンの時のモンデルさんにしても。ブッシュの時代になると、日本は取引をしなくても押し付けていけば言うことを聞いてくれるというので人選が変わった。同じ政権の中でもスタッフの中の大物、日本のことをよく知っている人。

質問―その時代は終わったわけですよね。

霍見教授―終わったというか日本がそうさせた。僕から見れば日本は堂々と取引できる分野もいろいろある。たとえば今の金融システムの再構築。日米協定の下でお互いにグローバルな新しい規制をどうしていくかなんていうのを日本は大いにしていかなくてはいけない。発言してもらわないと困る。堂々とアメリカに注文をつけられる立場にあるけれども日本はやらない。日本がやらないから、アメリカは押し付ける。

質問―アメリカの軍事的協力が少しも変わっていないと思います。ブッシュ政権の時は、日本はアメリカの軍事力に対する協力を求められていた。オバマ政権になり、そこが変わると思っていたのですが。

霍見教授―アメリカの軍事政策、イラクやイラン等々を仕切っているのはペンタゴンである。日本はパキスタンの給油はやめると一度言った。日本が取引を言い出さなければ変わらない。アメリカはイラクから撤退するがパキスタンはある、中東もアフガニスタンも北朝鮮もある。米国の軍事的な組織量、軍事力をどうしたら保てるか。それを支えるのが日本。できれば日本を利用しようと思う。ブッシュ時代に、日本の自衛隊はアメリカの軍隊の指揮下に入れられてしまった。オバマになったからといって日本の自衛隊の戦争放棄ということはやらない。日本が要求したらいろんな取引をして部分的にできるかもしれないけれど。オバマからは言い出さないでしょう。

質問―オバマ大統領を支援していた政治献金の団体のベストファイブが、ハーバードやコロンビアなど大学であると聞きました。そこからブッシュ政権のときと献金をする団体が違っているのか。またそれによる影響を教えてください。

霍見教授―大学は政治的な献金はしません。大統領にはアカデミックな政策アドバイザーがつく。大学から来ている人が多い。ブッシュの場合には大臣にはゴールドマン・サックスンという日本の野村証券みたいなところの会長がなった。何をしたかというと証券会社の規制改革をどんどんやっていった。大体のやり方として、共和党の大統領がホワイトハウスに住むこととなれば、側近のアドバイザーはどちらかというと保守派の学者は少ない。アカデミックでリベラルな学者が多くなる。それか大企業にかかわる弁護士とかがブレーンとして入っていくことが非常に多い。ただし、今度民主党が大統領になった場合は、クリントンのときもそうだったし、それ以前もどちらかといったら労働組合の人間も入ってくるけど、大学のアカデミックのブレーンがかなりたくさん登用されます。今回もそうです。それがどこの大学か調べていくとハーバード関係。大学教授じゃなくてもハーバード学派のグループ。カリフォルニアならバークレー。共和党だとミルトン・フリードマンの系統を引いたシカゴ学派。そういう流れがある。駐日大使もハーバード大教授のジョセフ・ナイが初めにあがった。それも一つを示している。大学は、口は出すけど金は出しません。大学にお金はないですから。そうするとそれに変わる政治献金。ハイテク関係のマイクロソフトに技術とかシリコンバレーのハイテク関係の人間が、共和党よりもクリントンなどにつながる民主党に多い。オバマを大いに支持しました。

質問―その辺で政策が変わっていくのですか。

霍見教授―はい。政策をかえられる人間はだれか、それを探す。民主党のニューニューディールと呼んでいるのですけど、アメリカの21世紀化、グローバリゼーションに合う人間。そうすると、経済学の政策ではシカゴ学派のミルトン・フリードマンのカチカチの市場経済主義だとかを観念的に思い込んでいる人間じゃだめなのですね。資金はオバマの強みなんですね。ニューヨークの州長の選挙や、鳩山さんの政治献金のように。自分の手金で選挙を全部まかなえる。オバマは最初飛出しの時は、自分の仲間グループや貯金とかでやっていたが、そうするうちにいろんな支持者が集まってくるんですが、オバマの強みは広くインターネットを使って個人献金を組織したことです。450万人を超えているでしょう。一人当たりの献金額はレポートしなくてはだめですけれど平均が98ドルで100ドルない。だから一万円以下。でもそれをする人間が450万人いるからお金が集まる。お金が集まると、大きな銀行だとか企業に頼る度合いが非常に少ない。借りがないのです。大改革をしなければいけないと知っていれば、現状維持がいいウォールストリートとかのお金持ちがいてそこから全部もらっていたんなら改革はできません。インターネットを使って小口献金を何度か集めた。僕もたいしたお金は出していないけれど出しました。出した人間って言うのは本当のサポーターですよ。ボランティアをやるんです。選挙も投票ももちろんやる。自分の献金した人だし勝ってほしいから近所にビラ配りなんかもボランティアでする。個人献金を組織したのは金銭的な有利さだけじゃなくて選挙当日の投票とうまくかみ合った。


質問―それは党員の違いによるのですか。それとも政党の違いによるのですか。

霍見教授―人によるでしょう。特にオバマは最初のころから双方向性のインターネットをうまく使った。インターネットのいいところは一人に発信しても百人に発信してもコストは同じなんですねそれを徹底的に使う。そうすると受け取った人間は自分だけにメールが来ているような錯覚に陥る。名前をかえているし。オバマは大統領に当選し、これから演説に行くというときに、僕にインターネットを通じてメールを送ってきたの。バラク・オバマから。僕のファーストネームはヨシというから「ヨシ、君のおかげで当選した」と。「私は今から受諾の場所に行く。約束したことは必ずやる。しかし、みんなの前で約束する前にあなたに最初に約束したかった」なんていうメールが来る。何百万人に同じメールが送られているのだけれど嬉しい。オバマはこういうことをうまくやる。


質問―共和党は保守を相手に、民主党は大学相手にやっているといわれましたが、そのことに関してです。クリントン政権でロバート・ルービンとか、ラリー・サマーズが何をやったかを想起すると、リレギュレーションしてしまったところがあるのではないかと。悪しき規制を一部搾取してしまったのではないかという張本人に、ルービンやサマーズが指摘されている。今回も財務にルービンやサマーズが入っている。その中で、もう一度レギュレーションだ、ニューディールだと言っているオバマをクリントン側の旧人が、ですから問題の原因を作ってしまった人物たちがまた問題を起こしてしまうのではないかと思うのですが。そのへんをお聞かせください。

霍見教授―非常にいい指摘だと思います。ルービンは前の財務長官だし、ラリー・サマーズもクリントン時代の財務長官である。ルービンは大投資銀行、シティ銀行ウォールストリートのボスである。ラリー・サマーズもハーバードの教授だったけれど、ルービンの下で次官をやっていて、ルービンがやめた後は長官になり、それが終わったあとはハーバードの総長で返り咲きましたけれど。女子学者はどうしても数学能力がないとか言ったもんだから、結果的に追いだされちゃったわけなのですが。僕は日米関係がいろいろあるときに、テレビでラリー・サマーズと討論したことがあるんですが、決して頭の悪い人ではない。ただ考え方としては市場原理主義で、企業は自由に任しとけばいいとかウォールストリートのファイナンシャルのほうが製造業より大切だとは言わないけれど、実際にレーガン政権で始まった金融のニューディール的な歯止め、いわゆる更正のレギュレーションというのをずっと変えてきた。レーガンにブッシュの親に。それからクリントンになってそれを少し止めればよかったんだけれど、そのまま続いた。特にルービンやラリー・サマーズは証券業と商業銀行のちゃんとした分離をなくしてしまった。その結果が今回の金融代バブルです。それを悪化させたのはブッシュですけれど。金融大崩壊の引き金を引いた人間です。確かにそれを批判しています。
 ルービンは、選挙の時には出ていたけれど、今ではアドバイザーから降りました。ルービンは前に出てこないし実際口出ししていません。ラリー・サマーズはホワイトハウスの経済審議を牛耳っています。でも自己批判し、私は間違っていたとみんなの前で謝りました。そうすると、オバマのうまいところは、ラリー・サマーズを批判しているノーベル経済学者のポール・クークマンやコロンビア大学の経済学者スティグリッチを夕食に招いている。―彼らはどちらかといったらリベラルで、サマーズに対して大きな不満をぶつけている―が新聞でコラム書いたりして、ラリー・サマーズはそういう人間に監視されているわけです。オバマはスティグリッチとポール・ルークマンをホワイトハウスのディナーに招待して、それで親しく金融システムの再構築に関して議論をしている。同じような事態は、大恐慌のときにアメリカを立ち直らそうとニューディール、セキュリティー・アンド・エクスチェンジコミッションとウォールストリート再建のために、証券取引委員会をつくってインサイダー取引の禁止だとか企業の透明化を監視する機関が始めて作られました。それの初めの委員長を誰にするかが問題になった。ルールを作っても、委員長のさじ加減でいろいろやるわけですから。ウォールストリートに反対、反感を持っている人を初の委員長にすべしというのが普通の考え方なんですね。ところが、フランクリン・ルーズベルトというのは利口ですから、ケネディ大統領の親父であるジョセフ・ケネディを任命しました。彼はアメリカでは宗教的に反発される禁酒法を作ってしまった。これはプロテスタント系の人間が一生懸命作った。アイリッシュだとかカトリック系はお酒を飲むのをやめたわけではない。アメリカでは酒が作れなくなった。ところが幸いにカナダではそれが合法ですからカナダからビールとかウイスキーを大量に輸入する。カナダは海を通ってアメリカに供給する。映画「アンタッチャブル」を見ていると、五大湖付近での密輸がでてくる。大きなのは東海岸。そうするとボストン。密輸入してアイリッシュバーを経由して、販売網をつくって大もうけしたのが、ジョセフ・ケネディなのです。その大もうけした金を何でもありのウォールストリートで運用して、インサイダーして財産を増やした人間です。しかし、バブルはいつか破裂することを知っている人間だから、結果的にはグレート・ディプレッションのバブル破裂。暗黒の火曜日。直前に全部売り逃げしているんです。そんな人を初代委員長につけたんです。そうすると泥棒を金庫番にするのかというものすごい批判があったのですが、ルーズベルトとが言った言葉は「心配するな。あいつは証券委員会が取り締まることの裏を知り尽くした人間だ。しかもオレはあいつがどんなに悪いことをしてきたか知っている。それをあいつは知っている」という記録が残っています。同じような形でラリー・サマーズもオバマは牽制していますし、彼自身、自己批判しています。ですからそれを知っている。評議委員の中にラリー・サマーズ監視グループがある。彼らは時々ホワイトハウスに乗り込み、ラリー・サマーズと議論をしています。お前手ぬるいぞとか。そのためいいことばかりではないのですが、あまり心配はしていません。ラリー・サマーズは非常に頭のいい人間です。経験もあります。ブッシュを取り囲んでいたエコノミックアドバイザーに比べれば非常にすぐれた人間です。


質問―僕は在日朝鮮人です。京都で生まれ育ちました。僕の夢は、いつも日本と朝鮮が仲良く平和でみんなが笑顔で暮らせる社会です。そういう社会の実現のため、自分自身も頑張っていこうと思っています。一番人口の多い中国、一番経済が安定している日本、6千年の歴史のある朝鮮、この国々が一つになって本当に話し合ったら、東アジアの安定は実現すると思います。日本政府は拉致問題を解決しない限り、朝鮮と国交正常化はありえないといっています。もちろん拉致は悪いことです。しかし日本の問題を国際社会に持って行ってはいけないと思います。日本はどのように東アジアの安定に貢献すべきであるとお考えですか。お願いします。

霍見教授―会談に持っていくためにはいろいろ問題はあります。中国の軍事的野望を牽制することとか。中国は台湾とも日本とも戦争する気はないと思います。核の応酬をしたりはしません。しかし、その中でもエネルギー資源などをめぐりながら、中国はイランの資源開発にも食い込んでいっている。中国とアメリカは衝突しながらエネルギー開発をしている。そういうことを考えて取引する。南北朝鮮が統一したところで国力を考えてもあまりない。少なくともまず日本と関係を築いていかなくてはいけない。中国と対等の発言力もなかなか出てこない。それが現実です。しかし南北統一にどういう形で持っていくかといいますと、日本としてかなり責任を果たさなくてはいけない。北朝鮮はいつアメリカに攻め込まれるかという恐怖心を持っている。それをなだめていかないといけない。そうすると、拉致の問題とかあるけれど、それは大日本帝国による強制侵略、歴史認識などと同時解決すればいい。日本は今日本の拉致だけを取り上げている。結果的に国交回復していない。国交がないから拉致を含めて懸案問題を話せない。国交回復をしてから初めて外交ルートで話し合うべきである。ところが日本の場合は「救う会」の感覚でやっている。それに靖国グループなんかも乗っかって感情で話をしている。まったくナンセンスです。ブッシュ政権では、北朝鮮封じ込め政策のために日本の政策をあおった。オバマはそういうことはしない。相互に解決せよと言っている。東アジアの安定に寄与するようにやりなさいといっている。それが理解できていないから、オバマにまだ拉致問題解決を迫っているんですね。オバマはそれを蹴っている。オバマは米朝直接交渉で解決するつもりです。ところが北朝鮮の内部問題や日韓の挑発グループがいるので北朝鮮は非常に怖がっている。だから核開発せざるを得ない。
 オバマはこの問題を中国に仕切ってもらおうとしている。確かに、中国の協力なしには北朝鮮の核の解決はしないんですが、中国としては北朝鮮の核なんか怖くないし、むしろ北朝鮮の内部崩壊が怖い。崩壊したら中国に難民が流れてくるから。日本は6カ国が無理なら北朝鮮抜きで5カ国で話し合おうといっているが、中国はそれに反対している。日本が言い出した5カ国方式なんていうのは、一番下手な外交解決の仕方です。拉致問題は日本で解決すべきである。そのためには、帝国日本と拉致も解決しなくてはいけない。日本人にその話をするとやっていないという。ここ50年間はしていないけれどそれでもやっていたことは確かです。歴史を語り継いできていないですから、特に30歳未満の人間なんていうのは日本とアメリカが戦争したことすら覚えていない人が多いです。しかし、やられたほうはしっかりと歴史を語り継いできています。


質問―プラハでオバマ大統領が核兵器使用国として道義的責任を感じていると言及した。あの発言は日本では絶賛されているわけですけれど、政治家やメディアだけではなく一般のアメリカの人はあの発言をどういう風に捉えているかお伺いしたいです。

霍見教授―アメリカにもいろいろな人がいますから、これだというのはありません。ただ、アメリカでの原爆投下に対する捉え方は、公式的には戦争を早く終わらすために必要だったというトルーマン大統領の公式説明です。これを信じているアメリカ人が圧倒的に多いです。オバマはその考えを超えている。日本は降服寸前だったので、原爆をおとさなくても1,2週間で終わるものだったと彼は知っています。アメリカは、ソ連が参戦する前に、日本が降服する前に大急ぎでやった。プラトニウムとウラニウムの爆弾を一つずつ作ったけれど、それらがどういう形で爆発するかわからなかったから広島と長崎に一つずつ落としてみた。そういう意図もあったのです。オバマはそれを知っています。理由は何にせよ、一般市民を大量に殺害したわけです。非戦闘民の大量殺傷をやったのは第二次大戦中に米国のドイツに対する爆撃、原爆。その他もあるけれども。これが歴史に残る汚点であるとオバマは知っているから言えることを精一杯言った。本当にアメリカの汚点であるなんてことは言えない。しかしはっきりと、原爆の恐ろしさと投下した人間の理由はなんであれ非戦闘民の大量殺傷にたいする反省をした。一国の大統領として、特にロシアに対して働きかけた。核兵器削減の条約が今年切れるのでそれの更新をやろうと呼びかけました。それに関して彼のアメリカ国民の支持が減ったわけではありません。よい印象を与えています。


質問―プオバマ政権はアフガンに増派しますよね。期待していたオバマ政権のアフガニスタン政策には納得いかないのですが。あの政策はどう理解すればよいのか。またアメリカではどう見られているのかを聞かせていただきたいです。


質問―プラハでオバマ大統領が核兵器使用国として道義的責任を感じていると言及した。あの発言は日本では絶賛されているわけですけれど、政治家やメディアだけではなく一般のアメリカの人はあの発言をどういう風に捉えているかお伺いしたいです。

霍見教授―オバマが大統領選挙中からずっと言っていたことで、国民の大半がオバマに期待したひとつはイラク撤兵です。これは決定していることです。困難はありながらも着々と進んでいる。イラクへの独断侵攻は間違っていたと認めています。9.11の攻撃の裏に、サダム・フセインありなんていうのはウソです。結果的にはイラクでの大量殺人だった。
    中東問題というのはイスラエルとパレスチナの問題だけれど、解決のためにはイラクからの撤兵という図式を押し通すことをはっきりと言っている。ただし、アフガニスタンのタリバン掃討政権は、ブッシュが最初にやり始めた。イラクを攻撃したいから。でも8年の政権中、3年でやめちゃった。その間にイラクから追い出されたアルカイダだとかがパキスタンに行った。タリバンとかがパレスチナ国家の安定を壊しつつある。そうすると遅咲きながら、アフガニスタンでのアルカイダとそれを支えているタリバンとをどうにかする必要がある。なぜかといったら、タリバンの財源は麻薬ですよ。麻薬取引です。世界の供給量の8割をアフガニスタンが持っている。アメリカ国民にとってもタリバンやアメリカにテロを仕掛けてきたグループの報復も含めて、アフガンでのタリバン、アルカイダの掃討ということに関しましては、国民はやってくれというほうでしょう。それに対してはヨーロッパのグループも賛成しているわけですし、実際かなり協力している。はっきりとイラクから撤兵するけれども、今までおろそかにしてきたアフガニスタンでの平定はやると。
 歴史的に見ても、アレクサンダー大王時代から外敵が今のアフガニスタンといわれている地域に進入してきた。しかもブッシュは「アフガニスタンの民主化」なんてキャッチフレーズでやった。不可能でしたけれど。オバマのアフガニスタン政策はタリバンの掃討なのです。タリバンの掃討とアルカイダの掃討。この二つは全然違います。そのために増兵。それまで1万5千人のアメリカ兵を派遣したわけですけれど3万人増兵。これは軍事的に可能だと思います。アルカイダグループの脅威とならないようにする増兵。結果的にはあと2,3年やってみる。それでも無理ならアフガニスタンはアフガニスタンに任せようと手を引くでしょう。一番、一般市民がどこでも被害を受けるのですけれど。しかし、パキスタンの半分はブッシュがちゃんとパキスタン、アルカイダ掃討をやらなかったために完全にタリバン化している。大統領候補を暗殺したり、そういう過激なグループが強くなっている。ですからアフガニスタンでの軍事行動という点ではパキスタンの安定。パキスタンが安定しないとイラクとの間の干渉事ができない。これが一つのセットになっている。そんな簡単にはできないけれど。
 アフガニスタンは、昼はアメリカ兵が守っていて、夜はタリバンのゲリラの天下だと。私の息子は兵士ではないのですけれど、国境地帯のパキスタンのペシャワールというところに、昔からのアメリカの手先の領事館があるんですが、そこのセキュリティ担当で派遣されていましたので、2ヶ月だけですけれど行って帰ってきていろいろな報告をしてくれたんです。昼間は拳銃を持って外はトラックに乗ってはじめて外に出ることができたけど、夜なんてとても出ることができるものじゃないと。そういう状態なのです。


質問―日本のテレビに最近も竹中平蔵が出ていて、経済を語ったりしていてとても信じられません。それを写すテレビ局があるということも。先生も以前は『朝日新聞』に連載がありましたが、今は『週刊金曜日』などでしか先生の記事を見ることができない。先生を使わない日本のメディアをどう思いますか。

霍見教授―僕は決して出たがっているわけではないのですけれど、一昔前は誰も言わないものだから日米に関していろいろ言っていました。日本のエスタブリッシュメントから見たら、カチンとくるようなことを言っているわけですよね。アメリカは日本向けにウソの発表をいろいろやっているわけです。例えば日米問題の通信半導体問題です。僕は半導体関係の延長なんかしたら日本のハイテク半導体は押さえ込まれてしまうなんて言う事をアメリカでも言うし、日本に来てからでも言う。実際に、結果的にそういうことになっていく。通信協定でも市場を汚すので必要ないと。やっぱりそういうことを国民に知られると困る人がいっぱいいたんですね。だから、最初のうちは他の人が言ってくれないから、地上波で私が説明して、事実関係はこうだと説明をしていたんですが、だんだん圧力がかかり始めた。プロデューサーに「あいつは出すな」と。ですから最初、放送局の反応は、生放送だけにしてくださいということだった。プロデューサーも「文句が来ても生放送でしたから止めようがありませんでした」と言える。すると、敵もさる者、「じゃあ出すな」と。僕も別に出たいわけではないから出なくなった。結果的にはそういう形で締め出されているんです。僕自身も忙しくなってきて出られなくなったし。しかしこの頃はいろんな方法があります。『朝日ニューススター』だとか。日本の大本営発表に風穴を開けるように活動している。
 竹中平蔵はテレビ東京の『ワールドビジネスサテライト』の常連なわけですけれど、僕が橋本行政改革批判なんかをやっているときにも出ていた。ろくなこと言わないから、生放送では逃げ場もないし論破したことがある。そうすると、すこしひがんだ顔をしていたけれど。結果的に彼は政治家に取り入るのがうまいので、小渕総理に取り入って活躍しだした。小泉氏にとっては便利だった。上から押し付けられたことを聞いたようにして、経済学者の肩書きを利用して「この頃の経済格差が広がることは経済成長にプラスです」なんて言う事を言い始める。それをまだ使っている。それを使わせるグループは、小泉改悪がいかに日本を悪くしたかに気付いていない。気付いていても一般人に知られたくないグループがいるのです。言っている内容はナンセンスで全然勉強していないことがよくわかります。「アダムスミスが・・・」なんていうけれど絶対アダムスミスなんて読んだことはないと思う。竹中が言っているようなことは書いてないから。竹中は、ハーバードに2,3ヶ月いただけです。来ていたのは事実なのですが。ハーバードグループの人たちはそれを“遠足”といって陰で笑っている。自前で来ているのです。ビジッティング・プロフェッサーという肩書はあります。本当に自前で来て勉強する人もいるけれど。
   ですから、本物の人物かどうかを見極めるなら、ハーバードの給与に載っていたかどうかを見極めないといけない。本当にハーバードのビジッティング・プロフェッサーとして人気があるか見極める、パーマネントじゃないけれど、2年とか3年とか来ている場合は給料は払われるれけど、ビジッティング・プロフェッサーは図書館の利用とかそれくらいの権利のときもある。その中で本当に勉強する人もいます。ただ数は少ないです。

司会―本日は貴重なお時間を本当にありがとうございました。先生のお話を聞いて、自分が知っていることはあくまで日本のメディアを通した日本であり、もっと広い視点から日本という国を学んでいかないといけないと感じました。今日は本当にありがとうございました。

テープ起こし担当:森本佳奈(浅野健一ゼミ3回生、霍見芳浩教授講演会実行委員)

●講師略歴●

霍見芳浩(つるみ よしひろ)
ニューヨーク市立大学(CUNY)経営大学院教授。1935年熊本県生まれ。1958年慶応交換留学生として、米国スタンフォード大学留学。1960年慶應義塾大学経済学部卒業。慶大の英字新聞学会“The Mita Campus”で浅野教授の先輩。同大学院、助手を経て、米国ハーバード大学で経営学修士号(MBA)、更に1968年、日本人として初の経営学博士号(DBA)取得。その後、ハーバード大学、コロンビア大学、カリフォルニア大学などの教授を経て、現職。ハーバード大学経営大学院の教授時代、ビジネス・スクール(MBA)コースにいたブッシュ前大統領を教えた。米メディアの功罪についても詳しい。太平洋経済研究所理事長。著書に、『脱日本のすすめ』『日本企業繁栄の条件』『日本再活論』『脱・大不況』『日本の再興』『アメリカのゆくえ、日本のゆくえ』など。

(了)

掲載日:2009年10月16日
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